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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
三章・反逆者は満を持してその牙を突き立てる

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反逆者は欺瞞の愚者と対峙する

 



「…………い、行くわよ!『炎よ、我が敵を貫け!【フランム・ランス】』!」




 半ば勝手にシェイドへと約束を押し付けたイザベラは、審判によって試合開始の合図が出されるのとほぼ同時に魔術を編み上げると、完成と同時にソレを彼へと目掛けて躊躇無く放って見せる。



 …………選択されたのは、貫通力と破壊力のバランスが良く、それでいて単体の相手に対して使うのであれば、十二分に魔力消費の観点から見てもコストパフォーマンスに優れている、と言える『ランス』系統の魔術。


 使用する個人の力量と属性に大きく威力が左右されるこの魔術を、僅かな詠唱のみでここまで素早く顕現させる事が出来る者はそうそう居らず、ここだけを切り取って見てみたとしても十二分に彼女の持ちうる才能と、これまで積んできた修練が如何程のモノであったのか、と言う事を察するに有り余る事は間違いないだろう。



 …………だが……





 …………パンッ……!




「…………なんだ、この程度か?」





 …………なのだが、彼女が目の前にしている相手には、シェイドには大した驚異でも無く、痛痒を与えるモノでも無かったらしく、至極当然、と言わんばかりの様子にて、軽く手で打ち払われる程度にて霧散する様に掻き消されてしまう。



 その時点で、両者には、圧倒的な迄の魔力量の差と、天と地程に開かれた技量の差が存在している事が、否応なしに彼女の脳裏へと刻まれ、焼き付けられて行く。



 ……本来、魔術とは己の内の魔力を思う様に操り、その結果として望む現象を引き起こす技術の総称だ。


 それは、現代の様に術式が固定され、汎用魔術として広く使われる様になったとしても、そこの定理だけは大昔から変わっていない唯一の部分でもある、と言えるだろう。



 故に、昨今に於いて、魔術師同士が戦う場合、互いに扱う術式は必然的に似通うモノとなってしまう。例え、ソレが個人の資質に合わせたモノだとしても、テンプレートの部分は汎用魔術の術式と然して変わらないし、変えられないモノとなってしまっている。



 ……では、何が魔術師同士の戦いにてアドバンテージとして明確な差を付ける事となるのか?



 それは、如何に巧みに術式を扱える能力が在るか、だ。



 確かに、魔力の量・質は重要だ。絶対的な素養である、とも言えるだろう。



 だが、その魔力量に左右されない要素の一つが、術式を自在に扱う能力なのだ。



 如何に、魔力量が多く、魔力の質が高くとも、消費を抑えずに撃ち放題していては、あっと言う間に魔力切れ(ガス欠)になってしまう。これでは、戦場や魔術師同士の戦いでは、全くもって役には立たずにあっと言う間に討ち取られてお仕舞いとなってしまうだろう。


 同様に、低階位の魔術しか扱えなかったとしても、一発一発の消費魔力を抑えたり、僅かずつながらも威力を高めたり、と言う事が出来れば、燃費が悪く一撃のみしか撃てない様な高階位の魔術にも引けを取らない戦果を上げる事も不可能では無いのだ。



 そう言った観点から鑑みると、相手に着弾して魔術がその効果を発揮し、その結果負傷を与える事が出来ずに無傷のままで現れられた、と言う事ならば良くは無いがまだ良いのだ。


 その場合、ただ単に、相手が周囲に放っていた魔力の量が、放たれた魔力に込められていた魔力量よりも多かった、と言うだけの事になる。であれば、隙を突いたり、相手に魔術を使わせて魔力を減らしたり、結界を張られていたのならば解除されるタイミング(攻撃の瞬間等々)を狙って攻撃したり、と言った手段が山程残されているのだから。



 ……だが、こうして着弾したにも関わらず、その効果を発揮せずに術式を解体されて魔力が霧散させられる、と言う事になれば話は別だ。


 何せ、そう『出来る』と言う事は、自身が放った魔術の構成を着弾までの僅かな時間の間に見抜き、その術式を理解し、構造的欠陥を把握した上で、自らが流し込んだ魔力その物と魔術を暴走させずにソレに介入し、その上で魔術の根幹を為す部分を外部からの操作によって破壊して無力化し、無害な魔力として霧散させる事が出来るだけの技量を持ち合わせている、と言う事なのだ。



 ……敢えて、分かりやすく別の物事に例えると、シャワーを浴びながら体から泡を落とさずに全身を洗いつつ、左手で料理を焦がす事無く作るのと平行して右足でキチッと洗濯物を畳み、その上で全ての作業を完璧にこなす事が出来るかどうかと聞かれ、ソレを初見で成し遂げて見せる程度には難易度が高い作業であるのだ。


 普通は、親が子供の拙い魔術の術式を矯正したりする時に使われる程度の技術であり、施される側と施す側にソレだけの技量格差が無いと成立しないハズのモノであり、基本的にある程度以上に魔術を修めている相手に対して使える様なモノでは、決してないハズの技術である。



 そんな、親と子供程に技量の格差が無いと起き得ないハズの現象を目の前へと叩き付けられたイザベラは、一瞬のみ下唇を噛み締めて俯き、悔しくて仕方無い、と言わんばかりの表情を覗かせていたが、その次の瞬間には『……でもこうなるのは分かっていたハズ!』と呟きを漏らしてから顔を上げ、シェイドへと向けて無数の魔術を放って行く。



