『無能』から『反逆者』へと至った少年は、遂に望んだモノを手に入れる・前
長くなったので前後に分けました
前回の終わりで納得が行かない!と言う方々にも納得して頂けるオチになる……予定!です
━━━━後の歴史に『第二次人魔戦争』として語られる事となる魔族と人間との戦争の初戦が『魔族が派遣した侵略軍の壊滅』並びに『魔王の敗北』によって終了した後。
魔族側が電撃的に再編した第二次侵略軍によって防衛線を呆気なく踏破されてしまったアルカンシェル王国は、魔族側によって国土の何割かを占拠される事となってしまう。
が、その段に至って、魔族側が当初掲げていた『人類に対する報復・復讐』から主張を一変させ、『種族の復権並びに安寧を得られる国土を獲得する』事を主眼に置いている、と公表したのだ。
それにより、首都カートゥーにて最終決戦を行うしか最早道は無い、とばかりに思い詰める事となっていたグレンディレイ王は一も二もなく魔族側へと特使を派遣し、互いの求めている事とその落とし処を探り当てる事に成功する。
当の昔に魔族を駆逐し、族滅へと追いやるだけの戦力を確保する事が出来なくなってしまっていたアルカンシェル王国側と、最大戦力である幹部級並びに魔王が敗退し、その上で急激すぎる程に急激に方針を転換する事となったが為に戸惑いを隠せずにいた魔族側との思惑は一致し、二つの国は交渉のテーブルに着く事となった。
そして、その結果として、魔族側は比較的魔物も強くは無い(魔族基準での『強くない』なので普通の人間からしてしまえば『かなり強い』に容易く分類される)上に土地も肥えてはいるものの人の手が入っていなかった辺境に近い土地を大きく得る事となり、逆にアルカンシェル王国側は建国以来の領土であるとは言え、その実としては魔物の跋扈する領域であった為に開拓する事も儘ならなかった、正直に言えば『不良債権』以外の何物でも無い土地を手放す程度で暫くの安寧を手にする事に成功した、と言う事になった。
最終的に見れば、魔族に国土を大きく奪われる形となってしまったアルカンシェル王国と、初志を忘れて安寧を求めた魔族が新たに興す国、と言う対比が生まれる事となったのであった…………。
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アルカンシェル王国側と魔族側との同意の元に終戦協定が正式に結ばれる事となってから、約半年の後。
アルカンシェル王国首都である王都カートゥーのとある一角に在るカフェテラスに於いて、二人の女性が相対する形にて相席していた。
片方は、このカートゥーではそれなりに知られた顔であり、立場も在る女性であった。
長く伸ばされた黒にも見える藍の髪を背中に流しながら同系色のドレスローブを纏ったその姿は、ピンと伸ばされた背筋とも相まって高い教育と教養を窺わせるモノであり、大きく盛り上がりを見せている胸元と細い腰の括れとの対比をより強調させ、恰も『清楚さ』と『妖艶さ』を同居させる事に成功しているかの様にも見て取れた。
もう片方は、このカートゥーに於いては基本的に無名かつ見た覚えの無い顔であったが、その特徴は最近良く見掛ける様になったモノと酷似していた。
肌は艶と張りとが素晴らしい事が見受けられるが、通常の通りの肌色をしており、羽や尻尾が生えている様には見て取れない。が、その頭部から覗いている角や長く艶やかな紫色をした髪は、豊かな胸元や丸く形の良い臀部を引き立たせる様な露出の多い服装よりも多くの視線を集めている様であった。
そうして、意図するにしてもしないにしても、周囲から多くの視線を集めてしまっていながらも、ソレを気にした素振りも見せずに注文した品が届くのを待っている風であった二人は、特に何かを切っ掛けとするよりも先に、自然と言葉を交わし始める。
「…………取り敢えず、お久し振りです、お元気でしたか?とお尋ねするべき、でしょうか?」
「寧ろ、初めまして、の方が私達的には正しいんじゃ無いかしらね?
現に、実際にこうして顔を突き合わせてお喋りする、だなんて事は初めてなのだし、ね?」
「……それも、そうかも知れませんね。
では、改めてまして。私はナタリア。ナタリア=ヴォア・ビスタリア。アルカンシェル王国の貴族家が一つ、。
以後、末永くお見知り置きを」
「そう。
じゃあ、お姉さんも名乗ろうかしら。私はサタニシス。サタニシス・ケーニッヒャ。
君達には『魔王』だ、って名乗った方が通りが良いよね。
もっとも、近い内にその肩書きも変わる予定だけど、ね♪」
「……そ、それは、おめでとうございます、と言えば良いでしょうか……?」
それまで浮かべていた微笑みを、若干とは言えひきつらせながら言葉を返すナタリアであったが、その視線は直前まで表情を引き締めていながらも、現在は自ら口にした言葉によってだらしなく顔を蕩けさせているサタニシスへと向けられていた。
ソコに、一切の嫉妬心や憎悪の類いが無い、と言えば流石に嘘になるだろうし、そう言った手合いの感情は先ず隠す、と言うのが貴族家の人間として当たり前に受ける教育の一つであったが、それでも多少は仕方の無い事、として見逃して欲しいのが彼女にとっては正直な心境だと言えるだろう。
…………何せ、先程サタニシスが口にした『肩書きも変わる』と言う言葉には、ナタリアの想い人も関わっている事は間違いない、と彼女は睨んでいるのだから。
「…………そのご様子ですと、もう御身体はすっかりよろしい様ですね。
あれだけの重体であったのに、僅か半年足らずでその目覚ましい快復を遂げられたのは、やはり種族としての特性なのでしょうか?」
「まぁ、そうと言えばそう、かな?
