反逆者と監視者、お約束で絡まれる
手続きの申し込みをしてから暫し。
ここでも併設されていた酒場のテーブルの一つを占拠して待っていた二人の元に、先程の受付嬢がやって来た。
……しかし、その表情は晴れやかなモノでは無く、申し訳無さそうな色と雰囲気を纏うモノとなっていた。
「…………お待たせ致しました。
シェイド様の昇格試験の申し込みと、サタニシス様の登録申請は無事受領される事となりました。
ですが……」
「……やっぱり、昇格試験を受けるまでは、難しかったですか?」
「…………仰りたい事は、理解できていると思います。
一応、規約と致しましては、冒険者としての登録さえ在れば、何時でも昇格試験に挑む事は許されている、と言う事にはなっております。
……ですが、流石に依頼の達成も討伐や売却の記録も何も無い、と言う方に受けさせるのは……それに、お仲間とご一緒、と言う点も中々評価し難く……」
「……あはは~、まぁそうだよねぇ~」
「……だから言っただろうに……俺と違って、目に見える形で実績が在る訳でも無いのに、そうすんなりとは行かないハズだから覚悟しておけ、と。
それと、あそこで『隣のヤツと一緒に受けるから』って言うのもマイナスポイントだったぞ?精々、俺とは仲間だ、とか、俺のツレだ、って程度に納めておかないから、『一緒に受けてコイツに全部やらせる予定だから』って言っていた様なモノだぞ?」
「…………うぅ~っ!でも、一緒に受けるのは予定通りだったんだから、別に良かったじゃんか!」
「ソレを、何の関係も無い場所で口にするからこうなるんだよ……」
一応、予想出来てはいた事を現実として突き付けられた事により、悔しげに唸りながらポカポカとシェイドへと向けて拳を振るうサタニシス。
規約としてはそうなっていたとしても、流石に何の根拠や証拠となるモノを示す事をせず、それでいて受けられる依頼の範囲や報酬が高くなる事を望める昇格に挑むのは流石に虫が良すぎた、と言う事になるのだろう。
元々、冒険者の力量に合わせた依頼を受けられる様に、力量を見誤った状態で危険な依頼を受けて冒険者が命を落としたりしないように、と言う事で階級が分けられているのだ。
ソレを、実際はどうであれ、他者の力のみを頼りとして突破しようとしている、と言う風に見える状態は、とてもでは無いが『健全なモノ』とは呼べないだろうし、必然的にソレを良しとする事は出来なかった、と言う事なのだろう。
…………が
「「「「「「…………ぎゃははははははっ!!!」」」」」」
…………が、そう言った受付嬢側の配慮を考慮に入れる事が出来ず、ただただ『昇格試験の受験を断られた』と言う事実のみを取り上げて笑い者にし、自分達が相手にされなかった事への仕返しをして溜飲を下げようとする愚か者が多く居た事だけは、彼女らに取っての唯一の誤算であり、最大の誤算であった、と言えるかも知れない。
「おい!おいおいおい!聞いたかよ、今の!」
「おう、聞いた聞いた!あいつ、あんなにデカい尻と態度してやがった癖に、昇格試験断られてやがるのな!ざまぁねぇぜ!!」
「いや~、まさか、誰でも受けるだけは受けられる、あの昇格試験を断られるヤツが出るだなんて、俺は初めて見たぜ!
如何にも『格下なんてお呼びじゃ無いんたけど?』とか言いたげな目をしてやがった癖に、断られてやがるだなんて見物じゃねぇか!俺でも受かってるって言うのによ!!」
「どうせ、言われてた通りに、一緒に居た冴えねぇ野郎を利用して試験に合格して見せるつもりだったんだろうよ!
折角あのデカい尻と乳で誑し込んで良い様に使える様にしたんだろうけど、結局無駄になっちまって残念だったな!」
「まぁ、でもあの尻と乳で誑し込まれるんだったら、多少の不利益は被っても構わなかったかも知れねぇが!
もっとも、俺様の場合、この馬並みの剛槍と絶倫な体力で逆に骨抜きにしてアヒアヒ言わせてやる事になっただろうけどな!」
「はっ!てめえみたいに、体力にモノ言わせるしか出来ねぇヘタクソが、あんまデケェ事吹かしてんじゃねぇよ!バァカ!!」
「「「「「ちげぇねぇや!!ぎゃははははははっ!!!」」」」」
相手や周囲に対する配慮が欠片も感じられない大声にて、下品な話題を遠慮無く口にする連中の声がギルド内部へと響いて行く。
普段はもう少し知能の在る会話も出来たのだろうが、今は酒も入ってしまっている事もあり、周囲に対する配慮、と言ったモノが丸ごと抜け落ち、如何に仲間内で語らっている様に見せ掛けながら彼女に対して猥談をわざと聞かせるか、に意識が集中してしまっているのだろう。
ソレにより、未だにその場に残っていた受付嬢や共に居たシェイドの顔に不快な表情が浮かべられる事となり、今にも連中を叩きのめそうとしている、と言わんばかりの表情にて席を立とうとした正にその時。
彼の先手を取る様なタイミングにてサタニシスが席を立ち、未だに大声で猥談を語らっている連中の元へと歩み寄ると、何処か威圧感すら感じさせる雰囲気を纏いながら、こう声を掛けるのであった。
「…………へぇ?そんなに、私に誑し込まれて良い様に使われたいんだ?
