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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
三章・反逆者は満を持してその牙を突き立てる

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反逆者は全霊の一端を、龍殺しの末裔へと向けて振るう

 



「…………お、おおおおおおおおおおおっ!?!?」




 自らの頭上にて展開されていた魔法陣から放たれた、極太の極光による柱が直撃する寸前に、周囲へと幾重にも結界を展開して行くシェイド。



 その顔には、これまで浮かべられた事は一度たりとも在りはしなかった、『焦り』の感情が色濃く刻まれていた。




 ………………パリッ、パリンッ!ビキビキッ、パパパンッ!!




 ……魔力量で言うのならば、その一枚一枚に対して第七階位の汎用魔術であれば軽く放てる程度の量が注ぎ込まれており、本来であれば複数の魔導師による共同作業によってのみ放たれる第八階位以上の魔術であっても耐えきるか、もしくはある程度は耐えて見せるであろう程の強度を持ったその結界が、まるで薄氷か薄紙を引き裂く様にして次々と破られてしまう。



 軽く二桁は在ったハズの結界の尽くを破壊され、とうとうその身で極光を受け止める羽目になるシェイド。


 強度としては、結界と同等かソレ以上のモノが在る魔力を纏っているものの、その他には特に防具の類いを纏っている訳でも無い為に、必然的に生身でその一撃を受け止める事となってしまう。




「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」




 自らの持つ属性と相反する属性による魔術を受けた事により、通常よりも大きなダメージをその身に受け、咆哮を挙げるシェイド。


 この大会に於いて初めて彼が漏らした苦鳴に、衝撃のざわめきが観客席を駆け抜ける。



 が、そんな事に意識を割いている余裕は存在しない、と言わんばかりに感覚から弾き出すと、体内を循環させている魔力を最大限にまで活性化させて全身を巡らせ、体表に形成されている防御膜を強化すると共にダメージを受けると同時に回復させて行く。



 体表の防御膜を突き破られる衝撃と、ソレを修復する際に活力が消費される脱力感。


 己の身を焼き焦がされる冷たい激痛と、ソレを無理矢理に癒して再構築する際に発する不快な熱。


 急速に魔力を消耗する事による虚脱感と、強制的に活性化させた魔力によってもたらされる高揚感の浮き沈み。



 それらの、相反するハズの感覚が常に彼の精神を苛み、絶えず身体を衝撃とダメージが貫き、周囲へと鮮血が撒き散らされる。



 常に苦痛を受ける状態に在った彼には永遠にも感じられた時間が過ぎ去り、徐々に目を貫く強烈な光が収まって行く。



 …………そして、彼の頭上から降り注いでいた極光が漸く収まったその時には、全身から白煙を棚引かせながらその場に膝を落とすシェイドの姿が現れた。



 光に焼かれる事で露出した上半身には、所々皮膚が焼け焦げた跡が覗き、そこから白煙が立ち上っていた。


 ソレだけでなく、左の腕は上腕の中程から焼け落ちており、出血も伴う事無く炭化した断面を晒していた。



 直接的に焼かれた上半身の殆どから、先程の極光で焼かれた周囲へと流血を振り撒き、焦げ臭い匂いと共に煙を発生させるシェイド。


 下半身こそは、間接的に上半身によって守られていた為に比較的負傷は少なくて済んでいるが、それでもやはりダメージは少なくは無く、力強く地面を踏み締めていたハズの足は折れ、片方とは言え膝を突く事でどうにか地面に倒れ込む事をせずに済んでいた状態となっている。



 …………どう贔屓目に見ても、満身創痍。


 下手をしなくとも、次の瞬間には死んでいた、と言われても誰もが不思議に思わなかったであろう程にボロボロであり、何時審判が試合終了の宣言を下してもおかしくは無いと判断するであろう程の重傷であった。




『…………最早、ここまでです。

 先程のソレは、妾に降ろした大天使の力を用いて増幅した【レイ】系統の汎用魔術です。

 流石に、長時間の降霊は妾の身体が持たない為に時間制限が掛けられておりますが、その間に於いては先程の様な事は幾らでも行えます。それに加え、妾自身に降ろした大天使より常時魔力の供給を受けておりますので、魔力切れを狙う事も無意味です。

 …………ですので、どうか降参を。ただの一撃でそこまでダメージを負ってしまった貴方様では、相性の問題で妾には絶対に勝てません。これ以上の試合続行は、貴方様の命に関わります。ですので、どうか……!』



「……………………く、くくくっ、くはははははははははははははははははははははははははははははっ!!!」




 不思議な反響を伴った声色にて、何故か懇願する様にそう告げるレティアシェル王女であったが、ソレに対してシェイドから向けられたのは『棄権する』と言う言葉でも、治療を乞う願いでも、圧倒的な実力に対する怨み言でも、上から目線に対する罵声でも無く、闘技場内部に響き渡る程の大哄笑の声であった。



 …………あまりにも予想外なその行動に、それまでレティアシェル王女の実力や神々しさを讃える言葉に満ちていた観客席だけでなく、当のレティアシェル王女本人も言葉を失って満身創痍のままで笑い続けるシェイドへと向けて視線を注ぎ続ける事となる。


 そして、一頻り笑い続けたシェイドは、笑い始めた時と同じ様に唐突に笑い止むと、平素と同じ声色ながらも何故か凄みを感じさせる口調にてレティアシェル王女へと向けて言葉を放つ。




「…………ふぅ、それで?降参しろ、だったか?

 そんなモノ、答えは決まっているだろう?もちろん、否、だ。当然だろう?」



『…………っ!ですが、貴方様は既に満身創痍!負ったダメージは全身に及び、左腕は既に崩壊しております!