でも、これでもかなり時間が掛かった方なのだけどね?何せ、回復を促す魔力を全身に行き渡らせる為の魔力回路が、彼の話だとズタボロに寸断されちゃってたみたいでね。
そっちも再構築する手間と合わせて、こんなに時間が掛かっちゃった、って訳なのよ。もっとも、大半は魔力回路を修復して魔力を身体に巡らせられる様にする、って事に時間が掛かっちゃってただけだから、ソレさえ出来れば後はあっと言う間に治っちゃった訳なんだけどね」
「保有する魔力が多ければ多い程負傷の治癒は素早く行われる、と言う話ですね?
私も以前から耳にしておりましたが、私程度の保有量では然程の差が出る事も無く、その上周囲にも飛び抜けて多く保有している、と言う者もおりませんでしたので、実例としての実感は在りませんでしたが……そう言う事でしたか」
「まぁ、とは言っても、そうなる迄は大変だったのよ?
何せ、身体が全体的に重くて上手く動けもしなかったからね。色々と、それこそ口に出すのも恥ずかしい事すらも手伝って貰わないと出来ない状態になってた訳なんだから、流石にあの時はシェイド君を恨んだよ。
なんて事をしてくれたのか、ってさ」
「…………それは、分からないでも無い、かと。
私も同じ『女性』ですので、自らの手で身繕いすら出来ずに他人の手を借りる、と言う事には、その……羞恥心が刺激される想いだ、と言う事は、理解出来るかと思います」
「あら、分かってくれるのかしら?
でも、ソレだけじゃないの。流れ的に仕方の無かった事とは言え怪我をさせてしまったのは自分だから、って世話の類いを買って出てくれたシェイド君に恨み節を吐くのは筋違いだ、って事は分かってるんだけど、あそこまでされちゃったり、色々とお世話されちゃうのはちょっと、その……流石に恥ずかしくって……」
寸前まで蕩けさせていた顔を、今度は羞恥心によって赤らめさせるサタニシス。
元々持ち合わせていた美貌に加え、そうして赤らんだ顔の肌艶や、口ではそう言っていながらも表情としては『満更でも無かった』と言わんばかりな状態となっている事もあり、周囲の男性からの視線は自ずとそちらへと集約され、中には二人に声を掛けようと試みる者や、隣にパートナーが居るにも関わらず視線を向けていた事を咎められてしまう者も出始めていた。
とは言え、そんな事は二人には関係が無い話であるし、多夫多妻が通常であるこの世界に於いては珍しく己の心に決めた者以外を受け入れるつもりの無い二人にとっては、声を掛けてくる様な連中は眼中には存在していない為に、悉くが撃退される事となる。
そうして俄に五月蝿くなった周囲を黙らせてから、ナタリアとサタニシスの二人は再び言葉を交わし始める。
「さて、じゃあシェイド君の事は後回しにするとして、取り敢えず聞かせて貰っても良いかしら?
魔族がアルカンシェル王国に対して正式に行う事柄について、ね?勿論、例の『勇者』の処遇だとかも含めて」
「…………畏まりました。
では、本来ならばレティアシェル殿下がお伝えすべき案件でしたが、そちら側からの要請に従う形にて、私がお伝えさせて頂きます」
「えぇ、勿論。
貴女なら、少なくともシェイド君が『助けても良い』と思える程度には信用している貴女なら、私達について不利な事を黙っていたり、国の為に~なんて御題目を掲げて私達の事を騙そうとしてきたりはしないでしょう?
なら、頼むのなら貴女に限る、って訳なのよ」
「………………御信用頂き、恐悦至極に御座います。
では、改めまして当国たるアルカンシェル王国にて決定された事をお伝えさせて頂きます。
当初交わされた条約に基づき、当国に於いては『辺境』とされていた周辺国土を譲渡させて頂く事となりました。
それにより、本日付けで正式にアルカンシェル王国から委譲され、当国とは別の国である、と言う扱いになりました」
「そう。
なら、これで漸く皆に生き易い土地を提供できる、って事ね。
大分、時間は掛かっちゃったけど、ね……」
「…………つきましては、当国は他国との国境線の大半を貴国に譲渡した形となりますので、以前と変わらぬ貿易や通行を行う場合に掛かる関税の類いは、流石に私には任せられない、との事でしたので、別途担当者が着く事となっております。
そこは、ご了承頂ければ幸いです」
「ふふっ!まぁ、そうもなるわよね。
まさか、これまで『辺境だから』と放置して、多少の道を通す程度にしか利用せずにいた土地が、丸ごと自分達の手から無くなる、だなんて思わないモノね!
そうなった際に、自分達だけで生きて行く事が出来ない人間達が、どうやって生き延びるつもりなのか、考えてもいなかったのでしょうね……」
そう言いながら、目の前に出されていたカップを手に取り、口を湿らせるサタニシスの口許には、凄絶な迄の色気と同時に、背筋が凍り付く程の戦慄を抱かせる微笑みが浮かべられていたのであった……。
一応、宣言の通りに年内には終わる予定ですのでお付き合い頂ければ幸いですm(_ _)m




