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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
終章・反逆者は己が意思を貫き通す

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反逆者は反撃を開始する

 


 …………腹部を貫かれ、血塗れになりながら息も絶え絶えであり、どうにか目の前のサタニシスを掴んで支えにする事で立っているのが精一杯、と言った状況であったハズのシェイドから、濃密で圧倒的なまでの量の魔力が突如として迸る。


 ソレを間近で目の当たりにし、かつその奔流に晒される事となってしまったサタニシスは、若干とは言え表情をひきつらせながら、こんな事は有り得ない!?と声を挙げて行く。




「ちょっと、シェイド君!?

 貴方、一体何処に、何時からこんな魔力を!?」



「………隠していたのか、ってか?

 そんなの最初から、に決まってるだろうがよ!」




 慌てるサタニシスとは裏腹に、先程までとは打って変わって落ち着きを見せつつ、言葉も確りとし始めるシェイド。


 少し前までは確かに残っていたハズの細やかな負傷はあっと言う間にその姿を消し、出血のあまり蒼白になりつつあった肌には赤みが戻り、端から見ていてもハリと生気が戻りつつある事が見て取れた。



 しかも、それだけでは無く、今も突き刺さったままであり、その上で内臓にもその爪先が届いてしまっているハズのサタニシスの指先すらも、内側から回復し、元に戻ろう、として盛り上がりを見せている彼の肉によって押し返され、自然と腹部から抜け落ちようとしてすらいた。



 そんな、通常では有り得ない事態を至近距離にて現在進行形にて目の当たりにしているサタニシスであったが、意外な事にその視線はそこまで動揺によって揺れる事は無く、比較的冷静に事態の成り行きを見届けようとしているかの様に凪いでいた。


 が、そうであっても、例え最愛の相手であったとしても、こうして至近距離に何時までも留まる事は危険であるし、何が起きたとしても不思議では無いのだから、と指先が押し返されて抜けてしまった腕を引き、掴まれたままとなっていた肩を振り払って距離を取ろうと試みる。



 …………しかし……




「…………おいおい、今更ながらに、逃げるなよ。

 これからが、一番『良いところ』なんだから、さぁ!」



「ぎっ!?」




 …………しかし、自身にとって都合の良い状態から脱しようとする動きであるソレを、しかも目の前で行おうとしていると言うのにむざむざシェイドが見逃すハズも無く、それまで掴んでいた肩だけでなく得物を握っていたハズの方の腕も使い、突き込まれていた方の腕も掴むとその両方に対して強く強く握り締めて行く。


 その、肉を握り潰し、骨を粉砕させる、と言わんばかりの意思と力が込められた握撃により、思わぬ方向性の攻撃とソレによってもたらされてしまっている激痛によってサタニシスは苦鳴を漏らし、表情を苦痛によって歪める事となってしまう。



 実際問題として、彼に掴まれている肩と手首からは少なくない量の出血が発生し、その上で強固であったハズの骨からもミシミシと言った軋みを上げる音が彼女の耳には届いていたし、一部では既に皹でも入っているのか嫌な悪寒を伴う痛みすらも発生している様子であった。


 元来、種族として屈強な肉体を持ち、その上で『魔王』として魔族の中でも最高峰の血筋に生まれた為に持ち合わせている膨大な魔力によって強化されているハズの肉体が、そこまで呆気なく破壊される、と言う事態を受け入れられずに呆然となりそうな意識を無理矢理奮い起たせ、体表から発している魔力の量を強制的に増量させる事で、無理矢理彼の手を振り払おうと試みる。



 が、ソレよりも一瞬早く、彼が狙っていた術式が完成に至り、彼の両手の平の内側にて、極小の重力球が発生してしまう。




 ━━━━…………グシャッッ!!!




「…………ッ!?ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」




 思わず、苦痛に満ちた悲鳴を周囲へと響かせてしまうサタニシス。


 美しく整った顔は激痛によって歪み、薄くとは言え目尻には涙すらも浮かぶ事となり、腰は引けて無理矢理にでも掴まれている場所を引き抜こうと躍起になっている様にも見えている。



 …………だが、そうする事で更なる激痛が彼女の脳髄を焼き焦がし、それから逃れようとして更に……と言った『負の螺旋』が発生する事となり、余計に無用な苦痛を味わう羽目になってしまう。


 そんな彼女に対して、仮にも愛した相手が目の前で苦痛に喘いでいるのだから、ソレをどうにかしてやりたい、と言う考えが浮かんでは来たものの、未だに勝負の途中であり、中途半端に情けを掛けて勝てる様な相手でも無ければ、勝ちに持って行ける様な状況でも無い上に、将来の事を考えればここで必ず勝たなくてはならないのだから、と思い直し、心を鬼にして重力球によって半ばまで握り潰していた肩と手首とを完全に握り潰すと、その腹部へと目掛けて前蹴りを叩き込む。



 それにより、ブチブチと言う何かしらが千切れる音と、水気の多いが固さも在る、と言う様なモノが潰れた様な音を周囲へと響かせながら、彼の元から吹き飛ぶ形でサタニシスが離れて行く。


