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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
三章・反逆者は満を持してその牙を突き立てる

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反逆者は嘲笑を浮かべながら、国その物に見切りを付ける

 


 ズィーマと名乗る魔族が自ら発動させた魔術により、会場からその姿を消した直後、方々から相対していたシェイドへと向けて様々な罵声が浴びせられ掛ける。




 何故倒さなかった!?どうして逃がした!?もしかしてお前が内通者か!?この裏切り者め!!断罪だ!裏切り者を断罪しろ!!




 そんな、自分達は何も出来ず、指一本動かせずに見ているだけでしか無かったのにも関わらず、いざ安全が確保された途端にソレを成した相手に対して不満を爆発させる様を目の当たりにしたシェイドは、口元に浮かべていた半月の()みを深めると、その身に秘めていた魔力を解放し、強制的に愚衆を黙らせようとする。



 …………が、その前に






「……………皆の者、静まらぬかっ!!!!」






 との大喝が『とある人物』によって放たれ、会場内部に響き渡って行く。



 ソレにより、寸前まで憎悪を滴らせながら彼へと向けて口々に罵声を浴びせかけて来ていた民衆が揃って口を閉ざし、とある一点へと視線を集中させて行く。



 するとソコには、大勢の近衛兵に守られながら、少し前に避難していたハズの国王が舞台へとその姿を現していた。



 このアルカンシェル王国を統べる国王にして、建国王の血を引く現国王である『グレンディレイ・ドゥ・レスター・アルカンシェル』が、その巌の様な顔に険しい表情を上らせた状態にて、会場内部の民衆を一喝して見せたのだ。




 …………既に避難を済ませたハズの国王陛下が、何故こんな場所に?ソレに、何故あの裏切り者を庇い立てる様な事を……?もしや、陛下直々にあの裏切り者を断罪されるおつもりなのでは!?そうだ、きっとそうだ!そうに違いない!!




 自分達へと厳しい声を掛けたのが、他の誰でも無い国王本人であると認識した途端に、またしても勝手な憶測による彼の断罪を確信する言葉が民衆の間で広まって行く。


 ソレにより、またしても負の方面での熱気が観客席で膨れ上がりを見せ始め、徐々に大きくなり始めて行く。



 そんな中、多くの近衛兵に囲まれたまま会場内部を進んで来たグレンディレイ国王は、シェイドの近くまで進み出ると、自ら近衛兵の囲いを割り裂きながら一人歩き進み、彼の目の前へと辿り着く。



 国王陛下ご自身で断罪なされるご様子だぞ!との何処から発せられたか分からない大声により、更なる喝采が発せられ、嫌な熱気がまたしても加速し、嫌が応無しにグレンディレイ国王へと期待が集められて行く。



 そして、周囲から寄せられる断罪への期待と喝采を背に受ける形で進んで来たグレンディレイ国王は、王冠を被って長いマントを纏い、豪華な錫杖を手にした正に『王』と言う外見のまま、遂にシェイドと真っ正面から相対する事となった。



 老齢に差し掛かり、かつ長らく前線には出て来ていないながらも、武を以て統治する、と言う事が建国王の時代からの慣わしであった為に、本人もかつては冒険者として活動していた期間も在り、当然の様に特級冒険者の地位に君臨していた過去を持つ。


 多少の衰えは隠せずにいたものの、それでも纏う雰囲気は思わず跪かざるを得ない程の重圧を感じ、放つ空気は圧倒的強者のソレであった。



 そんな国王が、断罪されるべき者の前へと立った事により、観客席の興奮と注目は最高潮を迎え、彼らの一挙手一投足に注目が集まって行く。



 そして、その国王が一際強く錫杖の石突き部分を舞台へと叩き付ける事で観客席を黙らせると同時に、彼へと向けて





「……………此度の働き、大義であった。彼の魔族を見事撃退して見せたその手腕、称賛に値する。

 何より、余の民を、余の娘を、そして余自身の命を救ってくれた事に、余自身からと惜しみ無い称賛と共に、感謝を捧げたいと思う。この通りだ」





 との言葉を放つと共に、軽くとは言えその場で彼へと向けて頭を下げて見せたのだ。



 ………………ソレにより、三度別の方向性にてざわめきが観客席を支配して行く。





 …………おい、これってどう言う事だ!?なんで、陛下が断罪されて然るべき相手に頭なんて下げているんだよ……!?……でも、よく考えてみれば、あの魔族を退けたのは彼じゃないのか?…………確かに、言われてみればその通りだな……。取り逃しはしたが、確かに俺達を守ってくれたのは、あいつなんじゃないのか……?




 そんな、無責任かつ方向性すらも一つの言葉でふらふらするざわめきが蔓延する中、下げていた頭を上げたグレンディレイ国王が目の前のシェイドを見据えた状態で再び口を開く。




「……そして、これはこのアルカンシェルの王としての要請なのだが、是非とも我々の為にその力を振るっては貰えないだろうか?

