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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
十一章・反逆者は『龍』と対峙する

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反逆者は生存に安堵し、偽善者は功績に嗤うが……

 



『…………見事、なり……』




 その言葉と共に、ミズガルドオルムの巨体が地面へと向けて崩れ落ちて行く。



 片方の前足は半ばまで断ち斬られ、翼膜もズタズタの状態となって飛ぶこともままならず、胴体には深浅合わせて二つの傷が、クロスする形にて大きく刻まれる事となってしまっていた。


 そんな状態では、永きを生き抜いて来た『龍』であったとしても、魔力が枯渇する寸前まで行ってしまっていては、最低限『生きている』と言う事が出来るギリギリの状態に保つのが精一杯で、外傷を癒す事すらも碌には出来てはいなかった。



 地面へと転がり、周囲へと文字通りの『血の池』を作りながら、ゆっくりと自らの生命を流出させて行くミズガルドオルムを前にして、それまで無意識的に止めていた呼吸を俄に取り戻すシェイド。


 その両足は震え、両手は手にした得物である『無銘』から離す事が出来なくなってしまっているかの様に固く握り締められてしまっているだけでなく、普段は死にかけていたとしても平素と変わらず乱れないハズの呼吸は乱れに乱れ、まるで溺れかけた直後の様な有り様であった。




「…………はぁっ、はぁっ、はぁっ……やべぇ、どうにかなったが、何でどうにかなったのか、皆目見当が付かん……二度と、同じ事を出来る気がしないし、したいとも思えんぞ、これは……!」




 思わず愚痴として溢れる通りに、彼は先の一瞬の記憶が飛んでいた。


 いや、正確に言えば忘れてなんていないのだろうが、それでも極限まで高められた集中は目の前にぶら下げられた『(ミズガルドオルム)を倒す』と言う事柄だけに集約されてしまっていた為に、他の情報が一時的にカットされてしまっている状態となっている、と言う訳なのだ。



 とは言え、ソレもあくまで一時的な話。


 事の直後であり、様々な外的ストレスや戦闘の興奮等が未だに作用している状態である今ならば不可能な事であったとしても、時間を置いて落ち着きを取り戻した状態へと戻れたのであれば、意識して思い出す事も不可能では無いだろう、と思われる。



 しかし、ソレはあくまでも『後の事』であって今では無いし、かつ今の彼の状況にはあまり関係の無い事柄である為に、あまり深く触れる必要性は無いと言えるかも知れないが。



 そんなシェイドは、震える指先を半ば無理矢理握り締め続けていた柄から離して腰から下げている『道具袋(アイテムバッグ)』へと触れると、その中に貯蓄してあったポーションを取り出して行く。


 現在の様に、碌に魔力が使えなくなってしまっている、と言う状態に陥る可能性を考慮して買い求めておいたモノであり、実際に使うとは当時の彼も思ってはいなかったが、備えとはどんなタイミングにて有効となるモノか分からないモノだな、なんてまるで他人事の様に考えながら飲み干して行く。



 苦味とも甘味とも取れない様な微妙な味わいの薬液を飲み下し、ジワジワと負傷が癒されて行く最中、魔力によって治癒する際には無い感覚に眉を潜める彼の背中へと言葉が投げ付けられる事となる。




「シェイド君、大丈夫なの!?

 あんなに強い君が、こんなにボロボロになるだなんて……でも、生きててくれて、本当に良かった……!」




 やけに湿度の高い声色にてそう訴え掛けながら、駆け寄って来る気配が一つ。


 声と口調からして一人に限定出来ていたが、何故そうしているのか、については若干の疑問が在った為に、未だに上手く動かない身体にて追加の魔力ポーション(魔力を定量回復させる水薬)を取り出して飲み下しながら振り返る。



 するとソコには、案の定心配する様な表情を貼り付けながら瞳に涙を湛えたナタリアが、多少よろけながらもこちらへと駆け寄って来る光景が広がっていた。



 不思議に思いながら視線を向けていると、戦闘にて荒れた大地を踏み締めながら駆けてきていたナタリアが至近距離まで到達し、彼の身体を装備の上からペタペタと触り始める。




「ねぇ、本当に大丈夫?

 さっきまであんなに消耗していたし、あれだけ血も流していたのに、もう痛くは無いの?」



「…………あ、あぁ、まぁ、一応は。

 既にポーションは使って外傷は治したし、魔力の補充も今やってる処だから大丈夫と言えば大丈夫だが……何故、ここに?どうやって来たんだ?

 俺が張っておいた結界が在ったハズなんじゃ……?」



「結界?

 それなら、私がこっちに来る寸前位に勝手に消えちゃったわよ?

 てっきり、私達に対する危険が無くなったからシェイド君が解除したモノだとばかり思っていたのだけど、気付いていなかったのかしら?」



「…………なに?そんな馬鹿な事が……って、本当だ。

 術式に、手応えが無い。何時の間に?魔力が切れかけて、無意識的に解除していた、のか……?」



「…………もう、そんな事はどうでも良いから!

