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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
終章・反逆者は己が意思を貫き通す

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反逆者は魔王との戦いに終止符を打つ

 


 目の前にて開かれた漆黒の『孔』へと、ズルリズルリと徐々に引き寄せられて行くサタニシス。


 当然の様に、思い付く限りの手段にてソレに抗おうと試みる。




 身体能力強化を用いた、物理的な踏ん張りによる抵抗。


 ━━━━減速はすれども停止する事は無かった為に、失敗。



 魔力障壁を多数展開して、自身に対して行われている干渉の断絶。


 ━━━━自身で展開した障壁に激突する事になってしまった為に、失敗。



 闇属性魔力を用いた、空間転移にて強制的にこの場からの脱出。


 ━━━━空間跳躍自体が阻害され、術式が暴発しそうになった為に失敗。




 そうした、様々な手段の模索の果てに下手な抵抗は意味が無い、と悟ったらしいサタニシスは、純粋に持てる魔力を身体から放出し、それによって形成される魔力の層を以てして防壁の代わりとして漆黒の『孔』に備えようと考えを切り換える。


 そんな彼女の試みを前にして、展開した術式を維持する為に膨大な魔力と過負荷を受けた事によって、自身の出血によって顔面を真っ赤に染め上げていたシェイドは、その口許へと半月の嗤みを浮かべながらパチンと指を弾いて見せる。



 まるで、何かの合図でも出したかの様なその仕草。


 漸く治癒が進んで身動きが取れ始めていたミズガルドオルムも、ソレを側で補助していたズィーマも、未だに彼の背後に庇われる形で何やら喚くだけしか出来ていないシモニワ達の誰もがその仕草に反応を見せずにいる最中、唯一『ソレ』のみが明確な反応を示す事となる。



 …………そう、彼が発生させ、未だに維持・制御し続けている、漆黒の『孔』のみが、その存在を脈動させる形で彼の動作に反応を示して見せたのだ。


 それには、純粋に魔力を放出する事によってどうにか『孔』に引きずり込まれる事も無く、ギリギリの処で踏み留まっていたサタニシスも目の前で発生した事態であるだけに見逃すハズも無く、同時に自身の背筋を凍えさせる『何か』が駆け降りる。



 …………それまでも、彼の展開している術式を目にした時から『嫌な予感』として彼女の背筋は凍えさせられる事となっていた。


 しかし、今回駆け降りる事となったモノはそれまでのモノとは桁違いに強烈に彼女の意識に対して訴え掛けるモノであり、可能であったのであれば一も二もなく踵を返して逃げ出していた事間違いなし、と言う程であった。



 そして、その予想は彼女の目の前にて現実のモノへと成り果てる。



 彼女が目の前にしていた『孔』が、いきなり大きくなったかと思えば、次の瞬間にはその大きさを極小の域にまで縮小させ、その後に『爆発』としか表現のしようの無い現象を引き起こして見せたのだ。


 おまけに、拡大と縮小の段階にて彼女が受けていた『引っ張る力』が強くなると同時に彼女の意識が遠ざかるだけでなく、その身体もより強く引き付けられていた為に、ソレ以前とは比べ物にならない程にまで『孔』の間近に迫る形となってしまっていた。



 その為、無理矢理血液を下げられた事によって意識を喪い掛け、同時に半ば無防備にも近しい状態にて『孔』が放った爆発の直撃を受ける事となってしまった、と言う訳だ。



 幸いにして、その少し前から魔力を防壁として身体に纏っていた為に、『孔』が発した爆発による魔力によって発生した衝撃波に対しては抗う事も出来ていた。


 …………しかし、その直後に発生した、そこには無かったハズのモノが存在し、そしてソレが消滅した事によってそれまで押し退けられていた『空間その物』が集約し、そしてその反動で拡散する事で発生した、謂わば『空間震』とでも呼ぶべき波が次いで彼女へと襲い掛かり、魔力の層へとぶつかって行く。



 最早、空間その物が荒れ狂う嵐となったかの様な、そんな『空間震』。


 通常であれば、例え全方位に対して結界を張っていたとしても、存在している空間自体が揺れ動き、牙を剥いて襲い掛かって来る様な事態には意味を成さず、防ぐ事も出来ずに打ちのめされるか、もしくは耐えきれずにバラバラにされるか、のどちらかと成り果てていたことだろう。



 だが、事態に直面していたのは、空間支配の権能を持つ属性である闇属性の魔力を持ち、その扱いに長けた達人でもあるサタニシス。


 全身を打ち据えられ、脳を撹拌された様な酩酊感にも似た気持ちの悪さを味わう事に成りながらも、それでも自身の周囲にて荒れ狂う空間をどうにか宥め、制御し、辛うじて『荒れ狂う濁流』を『奔放な急流』レベルにまで鎮める事には成功する。



 が、とは言え防壁を貫いて来る性質には変わりは無いし、幾分か宥める事には成功したもののやはりその勢いは半端なモノでは無く、彼女の全身を巨大なハンマーで殴られた様な衝撃が貫いて行く。



 しかし、そこまでの攻撃を受けても尚、サタニシスは膝を折る事無く立ち続けて見せていた。


 その身に纏っていたドレスは襤褸切れ同然にまで傷付き、辛うじて彼女の妖艶な肢体を隠している状態と成り果ててしまっているし、その肌には無数の傷が刻まれ、魔力も殆ど底を突く形となってしまっていたが、未だにその瞳からは意思の光が衰える事は無く、二本の足にて確りと地面を踏み締めて立ち続けていた。



 そんな彼女は、まるで『どうだ、耐えきってやったぞ!』と言わんばかりに勝ち気な微笑みをその口許へと浮かべ、対戦相手であり最愛の存在でもあるシェイドの方へと一歩踏み出す。


 そして、続いてもう一歩踏み出そうとしたその瞬間、まるで急に身体の制御を喪ったかの様にして、その場に倒れ込んでしまうのであった……。






 ******






「…………は、はぇ……?