 見ての通りに、人類の希望となる勇者は未だに未熟に過ぎる。到底、これから起こるであろう魔族との戦乱に於いて、その力を十全に発揮できるとは思えぬ。それ故に、余が自ら選出した者らを仲間として付けていたが、この有り様だ。

 幾ら試合にて消耗し、その上で予期せぬ戦いになったから、とは言え、鎧袖一触に薙ぎ払われてしまっていては、到底魔王を討ち果たして人類に再び安寧を取り戻す、と言う本懐を遂げるのは難しい、と言わざるを得ないだろう。

 故に、そなたに頼みたい。これから起こる魔族との戦乱に於いて勇者と共に行動し、彼の助けとなってはくれぬだろうか?」




 王自らが行ったその真摯な要請により、会場内部には彼がソレを受け入れるのが当然、寧ろ自ら志願して参加するのが妥当だろう、と言う空気が蔓延して行く。



 そんな中、それまで一言も言葉を発する事無く佇んでいた彼が、目の前にて返答を待つグレンディレイ国王へと向けてその答えを口にするのであった。






「………………断る」






 ******






「………………断る」






 彼が発した言葉により、会場内部に凍り付いた空気と沈黙とが広まって行くのを肌で感じ取ったシェイドは、その口元に浮かべていた嘲笑を更に深めると、自身の目の前で驚愕から固まっているグレンディレイ国王に歩み寄り、その耳元へと毒素をたっぷりと含んだ声を流し込んで行く。




「…………大方、わざわざコストを掛けてまで召喚した勇者が使い物にならなかったから、その代わりかもしくは実戦力として俺を使おうとか思ってやがったんだろう?

 後日呼び出して、って事をしなかったのは、観衆の前で既成事実を作ると同時に、同調圧力によって俺が頷くしか無い状況を作りたかったんだろうが、残念だったな?」



「…………ソレを理解しておきながら、何故素直に頷かぬ。

 よもや、魔族との戦いが怖いだとか、勝てるか分からぬ戦いに赴くのが嫌だ、等とは言わぬよな?」



「はい、残念。大外れ。

 答えは簡単。俺が個人的に、この国を助けたいと思って無いからさ。ソレに、さっきのあいつとの戦いで、俺なら個人でも対応する事は可能だと理解できたからな。別段、俺からは仕掛けるつもりは無い以上、あんたらに協力してやらなきゃならない理由は無いんでね」



「………………」



「それに、気付いて無いのか?

 あんた、あそこで俺に、何も約束しようとしなかっただろう?それはつまり、俺に対して協力を要請って体で命令しておきながら、対価に何も差し出しはしない、と言っている様なモノだぞ?」



「…………よもや、報酬が無いから働かぬ、と?

 この、人類存亡の危機に在って、なおその様なモノを求めると!?

 余自らの要請を受けると言う、最上の名誉を前にしても、なおその様な戯言を口にすると言うつもりか!!」



「当然だろう?

 俺を散々に虐げてくれやがったゴミ共をわざわざ守れ、代わりに傷付け血を流せ、と命ずるならば、それ相応のモノを示して貰わないとな?

 それと、あんた。いつまで自分が上位者だと思って戯言抜かしてくれてるんだ?確か、あんたらが是とした風習だろう?


『弱者は強者に逆らう事は赦されない』


 なら、この場で最も強い俺に、服従して平伏するのが当然ってもんじゃないのか?あぁ?」



「…………ぐっ!?

 ……ならば、これだけは約束せよ。貴様にこれより余からの参戦を強要はせぬ代わりに、魔族の側に付いて人類を脅かす様な事はせぬと、この場で誓え!

 そうでなければ、例え相討ちになろうとも、今後強大な敵戦力となりうる可能性をもつ貴様をこの場で誅戮する事になるぞ!」



「残念、それも約束は出来んな。

 何せ、俺は今の今まで虐げられてきた側の存在だ。これ以上、何かされれば連中に加勢しない、とは俺自身とても約束はしてやれないが」




 そう言い残し、直前まで握り締めていたグレンディレイ国王の肩を手放すシェイド。



 彼の超握力により、その肩は握り潰されて破壊されてしまっていたが、上に立つ者の矜持と同時に、自らが苦痛を表に出してしまえばシェイドと自国との戦力での潰し合いが始まってしまうから、と苦鳴と脂汗とを僅かに溢すのみで平静を装って行くグレンディレイ国王。



 そんな国王に対し、なおも参戦を言い募って来なかった事、報酬に何を望むのかを問わなかった事、敢えて自身を討つ事に執心しなかった事に対して感心した様な表情を浮かべると、再度彼の耳元へと口を寄せて




「…………くくくっ。その根性に免じて、取り敢えず、暫くは敵対はしないでおいてやる、とだけは約束してやるよ。

 まぁ、刃を向けられなければ、と言う条件が付く事になるが、な」




 と言い残すと、近衛兵達から向けられる刺す様な殺気や、観客席から飽きずに投げ付けられる数々の罵声を丸ごと無視して舞台を降り、会場を後にする…………直前に一瞬だけ魔力を全力で解放し、会場全体に対して重力魔術を施して身体に掛かる重力を十倍程度にまで増やしながら





「…………いい加減、黙れゴミ共。

 俺に、お前らを守ってやらなきゃならない義務が、欠片でも存在すると、本当に思っているのか?」





 との言葉を投げ捨てて行く。



 そして、瞬間的とは言え普段の十倍の負荷が掛かると同時に、一気に血液が地面へと引き寄せられた事による虚血性失神(ブラックアウト)を起こしながら地面へと倒れ込み、中には骨が砕ける音を周囲に響かせているのを耳につつ、今度こそ半月の()みを口元に浮かべながら会場を後にするのであった……。





次かその次位でこの章も終わる予定です

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― 新着の感想 ―
うん、納得すぎる。
[一言] 中途半端なんだよな
[一言] 「これから起こる魔族との戦乱に於いて勇者と共に行動し、彼の助けとなってはくれぬだろうか?」 「………………断る」 ですよねー! しかし王女様と言い国王と言いこの国の王族共は皆揃いも揃って痴呆…
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