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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
二章・力を手にした反逆者は復讐を開始する

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反逆者は近隣の狩り場へと到着し、そこで蹂躙を開始する

 


 ギルドにて情報を奪い取った(受け取った)シェイドは、ソレを片手にカートゥから出て進むこと暫し。




「…………ここ、か……?」




 未だに日が中天に昇りきってはおらず、出立してから然程経ってはいない時刻ながらも、持ち出した資料に記されていた場所へと到着したシェイドは、目の前の森へと視線を送りながら、訝しむ様な視線を前方へと投げ掛ける。



 そこには、明るく雰囲気の良い、活力に満ちた森の姿が在るのみで、特にそれらしき気配は感じられなかったからだ。



 彼が封印を破る切っ掛けとなった例の森でもそうだったのだが、基本的に魔物が出現する場所と言うのは、ある種の独特な『存在感』とでも呼ぶべき『何か』を纏っている事が多い。



 そう言う場所は、大概空気が独特の淀み方をしていたり、日が差しているハズなのになぜか薄暗かったり、と言った、見る者が見れば一目で察せられる様な状態となっていたりするのだ。



 ……しかし、ここにはソレが無い。


 ギルドの方に目撃と遭遇の報告がなされ、要警戒と目されてリストにその存在が刻まれる事になる程の大物が潜んでいるとはとても思えない程の、牧歌的で長閑で普通の生命に溢れた森である様にしか見えていなかった。



 ガセでも掴まされたか?とも思ったシェイドであったが、そうであったのならばガセネタを寄越してくれやがった受付嬢は潰してやるとしても、確認の意味も兼ねて取り敢えず探索だけはしておくべきか、と気を取り直して森の中へと踏み入って行く。



 サクサクと下草を踏みながら、森の中を分け入って行くシェイド。


 その視線は周囲へと張り巡らされており、どんな奇襲であろうと事前に察知し、残されている痕跡を欠片も見逃しはしないだろう、と思わせる程のモノとなっていた。



 当然、周囲への警戒の為に使っているのは視覚だけでは、無い。



 他の五感、聴覚は当然として、魔物が生息しているのならば必ず放つ事になり生息臭を嗅ぎ分ける事に嗅覚を、何か大型のモノが動いていれば必然的に伝わって来る振動に触覚をそれぞれ無意識的に割り振り、全方位に対して油断無く警戒を敷いている。


 それに加え、定期的に身体から魔力を薄く波状に放つ事で周囲の状況を把握出来る汎用魔術を使用し、情報を得る上に『魔力を放つ存在がここに居る』と言う事を敢えて周囲に知らせる事で、自らを故意的にターゲットとし、魔物が自ら飛び出して来る様に仕向けてもいるのだ。



 基本的に、余程上手いこと奇襲を受けない限りは相手の行動に反応出来る自信が在り、かついざと言う時用の備えも欠かしていない彼だから出来る、自らを囮として使うこの戦法であったが、どうやら今回に限ってはソレが大正解であったらしく、森の奥側が俄に騒がしくなり始める。




「…………ふむ?これは、一応は当たりだった、と言う事かね?

 取り敢えず、貰ってきた(パクってきた)資料によれば、ここで目撃されてるのは『オーガ』の類いだったハズだが……」




 三mに迫る身長と筋肉で鎧われた巨躯、額に生えた二本の角と残虐な性質、赤く下手な防具よりも頑丈な皮膚が特徴であり、人間を見るや否や即座に殺して喰おうとする食性から、確認され次第討伐する事が推奨されている『接触危険指定』受けている魔物の一種であるオーガ。


 先のキマイラと同じカテゴリーに分類されており、群れる性質も持っている為に時にはキマイラ以上に恐れられる事になるその魔物が、森の奥からその姿を現す様子を、特に構えるでも無く悠然と佇みながら眺めて行くシェイド。



 自身ならば、例え上級冒険者がパーティー単位で当たったとしても、運悪く相性が悪かったり数が多かったりすれば下手をしなくても全滅、と言う事があり得る相手であっても大丈夫、と言った生意気な自信の現れであったが為に、特に構える事もせずにその場で待ち構えていたのだが、実際にその姿を目の当たりにして僅かながらにその眉が潜められる事となる。




「…………おいおい、マジかよ。

 上位種なのか変異種なのかの判断は付かないが、それでもコイツらが通常種じゃねぇって事は理解出来るぞ?

 あっちと言い、こっちと言い、最近どうなってやがるんだ……?」




 ……そう、何故なら、彼の目の前へと足音を隠そうともせずに姿を現したのは、ギルドの資料に載せられていた赤い肌をした『通常種のオーガ』の姿ではなく、艶の在る黒い肌をした『上位種(もしくは変異種)と見られるオーガ』の群れであった。



 キマイラの時と同様に、通常種のソレよりも体格が良く、身長は四mに届くのではないのか?と言う程の長身と、ソレに見合った全身を隆起させる鋼の様な筋肉。


 通常であれば二本揃って生えているハズの角は、額から一本生えているだけとなっているが、その代わりに業物の短剣もかくや、と言った鋭さを見せていた。



 装備の方も、通常種であれば、せいぜいが腰布を巻いて木を加工した棍棒程度のモノでしか無いらしい(それでも魔力が通されているので下手な鉄より余程硬いとか)のだが、シェイドが目の前にしている集団は、獣の皮を剥いだままの状態で使っているが故に粗悪品も良い処なのだろうが上半身には皮鎧を纏っているし、その手には鉄製と思われる武具が握られている。


