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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
終章・反逆者は己が意思を貫き通す

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反逆者は名乗りを挙げた『魔王』と対峙する

 



「………………魔王、だと……?」




 目の前の彼女の口から飛び出した言葉に、思わず間の抜けた返しをしてしまうシェイド。


 その視線は真っ直ぐにサタニシスへと向けて注がれており、受けた驚愕の割りにはぶれる事も逸れる事もされてはおらず、一見する限りでは動揺を抑え込めている様でもあった。



 …………一応、これまで彼女と間近に接してきたシェイドとしては、ある程度の予測は出来ている事柄ではあったのだ。


 言葉の端々に何やら相当に高位の存在である、と言う事を窺わせる台詞が混じっていたり(幹部級であるズィーマの事を気軽に呼び捨てる、内部に人員を潜ませているとは言え貴重なハズの身分証を気軽に発行させられる等々)した為に、最低でも幹部級、もしくはそれ以上、下手をすれば魔王の側近とか、もしくは『次期魔王』とかが外聞を広める経験を積む事も兼ねて派遣されていたりするのだろうか?とは予想していたのだ。



 …………していたのだが、よもや『魔王本人である』との言葉が飛び出るとは、予想できる様なモノでは無い、と言えるだろう。


 更に言えば、あの時ミズガルドオルムとズィーマが言っていた



『今後を考えるのであれば『殺し』だけはしない方が良い』



 と言う言葉を思い出し、今更ながらに納得しながら視線をチラリとサタニシスからずらして、その背後である方向へと向けて行く。



 その視線の先には、彼が自らの手で蹴散らした魔族側の軍勢が地面に横たわる、死屍累々とした光景が広がっていた。


 とは言え、別段そこに広がっているのは『死体の山』と言う訳では勿論無い。ただ単に、気絶していたり行動不能にされてしまっていたりするだけに過ぎない、言わば『負傷者の山』と言うのが正しい呼称である、と言えるだろう。



 当然の様に、この立ち位置となっているのは、偶然では無い。多分だが。


 何せ、突如としてこの場に姿を現したサタニシスだが、シモニワとの会話の途中にて視線を逸らして彼らの位置を確認しつつ、かつミズガルドオルムが横たわる地面の位置まで把握した上での今現在の場所に立っているのだ。



 最初こそ、そちらの山を見て表情を険しくしたサタニシスも、その悉くが重傷ながらも生存している、と言う事を遠目ながらも確認したが為にシモニワとの会話にも応じていた気配が在った為に、問答無用で地面のシミにしなくて良かった、と胸を撫で下ろしたシェイドであったが、この後の対応をどうしたモノだろうか、と内心にて頭を悩ませる事となってしまう。



 …………いや、こうして戦場にて対峙し、かつ意見も主張も立ち位置も違えてしまっている以上、やる事は一つしか無いし、ソレをするのは確定事項である、と言える状態に在るのは理解もしているし納得もしている。


 しかし、そうなっては欲しくは無い、と言うのが、彼女と関係を持ち、その上で人生を共に歩んで行きたい、と願い出たシェイドの正直な感情であった。




「………………まぁ、どのみち可能性の欠片、としては考えていた事なんだから、お前さんがどう言う地位に在るのかは、この際どうでも良い」



「…………いや、私が自ら言い出した事だからこんな事言うのはアレだけど、流石に『どうでも良い』は無いんじゃないの?

 アレよ?割りと衝撃的なカミングアウトだったと思うけど?」



「そこは、ほら。

 今の状況的にはあんまり関係無いし、俺達の関係性云々を言う上だと、余計に関係無い事だろう?」



「…………いや、まぁ、それは、そうと言えばそうなんだけど……」



「だろう?

 だから、関係無い事は一回脇に置いておいて、だな?

 取り敢えず『これから』の事を具体的に話し合おうか?って提案な訳ですよ。えぇ」




 最初こそ、重々しい雰囲気を纏いながら口を開いたシェイドであったが、そこから飛び出した言葉は酷く軽いモノであり、それまで蔓延しつつあった重苦しい空気を半ば無理矢理霧散させてしまう。


 そんな彼の言葉に、大真面目に秘密を暴露して見せたサタニシスは面食らってしまい、思わず『えっ、ソレで良いの?』と言った口調にて言葉を返してしまい、それまで纏っていた『絶対者』としての空気を脱ぎ捨ててしまい、『魔王』では無く普段の『サタニシス』と変わらない状況になってしまう。



 …………故に、と言う訳では無かったのだろうが、つい先程まで殺意をガンガンに差し向け、シェイドからの提言であっても聞き入れる事をせずに魔力による刃にて切り裂こうとし続けていたシモニワから意識が外れる事となってしまう。


 そして、当然の様に、目の前でそんな素振りを取られたのならばシェイドがソレを見逃すハズも無く、視線を向ける事すらせずに、踵を跳ね上げる事で純粋な筋力によって地面に横たわるシモニワを蹴り飛ばし、無理矢理にサタニシスとの間の距離を開かせる事に成功する。



 一瞬、呆気に取られた表情を晒してしまうサタニシス。


 その視線は、地面に倒れたままでありながらも、その手からは得物を離す事はせずに、存在しないサタニシスの隙を探っていたシモニワが、その自慢の一つであったらしい整った顔立ち(本人曰く、故に客観的な意見は控えさせて頂きますby作者)が無惨に鋲が打たれたブーツの踵の形に合わせて凹まされると同時に、鼻血を吹きながら宙を舞って地面を転がされる姿を追跡する事となる。



 その段に至って漸く、自身の手の届く範囲から獲物を奪われる事となってしまった、と言う事に思い至ったらしく、俄にその視線が鋭いモノへと変貌を遂げる事となってしまう。




「………………ねぇ、シェイド君?

