闇の首魁は隠密より報告を受け、反逆者へと興味を寄せる
第二部兼第四章の始まり始まり~!(←変なテンションになっている作者)
なお、プロローグ的なモノですので本編の始まりは次回からとなります
ご了承下さいませm(_ _)m
「…………隠密方頭ズィーマ。只今参上致しました」
濃い魔力に満たされた闇の中で、男の声が響いて行く。
それは、自らも名乗った通りに、アルカンシェル王国の武闘大会の最後に乱入し、自らズィーマと名乗った者の声その物であった。
日付で言えば、武闘大会が在った翌日。彼の国でとある青年が国元から羽ばたいて行ったのと同日であったが、彼我の国の間に横たわる距離はとてもでは無いがたったの一日程度で踏破出来る程に近しい訳も無く、本来ならば彼がこの場に居るのは不可能なのだが、やはりそこは魔族、と言う事なのだろう。
彼自身が持ちうる属性が『闇』と言う事もあり、普段からして蓄えていた魔力をここぞとばかりに活用し、空間跳躍を繰り返して僅かな時間で膨大な距離を踏破せしめて見せたのだ。
もっとも、そうして時間を優先したお陰で自身が負っていた負傷の類いに対する手当ては後回しにされ、未だに身体に巻かれた包帯の類いは痛々しい限りであったし、何より今回の事で魔力を振り絞って見せたお陰で、暫くの間はまともに魔術を行使する事も厳しいと言わざるを得ないだろう。
とは言え、それはあくまでも魔族の中でも魔力量に秀で、卓越した技量を誇る彼だから出来た事。他の魔族では、例え魔力を犠牲にしたとしても同じ事は容易く実現する事は出来無いだろう。
精々が、彼の半分程度の距離を稼ぐので精一杯となるハズだ。
そんな彼が、自ら得た情報を、まるで絶対的な君主に捧げる様に恭しい態度にて跪きながら、目の前の闇の奥へと告げて行く。
アルカンシェル王国の現状。大まかな思想。対応速度の速さとその原因。大体の軍事力。召集に応じそうな関係性の他国。開戦した場合に応じるであろう個人戦力。食料等の貯蓄や時給状況。特化戦力と見なされる特級冒険者の現状等々。
一応、共に潜入していた部下を通じて一足先に上げさせていながらも、直接調べ上げたズィーマ本人の口から、それらの情報が語られて行く。
そして…………
「……最後になりましたが、今代の勇者は恐るるに足らず、と判断致します。
試合が在り、仲間共々疲弊していたとは言え、真っ正面から迫った某に対して拮抗すらしえなかったあの者に、かつての勇者の様な討魔の力は宿ってはいない、と判断致しました。
ソレよりも、むしろ…………」
『………………寧ろ、何かな?』
「…………はっ!陛下のお耳に入れる迄も無い、雑事にございます。
某の気の迷いとして口に乗せてしまいました。どうか、ご容赦頂きたく……」
『……構わないよ。
寧ろ、そう言う事を聞きたいが為に、療養中の君をここに呼んだんだ。
さぁ、話してはくれないか?君の様に、現場で物事を直接的に見てきた者が、その場で感じた生の感情と情報を』
「………………はっ!承知、致しました」
そうして、彼の口から語られて行く。
並みの魔族を上回り、上級幹部にも迫るであろう圧倒的な魔力を秘めた青年の事を。
真っ正面からの戦闘とは言え、得物を手にする訳でも無く、素手による組打ちにて圧倒され、魔術戦闘でもただの一撃によって全てを吹き飛ばされる事となった事実を。
彼の口から語られた、自分は魔族と敵対するつもりは無い、と言う驚くべき言葉を。
そして…………
「…………して、これは某の私見となってしまうのですが、彼の者とは敵対する事は避けるべきである、と愚考致します。
…………いえ、寧ろ、言葉を選ばないのであれば、彼の者と敵対する事に対しては、某には忌避感が芽生えてしまっている、と申し上げたく……」
『………………ふぅん?つまりは、アレかい?
君は、その彼と仲良くなりたい、嫌われたくは無い、って事なのかな?』
「………………っ!?
………………そう、なのかも、知れません……人族の中に在り、それでいてアレだけの実力を持ちながら、周囲から迫害され心許す相手も居なかった、と言う境遇に同情している訳では無い、と断言は出来ません。
ですが…………あそこまで、某の姿を目の当たりにしてまで、自然と会話して見せた、魔族だからと言うだけで敵意も悪意も向けなかった彼に対し、どうしても好意的になってしまっている、と言う面は、某には否定出来ません。絆されているだけだ、と言われても当然だとは思いますが、これだけは如何ともし難く……」
『…………へぇ?これまで、その鋼の忠誠心でこの『魔王』に仕えてくれていた隠密方頭の君を、ズィーマをそこまで骨抜きにするだなんて、珍しい事も在ったモノだね?
しかも、君は彼と戦って負けているだろう?それなのに、彼をそこまで庇うのかい?敵対するつもりは無い、だなんて言っておきながらの行動なのに?』
「…………であったとしても、某がこうして生きて陛下にご報告申し上げている以上、その言葉違うモノでは無い、と愚考致します」
『………………そう。分かった。
今後、どんな判断を下すにしても、君の意見には一定の価値在りと判断して、取り入れさせて貰うよ。
君の怪我の具合も気になるから、もう下がって良いよ』
「………………はっ、失礼致します……」
その言葉を最後に、まるで影が闇に溶けるかの様にして、スゥっとその姿を眩まして見せるズィーマ。
隠密と言う職業の真骨頂(?)を目の当たりにした存在は、その技量に感嘆の思いを空気や雰囲気と言うモノに変えて周囲へと放って行く。
……そうして、その空間に他の誰もが居なくなってから暫しの時間が経った頃、まるで液体の様な粘度を帯びている様にも見えた闇の奥から一つの小柄な影が進み出ると、一言
「………………ふぅん?シェイド君、か。
彼があそこまで入れ込むだなんて、初めてなんじゃないのかな?
……直接、会って確かめてみたいなぁ。この時代の人間が、魔族に対しての偏見を持たない人類が、私に対して、魔王に対して、どんな対応を、態度を見せてくれるのか、試してみたいなぁ……」
と呟くと、再び闇が濃くなって行く方へと、ゆっくりと歩いて消えて行くのであった……。
…………主人公、なにやら厄介な相手から目を付けられた予感?
果たして、彼の運命とヒロインの登場はどうなる!?
待て、しかして希望せよ!(FGO脳)




