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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
三章・反逆者は満を持してその牙を突き立てる

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反逆者は欺瞞の愚者の奥義を受け止め、その上で無情にも踏みにじる

 


 …………今の、この状態であれば、攻撃は通じる。



 そう判断したらしいイザベラは、自身よりも高い格闘技能を持つシェイドへと迫る為に、両腕に纏っていた炎を変化させてその手に二振りの長剣を作り出す。



 文字通り、炎が物質化した様に波打ち、揺らめくその刃は、一度攻撃を受ければ複雑に傷口が広がって行き、今にも火傷を完治させようとしている彼の回復力を持ってしても容易に傷を塞ぐ事が出来ない事を予感させるには、充分な雰囲気を放っていた。



 ソレを目の当たりにしたから、と言う訳でも無いのだろうが、さも『面倒な事になった』と言わんばかりの表情にて舌打ちを溢しつつ、焼け爛れていた掌を完治させてから開閉させ、肌の張り具合や関節の調子等を見て行くシェイド。



 先程、軽く腕に触れただけで纏っていた魔力による防壁を貫き、その上で魔力によって強化された彼の肉体を傷付ける程の高温かつ高出力な炎を前にして、防御に回るのは悪手だろうから攻めに出たいがどう攻めたモノだろうか……と思案する彼へと目掛けて、今が攻め時!とばかりに斬り込んで行くイザベラ。



 自身の魔力に耐えられる得物が在るのならばいざ知らず、そうなりうるモノが未だに手元に無い彼からすれば、触れるだけでダメージを受ける相手からの接近戦の申し出は出来ればはね除けたい処であったが、彼女の方はソレをさせるつもりが無いらしく、先程の吶喊(とっかん)よりも更に速度を上げた突撃にて彼我の距離を詰めて手にした刃を振るって来る。



 炎によって形作られ、高濃度の魔力によって一時的に形を与えられたその刃は半実在の存在と化しており、下手な方法では防御も碌に出来ない上に、容易には破壊する事も出来ないだろうし、その反面修復は容易に行われるだろう、と察知したシェイドは内心で辟易しながら手足に魔力を集中させ、簡易的な鎧の様なモノを形作ってから振るわれる刃を捌いて行く。



 袈裟懸けに振るわれた右の刃は側面を叩く事で左へと流し、真っ直ぐに突き出された左の刃は左手を添えて力の向きを流す事で狙われた胴から逸らして行く。


 翻った右の刃によって放たれた肩口へと向けた横薙ぎは屈む事で回避し、目の前へと迫った膝は左手で受け止めて掴み取り、握り潰そうと握力を込めると共に屈んだ状態から腰を回して右の拳で鍵突きを放つ。



 一見、攻撃に集中していて防御に意識が回っておらず、無防備に攻撃をその身に受けた、と見えたのだが、その次の瞬間には握られていた左膝と拳を突き入れられた左脇腹が爆発を起こし、彼の攻撃した両手を反対に跳ね除けて見せた。



 その事実に思わず目を見張るシェイド。



 よもや、攻撃に対して受けた場所を爆発させる事で防御する、だなんて事が出来ていただなんて事は、彼女の固有魔術を知っていた彼ですらも知らない情報であった為にほぼ念頭に無い事態であり、思わず意識に空白が出来てしまう。



 当然、真剣に戦っているイザベラとしてはその隙を逃すハズも無く、無防備になっていた彼の身体へと目掛けて両袈裟懸けに刃を振り下ろし、その身を切り裂いて行く。




 ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!




 高温の炎が具現化した刃にて切り裂かれた傷口は、予想を違う事無くその傷口を切り裂くと同時に炙り、出血を抑えてしまう、と言う事以上の激痛を相手に押し付ける事で、その意気を大きく削る事となる。


 更に、ダメ押しとして、そうしてクロスさせる形で付けられた傷口の中心へと蹴りを放ち、それが着弾すると同時に爪先を爆発させて彼の身体をその場から吹き飛ばしてしまう。



 大会が始まって初めての彼に対する有効打にアナウンスは囃し立て、観客席は沸き起こって行く。


 そして、舞台のギリギリ縁まで吹き飛ばされたシェイドが、どうにかその場に留まって見せた事によって更に沸き上がり、今後の展開を暑く熱く語り、予想する声が響き渡って行く。



 そんな中、踏み留まった舞台の縁で膝を突いて俯いていたシェイドへと向けて、ゆっくりと歩み寄ったイザベラが声を掛ける。




「…………ね、ねぇ、もう、止めよう?これ以上は、キミの身体が持たないよ?