 さっきの提案の直後から、その行動ってどう言うつもりなのかな?

 事の次第によっては、流石に君が相手でもお姉さん本気で『お仕置き』しに行く所存なのだけど?ねぇ??」



「落ち着きなされよ。

 別段、喧嘩売ってる訳じゃないんだから」



「ソレ以外に見えないから言っているのだけど?」



「取り敢えず、あのままだとどっちにとっても良くない流れになりそうだったから退かした、ってだけだから、落ち着きなされよ。

 それに、これで俺達の立場は対等になったんだから、話も通し易いだろう?」



「…………立場は、対等……?」



「そう、対等」




 その言葉により、剣呑な雰囲気を幾分か和らげつつも、完全には解除する事にはならずに首を傾げて疑問を抱いている、と示して見せるサタニシス。


 そんな彼女に対してシェイドは、それぞれの背後に在るモノを指差しながら言葉を続けて行く。




「まぁ、立場やら地位やらはこの際持ち出さないとして、今の俺達の状態としては理由は異なったとしても『背後に在る連中を守らなくちゃならない』って事には変わり無い訳だ。違うか?」



「…………成る程、そう言う事ね。

 つまりは、アレでしょう?互いに後ろを守りたいのなら、一層の事今回はこのまま双方ともに退かないか、って言いたいのかな?」



「まぁ、そうなってくれたら、俺としては万々歳な訳なんだがね。

 何せ、そこなじい様との戦闘で、色々と疲れている訳だからな」



「互いに守らなくちゃならないモノは負傷しているからその手当てもしたい、って事も在るのでしょうけど、その実としては別の狙いも在るみたいね?

 そうなると…………今回で約束の『一度だけは守ってやる』ってヤツを消費して、しかも例の『遺物(アーティファクト)』であるネックレスも使用している以上、再度の呼び出しも受ける事は無いのだから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、って宣言と取っても構わないと言う事かしら?」



「まぁ、大方その通りと受け取って貰っても構わないよ。

 ついでに言えば、純粋に俺が消耗している状態だから、あまり今の段階で戦いたくないなぁ、って希望も在るけどね?」



「「「「なっ!?」」」」




 言外に秘めていた彼の考えを付き合いの濃厚さから言い当てて見せたサタニシスと、ソレを特に否定する事すらせずに、補足として言葉を継ぎ足して行くシェイド。


 そうして放たれた言葉により、両者の間にて場の条件が開示される事となったものの、ソレを許容出来なかったらしい面子が驚愕の声を挙げて行く。



 主に、シェイドの背後に庇われている者達が挙げた声であるが、その思惑は割りとバラバラであったりもする。



 ナタリアからすれば、約束の通りに再会出来たは良いものの、既にその隣に自分の居場所は無く、ついでに言えば約束さえ無ければ守る価値も無い、と宣言されてしまった様なモノである。


 その他の面子にしても、今後も対魔族戦力として運用が期待出来る、と見込んでいたレティアシェル王女や、立場の上として自分の部下として組み込んでその絶大な力からもたらされる利益を掠め取るつもりであったシモニワも同様に声を挙げていたし、イザベラやカテジナにしても『どうでも良いモノ』として扱われた事に衝撃を受けてしまっているらしく、そちらも声を挙げていた。



 残るシュワルツ将軍は意識を取り戻して会話を聞き、その上で状況の把握に努めていた様子であった為に、アルカンシェル王国の戦力とはならない、とも取れる宣言に不満そうな雰囲気を醸し出しながも、流石にこの場をどうにか治める事こそが肝要である、と言う事を理解しているらしく、一人だけ沈黙を保ったままとなっていた。



 そんな、やれ国家の為に動くつもりは無いのですか~!?だの、勇者の仲間としての名誉を断るつもりなのか~!?だの、家族なのに幼馴染みなのに見捨てるつもりなのか~!?だのと散々に騒ぎ立て始める彼の背後へとチラリと視線を送ったサタニシスは、それまで組んでいた腕を解きながら、何かしらを思い付いたのか微笑みを浮かべつつシェイドへと向けてとある提案を告げるのであった……。




「…………ねぇ、シェイド君?

 やっぱり、ここは戦って決める方が良いと思うのよ。

 それで、勝った方が総取りする、って言うのはどうかしら?お姉さんとして、大分『良い考え』だと思うのだけど?」





果たして、サタニシスの出した『提案』の真相とは?

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