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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
二章・力を手にした反逆者は復讐を開始する

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傲慢な偽者は、跡地を前にして呆然と佇む

 



「………………本当に、何も無くなっちゃったんだ……」




 そうポツリと呟くアタシの目の前に、一つの更地が広がっていた。



 そこは、少し前まではアタシとお兄ちゃんが住んでいた、今はもう居ないパパとママが建ててくれたアタシ達の生家が在った場所で、今は知らない人の手に渡ってしまった場所だった。



 ………………少し前、本当に少し前までは、アタシは世間知らずなままで、偽りの幸せの中に居られた。



 パパとママが居なくなってしまったのは悲しかったけど、でも二人の才能をキチンと受け継いでいて、周囲からは『天才』だとか『未来の大魔導師』だとかと呼ばれてチヤホヤされて、凄く舞い上がっていた。


 アタシにとっては何でも無い様な魔術を放って見せただけで、周囲が驚いて称賛して来たのは、正直凄く心地が良かったから……。



 その頃から、自分とは違って、二人の才能を引き継がず、周囲からは『無能』だとか『出来損ない』だとかと呼ばれて蔑まれていたお兄ちゃんの事を、自分も一緒になって見下して面白がっていた。


 最近ではアタシの方が背丈も高くなって、もしかすると体格もアタシの方が良くなってたかも知れない、って状況が、いつもオドオドとしていた小柄なお兄ちゃんに対して横柄な態度を取らせる事に繋がったのかも知れない……。



 パパとママの友人でもあったギルドマスターのラヴィニアさんにも可愛がって貰い、そろそろ上級冒険者に昇格させて貰える、って話も出ていたんだ。


 学生の内からそんなランクに上がれるのだなんて、滅多に居ないんだから誇っても良い、って言われて嬉しくなってた。



 …………だから、だからなのかな?


 お兄ちゃんが学校やギルドで虐められている、って話を聞いた時には、特に何も思わなくなっちゃってたんだ。



 むしろ、これからのアタシの将来にマイナスになるような事は止めてよね!?とすら思っていたと思う。



 …………今になって思い返せば、ますます家族に向ける様な考えじゃないし、本当に最低最悪な事をしていたんだと思う。



 ……だから、だったのかな?


 あの時、お兄ちゃんが課外授業の時に普段は入らない森の奥まで進んじゃって、そこで遭遇した強い魔物にクラウン生徒会長達と一緒に追いかけ回されて、最後には自分から進んで囮になった、って聞いた時に、思わずホッとしちゃったんだ。



『あぁ、これで、もう嫌われる様な態度を取らなくても済む』



 って。



 ……本当は、あの時には既に分かってたんだよ?アタシの態度が、どれだけお兄ちゃんを傷付けていたのか。どれだけ、お兄ちゃんに嫌われていたのか、って事は。


 だから、もうこれ以上、アタシがお兄ちゃんを傷付け無くても良いんだ、って思ったら、何だかホッとしちゃったの。



 …………でも、その後、お兄ちゃんは森から出て来た。ちゃんと、生きたままで。



 もちろん、無事じゃ無かった。


 遠目に見ても、血だらけでボロボロになってる様に見えた。



 でも、ふらついている様子は無かったし、どうやっていたのかは分からなかったけど倒した魔物を後ろに浮かばせてもいた。



 ……だから、って言うのは卑怯だと思うけど、正直その姿を見た時は、お兄ちゃんだとは認識出来なかったんだ。



 ……だって、お兄ちゃんは魔術が使えない、パパとママの才能を受け継いでいない、ってずっと思ってたんだよ?


 それなのに、突然魔術としか考えられない方法でクラウン生徒会長の事を蹴り飛ばしたりだとか、会長と良く一緒にいた人達を薙ぎ払ったりだとか、アタシでも倒せなかったと思える程に大きな魔物を浮かせて運んだりとかする姿を見せられたら、偽者なんじゃないのか?って思っちゃっても仕方無いんじゃないかな?



