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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
三章・反逆者は満を持してその牙を突き立てる

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反逆者は偽善者の力を暴きつつ、その全てを蹂躙する

 



「……ふっ!どうだ!これが、俺の力だ!」




 そう高らかに宣言し、血に濡れた刃を翳して見せるシモニワ。


 その表情は、これまで抑圧してくれていた相手に力を見せ付けてやったぞ!と言わんばかりのモノであり、大変晴々しいモノとなっていた。



 ……だが、そんな彼の様子とは裏腹に、悪い意味でのざわめきが沸き起こる観客席。


 しかし、それもある意味当然の反応と言えるだろう。



 確かに、彼は活躍を見せたと言えるだろう。


 これまで、固有魔術を行使される以外では、碌に負傷する事すらしなかったハズのシェイドに対して、大きな手傷を負わせる事に成功したのだ。それは、確かな『活躍』と呼んで差し支えは無い偉業だろう。



 …………なのだろうが、流石にやり方がよろしく無い。


 何せ、審判が宣言を下すよりも先に刃を抜いて試合を強制的に開始させ、その上で先制攻撃を受けたからと言って『奇襲だ、卑怯だ!』と騒ぎ立てただけでなく、必要も無いのに対戦相手の腕を叩き落として見せたのだ。



 あからさまにやり過ぎであり、立てた功績を打ち消して余り在る程の悪行を成してしまったのだから、その様な反応をされるのも宜なるかな、と言うヤツであった。



 それ故に、と言う訳でも無いのだろうが、漸く自ら向けられているモノが、悪逆を挫いた勇者へと向けられる称賛では無く、慮外で粗暴な愚か者に向けられる冷ややかな視線であった事に気が付いたらしいシモニワが慌てた様子で観客席を眺め回す中、もう片方の参加者にして、本来ならばこの場で最も慌てていなくてはならなかったであろう対戦相手のシェイドは、特に悲鳴を挙げる事もせず、審判に対して抗議する事も、棄権する事もせずに、自らの足元に落とされている腕を拾い上げると、その断面をマジマジと見つめていた。



 まるで、学者が研究対象へと向ける様な視線を、少し前まで自らの一部であったモノへと向け、時に小脇に抱えて断面を直接触れるまでして観察をして行く。




「…………ふむふむ?唐突に、威力と魔力が跳ね上がったみたいだが、どう言うカラクリだコイツは?

 断面と太刀筋を見る限りだと、技量は上がってはいないな。無様な迄に、ザラザラとした不出来な切り口だ。

 だが、無警戒に近かったとは言え、俺が纏っている魔力をぶち抜いた上に、基本的に強化された状態に在るハズの俺の腕を傷付けるのを通り越して、こうして落として見せた、って言う事には警戒して然るべきだな。同時に、あそこからあの程度の魔力量で強化を仕掛けたとしても、ここまでにはならないのは確定、と。

 ついでに、魔力量も上がった事から鑑みて、さっき続いて口にしていたモノが今回のカラクリの要だろうな…………さて、どうしたモノかねぇ……」




 そんな考察の呟きを溢しつつも止血すらも碌にしていなかったが、断面を注意深く確認して位置を確定させてから、慎重に腕の断面を接着させる。


 当然、碌に止血も何もしていなかった為に、押し付けあった断面からより全身が真っ赤に染める出血が募って行くが、ソレを気にする素振りも見せずに魔力を集中させてると、徐々に押し付けた部分から漏れ出てくる血液の量が減少している様にも見えていた。



 ……そうして、切り落とされた腕を断面へと押し付ける事暫し。


 隙間から出血しなくなってから少しすると、それまでダラリと力無く垂れ下がり、どうにか右腕で押さえる事で支えられていたハズの左腕が、ピクッと指や筋肉が動き始めたと思うと、その次の瞬間には全体が動くようになっており、元の通りに動く様になるまでそこまで時間が掛かる事は無かったのだった。



