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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
三章・反逆者は満を持してその牙を突き立てる

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呼び出された反逆者は、校長室にて望まぬ邂逅を果たす

 


 幼馴染み二人に対しての失望を深めつつ、背中に『シモニワ』と呼ばれていた黒髪の男の




「待て!逃げるのか!?」




 と言う挑発の言葉を受けながら校舎裏を脱したシェイドは、その足で今回こうして登校した原因である校長室へと真っ直ぐに向かって行く。



 幸いにして…………と言うのも少し違うかも知れないが、時刻としては概ね指定されていた刻限に近しいモノとなっており、既に来訪したとしても咎められる事は無いであろう頃合いとなっていた。


 まぁ、尤も、例え咎められたと仮定しても、彼が反省したり行動を改めたりする事はそうそう無いだろうが。



 そうして進んでいる内に、一月ぶりの校長室の前へと到着するシェイド。



 以前は、どう言った対応に出てくるのか不明であった為に、一応はノックしたり等の気遣いをしていた(彼としてはしたつもりではあった)が、今回は既に相手の性根等は把握出来ているのでその手の思い遣りをするつもりは欠片も無く、乱暴に目の前の男の扉を蹴り開けてズカズカと中へと入って行く。



 突如として乱雑に開け放たれた上に、特に断りも無く押し入って来た形となったシェイドを出迎えたのは、予想はしていたが実際にヤるとは思わなかった、と言わんばかりのランドン校長の苦い顔と、ここに居る事はハッキリ言って予想外であったもう一つの顔の持ち主が、その頭頂部から生やした大きくて長い耳を動かしている、というよりは光景であった。




「…………取り敢えず、呼び出しを食らったから来てやったが、これは一体どう言う状態だ?」



「……どう言う状態だ?と聞きたいのは儂の方なのですけどねぇ……。

 シェイド君。君は、扉とはノックをしてから手で開けるモノだと、親から教わらなかったのかぃ?」



「お生憎様、あの糞野郎共が遺してくれていたのは、俺に対しては苦難と辛酸だけだったんでね。その手のマナーの類いは、俺には期待しないで欲しいモンだ。

 …………で?ここに俺を呼び出したアンタが居るのは当然として、ソイツは何でここに居やがるんだ?先客が云々とか抜かすつもりなら、さっさとその()()()()()は追い出してくれんかね?糞臭くて叶わんのだが?」



「…………残念ながら、それは出来かねますねぇ……。

 何せ、彼女を、ラヴィニアを呼んだのは儂ですし、今回の話に関しては彼女にも協力して貰う予定となっていますのでねぇ」




 そう言って、シェイドからの要求を突っぱねるランドン校長。



 その物言いに、僅かに殺気を漏らしつつ眼光を鋭くするシェイドであったが、対するランドン校長が特に意見を変える事をせず、表面上は涼しい顔をしたままとなっていた事により、鋭く舌打ちを一つ溢してから、チラリとランドン校長の隣に腰掛ける現ギルドマスターであるラヴィニアへと視線を向ける。



 久方ぶりに目の当たりにしたその姿は、端から見れば『痛々しい』とでも言うべきモノとなっているのだろう。



 辛うじて、顔からはガーゼや包帯は外されているが、頭部や手足と言った他の本来ならば露出されているハズの部位には未だに包帯が巻かれているし、部分部分でギプスやコルセットと言った道具で固定されてもいた。


 おまけに、あの時念入りに破壊しておいた足は未だに機能が完全に回復してはいないらしく、彼女が座っているソファーの横には松葉杖と思わしきモノが立て掛けられていた。



 ギルドで確保していたであろう魔導師による回復魔術を行使してもなお完治する事が無く、自然治癒に任せる羽目になったその状態を目の当たりにしたシェイドは、またしても舌打ちを溢す事になる。


 ソレは、先程の苛立ちから来るモノでは無く、どちらかと言うと失望のソレから来るモノであった。



 彼としては、散々腹痛め付けてやった事もあり、最後の最後で晒した醜態によって権威もプライドもバキバキにへし折ってやったつもりで居た為に、表に出てくるだけならばまだしも、こうして彼の前に平然とした態度で顔を見せられる、と言う様な状態になっているハズが無い、と思っていたので、思わず



『もっと痛め付けておけば良かったか……』



 と言った心境と共に、僅かながらにも手加減していたと思われる自身に対する失望も含まれた舌打ちであった、と言う訳だ。



 そんな思いと共に、改めてラヴィニアを観察して行く。


 以前の態度から察するに、さも憎々しげにこちらを睨み付けているか、もしくは『殺してやる!』とでも言いたげな程に、視線に殺気を漲らせているのであろう、と思っての行動であったのだが、ソレにより彼はまたしても予想外の結果を得る事になってしまう。



 …………そう、そうして得られた結果とは、彼に対する怯えが大部分を占め、それを『表情をひきつらせる』と言う形にて顕にしながらも、僅かばかりでは在るが、何故かその瞳は潤みを帯び、宿る光の幾分かは『熱情』とでも呼ぶべきモノとなっている様に見て取れた。




「………………は?いや、なんで……?」




 思わず、そんな呟きが溢れ出るシェイド。



 驚愕を浮かべたままで凝視すると、確かな『怯え』や『憎悪』と言った感情を浮かべながらも、僅かに顔を赤らめつつフイッと視線を逸らすその仕草は、確実に『恋する乙女』と呼ばれる存在が見せる素振りのソレであった様にも見えた。



 まるで、自分を殺しかけた相手の事を愛してしまった、とでも言いたげなその有り得ないハズの態度と仕草に、思わず助けを求める様な形でランドン校長へと視線を向けてしまう。



