反逆者は監視者と共にギルドにて昇格試験を申し込む
公共浴場から上がり、一旦宿に戻って着替えを済ませた二人は、共に取っていた宿の入り口にて待ち合わせをしてギルドへと向かって歩んで行く。
シェイドもサタニシスも、共に纏っていたマントやローブと言った類いのモノを脱ぎ去っており、共に最低限の武装を身に纏っていはするが、基本的には私服に近しいラフな格好となっていた。
『道具袋』を所持している関係上、衣服の類いも大量に所持しており、現在居るクロスロード国の季節と風土に合わせて薄手のシャツに上着を兼ねて魔物の革素材で作られたジャケットを着ているシェイドが、ソレなりに厚手とは言えタンクトップにホットパンツと言った露出度の高い衣服の上から、比較的ゴツい見た目をした上着を肘に引っ掛けている状態となっているサタニシスへと向けて言葉が向けられる。
「…………なぁ、サタニシスさんや?」
「なんだい、シェイド君?
それと、何度も言ってるけど、お姉さんの事は『ニースお姉さん』と呼んでくれて良いんだよ?もしくは『ニース』でも可だけど」
「…………まぁ、呼び方は後で考えるとして、だ。
お前さん、ちょいと肌出しすぎでないかい?
コレから向かおうとしている処が、何処だか忘れた訳じゃ無いんだろう?」
「…………おや?おやおやおや?
もしかして、シェイド君?お姉さんのパーフェクトでナイスなダイナマイトボディーが他の男連中にジロジロと眺め回されるのが嫌だ、と?
お姉さんは自分のモノなんだから、他の男の目に晒すのは不愉快だと言いたいのかね?んん?うりうりうり!」
「………………いや、まぁ、確かに、驚く程に白くて綺麗な肌だとか、スラッとしていて長く眩しい足だとか、上も下もボリュームたっぷりで服が弾けないかと期待と心配がない交ぜになる様な心持ちである事は否定出来ないけど、そこまで独占欲丸出しにしてる訳じゃ無いですからね?言っておくけど。
あくまでも、俺達が行こうとしてる冒険者ギルドは、どんなに言い方を変えたとしても所詮は『荒くれ者の巣窟』だって事だからな?むさ苦しい野郎やメスゴリラ顔負けな連中ばかりが集まる様な場所に、お前さんみたいな美人さんが肌剥き出しな格好で突っ込んで行ったら、どんな事態になるのかなんて言わなくても分かるでしょうに……」
「あははっ!誉めてくれて有難う!
それと、心配もしてくれてるみたいなのは嬉しいけど、でも多分大丈夫だよ?
何せ、私は魔族だよ?その辺の力自慢なむさ苦しいオッサンよりも、私の方が強いんだから!」
そう言って、上着から覗く細腕を曲げて力瘤を作って見せるサタニシス。
驚く程に白く、また滑る様な艶を持つ美しい肌と柔らかそうなその腕に、思わず触れてみたくなってしまい頬が熱くなる思いをするシェイドであったが、だからこそ、と言う思いにて再び口を開く。
「…………それで、こうして合流したは良いけど、結局そっちはどうするつもりなんだ?
俺は、どの道レオルクスまで行く為に必要だから受けに行くけど、そっちは違うだろう?下手に絡まれて鬱陶しい思いをする位なら、別の処で待機しておくか?
どうせ、俺が移動すれば何かしらの方法で察知できるんだろう?」
「まぁ、そうなんだけどね?
実は、私もコレを期に冒険者として登録しておこうかなぁ~なんて思ってるんだけど、どうかな?ダメ?」
「………………いや、ダメって事は無いだろうけど、別に必要無くないか?
レオルクスに行くだけなら、無くても大丈夫なハズだぞ?」
「でも、その後はどうなるのよ?
どうせ、君の事だからレオルクスで旅路はお終い、なんて事にはならないんでしょう?ついでに言えば、その次に行く場所が、このクロスロードと隣接している場所だとも限らない訳だしね。
なら、君の監視を任務として受け持っている私としては、人類の枠組みを上手く利用して、監視対象たる君が何処に行こうとも監視を続けられる様にする義務が在るのよ。だったら、一番手っ取り早いのは、君と同じく冒険者になって、同じ様に中級までサクッと上げちゃう事だとお姉さん思う訳なんだけど、違うかな?どう?」
「………………まぁ、そう言われちゃあ『そうですね』としか言えないんですがねぇ……。
…………はぁ、まぁ、どの道受けるのも実際にやるのもお前さんの勝手と言えば勝手なんで、俺が口出しする様な事でも無いし、御勝手にどうぞ?もっとも、俺が『止めろ』と言った処で止めるつもりはどうせ欠片も無いんでしょ?なら、加入するのも昇格試験を受けるのも、お好きにしたら良いんじゃ無いですかね?」
「そうそう!私のお好きにさせて貰います!
