反逆者は偽善者と対峙し、その力量を見定める
『さぁ、やって参りました準決勝最終戦!
今大会も、この試合を含めて残り二戦となりました!果たして、この戦いを制し、一足先にナタリア選手を下して決勝戦へと駒を進めたレティアシェル選手と戦う事になるのはどちらの選手か!?
先ずは東側、マサヨシ・シモニワ選手の入場!』
自身が待機する中央部への入り口の反対側からアナウンスに従って人影が舞台へと歩んで行き、ソコで観客席へと手を振る姿が朧気にシェイドの視界に入って来る。
他の参加者の中でも、一際観客席に対してのサービスが良いシモニワの行いに沸き立ち、彼に向けての声援を強めて行く。
『来歴は不明!経歴も不明!ただただ分かっている事と言えば、見ての通りに稀人の血が濃く流れている事と、その実力だけ!
聞いた噂によれば、王家との繋がりが在るとか無いとか言うモノも在るが、果たしてそれは真実か?それとも、真っ赤な嘘なのか!?
今回も、その腰に差した片刃の得物と、珍しい光属性の魔術を組み合わせた華麗なる剣術にて我々を魅了してくれるのでしょうか!?
…………続きまして、西側、シェイド・オルテンベルク選手の入場!』
……戦う前から特技を暴露してやるなよ、とか、取り敢えずギルドや学校が掴んでいたカバーストーリーを公表してお茶を濁すつもりか、とか、今までの俺の紹介とは大分熱の入り方が違うみたいだな?だとかを彼が思っていると、入場を促すアナウンスが聞こえた為に、ソレに従って入り口から進み出ると、試合の舞台を目指して真っ直ぐに進んで行く。
『……………これまでの試合で、彼は慈悲を見せる事は無かった。情けを掛ける事も無かった。ただただ、敵と見なした相手であれば、例え高潔な相手であれ、幼馴染みの異性であれ、無情にもその手で打ち払い、その足で踏みにじり、戦い下して進んできた!
英雄と呼ばれた二人から受け継いだその資質を開花させ、遺憾無く発揮してしまった彼を、魔術の極致である固有魔術に開眼した二人を余裕綽々なままに倒して来た彼を、倒せる者は存在するのか!?
間も無く、試合開始となります!!』
そして、舞台の中央にて向かい合う形で再びシェイドと顔を合わせたシモニワは、アナウンスが終わった段階でまたしても彼に対して言葉を投げ掛ける。
「…………おい、約束、忘れていないだろうな?」
「…………あ?何言ってやがるんだ?
お前、自分の腕に刻まれてる刻印の事、もしかして忘れて無いか?そんなモノがあって、忘れるハズが無いだろうがよ。大丈夫か?」
「違う!そう言う意味じゃ無い!!
お前が負けたら二度と二人に近付かない、と約束しただろうが!
お前の事だから、どうせ何かしらの方法で負けた時に代償を回避する手段を用意しているんだろう?」
「……だとしたら、何だ?
俺は言ったハズだぞ?俺からあいつらに近付いた事は無い、と。なのに、代償を棄却する手段を用意しなきゃならない理由は何だ?棄却してまで、あいつらに接触しなくちゃならない理由が、何処に在ると?」
「そんなモノ知るか!
だが、俺の正義の勘が言っているんだ!お前は、例え負けてもそよ誓約の通りには行動しない、と!
だから、この場で改めて約束しろ!二度と二人に、ベラとリアに近付かないと、この場で約束するんだ!!」
「………………はぁ……。
だからさぁ、ソレを俺が約束してやらなきゃならない理由は、一体何なんだよ?俺に、一体どんな利益がもたらされる訳?
ソレに、言ってるだろう?近付いてくるのはあいつらだって。だから、ソレを言いたいのなら、俺じゃなくてあいつらに言ってくれない?いい加減ウンザリしてくるんだけど?」
「…………う、うるさい!うるさいうるさいうるさい!!
良いからお前は、お前みたいな『踏み台』の『モブ』は!『主人公』の俺の言う事を聞いて、『ヒロイン』達をさっさと俺に渡しておけば良いんだよ!!」
以前と同じ様な事を口にして来たシモニワに対してシェイドは、面倒臭そうな態度を隠そうともせずに以前と同じく取り合う事をせず、適当な感じが満載なあしらい方を見せて行く。
すると、今度は突然シモニワが地団駄を踏みながら逆上し、彼にはイマイチ理解しきれない単語を幾つも口に上らせながら、腰に差していた得物を抜き放ち、その切っ先を彼へと向けて振り被って見せる。
…………恐らく、シモニワ本人としては、こうして真剣を抜いて見せれば自分が本気である事が相手へと伝わり、それによって舐めきった態度が改められるか、もしくは自身の主張と要求が通される事となる、と思っての行動であったのだろう、と思われる。
彼の予想の通りであれば、恐らくは急に抜かれた刃物に驚いて腰を抜かしたシェイドが慌てて約束に了承するか、もしくは冷や汗を流しながらも交渉する為に口を開く、と言うモノになって行ったのだろうが、残念ながら状況と相手が悪かった。
…………そう、既に審判が待機している状態の試合舞台の上にて、未だに試合開始の合図が出されていないタイミングで抜剣し、取り方によっては『準備は完了した』と宣言している様な素振りを見せてしまった事と、ソレを『殺し合い上等』とばかりに覚悟がキマってしまっているシェイドに対してやってしまった事が、彼にとっての最大のミスであった、と言えるのだ。
であるのならば、既に自身で試合開始を宣言してしまっている事に気が付いておらず、その上で目の前にいる対戦相手は『不意打ち、先制攻撃万歳!』を地で行くシェイドであった為に、当然の様に刃を掲げて再び口を開こうとしたシモニワに対して即座に魔術を展開すると、迷う事も躊躇う事もせずに攻撃を加えて行く。
「なっ!?嘘だろう!?
