反逆者は魔王と激突する
互いが互いに譲れないモノが在る、と宣言し、戦意を剥き出しにしながら構えを取って見せる事となる。
それにより、必然的に場の空気は熱を帯び、未だに戦闘その物は始まってはいないにも関わらず、まるで触れれば火傷は必須となっているかの様な高まりを見せていた。
そんな空間のど真ん中に在り、かつ自身らの手で事態を作っている二人には、流れからの予想に反して未だに大きな動きを見せる事とはなっていなかった。
「…………さて、こうしてやり合うと決めた訳だが、一応はルールだけ決めておかんか?
そうでないと、互いが互いに死ぬまで殴り合う事になる、とか言う最高に頭の悪い事態を引き起こしかねんからな」
「まぁ、それもそうね。
それで、どうする?取り敢えず、巻き添えにしちゃうのは不本意なのだから、大規模破壊術式だとか、広範囲殲滅術式だとかの類いは使わない、って事で良いかしら?」
「その方が俺としては助かるが……良いのか?
そっちにとっては、ハンディキャップにしかならないんじゃ無いのか?」
「ふふふっ、否定はしないわよ。
…………でも、そうでもしないと、君はかなり辛いんじゃないの?特に、私が無制限での戦闘を解禁、ってなってしまうのは、少し前ならともかくとして今の君では勝ち目は無いんじゃないかしら?違う??」
「…………流石に、バレてたか?」
「まぁ、半分位は状況的な推理から、だけど、流石にそうでも無いと私だって君には全力を出したとしても勝てるかどうかは怪しいもの、ね?
君、今は貯蓄していた魔力が枯渇している状態でしょう?そうでなかったら、多分だけどミズガルド翁がまだ生きていられるとは思えないのよね。
流石に、手加減して遊べる程に、彼は弱くは無いもの」
「…………ただ単に、いたぶって遊んでいただけかも知れんぞ?」
「他の人間なら、その可能性も否定は出来なかっただろうけど、君の場合は必要が在れば話は別だろうけど、その必要が無いのなら殺る時は一思いに殺るでしょう?
余程の外道やクズ相手ならまた話は変わるかも知れないけど、彼に対してそこまでの悪性は見出だしていない様子だったし、それは無さそうだったからね。
でも、だからと言って彼は手を抜いて勝てる程は弱くは無いし、彼の身体をここまで破壊して見せる事は、生半可な事では出来はしないでしょう?なら、証拠としては十分に揃っているかな、とね?」
「…………参ったね、どうも……。
よもや、そこまで見抜かれているとは、ね……」
構えは解かず、警戒も解くことはしないままに、苦々しい笑みを浮かべて見せるシェイド。
その態度は、どんな言葉よりも如実に彼女の言葉が正しく事を認識している、と言う事実を表していた。
…………先のミズガルドオルムとの戦いに於いて、彼が貯蓄魔力の解放を行い、早期に決着を付ける事や全力を以て当たる事を良しとはしなかった理由は、幾つか在った。
戦闘の余波が激しくなり過ぎるが為に、他の者達への被害が出る事を厭ったから。
そもそも、そこまでしてしまえば手加減の類いが出来なくなってしまうので、最悪で無くとも相手を殺してしまう事になるから。
はたまた、ソレをなさずとも降せる相手である、と認識したが為に、使用する必要性を見出ださなかったので使わなかった。
…………そう言った理由も在ったかも知れないし、もしくは無かったかも知れない。
が、一つハッキリしている理由としては、先程サタニシスからも指摘を受けた通りに『貯蓄していた魔力』が枯渇寸前まで来てしまっており、使いたくとも使えない状態となってしまっていた、と言う事だ。
そもそも、『貯蓄魔力』の正体と、彼が時折強敵との戦闘に於いて『貯蓄魔力の解放による爆発的な能力の向上』とは、一体何なのか?