 自身らの巨体に合わせられたサイズを誇るそれらの武具は、遠目に見てもそこまで良質なモノでは無さそうであったが、雑に振り下ろすだけでもシェイドの様な人間相手であれば、十二分に挽き肉にする事が容易く可能だと思われた。



 そんな、暴虐の化身、とでも表現するべき悪鬼の群れは、自分達の前方に佇む小柄な人影を目にすると、その口元と事前に蔑みの色が滲んだモノを浮かべると、あからさまに嘲笑だと分かる哄笑を揃ってゲラゲラと挙げ始める。



 ……大方、何やら魔力を感じたが為に見に出て来てみれば、そこに居たのは自分達の半分程度しか無い上に、大した装備も所持している訳でもない、見るからに貧弱そうな人間が一人きりで立っていた為に、何かしらの目的で森に入ったが自分達の姿を目の当たりにして恐怖から立ち竦んでいるのだ、とでも思ったのだろう。


 あからさまな迄な雑魚が、こんな処にわざわざ入って来たのが運の尽き。このまま、嬲り殺しにしてやろう、とでも考え、嗜虐的な笑いが堪えきれなくなった、と言う事だろう。恐らくは、だが。



 一頻り(ひとしきり)腹を抱えて大笑いしたオーガ達は、その口元にニヤニヤとした嗤いを張り付けたまま、手にした得物を見せ付ける様にしながらシェイドを取り囲むと、その中から一体が自信満々な様子で囲みの中へと進み出て来る。



 そして、口元にニヤニヤとした嗤いを浮かべた状態のまま、まるで『先手は譲ってやるよ』と言わんばかりに両手を広げてゆっくりと彼へと目掛けて歩み寄って来る。



 …………恐らくは、先に攻撃させ、その上でソレを無傷で受けきり、何の痛痒(つうよう)も与えられていない、と言う現実を無理矢理見せ付けて心を先に折り、絶望させてから嬲り殺しにしてやろう、とでも考えての行動であったのだろう。



 オーガ共にとっては、当然にして必然的な『娯楽』と『愉悦』から来たのであろう、その行動。


 ナチュラルに、相手を『雑魚だ』と見下してのその行いが、目の取り敢えず静観を決め込んでいた反逆者の逆鱗を撫で上げ、自分達の処刑執行書にサインを入れる事となってしまう。




「………………お前ら、俺を、蔑んだな……?」




 それまで、特に何をするでも無く、ただただ佇んでいただけであったシェイドが、唐突に言葉を漏らす。



 特に、大きな声であった訳でも、特別な意味合いや特殊な効果の在った言葉であったりする訳でもない。現に、その言葉の意味は、オーガ達には通じてはいなかったのだから。



 …………しかし、彼がその言葉に『何か』を乗せた事は間違いなく、彼と敵対しているオーガ達に対して伝わっていたらしく、(さざなみ)が引くようにして沸き起こっていた嘲笑が鎮まって行く。



 自らが起こした現象に拘る様子を見せる事無く、それまでダラリと垂らしていた腕を掲げ、未だに一体だけ囲みの中へと進み出て来ていたオーガへと差し向ける。




「…………お前ら、俺を、嗤ったな……?」




 そして、掲げた手で虚空を掴み、まるでパントマイムか何かでモノを掴んでいる素振りを見せる芸を披露している様にも見える状態となったシェイドは、目線を目の前のオーガへと固定したままその瞳に『赫怒』と『激昂』と『殺意』とをない交ぜにした感情を漲らせ、灼熱と絶対零度が同居する、矛盾の塊の様な視線を放ちながらその拳を握り締める!




「……お前らは、俺を、見下したな……!?」



 ………………グシャッッッッッッ……!!




 彼の、心の底からの咆哮と共に、唐突に目の前に現れた『黒点』へと圧縮され、その巨体を圧搾されて行くオーガ。



 元より、下手な鎧よりも余程頑強な肌をしており、その上から簡素とは言え皮鎧まで装備していたにも関わらず、まるで見えない巨人の手によって唐突に握り潰されでもしたかの様に、元の体積の半分以下にまで身体を潰され圧死し果てる事となる。



 唐突に過ぎるその現象に、ソレを成されたオーガ達は何をされたのか理解出来ず、その場で周囲を見回したり、潰され果てたオーガに駆け寄ろうとしたり、この群れのリーダー格の個体に指示を仰いだりしていた。



 そんな中、ソレを成した張本人であるシェイドは、目の前でグシャグシャになって圧死したオーガへと視線を向けつつ、一言




「…………チッ!流石に、やり過ぎだな。

 これじゃあ、素材の価値も付かないな。

【圧壊黒点】は破壊力も高くて便利だが、金稼ぎには向かない、か……」




 と、舌打ちと共に言葉を漏らす。



 …………そう、彼は、自らが行った、固有魔術である重力魔術により、光すらも歪んで見える程の超重力場を局所的かつ極小の一点に発生させ、空間ごと指定した対象を強制的に圧縮する、と言った凶悪極まりない魔術を半ば衝動的に行使したのだが、その結果として素材が著しく損傷すると言う事により、当面の使用は控えるべきか、との結論を出して見せたのだ。



 使い方によっては、今目の前で右往左往しているオーガ達を一網打尽に出来ると言うのに、ソレを『金にならないから』と言う理由で行わず、別の手段にて打倒する事を決定したシェイドは、オーガ達の混乱が鎮まるよりも先に、先に与えられた恥辱を果たすべく、己の内から沸き起こる衝動に従ってオーガの群れへと飛び込んで行くのであった……。





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