 シモニワ様と、あんな誓約を交わしちゃった事も在るんだろうけど、ワタシもリア姉さんもレティアシェル殿下も誓約の棄却には協力してくれるだろうから、気にしないで降参してくれない、かな?

 これ以上続けちゃうと、もうキミの身体が持たないよ?ソレに、ワタシもこれ以上、キミの事を傷付けたく無いんだ。だから、だからね?もう、降参しちゃおう?これ以上、辛い事なんて、しなくっても良いよ。ね?」




 出血こそは少ないながらも、既に両手は近距離で受けた爆炎により破壊され、指や掌から骨が覗いていたりする。


 身体に受けた二つの傷は、辛うじて内臓が覗いてはいないながらもソレに準ずるダメージを彼へと与えており、最後に受けた蹴りの爆発も彼の腹筋を大きく抉り取って痛々しい姿を晒していた。



 正直な話、いつ審判が彼の敗けを宣言してもおかしくは無い様な状態であり、彼が少しでもそんな素振りを見せれば即座に試合は終わらせられる事となるだろう事は、沸き上がっている観客席にも、容易に理解できる状況となっていた。



 それ故の降伏勧告。


 かつて共に在り、自らの選択によって現在は道を違えているとは言え、未だに想いを寄せている相手をこれ以上傷付けたく無い。壊してしまいたく無い、と言う乙女心から発せられたその言葉は、しかして彼女の想いを正しく知らず、届かされていなかった彼には伝わる事は無く、ただただ哄笑のみが返答として届けられる事となる。



 いきなり嗤い出した彼の姿に、思わず歩み寄ろうとしていた足を止めてしまうイザベラ。


 そんな彼女の姿を気にする素振りも見せずに彼は、その場でユラリと身体を揺らしながら、まるで何事も無かったかの様に立ち上がって見せる。



 遠目にのみソレを目の当たりにしている観客席は、彼が立ち上がった事で再度沸き上がるが、彼の状態を間近に見ているイザベラと審判とはほぼ瀕死と言っても良いであろう彼が立ち上がって見せた事に驚愕し、恐怖の感情すらも抱き始めてしまう。



 それだけでなく……




「…………う、嘘っ……傷が、治って行く……!?」




 ……それだけでなく、彼の焼け爛れ、場所によっては炭化すらしていた傷口が蠢き、時に出血を伴いながらも傷を塞ぎ、時に焼けた場所を内側から押し退けて剥離させながら治癒されて行く、お世辞にも綺麗で見目麗しいとは言えない様なグロテスクな光景を目の当たりにしたイザベラは、思わず呟きを溢しつつ、口元を手で覆って吐き気を堪える様にしながら一歩二歩と後退って行く。



 顔をひきつらせ、瞳に恐怖の色と共に涙の潤みを湛えている彼女の姿を目にしたシェイドは、口元に浮かべていた半月の嗤顔(えがお)を深めつつ、魔術を展開してその手に闇色の槍を顕現させる。



 本来ならば、ただ単に展開して放つ事しか出来ない、低位から中位の魔術である【ランス】系統の魔術。


 だが、ただの魔力ですら固有魔術として展開されたモノに対しての対抗手段として扱える彼が、無手であったが為にそうとしか出来ていなかった彼が得物としてソレを手にした場合どうなるのか、ソレを今まで戦っていた彼女が理解できないハズも無く、先程とは別の意味合いにて顔をひきつらせながら、その額に冷や汗を浮かべ始めてしまう。



 手にした得物の具合を確かめる様に二三度ソレを振り回すと、先程とは異なり距離を取って様子を窺っているイザベラへと




「……じゃあ、今度はこっちから行かせて貰うぞ?」




 と軽い調子で声を掛けると、一瞬にて十数m以上の距離をまるで空間転移して来た様に詰め、呆然と立ち尽くす彼女へと向けて振るって行く。



 寸前まで、舞台の中央付近と端とに別れていた事もあり、充分以上に距離が空いていた為に気が緩み、咄嗟の反応しか返す事が出来ないイザベラ。


 ソレでも、自身の胴へと目掛けて放たれた突きを、交差させた両の刃で防御する事には成功する。



 …………しかし……




「…………ぐっ!?お、重い……!?」



「そら、次も行くぞ?」



「いっ!?きゃあっ!?」




 あまりにも、軽い調子で振るわれているにも関わらず、受けた両手が痺れる程に重い一撃に言葉を溢したイザベラへと向けて、近距離からシェイドの追撃が無慈悲にも加えられて行く。