だったら、コレから少し付き合ってよ。私の為に、役に立ってくれるわよね?」
******
「…………では、コレよりサタニシス様が昇格試験の受験資格を有しているかの試験を行わせて頂きます。
事前に取り決めた通りに、冒険者パーティー『オルレイド』との試合を行う事で、サタニシス様の実力を測る事が目的です。その際、多少の肉体的接触はサタニシス様の側からも許されているからと言って、あまり目に余る様な事態に発展させる事の無い様にお願い致します。
よろしいでしょうか?」
「おう!俺達ゃ構わねえぜ!
寧ろ、さっさとあの生意気なねぇちゃんをヒイヒイ言わせてやりたくて、さっきから我慢の限界なんでな!さっさと始めてくれや!!」
「私も良いよ~。
あんまり手間取っても面白く無いから、さっさと始めて終わらせちゃおうか!」
「………………承りました。
では、行きます!試合、開始!!」
審判兼見届け人となってしまっていた受付嬢が、掲げた腕を勢い良く振り下ろし、ギルドに隣接して造られている訓練所に合図の掛け声が広がって行く。
すると、ソレに釣られる形にて、むさ苦しいオッサン連中の集まりである『オルレイド』から数名が、その目を血走らせて前方にて無防備に見える状態にて佇むサタニシスへと目掛けて突っ走って行く。
視線は、彼女の勝ち気にタンクトップを盛り上げている胸部や、割りとギリギリなラインで内側からの圧力に耐えているホットパンツ擁する腰、スラリとしていながらもムチッとした触感を容易く予想出来る程に艶めかしい足にも向けられていたが、言い換えてしまえばソコにしか視線は向いておらず、あからさまな迄に非力で戦えるハズも無い、と言わんばかりの態度にて彼女の元へと駆け寄ろうとしていた。
…………何故その光景が唐突に繰り広げられているのか、その光景を目にしていながらも、無理矢理にでも参加して彼女に加勢するでも無くシェイドがただただ傍観しているのか、と言えば、話として至極単純明快な事である。
彼女が、サタニシスが彼ら『オルレイド』に対して試合を申し込み、その結果を以てして自らの受験資格の有無を判断して欲しい、と受付嬢に直談判したのだ。
最初こそは渋っていた受付嬢と、ソレに協力する事に対して何の旨味も感じていなかった『オルレイド』だったが、多少の肉体的接触やラフな戦闘になったとしても構わないし、ソレだけで昇格させろ、と言っている訳では無い、と言う事が伝わった結果、こうして試合を実際に行う運びと相成った、と言う訳なのだ。
当然、彼女の提案に乗り、その上で生意気な小娘をボコボコにして世間の厳しさを分からせてやると同時に、その瑞々しく肉感的な肢体を本番こそは及べないにしても思う存分まさぐってやろう、と企んでいた『オルレイド』からは、受ける条件としてあからさまにヤバそうな雰囲気を纏っているシェイドは不参加、と言う事も提案して来た事もあり、こうして彼は傍観しているのだが、そんな彼に対して受付嬢は心配そうな眼差しを向けて来ていた。
「…………あの、この試合、本当に宜しかったのでしょうか?
彼ら『オルレイド』は、階級こそ中級のパーティーですが、全員が中級冒険者としての資格を有しておりますし、素行の問題で昇格はなされておりませんが、過去には何度か上級相当の魔物も討伐している実績がございます。
……幾ら腕に自信が在ったとしても、とても女性一人で相手にしきれる方々では無いですし、例の条件も在ってお連れとしては中々に辛い事になるかと……」
「………………で、事前にソレを伝えずに、痛い目に遭ってから助けさせようと企んでいた、って事で良いんだよな?」
「……っ!?
そ、その様な事は……!?」
「……まぁ、そこら辺はどうでも良いよ。悪意が在っても無くても、仕事さえしてくれればどっちでも。
どうせ、あんたが心配している様な事態には、確実にならないって決まっているんだから」
「………………え?それは、どう言う…………!?」
無言で指差された方向へと視線を向けた受付嬢は、そこで自身が想像もしていなかった事態を目の当たりにする事となる。
そう、正に、サタニシスがその柔らかそうな細腕と傷一つ付いた事は無いと言わんばかりの指先にて、突き込まれた刃の切っ先を軽く摘まむ事で攻撃自体を無効化したり。
ソレを見て回り込もうとした他の前衛に対して、手首の返しだけで武器を抑えて無効化していた一人を投げ付ける事で二人共に無力化し、慌てて警戒しようとしていた残りの連中に対しては自らが前に出て距離を詰め、その手足を振るって一撃で意識を刈り取って行くと言った、信じられないであろう光景を、自らの眼で目の当たりにする事となったのだ。
そうして、受付嬢が目の前の光景を信じられずに呆然とする中、最初の方で投げ飛ばして一時的に無力化していた二人へと歩み寄って同じ様に意識を刈り取ると、どうせこうなるだろう、と理解して傍観していたシェイドへと向けて、振り返ると同時に弾ける様な笑顔にてピースサインを送ってくるのであった。
なお、超絶手加減して一応は殺さずに納めています
もっとも、連中がやろうとしていたことを完遂していたらギルドごと灰になっていただろう、とだけは言っておきます(どっちが灰にするのか?さぁ、どっちでしょうねぇ?)