 ……そこだけ見れば、丸っきり『年相応の困った青年』としか見えなくなってしまっていた彼の様子に驚きを見せつつ、こう言う処も在ると言う事は……と言った算段を巡らせているのがアリアリと解る、さも『悪巧みの途中でござい』と言わんばかりの顔をしながら彼へと助け船の様なモノを出して行く。




「…………これは、割りと一部の界隈では有名な話なのですけどねぇ。

 ほら、聞いた事は無いですか?一部の獣人は、とある条件を満たすまでは、決して伴侶を得ようとはしません。

 ……が、その条件を満たした相手に出会ってしまうと、例えその相手に嬲られた事が在っても、どれだけ手酷い敗北を味合わせられたとしても、いずれ気持ちが傾いてしまい…………と言うヤツですよぉ。君くらいの年齢なら、卑猥な噂話の一つ、として聞いた事くらいは在るんじゃ無いですかねぇ?」



「…………は?ソレって、アレか?

 獣人は戦って勝ってから無理矢理押し倒すと、こっちが引く位に激しく応じて来る、とか言う有り得ない馬鹿話の事を言ってるのか……?」



「……まぁ、極一部の体質の持ち主は、と言う注釈が付きますが、大体は間違ってはいませんねぇ。

 尤も、その体質に関しては性別を問わないので、下手をすれば下手をしてしまう可能性もありますが、ソコは気にするだけ無駄と言うモノだと思って貰うしか無いですねぇ~」



「………………えぇ、マジか……?」




 あんまりと言えばあんまりなカミングアウトに、思わず熱っぽい視線を向けて来るラヴィニアから一歩距離を取るシェイド。



 以前から受けていた仕打ちの復讐とした叩きのめし、既に関係性を精算した、と認識していた(少なくともシェイドはそう認識している)相手が、予想外の理由から……だなんて展開は彼としては望んでいなかった事であるし、何より彼自身が彼女の事を『そう言う対象』として見ていないし、見たこともない。


 その為に、そんな事を言われたりされたりしたとしても、『嬉しい』だとか『満更でもない』だとかの感情よりも先に『どうしてそうなる?』と言う疑念や『そんな訳無いだろう?』と言った否定の気持ちが先行する状態となっていたのだ。



 …………それに、そもそもの話として、幾ら糞過ぎて実際に顔を合わせる機会が在ったとするのならば、即座に全力で殺しに掛かる事は間違いない相手とは言え、あの両親と同年代なのだ。


 流石に、外見上はそこまででも無いとは言え、実年齢が親子程も離れている相手に対してそう言う目で見ろ、と突然言われても…………と言うのが正直な心境だろう。ぶっちゃけた話、何も聞かなかった事にしたい位だ。



 …………とは言え、幾らそれが偽らざる本音であったとしても、例え復讐の対象として叩きのめした相手であったのだとしても、自らの体質に振り回される形にて心を掻き乱されている相手に対してソレを正直にぶちまける事がどんな結果を産むのか、を理解はしているシェイドは敢えて口をつぐみ、話題を逸らして元の道筋へと戻すべくランドン校長へと向けて言葉を放つ。




「…………取り敢えず、あのクソウサギの状態は無視するとして、そろそろ何で俺を呼びつけたのか、を説明して貰おうか?

 どうせ、あのクソウサギがここに居る理由も、ソレが関係してるんだろう?」



「…………まぁ、話が逸れた原因については思うところが無いでも無いですが、取り敢えず話を進めるとしましょうかぁ。

 時に、シェイド君。君は、近々武闘大会が開かれる、と言う事は承知しているかなぁ?」



「…………あ?武闘大会だ?

 ………………まぁ、聞き覚えが無くはない、って程度だが……?それが、どうかしたかよ?」



「……まぁ、あまり覚えが無い、と言うのなら一応説明はしておいた方が良さそうですねぇ。

 一月程前から連絡事項として周知させている事なのですが、近々武闘大会が開催されます。一応、主催は儂ら、と言う事になっていますので、所属している生徒は全員参加が義務付けられていますねぇ。

 もちろん、外部からの……と言うよりも他校からの参加者もおりますし、王族の方も参加なされますから国王陛下もご覧になる予定ですので、かなりの規模の催し事になる予定となっていますよぉ」



「…………で?それが、どうかしたか?

 出られると確実に優勝されちまうし、配慮しなくちゃならない王族なんかも足蹴にしそうだからって言うんで、先に参加資格を剥奪する為に退学処分にでもしておこう、って話か?」



「直ぐにでも辞めたいであろう君にとっては残念ながら、真逆になりますねぇ」



「…………あ?真逆、だと?」




 訝しむ様な声を挙げたシェイドに対してランドン校長は、普段と同じくにこやかで柔和な表情を浮かべながらも、まるで人を喰ったかの様なのらりくらりとした態度でこう続けるのであった……。






「……いえ、ね?シェイド君には、是非ともこの武闘大会に参加して、優勝して頂こうと思いましてねぇ」







………………この爺、何を……?

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― 新着の感想 ―
なんか道具だなあ…お得意の牙は口喧嘩ですか? ヤンキー漫画の読みすぎみたいな展開が続きますねえ。初期のどす黒さはどこへやら。
[気になる点] まだ読んでないので先の展開はしらないけど、主人公は何だかんだイイように使われそうな雰囲気。しかし、なぜ自主退学しないんだろう?
[一言] ラヴィニアはうん…まぁこれは…仕方のない事……なんだろうか? でもプライドは高いけど実はマゾなウサミミお姉さんとか最高じゃない?主にノクターン的な意味で、ノクターン的な意味で(※大事な事なの…
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