 槍全体を使った横薙ぎ、切っ先による斬撃、石突き部分による打突、捻りが加えられた突き。


 彼女が手にしている様に、高濃度の魔力によって具現化している訳では無い為に、刃も柄も無い槍の形をしただけの魔力の塊でしか無いが、だからと言って侮って受ければ即座に切り裂かれ、抉り抜かれるであろう事を容易に予想させる一連の攻撃に、悲鳴を挙げながら必死に反応して捌いて行く羽目になってしまう。



 流石に、一撃で手にした双剣を砕かれる様な事にはならず、逆に固有魔術にて形作られた双剣にて槍を切り捨てる事も多々あったが、彼の膨大な魔力によって即座に修復されてしまうだけでなく、時折破壊された槍を本来の魔術として放って来たり、破壊される前提で振るって来た槍の威力によって体勢が崩された隙に高火力の魔術を叩き込まれたりして、徐々に追い詰められて行く。



 全身に纏っている【業炎纏身】と、手にしている双剣の維持。


 ソレに加え、爆炎を利用した移動や、攻撃が当たる度に爆破防御を行う事で、加速度的にイザベラの魔力は消費されて行き、あっという間に彼女の魔力が底を突き始める。



 そして、とうとう【纏身魔術】を維持し続ける事が出来なくなり、その身に纏っていた炎の装束は当然として、手にしていた双剣すらもその姿を霧散させてしまい、後には荒い吐息を吐きながら地面へと膝を突く彼女の姿が残るのみであった。



 そんな彼女の喉元に、新たに展開した【ランス】の穂先を突き付けるシェイド。



 彼の込めた魔力により、低階位の魔術であるにも関わらず魔力圧を放つ程の存在となっているその槍が喉元に在る事で、額から魔力切れの脂汗とは別の冷や汗を滴らせて行くイザベラ。



 …………しかし、そんな状態に在ったとしても、彼が視線にて促す様に『降参する』と宣言する事は決してしようとしない彼女に、思わず苛立ちから眉を潜めて口を開く。




「…………なんだ?この状況が理解できない程に、頭が悪い訳じゃ無いだろう?

 それとも、大会のルールでどうせ殺せないのだから、とか高を括ってるのか?なら、殺されていないってだけで、それ以上に悲惨で無惨な姿を衆目に晒してやろうか?

 特に、貴族家の娘、としては、致命的なヤツを、な」



「…………ひっ……!?」




 本気で尊厳を踏みにじる、と言っている事が容易に察する事が出来る鋭い視線に、思わず尻餅を突いてその場から後退る。


 立ち上がる事も無く、尻で地面を擦りながら後退するその姿に、コレで仕上げだ、とばかりにコレまでは比較的抑えていた殺気を彼女に向けてのみ解放する。




「………………あ、あぁぁぁぁっ…………」



 …………チョロッ、ショワァァァァァァァァァ…………




 魔力も残っておらず、かつ戦意も挫けてしまっている現状に於いて、心構えも無く圧倒的な殺意を叩き付けられた事により、尻を突いたまま後退る彼女の前には、体内から解放されてしまった水分による線が描かれ始めて行く。



 ソレを目の当たりにした審判は、流石に痛ましそうな表情を浮かべながらも、コレでは試合の続行は不可能だ、と判断した為に、試合終了の宣言を出すのであった……。




公開処刑、その二

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い [一言] 相手も炎の魔力を纏えるのなら主人公も反重力の魔力を纏って相手の攻撃を反射させるとか思いつきそうだけど、主人公って脳筋よね?
[良い点] タイトルが『城之内、死す!!』みたいな感じで、結果が分かっちゃうの面白い
[一言] 「ワタシもこれ以上、キミの事を傷付けたく無いんだ。だから、だからね?もう、降参しちゃおう?これ以上、辛い事なんて、しなくっても良いよ。ね?」 良い台詞だ、感動的だな。だが無意味だ(^∪^) …
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