それは、基本的に読む文字の如きモノである、と言えるだろう。
彼は、最初は両親の手によってはその魔力の殆どを封印され、比較的最近になるまでその存在すらも己の内側に在るのだ、と言う事すらも知らずに日々を生きていた。
その為に、生来持ち合わせていた膨大な量の魔力が封印によって行き場を無くして押し付けられ、その上で日々自動生成される魔力によって彼の内部にて圧迫される事となったのだ。
彼が時折魔術モドキとして使用する事も在った(負傷を治そうとしたり、僅かながらに身体能力を強化しようとしたり等々)が、ソレも本人が極々僅かに漏れ出て来ているモノ、と認識出来る程度の量のモノでしか無く、ガス抜きの効果も期待できない程の量でしか無かった。
なので、彼の内部では常時危険なまでの量の魔力が、いつ掛けられた封印を内部から吹き飛ばしてもおかしくは無いだけの圧力を掛けられた状態にて圧縮されていた状態に在ったのだ。
…………そんな膨張力を常に受け続けていれば、否応なしに魔力の許容量は増大するし、内部にて留められる琴となっていた魔力はその存在自体を圧縮・濃厚化させて行く事となり、結果的に異常なまでの密度へと変化させられたそれらは、等量にて通常のソレの数倍の効率にて魔術を行使する事を可能とせしめていた、と言う訳なのだ。
そんな、危険物染みた偶発的に発生したソレを、シェイドは『貯蓄魔力』と称し、必要な時に引き出して自在に運用する事となったのだ。
基本的に、『魔力』と言うモノは等量を同様に扱えば、ソレによって得られる結果もまた等しくなる。
そして、こちらも基本的に『魔術』と言うモノはある程度の許容範囲は在るとは言え、そこまで基本から外れた程に多くの魔力を注いだとしても効果が大きく強くなる、と言う事は無い。注ぎ込んでも効果を発揮する量、と言うモノが汎用術式として編纂された時に定められているのだ。
しかし、そんな魔術であったとしても、同じ術式を行使していても時折桁違いの威力を発揮させる者や、矢鱈と発動効率を良くして回転を早めて行使する事を可能とせしめている者が現れる事が在る。
年齢や性別も異なるそれらの人物は、時に偶然その思考に辿り着き、時に必然としてその発想を得て実行へと移す事に成功した者達だ。
その発想こそが『量を変えられないのならば質を、濃度を変化させれば良いのでは無いか?』だ。
結果は言わずもがな、な事で在り、実を言えば彼が貯蓄魔力を解放して戦闘を行った際に絶大な力を振るえるのも、この現象が根底に在る事でもあったりする。
そんな、偶発的かつ自然と彼が得ることになった高濃度の貯蓄魔力だが、当然の様に使えば使うほどに減って行く事になる。
極端な事を言ってしまえば、使えばその内無くなるモノでは在った、と言う事なのだ。
とは言え、そんな事は本人たるシェイドが一番良く知っていた事。
当然の様に、これまで一日の内に生産された魔力の中で、使用されずにただ単に垂れ流しになるであろう分は自身の内部にて圧縮し、濃度を調整させた状態にてそれまでの様に貯蓄魔力として普段は蓋をしている魔力容量を司る『器』の中へと仕舞い込んではいたのだ。一応は。
…………しかし、ここ最近に於いては何かと使用する機会(使用せざるを得ない機会、とも呼べるが)が多く、かつその機会一度だけでも常人であれば数ヶ月掛けての準備を必要とするであろう大規模術式を乱発する、だなんて事はざらに在った為に、溜め込む速度よりも消費する速度の方が早かった、と言う訳なのだ。
とは言え、だからと言って別段彼が戦えなくなってしまっている、と言う訳では勿論無い。
と言うよりも、一応は『ほぼ』枯渇、と言うだけに過ぎない為に本当に無くなってしまった訳でも無いし、先の戦いでもやっていた通りにその気になれば『蓋』を開いて解放する事だって不可能では無い。
そして、更に言ってしまえば、そうやって『蓋』を開いてさえしてしまえば、そちらに溜めている少量と成り果ててしまっているとは言え圧縮魔力に釣られる形にて彼の魔力を生成する器官もその動きを活発化させ、通常時とは比較にならない程の速度と量にて魔力を生成し始める事になる為に、一概には『無意味』だとも言えないのだ。
…………と、言った具合に、これまでの様に『圧倒的な魔力によって一方的に蹂躙する』と言う手が使えなくなってしまったシェイドであったが、その基本的な戦闘能力に関しては全く以て変化が生じる事は無く、非常に高い域在るままとなっている。
更に言えば、今回の戦いは命こそは架かってはいない…………と思われる(今後の話、をしている以上は殺さずに無力化させるつもりである、ハズ。多分。きっと)為に、多少の無茶やヤンチャの類いをしても最悪死に至る事は無いだろう、との判断も下していた。
故に、会話を終えて『いざ、これから戦闘開始!』と言った心持ちになっていたであろうサタニシスに対してシェイドは、一切の表情や気配の類いを変える事も無く、極々自然に見えるゆったりとした動作にて正眼に構えていた得物の切っ先を地面へと向けると、一足飛びにて彼女への距離を詰めて刃を振り上げる。
地面との摩擦により、只の土塊相手であっても火花を散らす程の速度にて、触れればそれだけで肉を切り裂き骨を断つであろう刃がサタニシスへと迫って行く。
が、ソレに対して彼女も、さも当然そうすると思っていた、と言わんばかりの態度にて魔力を込めた手を掲げ、その刃に向かって自ら振り下ろす事で迎撃する。
「ふふっ!そう来ると思ってた!」
「あぁ、そうかい!
なら、大人しく負けてくれよな!!」
両者の繰り出した攻撃が激突し、周囲へと金属と生身の肉体がぶつかり合ったとは思えない轟音を響かせる中、双方共に獰猛な笑みを浮かべながら次なる攻撃の手を繰り出して行く事により、二人の闘いの幕は落とされる事となるのであった……。
或いは、バカップルによるイチャイチャ喧嘩?(遠い目をしながら吐血する作者)




