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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
三章・反逆者は満を持してその牙を突き立てる

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天秤の観察者はその想いと共に反逆者を見送る

 



「…………いや、いやだよ……待って、待ってよ!まだ、まだ謝れてもいないのに、置いて行かないで、アタシを一人にしないでよ、お兄ちゃん!!」



「ま、待って!待ってよ!待ちなさいよ!!

 ワタシは、ワタシはまだ、アンタにこの気持ちを伝えてすらいないのに、この想いを伝えてすらいないのに、ワタシの前から居なくなるなんて許さない!許さないんだから!!」




 空へと駆け上がり、その姿を蒼窮へと溶かしてしまった彼の事を追いすがる様にして、二人が泣き、喚き声を挙げて行く。



 悲哀に、悲嘆に暮れる二人の姿を目の当たりにしながらも、私の胸中に広がるのは、昔馴染みな二人に対する同情でも、二人の言い訳すらも耳にする事無く立ち去った彼へと向けた怒りでも無く、胸に虚ろな穴が空いた様な虚無感と同時に、僅かばかりの希望を伴った温かみのみでした。



 彼から、別れ際に投げ渡されたネックレスを胸に抱き続ける私に対して殿下は、意外なモノを見たような、それでいて何処か気遣わし気な様子にて口を開きました。




「…………その、大丈夫ですか?

 ナタリア、貴女…………泣いていますよ……?」



「…………え……?」




 その言葉を確かめる為に目尻へと伸ばした私の手は、殿下の言葉を証明するかの様に確かに濡れていました。



 ソレを、哀しみとは異なる喪失感と共に握り締めた私は、殿下へと言葉を返す。




「…………えぇ、確かに、私は泣いていたみたいですが、大丈夫と言うのは本当ですよ?」



「……ですが、お世辞にも悲しくない、とは言えない顔をしていますよ?

 少なくとも、普段の貴女からすれば、とても『大丈夫』とは言えない顔をしています」



「…………まぁ、確かに『悲しくない』と言えば、流石に嘘にはなりますよ。

 私も、彼に想いを寄せていた女の一人でしたし、幼少から共に在った彼がこうして遠くに行ってしまうのは、寂しくない訳では無いですので」



「ですが、それでも大丈夫だ、と?」



「もちろん!確かに悲しいですし、喪失感も凄いですが、私はあの二人よりも大分マシですからね。

 直接別れの言葉を交わす事も、想いを伝える事も出来ました。それに、餞を贈るだけでなく、頂く事も出来ました。コレで、何時までもメソメソしている事なんて、出来る事では無いでしょう?」



「…………貴女は、強いのですね。

 こうして二人と同じく『見送る』と言う立場に在ると言う事は、彼は貴女の想いを受け取らずに行ったと言う事なのに……」



「…………えぇ、否定はしません。否定は。

 ですが、私はこの中でも年長者に当たります。何時までも、メソメソとしている訳にも行きません。

 それに、私にはまだ『次の芽』が残されております。今の処、二人にはもう無いであろう、次の芽が、ね……?」




 そう言って、未だに空へと消えていった彼の後ろ姿にすがり付く様にしながら地面に膝を突く二人に対し、憐れみだけでなく、黒く冷たい『優越感』を僅かに滲ませた視線を向けながら、改めて手の内のネックレスを握り込みました。



 …………この様な、黒く汚い感情が、自分の中に在った事に、少なくない驚きを得る事となってしまいましたが、もう私は慣れました。


 だってコレは、もう一月も前から私の中に在るモノなのだと、そう自覚していたモノなのですから。



 幼少から共に在り、かつ両親からも『将来の相手の候補として』と深い親交を持つ事を薦められていた私は、あの時初めて彼からの拒絶を受け、離れ離れとなってしまうまでは、彼に抱いていた感情の事を『家族に対する愛情』であると認識していました。



 ……ですが、彼からの拒絶を受け、その上で彼の証言を前提として調査を進める内に、彼へと向けるこの感情が、胸の内に募るこの気持ちが、決して『家族に対する愛情』では無い事に気が付いてしまったのです。


 流石に、ソレに気が付いた時には、私も驚きましたけどね?



 そうこうしている内に、私は召喚されたシモニワ様のサポートをする、と言う名目での監視と裁定を兼ねた役回りを申し付けられる事となり、彼に接触して話をする機会を逸し続ける事となってしまいました。



 半ば、シモニワ様に好意を抱いている、と誤解をされかけもしましたが、それでも心の澱として残っていたことは彼にはちゃんと謝れましたし、赦されてはいないながらも、それでも人として認識して貰える状態にはなりました。


 ……そして、私としても抱いた想いを告げる事も、こうして初めての口付けを贈る事も、私は出来たのです。



 常日頃から彼に世話をして貰っていながらも、両親の跡を継ぐのは自らである、と言う一点だけを根拠として彼へと強く当たり続けて来た為に、最早存在すらも認識されていないジナちゃんよりも。


 年上として常に一歩引いた立場から皆に接していたのを良い事に、どうせ将来は嫌でも自分のモノになるのだから、と彼を労る事をせず、常に彼を虐げて来ていた為に、既に彼から『不要な存在』として切り捨てられてしまっているベラちゃんよりも。



 既に関係性は終わった、とされてはいますが、触れる事も話す事も許されいて、その上で贈り物には返礼を、と言う程度には気を使って頂ける私の方が、まだ今後の芽は、彼と共に人生を歩む事が出来る可能性は残されている、と言う事なのですから。



 ………もしかしなくても、コレは自分勝手な女の都合の良い妄想なのでしょう。ですが、それでも可能性は残されているのだと、私は思うのです。思いたいのです。



 だって、まだ人として、『女』として認識して貰えているのだから、こうして贈り物を贈り合えたと言うことなのでしょう?


 なら、元の関係性に戻れる可能性は、ソレ以上の関係性に進める可能性は、まだ私には残されている、と言う事に他ならないのですから。



 ですから、私は二人の様に、もう可能性の潰えてしまった二人の様に、見苦しく彼にすがったりはしません。


 何時、彼がしたいことを終え、気紛れに戻って来たとしても、彼には完璧な私を、彼の隣に在るのに相応しい女性になった私を見て貰う事だけを考え、行動に移すべき時なのです。



 なので私は、この場で出来る事を為す為にも、地面に踞って涙と慟哭を溢す二人をどうにか宥め、アッサリと撃破されたシモニワ様を回収すると、今後の活動の方針を決める為にもカートゥへと戻る事を目指して馬車を走らせて行くのでした……。




次回に人物紹介を挟んで次の章に移ります

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― 新着の感想 ―
1番最後に手酷い処刑をされて欲しくなったのでまた出てこないかなーこのブタ(笑)
[気になる点] ジナベラの二人と冒険者ギルドのギルマスと王太子はヒロインレースから完全にドロップアウトでナタリアは残留?
[一言] 次の芽…?多分サイコロの出目のように目だと思うのですが…もしかして芽吹く思いみたいな感じで造語っぽいと認識したら良いのでしょうか?
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