 それに、先の結界を連続展開した影響で、貴方様の魔力は大きく損なわれているハズです!ソレだけでなく、無茶な術式展開で貴方様の神経は()かれ、暫くの間はまともに魔術を展開する事も難しいハズです!ならば、貴方様にもう勝ちの目は在りません!不可能です!』



「…………ハッ!だったら、どうした?だから、なんだ?

 勝てない相手だから、諦める?死にはしないのだから、もう止める?どうせ試合なんだから、負けても構わない?

 そんな、享堕にまみれた諦感なんざ、何故受け入れてやらねばならない?何故、従わなくてはならない?そんなモノ、俺は死んでもごめんだね!

 それが、例えどれだけ高く硬い壁であったとしても、諦めたその瞬間に、それまで歩き続けたソイツは死ぬんだよ。だから、俺は諦めない。負けない!止まらない!!」



『……ですが!既に貴方様に戦う力は残されてはいないハズです!ならば、もう素直に敗けをお認め下さい!

 そうでなければ、審判に判定を下させる事になりますよ!?それは、貴方様にとっても不本意なハズです!ですので、どうか!』



「既に言ったハズだ。『断る』と。

 ソレに、あんたは何を言ってるんだ?既に戦う力は残されていない?勝ちの目は存在しない?

 ハッ!残念だが、それは誤りだ。俺の現状が如何なるモノか、あんたのその目で確かめてみるんだな!」



『…………なっ!?そんな、馬鹿な……っ!?』




 言葉を切ったシェイドが、その身の内から魔力を汲み出して活性化させて行く。


 ソレその物はこれまでも幾度と無く行っていた事であった為に、目の当たりにしてもレティアシェル王女は驚く事は無かったであろう。何せ、彼はソレまでも同じ事を幾度と無く行っていたし、現にこの戦いに於いても同じ事を既に行っていた。




 …………だが、彼が今行っているソレは、彼女がシェイドの全魔力量である、と想定していたモノを遥かに越えるだけの量が注ぎ込まれており、ソレは大天使と同化している自らをも上回るだけの膨大な量となっていた。




 …………元より、イザベラやナタリアから彼の魔力量が人並み外れたモノとなっている、と言う事をレティアシェル王女は聞き及んでいた。


 その為に、これまで彼が試合中に自らの負傷を自力で治癒して見せた事にも、素の状態で攻性魔術に無傷で耐えきって見せた事にも、無詠唱で第七階位の魔術を行使して見せた事にも、驚愕はしたが予想はしていたので呆然とするまでは行かずに済んでいたのだ。



 …………だが、ソレはあくまでも、その時点では大天使を憑依させた自分よりも魔力量は劣る為に、戦力としては自分の方が上だ、と認識していたからだ。


 しかし、目の前の彼から溢れ出る魔力量は、今現在自身が大天使から供給され振るえる限界量と同等……いや、ソレ以上である様にも思える。



 現に、その並々ならぬ魔力により、ソレまでは遅々として進んでいなかった身体中の負傷をあっと言う間に癒して見せただけでなく、上腕の中程から炭化して砕けてしまっていたハズの左腕も、その断面から徐々にではあったが()()()()()()されており、既に肘の手前まで修復が進んだ状態となっていた。



 …………元々、属性的にあり得ないハズの回復系統の固有魔術を行使した様子も無いのに、欠損した肉体を再構築して見せたシェイドに底知れぬ『おぞましさ』を覚えたレティアシェル王女は、先程彼へと放ったのと同等の大きさの魔法陣を再び頭上に展開すると、先の一撃を上回る速度にて、更に膨大な魔力を注ぎ込むと瞬時に極光の柱を降り注がせる!



 特に、結界を展開した様子を見せず、無防備にその一撃を身に受ける事となるシェイド。


 …………しかし、その一撃は、先程レティアシェル王女が宙に浮いていた時と同じ様に、まるで彼の手前の空間にて見えない『何か』に隔てられてしまっている様に弾かれる事となってしまう。



 自らが行っていた様に、彼の身体から溢れ出た高濃度の魔力が、勝手に結界として作用しているのだ、と言う事を悟った彼女は、焦った様に掲げていた杖へと更なる魔力を注ぎ込んで行く。


 …………だが、そうした工夫を嘲笑うかの様に、幾ら魔力を追加したとしても、彼の頭上にて極光の柱は周囲へと弾かれてしまい、再び彼の身体を灼く事は出来ずにただただ舞台を破壊して行くのみとなってしまう。



 暫しそうして照射され続けた極光は、その身を細くし始めて消滅する寸前に至る頃合いには、彼の周囲は土煙とも白煙ともつかない煙にて充満し、完全に彼の姿を覆い隠してしまっていた。



 緊張も露に、杖の先端をその煙が満ちた場所へと向けて視線を逸らそうとせず、見つめ続けるレティアシェル王女。


 そんな彼女の様子から、何かとてつもない事が起こっているのでは無いか?と俄にざわめきが発生し始める観客席。




 そうして、闘技場内部の視線が一点へと集中する中、その白煙を切り裂く形で、内部から無傷で五体満足の状態にてシェイドが姿を現すのであった。





次回、決着!(予定)

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― 新着の感想 ―
[一言] 「大天使を憑依させた自分よりも魔力量は劣る為に、戦力としては自分の方が上だ」詰めが甘いんだよ。そうやって調子に乗って慢心していた時点でお前の負けだ王女様。結局アンタも主人公の事を「いくら強く…
[気になる点] 勇者を喚んだ理由として ①勇者でないと魔王が倒せない。 ②勇者だと魔王(魔族)と有利に戦える。 ③勇者は強いって聞いたから取り敢えず喚んだ。 のどれでしょうね。 光属性的な能力使ってた…
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