 あんまりと言えばあんまり過ぎる程の現象に、自らの意思で腕を落としたハズのシモニワだけでなく、先程とは別の意味合いにて沈黙に支配される観客席。


 固有魔術も、ポーションすらも使わず、ただただ落とされた腕を断面に押し付けただけで接合し、あまつさえ日常動作が不足無い程度に動ける事を示して見せたのだ。魔術を使う事無く、傷を治しただけでも前代未聞に近いと言うのに、これはその域を遥かに飛び越えていると言っても良いだろう。



 最早異常事態が起こっている、と言っても良い状況の中、一通り動作確認を終えたシェイドが、自らの出血で濡れて赤く染まっている袖口を引きちぎりながら、目の前で受けた衝撃の余り固まっているシモニワへと向けて口を開く。




「…………で、次の手は何だ?

 技量は変わって無かった、って事を鑑みると、さっき口にしていたのがお前に与えられた、稀人としての特権、『スキル』ってヤツだろう?

 その効果は、恐らく『身体能力の増加』と『魔力量の増加』って処か?

 もし、そうでないのか、もしくは別に能力が在るのなら、早い処別方面から攻めてくる事をオススメするぞ?そうでないと、ソレだけじゃ俺には勝てないからな」



「…………ふ、ふん!良く分かったな!

 確かに、お前の言う通り、俺の与えられた『スキル』は『限界突破』!純粋に俺の限界を取り払い、俺の能力全てを人の域から解き放ってくれる、単純だが強力な力だ!

 だが、ソレが分かった処で、お前に勝ち目が無いのに変わりは無いぞ!お前の得意魔術なのか、それとも固有魔術ってヤツなのかは知らないが、その回復系の能力を当てにして俺に勝ったつもりでいる気か?

 残念だったな!俺のスキルには、時間制限も代償も特には無いのさ!お前が狙っている、耐久力に任せた時間稼ぎでは、俺には勝てない!!」



「……へぇ、何を根拠に?」



「そんなモノ、お前から攻撃してきてない事が何よりの証拠だろうが!

 お前、大方その回復能力の代償として、力を使っている間は攻撃出来ない、とか言う状態なんだろう?

 なら、俺が負ける道理は無いだろうが!」



「残念、大外れ。ホレ」



「なにっ!?くっ!!」




 ほぼ真実を突き止めていたシェイドとは裏腹に、随分と見当違いな事を口にして彼に対して『勝てない!』と宣ってくれるシモニワ。


 そんなシモニワに対して、自らの予想が不正解である、と言う事を突き付ける様に攻撃系の魔術を急速展開して放って見せる。



 ソレを慌てて手にした得物で受け止めて見せるシモニワに対してシェイドは、先程と同じ様に相手の意識が自分から逸れている隙を突いてまたしても彼我の距離を詰めると、今度は様子見として手を抜かずに魔力を込めた拳を、がら空きとなっていた胴体へと振りかざして叩き込む!



 防具に関しても持ち込みは自由であった為に、そこまで仰々しくは無いものの、確実に防具としての扱いを受けるであろう胴鎧を装着していたシモニワであったが、十分に魔力を込められた彼の拳はそんなモノで防げるハズも無く、まるで紙切れかガラス板かの様に無惨に砕け散り、周囲にその残骸を散らす結果となってしまう。



 …………しかし、彼の発動させた『限界突破』には、どうやら身体能力だけでなく反射神経と言ったモノも強化する効果もあったらしく、彼の拳によって鎧を砕かれながらも、咄嗟に身を捻る事で致命傷を負う事は回避出来ていたらしく、僅かに腹筋の表面を抉られるのみで彼の攻撃の手から逃れて見せる。




「…………へぇ?そこで、逃げる?

 てっきり、負傷から来る苦痛でそのまま膝を突くとばかり思っていたけど、案外と根性が在るみたいだな?」



「くっ!?まさか、こんな力を隠していただなんて……!?

 だが、俺は、お前なんかには負けない!守るべき人に暴力を振るって平然としている様なお前なんかに、正義である俺が負けるハズが無いんだ!」



「ふぅ~ん?じゃあ、コレ食らっても、まだ同じことが言えるかな?