 並列展開では無く、純粋に放ち終えた術式を即座に廃棄し、次の魔術を発動させて斉射してゆくその技術を用いて、簡易的かつ低階位ながらも魔術による弾幕を形成して行くイザベラ。


 元々の属性が火である事もあり、派手で分かり易く高等技能を振るうその姿は観客席からの受けも良く、歓声と共に彼女を応援する声が高まって行く。



 …………しかし、端から見れば押している様にも見えるであろうこの状況であっても、彼女の顔には余裕や希望と言ったモノは浮かんでおらず、寧ろ最悪の事態へと向かいつつある、と言う認識から来る焦りの感情の方が強い様にも見てとれた。



 何故なら、低階位のモノとは言え、弾幕を形成出来る程の数を放っていれば、普通は手数が足りずに先程の様に術式に割り込まれて無効化されたりする様な事にはならず、また防御結界を展開して耐えられていたとしても、その維持に持てる魔力の大半と意識や術式の展開能力の殆んどを持って行かれているハズであり、そのまま勢いに任せて押しきるも良し、多少勢いをわざとらしい緩めてやり、ソレを隙だと勘違いした相手が攻勢に出た処で反撃・殲滅するも良しな状況になっているにも関わらず、未だに彼が余裕な態度を崩そうとはしていなかったからなのだ。



 ……本来であれば、これだけの一方的な状況へと追いやられた場合、何もせずに居れば基本的には『打つ手がない』と言う事のアピールであり、審判が頃合いを見て止めたり、適当な頃合いでヤバくなる前に棄権を選ぶのが普通であり、当たり前の反応だと言えるだろう。



 しかし、それらが訪れる気配は一切無く、更に言えば未だに余裕綽々と言った風体にて佇む彼が、ハンデとして特にアクションを起こす事も無く立ったままでいてくれるお陰で格好が着いているに過ぎず、内心の焦りのままに更に魔術を放つ速度を上昇させ、更に弾幕を濃く・強くなる様にして彼へと向けて集中させて行く。



 ………………だが、それでも彼には、シェイドには特に痛痒すらも与えられてはおらず、彼の平素と変わらぬ表情を動かす事すら出来ずにおり、いつの間にかあれほど沸き上がっていた観客席も、まるで水でも浴びせられて正気に戻った酔っ払いの様に寸前までの熱狂を忘れて静まり返ってしまっていた。



 そんな中、未だに自らへとまとわり付く炎の残滓を腕の一振りにて薙ぎ払い、殆んど無傷なままの状態にて再びその姿を顕にするシェイド。



 無機質にも見えるその瞳には、あからさまな迄の『失望』の色が浮かべられており、彼にとっては先のやり取りは満足の行くモノでは無かった、と言うのは当然として、恐らくは『戦闘』としても数えられてはいない程に稚拙なモノとして写っていたのであろう事が、彼の事を詳しく知らない者にとっても容易に読み解く事が出来てしまっていた。



 舞台へと膝を突いて息を荒げているイザベラへと対し、恐ろしく冷めた表情を浮かべているシェイドが一言




「…………それで?まだ、やるのか……?」




 と投げ掛ける。



 ここまでやってもう諦めるのか?と言った挑発混じりに相手を鼓舞するモノと、お前程度じゃあ幾らやりあっても詰まらないからさっさと降参しろ、と言う完全に格下として見下しての降伏勧告としてのモノの二つの意味合いの込められたその言葉に、一瞬だけビクッ!と肩を震わせるイザベラ。



 彼が無意識的に放つ殺気や、そこに居るだけで放たれる魔力圧に屈して思わず棄権する言葉を放ちそうになるイザベラ。


 しかし、咄嗟に自らの舌を噛む事で、痛みにより自らの意思を取り戻し、彼へと素振りで『ソレだけは絶対にしない!』と示して見せる。



 ソレを目の当たりにしたシェイドは、僅かに驚きから目を見開く事となるが、起きた反応としてはその程度。


 ならば、惨めにこのまま叩き伏せられて退場しろ、と言わんばかりに魔力を練り、今回の試合にて初めての魔術行使に移ろうとして行く。



 …………圧倒的な迄のその魔力量に、思わず手足に震えが走るイザベラ。


 しかし、ここで手も足も出ずに、一方的に嬲られて敗北してしまっては、ソレこそ彼は二度と振り向かない処か、もう自分を視界に入れてくれさえしなくなる、との強い確信を持ってしまっていた彼女は、対戦相手が彼で無ければ到底取り得る選択肢には上がらなかっただろうソレを、この場で選択するのであった……。





「…………なら、やらなくっちゃ、ね……『炎よ。世の始まりから存在し、普遍にして破壊と恵みをもたらすモノよ。我が呼び声に応え、我が身を(よろ)い、我が刃として顕現せよ!【業炎纏身】』!」





 …………そして、今にも魔術を放とうとしていた彼の頬に、一条の傷が刻まれる事となるのであった……。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 覚醒前の描写がしっかりとされている作品だからこそ気になる。 そもそもイザベラの実力って高いのか? 確かに作中の描写や学園での話を聞く限りでは優秀なんでしょうね。勇者パーティーの一員に…
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