 なんれ、どうひて……??」




 歩き出そうとしていた姿勢のままで地面へと突っ込む事となってしまっているサタニシスは、戸惑いの声を発していた。


 身体に起きた異変だけでなく、言葉遣いから舌の縺れが発生している事や、自身の身体に何が起きているのか?と言った事を把握出来ずに混乱している様子は、確実にそれらが演技の類いでは無い、と言う事を確信させるだけのモノとなっていた。



 必死に手足を動かして立ち上がろうとするサタニシスへと向けて、歩み寄る足音と影が一つ。


 当然の様に、それらの持ち主は彼女と戦っていた、と言う事になっていたハズのシェイドであった。



 外見的には大きな怪我の類いは見受けられないとは言え、少し前まで極大術式の並列起動、だなんて無茶をやってのけた彼の顔面は、耳や目だけでなく、鼻や口からも出血が始まっており、現在進行形にて真っ赤に染まり続けていた。


 そんな彼が、多量の魔力を一気に消耗した事と、術式の処理と制御とによって発生した過負荷によって精神が焼かれて苛まれている事により、足取りをふらつかせながらも取り敢えずは自身の足にて立ちながら、倒れ伏す彼女の隣へと辿り着く。



 上体をふらつかせながら、その場にしゃがみこむシェイド。


 その手には、よくポーションの類いが詰められている規格の小瓶が握られており、親指によって蓋を弾き飛ばしてから彼女の頭を抱え上げると、口許へゆっくりと瓶の口を近付け、慎重に傾けて行く。




「…………なに、を……?」



「無理するなよ。

 どうせ、もう身体に力が入らない処か、碌に動けなくなってるんだろう?

 分かるよ。何せ、そう言う術式を使ったんだから」



「…………そんな、事しなく、ても……放っておけば……」



「残念ながら、そいつも外れだ。

 さっき使った【黒滅界壊】だがな、細かい原理の類いは置いておくとして、黒い『孔』の爆発の衝撃を受けただろう?

 実はアレ、まともに食らうと発生した特殊な光(γ線)が身体を通過する事になるんだがな、結果的に言うと魔力で作られた物理的に防ぐことが出来ない極小の刃(γナイフ)によって全身を貫かれ、切り裂かれた様な状態になるんだよ。

 文字通りに、内側がズタズタにされるのさ。パッと見た限りだと、特に負傷はしていないみたいに見えるだろうけど、な」



「…………その、ついでに……魔力回路も、寸断され、てるって事……ね」



「そう言う事。

 だから、こうして追加で治してやらないとならない訳よ。

 ついでに、確実に『倒せる』が『殺さない』様にする、って言うのにはかなり面倒な調整をしなくちゃならなかったんだからな?

 殺せば良いだけなら、全力でブッパすれば良かっただけなんだからな」



「…………そう、ね……処で、アレどうやってた、の……?

 まさか、『位相転移』を使っても……防げない、攻撃があるとか、聞いてない……んだ、けど?」



「そりゃお前さん、『重力』は空間を隔てていたとしても、届いて相手に干渉できるんだぜ?

 例え、傘を差したとしても身体が浮いたりはしないだろう?建物の中に入ったとしても、身体が軽くなったりはしないだろう?

 つまりは、そう言う事さ」



「…………そっ、かぁ……じゃあ、この形式に、なった時には、もう……私の勝ち目は、無くなってたんだ、ね……」



「否定はせんよ。

 だが、それでも俺は、勝ちを求めた、って事だよ。

 他の誰でも無い、お前さんに他の野郎の手が触れる可能性が高まる、だなんて事には、したくなかったからな。

 …………それだけ、お前さんが、ニースが大切だと思ってる、って事だよ。言わせんなよ、恥ずかしい」



「………………そっ、かぁ……これは、私の負け、かぁ……負けちゃった、かぁ……」




 そう言葉を溢しながら、シェイドの腕の中にて静かに涙を流して行くサタニシス。



 かつての同胞の敵を取れずに敗れた事への慚愧の念か、それとも雪辱を果たす事すらも出来なかった己の不甲斐なさへの後悔から来るモノなのか。


 ソレは、流石に本人以外には計り知る事は出来ないモノだと言えるだろう。



 しかし、そうして涙を流す彼女の表情はどこか晴れ晴れとしており、かつてその肩に掛かっていた重責や周囲からの期待や圧力と言ったモノから解放された、立場ある『魔王』としての彼女のモノでは無く、かつて彼と二人で旅を続けていた時と同じく、一人の女性としての『サタニシス』としてのソレと似通っている様にも見て取れるのであった……。







 斯くして、コレにて後の世に『第二次人魔戦争』と呼ばれる事になる戦争は始まりと同時に終わりを告げ、人間と魔族との関わり方にも大きな変化を遂げさせる切っ掛けとなるのであった……。






少々中途半端かも知れませんが、次回最終回


一応エピローグ、みたいな?

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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者(笑)がやらかしていい加減まとめて消し飛ばないかなぁ(過激)
[一言] いやいや、王国は滅ぼそうぜ。なんで終戦しとんねん 主人公が邪魔しなければ余裕やろ
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