 そして、数回地面へと叩き付けられながら跳躍し、最終的に土煙を上げながら荒野へとその身体を沈めてしまう事となる彼女へと、それでもシェイドは視線を外す事はせずに注視をし続ける。



 …………わざと攻撃を受けて重傷を負い、至近距離に誘い込んだ後に残していた圧縮魔力を解放して負傷を癒すと同時に四肢の何処かを破壊し、その結果として継戦能力を奪い去るか、もしくは大きく削ぎ落としてしまう。



 ソレが、彼の狙っていた作戦の大筋であった。



 …………そも、こんな狡い真似は、彼としても積極的に取りたい作戦では無かった。当然の様に。


 だが、既にミズガルドオルムとの戦闘にて疲弊し、その上で頼みの綱であった圧縮して貯蓄していた魔力もそこまで多くは残っていない、精々が一戦分残っているかどうか、と言う程度でしか無い、となれば、作戦も手段も選んではいられない、と言うモノだろう。



 しかも、仕掛けられた戦いが、負けてしまえば自身の最愛の相手が何処の誰とも知れない相手と共有しなくてはならない、と言う事態に陥る可能性が高くなる、なんてバカらしいにも程がある状況に在ったのだから、絶対に負けられはしない、と言う状態にも在ったのだ。


 ならば、綺麗な手段にも、誰もが納得出来る勝ち方にも、拘っていられはしなかった、と言う訳なのだ。



 シェイドだって、本来ならば愛した女であるサタニシスとは戦いたくは無いし、そもそも手だって上げたくは無い。


 元より、生まれ持った気質として異性に対して手を上げる様な事には忌避感が在る(但し自身に対して悪意を向けた相手は除く)為に、本当ならば戦いたくは無かった。



 それこそ、彼が今現在も背後に庇っているナタリアとその他を諦めても良い、と微かに考える程度には、戦いたくは無い、と思っていたのだ。



 とは言え、既に事は始まってしまっているし、互いが互いに大きな傷を与える事態となってしまっている。


 であれば、可及的速やかに事を終わらせ、互いに後に引かせず、後に残さずに勝負を終える事こそが重要である、と言えるだろう。



 …………尤も、本来ならば魔力量や身体能力、技術や諸々の要素を加味して鑑みてみると、彼とて彼女に対して『勝つだけならば容易な事だ』とは言えない、と言うのが正直な処。


 甘く見積もって『勝つためには苦戦は必須』。厳しめに見積もるか、もしくは戦闘が始まってから得られた情報を加味して考慮するのであれば『もしかしなくても負ける事になる』と言うのが彼が弾き出している答えであった。



 なんて、彼自身としての本音だとか、一応は立てていた作戦だとかを(つらつら)と思い浮かべていると、収まりつつあった土煙の中からユラリと一つの影が立ち上がるのが見て取れた。


 どうせ、未だに終わった訳では無いのだろうから、と視線を逸らさずに固定し続けていた彼からすれば、特に驚く様な事は無く、寧ろ当然の結果である、とも言えたのだが、彼の背後に位置する場所から事を眺めている連中(ギャラリー)からすれば予想外であったのか、彼からすれば不快とすら言えるどよめきが沸き起こる。



 そんな最中、自身の身体から放った魔力によって土煙を完全に吹き散らしながら、涙目のままで表情を憤怒に染め上げたサタニシスがその姿を顕にする。




「…………よくも、よくもこんな姑息な手を使ってくれたね!

 幾ら君だからと言っても、私にも許容できる限界ってモノが━━━」



「はい、ドーン!!」




 憤怒の表情を浮かべ、恨み節を口にしながら姿を現したサタニシスへと向けて、その台詞の途中であったにも関わらず魔術を放つシェイド。


 しかも、感情が移入されて昂り、その上で未だに完治しきらないのであろう負傷した箇所を狙い打ちにした、彼得意の【重力魔術】による不意打ちが、彼女の身体へと突き刺さる。



 自らの台詞の途中にて攻撃される、とは予想していても実際にされるとは想定していなかったらしいサタニシスは咄嗟に回避しようとするが、外見の上では治った様には見せているものの、それでも握り潰され、肉を抉られ、骨を砕かれた部分を完治させる事も違和感無く動かす事もするのには時間が足らなかったらしく、回避しきる事は叶わずに複数放たれた内の幾つかを受けてしまう事となる。



 当然の様に、そんな箇所へと破壊に特化した魔術である【重力魔術】が直撃してしまえば耐えきれるハズも無く、発生した更なる負傷による激痛とダメージにより、彼女の意識とは無関係に膝が折れ、その場に倒れ込む事となってしまう。


 苦痛にまみれた悲鳴と共に、地面へと沈んでしまうサタニシス。



 そんな彼女に対して、今すぐにでも勝負を放り出して駆け寄りたくなる衝動に駆られる事となるシェイドであったが、そうしてしまった場合に待ち受ける『今後の未来』について考える事で勝手に前へと出ようとする足を無理矢理その場に縫い止める。


 そして、それまで一時的に手放しており、その自重の刃の鋭さによって地面へと突き立っていた『無銘』へと手を掛けて引き抜くと、勝負を締める為に発動体でもある得物へと向けて魔力を流し込んで行くのであった……。




そろそろ終わりが近い、かも?(割りとテケトーな作者)

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