 ……でも、どう見ても、お兄ちゃんにしか見えなかった。


 お兄ちゃんにしか、見えなかった。



 だから、だなんて言葉に意味は無いのかも知れないけど、そう言う状況だったから、あの時はあんな言葉がアタシの口から飛び出す事になっちゃった。




『アンタの存在が迷惑なのよ!!』




 …………多分、その一言が、引き金になっちゃったんだと思う。


 だって、あんなに怒ってるお兄ちゃんも、あんなに怖いお兄ちゃんも、そして…………あんなに、他人みたいに見えるお兄ちゃんも、初めてだったから……。



 何時もだったら、アタシに何を言われても、気弱そうな微笑みを浮かべて、瞳に悲しそうな色を浮かべるだけで、結局は何も言わずに終わらせてくれていたのに、この日は、この日からは、もうそうやって、アタシの事を『妹』として扱ったり、甘やかしてくれたりする事も無くなっちゃったんだ……。



 …………それから、アタシは、自分の事は全部自分でやらなくちゃならなくなった。


 苦手だから、と言ってやらずに来た全てが、アタシに重くのし掛かって来た。



 ……お料理が、あんなに面倒臭くて難しくて、その上美味しく作るのが難しい事だったなんて、思っても見なかった。初めて作ったアタシの手料理は、焦げて生焼けで、とてもとても不味かった。


 ……とても、お兄ちゃんが作ってくれていた、美味しいお料理と同じものだとは、思えなかった。



 お洗濯だって、指がふやけて爪が剥がれるかと思う位確りやらないと、ちゃんと汚れって落ちてくれないんだって初めて知った。


 お掃除だって、ちゃんと順番を考えてやらないと、何度も同じところをやらなきゃならないし、汚れも落ちないんだって初めて知った。



 …………もちろん、謝って許して貰おうとしたよ?ちゃんと、次の日に顔を合わせた時に。



 …………でも、その時には、もう手遅れだったみたい。


 だって、もうその時には、もう既にお兄ちゃんはアタシの知っていたお兄ちゃんじゃ無くなっちゃってた。それに、家も売り払う、だなんていきなり言い出しちゃったんだ。



 アタシも抵抗しようとしたけど、でも、怖すぎて、お兄ちゃんに見えなくて、逆らい続ける事が出来なかった……。



 ……それから、暫くの間は、お兄ちゃんは家に帰って来てくれてた。顔は合わせなかったりしたけど、でも台所を使っていたりする痕跡から、帰って来ていた事は分かったから。


 ……でも、それから少ししてからお兄ちゃんは家に帰って来なくなった。学校にも、来たり来なかったりしているみたいで、顔を合わせる事も無くなっちゃった。待っても待っても、帰ってくる事も会う事も、無くなっちゃったんだ……。



 そして、今から少し前。朝起きたら、リビングのテーブルの上に、見覚えの無い袋に詰められた沢山のお金と、既に買い手が付いたから早く立ち退け、って言うメモ書きが残されてたの……。



 そこから先は、正直良く覚えて無い。



 夢現なままに、家を買い取ったって人と会ったり、友達の家に暫く泊めて貰える事になったり、必要なモノを取って来たりした様な気もするけど、ハッキリとそうした、とは言えないと思う。



 こうして、現実を受け入れられる様になった時にはもう、アタシとお兄ちゃんが産まれ育った家は、こうして取り壊されて更地にされちゃっていた。



 もう、何も残ってない更地を前にアタシの胸に穴が開いた様な気がして来る。



 ……なんで、こうなっちゃったんだろうなぁ……。


 ……なんで、お兄ちゃんと仲良くしていられなかったんだろうなぁ……。


 ……昔は、もっと仲良かったハズなんだけどなぁ……。




 そんな、既に手遅れになってるだろう事を、アタシでも『もう手遅れだ』と分かってる事をとりとめも無く考えていると、後ろから声を掛けられた。




「…………カテジナ・オルテンベルク様。そろそろ、よろしいでしょうか?」



「…………はい、大丈夫です」



「……胸中、お察し致します。

 ですが、他の方々もお待ちですので……」



「分かりました。行きましょう」




 目的地の途中で、懐かしい場所が目に入ったから、ワガママから止めて貰っていた馬車へと歩み寄る。



 ……そして、剣と竜が交差する家紋の刻まれた馬車へと乗り込んだアタシは、密かに涙を流すと目的地へと目掛けて出発して行った。




「…………お兄ちゃんと、また会いたいな……」




 そんな、自分勝手だとアタシにも分かってる呟きを、何も無くなった更地に残して……。




…………で、だからどうした……?



次回から、ここ最近での最大の見せ場とザマァ回を含む章が始まる……予定です

お楽しみに(^^)

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― 新着の感想 ―
[一言] 「本当は、あの時には既に分かってたんだよ?アタシの態度が、どれだけお兄ちゃんを傷付けていたのか。」って言ってるけど全然分かってないし、そもそも分かってればこんな事にはなってないだろ。唯一の肉…
[気になる点] 家紋に関する前情報は無かったですよね。 『他の方々』……負けヒロイン纏めて生徒会長の家に……は流石に無い? とも言い切れない? 竜を使ってる辺りそれなりに偉そうな家なんだろうなとは思い…
[一言] 時すでに遅し
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