と言う訳なので、私も一緒に行くって事で宜しくね!」
無防備に谷間をアピールしつつ下から覗き込んで来ながら、にししっ!と悪戯好きな子供の様に笑って見せるその大胆すぎる程に大胆な監視者の行動に、若干呆れつつハイハイ、と適当に相槌を打って見せながらも、特に拒絶する様な素振りを見せずギルドを目指して進んで行くシェイド。
そんな彼の様子を目の当たりにし、更に笑みを深めながらも、その中にほんの僅かに、本当に一欠片だけでは在るものの、間違えようの無い程に純真な『喜び』の感情がそのやり取りには込められている、と言う事を、本人たるサタニシスすらも思っても見ない中、人混みを縫って二人で歩んで行く。
交易国家であり、かつ忌憚の無い言い方をすれば道と場所とを貸し出しているだけでしか無い国であるとは言え、流石に首都ともなればソレなりに定住している者も多く、またそうやって集まる人目当ての商売をしている商人達が集まってくる事も在り、主要な大通りはそれなり以上の混雑を見せている。
当然、その中には買い物や取引にて膨らんだ財布や品物を掠め取ってやろう、と企む連中もソレなりに存在しており、確実にこの辺りの人間では無い、と服装やら見た目やらで判断できる二人は『良いカモ』として認定され、集中的に狙われる事となる。
が、そんな下心(?)満載で近付いて来る様な間抜け共に接近を許す程に緩んでいる訳でも、相手を慮ってわざと小銭を掏らせてやる様な善人でも無い二人は、時に足を引っ掛けて地面に転がし、時に指を掴んで逆側に関節を増設してやったりしながら進んで行き、目的地として定めていた場所へと到達する。
二人の目的地として定めていたその建物は、初めてソコを訪れる者であっても分かりやすく真っ正面に剣と杖が交差している紋章がデカデカと刻まれており、如何にも『ここが冒険者ギルドだ!』と言わんばかりの佇まいとなっていた。
本支部、と言う事もあるのか、もしくは国を跨いでなおその勢力を等しく持ち合わせている組織である事も関係しているのかは定かでは無いが、何処かカートゥに在った建物と似た造りとなっている様にも見て取れた。
もっとも、二人に取ってここは観光地と言う訳でも無く、外観を見物しに来た訳でも無い為に何時までも眺めている様な事はせず、さっさと中へと足を踏み進めて行く。
すると、内部の構造も、内部にて屯している顔触れもカートゥにて見慣れたモノと似通っていたらしく、シェイドからすれば見飽きたソレと同じ様なモノが視界一杯に飛び込んで来ていた。
サタニシス的には珍しい光景であったのか、彼の背後に隠れる形で立っていた処を、その脇から顔を出して周囲を見回している彼女の腕を引き、彼としては見飽きた光景の真っ只中を突っ切って受付のカウンターへと向かって進んで行く。
見慣れない顔ながらも、真っ直ぐにカウンターへと目掛けて進んで来る事、纏う空気や雰囲気が只者では無い事、周囲から向けられるからかいや罵倒の声に応じる事無く冷めた視線を向ける程度にしか取り合っていない事等を根拠とし、お座なりな対応でもしてやろうか、と企んでいた受付嬢達は背筋を伸ばして丁寧な対応をしよう、と意識を切り替え彼を迎える。
「…………いらっしゃいませ。当ギルドへようこそお越し下さいました。
本日は、どの様なご用件でしょうか?」
「昇格試験を頼む。
依頼を受けた記録は少ないだろうが、討伐と売却の実績は一定の評価に達しているハズだ」
「…………畏まりました。では、カードをお預かり致します」
そんなやり取りを挟んで、シェイドは取り出したカードを受付嬢へと渡す。
パッと見た限りでは、只単に金属で作られた出身地と名前が書かれただけのカードでしか無いのだが、実は持ち主が倒した魔物の簡単な記録と売却の際の記録を保持してくれる機能が組み込まれている不思議アイテムであり、ギルドの支部に在る装置を使う必要は在るが、それらの情報を参照する事も可能となっているのだ。
そうして彼が手続きを求めている脇で、明らかに彼の連れである、と言う空気を持って振る舞っていたサタニシスがその隣の受付ブースにて口を開く。
「取り敢えず、私も登録お願い出来ない?
ちょっと、コレじゃ不足する事態になりそうでね。手っ取り早く使える身分証が欲しくなったのよ~」
「…………承りました。では、そちらの情報を元にカードを作成致しますので、お預かりしてもよろしいでしょうか?」
「はい、ど~ぞ!
じゃあ、お願いね?ついでに、さっさと中級まで上げちゃいたいから、彼と一緒に昇格試験を受けられる様にして貰えない?
一応、制度上は出来るんでしょう?」
「………………分かりました。
では、その様に手続きを始めさせて頂きますが、よろしいでしょうか?」
「お願いしま~す!」
…………普段であれば、まともに依頼も受けていないのに昇格試験を受けさせろだなんて身の程を知れ!と返す受付嬢であったのだが、同行者である事を示唆しているシェイドの存在と、サタニシス本人の雰囲気から、戯言を抜かしている訳では無い、と判断し、通常では断る処の『依頼の達成記録無し』での昇格試験を了承し、手続きを進めて行くのであった……。
…………なんだか、主人公よりも主人公ムーブしている様な……?