まだ、試合開始の合図は出されて!?」
「お前が出しただろうがよ」
「ぐあっ!?」
即時無詠唱にて放たれた牽制の為の低階位の魔術を咄嗟に手にしていた得物で弾いたシモニワが、先制攻撃を加えて来た(シモニワ主観)シェイドと審判に対して抗議するが、審判は特に取り合おうもせず、シェイドも『何を抜かしてやがるんだ?』と言わんばかりの口調にて、既に試合が自らの手で始められている、と言う事を指摘しつつ、彼の懐へと潜り込んでその腹部を蹴り飛ばしてしまう。
完全に予想外の攻撃であったらしく、辛うじて得物を割り込ませる事には成功したものの、受け止めきれるハズも無くそのまま吹き飛ばされるシモニワ。
そんなシモニワに対してシェイドは、不審そうで不思議そうなモノを見る様な視線を向けながら、追撃する事もせずに首を傾げ、どうにか足から着地して体勢を崩す事無く構え続ける事が出来ていた彼へと視線を向けて行く。
続いて追撃が来る、と思って今度は食らわない様に、と得物を握り締めて油断無く構えて行くシモニワ。
……しかし、距離的には物理的にも追撃する事は十分に可能な程度しか空いていないにも関わらず、行動には移さずに首を傾げている彼の姿を目の当たりにした為か、何やら重大な勘違いを起こしたらしく、得意気な表情を浮かべて行く。
「…………ふっ!残念だったな!」
「…………あ?」
「……どうやら、さっきの奇襲で片を付けるつもりだったみたいだが、当てが外れた様だな!
生憎と、こうして俺はピンピンしてるし、ダメージだって大して負っていない!だから、最初の予定の通りに、追撃してくるのを躊躇ったんだろう?首を傾げていたのだって、思っていたよりもダメージを負っていなかったから不思議に思っていたんだ!
そうだろう!?」
「………………」
「……ふっ!考えを完璧に読まれて、言葉も出なくなったか?
大方、最初の奇襲で流れを掴みつつ、俺が立て直せていない内に押しきろう、って作戦だったんだろうけど、こうして失敗した以上お前に勝てる道理は無いぞ!
何せ、俺はお前がこれまで戦って来た相手よりも強「いや、それは無いから」い……は?」
「だから、お前が言っていた事は、全部的外れだ、って言ってるんだよ」
「…………な、そんなハズが!?」
「そもそも、俺が不思議そうにしていたのは、お前の強さに疑問が在ったからだよ」
「…………ふっ!なんだ?俺が予想よりも強すぎたから、今更手加減を乞うつもりか?そんなモノ、無駄に決まって……」
「いや、逆。
お前、本当にここまで勝ち残って来たのか?それにしては、弱すぎると思うんだけど?」
その一言により、沈黙に支配される闘技場。
舞台だけでなく、観客席まで音を無くすその事態を気にする事も無く、変わらない調子にてシェイドは指摘を続けて行く。
「……そもそもの話、お前の魔力量じゃあ、とても予選を突破出来たとは思えないんだが?
質も量も、不十分、とまで言うつもりは流石に無いが、それでもどちらも飛び抜けている訳じゃない。精々、一般的な戦闘系の魔術師よりも頭一つ抜けている、って程度だ。詳しく見た訳じゃないから断言は出来ないが、他の本選に駒を進めた連中と比べると、お前は一段劣っているのは確実だ。
それは、動かせない事実、ってヤツだ」
「…………ぐっ!?だ、だとしても、俺が武術に秀でていただけだと言う事だろうが!?
それの何がおかしい!?」
「いや、その武術にしても、俺の手抜きな攻撃に反応できない程度のモノでしか無いだろう?
その程度で、どうやってここまで勝ち残って来たんだ?お前程度の実力じゃあ、それは不可能に近いハズだが?」
「………………どうやって、だと……?
それは、こうやってだ!『光よ!我が身に宿り、秘められし力を世に示せ!【ルクス・コルブス・アーデルス】』!『限界突破』!!」
…………ザンッ!!!
「…………ほう?成る程、ねぇ……」
突如として光属性の身体能力強化魔術(体内循環とは異なり、魔術として発動させて身体の表面に纏うモノ。【纏身魔術】の基礎の基礎)を発動させたシモニワが続く形で『何か』を口にすると、急にその場から姿を掻き消してしまう。
そして、その次の瞬間には舞台の反対側にてその手にしていた得物を振り抜いている状態にて姿を顕にすると同時に、相対していたシェイドの左腕が、何らかの方法にて断ち斬られてその場に落下する事となったのであった……。
……え?何事?