【ノクス・ラディウス・アンプラズ】

 闇色の光に呑まれても、まだ立っていられたのなら、内側からはどう見えたのか教えてくれよ」



「…………な……なん、だとっ!?!?!?」




 軽く感嘆の声を挙げながら皮肉っていたシェイドの言葉に、自らが負けるハズが無い!と強気に返すシモニワ。



 そんな彼の態度に思う処が在ったのか、それともこれまでの試合と同様に、もう見るべきモノは無い、と判断したからか、瞬時に周囲の空間が歪んで見える程の魔力を練り上げて見せたシェイドは、自身が掲げた手の先に自らの身長程もある巨大な魔法陣を急速に展開すると、宣言した通りにその魔法陣から極大の闇色をした光茫を放って見せる。




 ………………カッ……!!!




 汎用魔術に於いて、第七階位に指定されているその魔術の効果は単純。


 使用者が持つ属性魔力を、純粋な破壊力の光茫として相手に放つ、ただソレのみである。



 但し、その規模は似たような効果を持つ【レイ】系統のソレとは桁違いに大きく、消費する魔力や制御難易度の問題から辛うじて第七階位指定を受けている術式であるが、基本的に使用される場面は『対大型魔物』や『対大型建造物』等であると言えば、どれ程の規模と威力を持っているモノなのかは容易に察する事が出来ると思われる。



 使用者の属性と魔力量に大きく性質を左右される魔術であるが、それ故にやろうと思えば規模を大きくする方向だけでなく、こうして彼の様に規模を小さくする方向での調整も利く為に、奥の手として術式を保持している魔導師はソレなりに居るとか居ないとか。



 そんなモノをいきなりぶっ放されたシモニワは、成す術無くその光茫へと呑み込まれる事となってしまう。


 当然、彼の背後にある観客席にもその一撃は届きそうになっていたが、万が一の事態に備えて展開されていた大規模結界によって阻まれ、どうにか被害を出さずに防ぎきる事に成功する。



 対人用に、しかも殺してしまわない様に、と言う方向性にて調整されていたが故に大きく皹が入る程度で済んだ事に会場の誰もが安堵し胸を撫で下ろしている最中、発動時間が終わった事によって展開されていた光茫がその勢いを失って行き、最終的にはそのまま消滅してしまう。



 寸前まで闇色の光茫に晒されていた部分は直線状に大きく削ぎ取られていたが、唯一シモニワだけはその場に残されていた。


 とは言え、当然の様に無事であるハズが無く、全身がボロボロな状態で手にしていた片刃の得物も根元から刃が折れ、全身に纏っていた身体能力強化の光も薄れたり点滅したりして、今にも消滅しそうになっていた。



 全身から出血し、辛うじて立っているだけ、と言う状態となってしまっているシモニワ。


 そんな彼の元へと駆け寄り、試合が継続出来る状態なのか否かを審判が確認しようとする。



 …………が……




「…………お、れは……俺、は……こん、な処で……あんなヤツ、なんかに、負ける……訳に、は……いか、ないんだ……こんな、処で……負けて、良い……ハズが、無い、んだ……俺は、まけ、無い……負けられ、無い……!

 ソレが……俺、が……この世界、に……喚ばれ、た……勇者、として……喚ばれた、理由……なんだ、から……!

 だから……だから、俺は……こんな処で、負ける訳には、行かない、んだよ……!

 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおっ!!!!」




 ………………カッ……!!!




 ……が、唐突に、立ったままの状態で何やらブツブツと呟きを溢し始めたシモニワが、咆哮、と表現して差し支え無い様な叫び声を挙げると、全身からそれまで見た事の無い様な神々しさすら感じさせる光を放ち始めるのであった……!




……唐突な発光!?

果たして、どうなる?



一応、次回でシモニワ編にケリが付きます

なお、ソレに合わせて彼の名前の答え合わせも行う予定ですので、皆さん予想してみては如何でしょうか?

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― 新着の感想 ―
[一言] はいはい勇者覚醒勇者覚醒っと。 こんな所で起こる勇者覚醒ほどしょーもない規模の物になるのは火を見るより明らか。 さて、どれだけ奮闘出来るんですかね?(笑) 名前は下茂仁和 正義(しもにわ …
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