 私達の事を守ってくれたのは、約束を果たしてくれたのは、その……私も一人の女の子として嬉しいけど、それでもシェイド君が危険な目に遇ってまで、命を賭ける事になるまでなんて、望んではいないんだからね?」



「…………あ、あぁ……」




 至近距離から、濡れた瞳にてそう訴え掛けてくるナタリアの勢いに、思わずタジタジになってしまうシェイド。


 既にその気は彼には無く、その上で最早『最愛』とと呼ぶに相応しいだけの関係性を持つ相手が居るとは言え、かつては想いを寄せていた異性であり、その上で整った容姿と豊かなラインを描くスタイルの持ち主であるナタリアが、戦闘直後で昂っている事を窺わせる汗の香りを匂い立たせながら間近に迫って来ているのだ。


 同じく、命の危機を紙一重にて回避する事に成功した、未だに若く健康な若者であるシェイドがその甘美な肉の誘惑を前にして、昂りを感じずにいろ、と言うのは些か酷な事である、と言えるだろう。



 とは言え、そんな彼の事情をナタリアが知っているハズも無く、また知っていたとしても気にもしなかった事だろう。


 何せ、辛うじて面に出して取り乱す事はせずに済んでいるものの、先の激突の際に発せられた彼の台詞、愛する女と添い遂げる、と言う言葉をバッチリと耳にしてしまっており、その時に出された名前である『サタニシス』と言う相手がその対象なのだろう、と察しているが為に、半ば形振り構わず彼との関係性を強引にでも推し進めてしまおう、と画策してさえいるのだから、最早『気にしてはいられない』と言うのが正しい処であるのだろうが。



 そんな、そこはかと無く何処かしらに喧嘩を売り付けている様な行動の影に隠れる様にして、地面へと横たわるミズガルドオルムへと近寄って行く影が一つ。


 地面へと力無く横たわり、目蓋も下ろされた上に未だ滝の様に大量の鮮血を垂れ流しにしてしまっているものの、既に絶命し果てた、と言う訳では無く、まだその生命を保ち続けていた。



 持ち前の魔力は殆ど尽きてしまっているとは言え、その生命を維持し、僅かずつとは言え負傷を塞ぎつつ在る身体は未だに生きようと必死になっており、同様に苦痛に苛まれる事となってしまっているが、彼の意識もまだ途絶える様な事態にはなっていなかった。



 であるのならば、自身へと向かって近付いて来る気配が在るのに気付かないハズも無く、重い目蓋を僅かに開いてそちらへと視線を向ける。


 …………とは言え、その気配の持ち主が先程まで自身と素晴らしい死闘を繰り広げてくれていた好敵手(シェイド)では無いのだろう、と言う事は既に察しており、漁夫の利を狙う小悪党独特の狡い気配の持ち主へと向けて殺気混じりの視線を向けて行く。




『…………今更、何用か?出来損ないの、忌み名の継承者よ。

 儂を相手にして、彼の者とは異なり、手も足も出なかった貴様程度が、今更何を成そうと言うつもりか?』



「…………何を、だって?

 そんな事、決まっているじゃないか!お前に止めを刺して、俺の勇者としての名声を高める為の手柄にするのさ!

 残念ながら、王様から預かった軍勢は()()()()()()()()()()失う事になってしまったけど、それでも薄汚い魔族の軍勢も、ソレを率いていた幹部も()()()()()()()()()が全部倒すことに成功したからな!

 しかも、その幹部は『勇者の仲間』では倒しきる事が出来ず、あわや、と言う場面で勇者によって倒される事になった、となれば、どれだけ俺の功績として大きなモノになるのかは、説明しないと理解して貰えないかな?」



『…………ふんっ、下らん。

 所詮は、責を他人へと押し付け、功を他人から掠め取る事しか考えはおらぬ、只の俗物であったか。

 前の、その『勇者』と言う忌み名の最初の持ち主は、色欲に走る愚者であったと聞いておるが、お主はソレ以下の愚物であった様子だのぅ……。

 あの時、割って入られるよりも先に、手心を加える事無く仕留めてしまうべきであったか……』



「ふっ!敗者がグチグチと、情けないぞ?

 既に手も足も出せない状態になっているのだから、破れた自分の運命を呪いながらで良いから、大人しく俺の功績になってくれよ」



『はっ!やれるモノならばやってみよ。

 お主程度、ここまでお膳立てされねば儂に傷一つ付けられぬと言うのに、この首が落とせると抜かすのならばやって見せよ!もっとも、彼の者ならばともかく、お主程度が出来るのであれば、だがな!』



「くたばり損ないが!あまり嘗めた口を叩いてくれるなよ!!」




 ミズガルドオルムからの事実指摘と煽る様な口調に激昂したシモニワが、手にした刃を振りかぶる。



 今は魔力を纏う事すらも出来てはいなかったが、それでもこの程度の力量では自身の鱗すらも碌に突破する事は出来ないだろう、と判断していたミズガルドオルムだが、それでも外傷として残り続けている場所に対して攻撃されれば、流石に『効く』だろう事を予測して、眉間を険しく狭めて行く。


 そんな彼へと、振りかぶられた刃が真っ直ぐに振り下ろされて行き…………










「…………やれやれ、今代の『勇者』とはここまで小物であったとは、私も過大評価していた様子だね。

 さっさと潰してしまう様に、許可を出してしまうべきだったかな?」




 ━━━━ミズガルドオルムの身体へと食い込む事無く、突如として現れた存在によって軽々と受け止められる事となってしまうのであった……。




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― 新着の感想 ―
いやもう良いですよキモ野郎は… 散り際の演出がゴミですね(笑)
[一言] さすがシモニワくん。外道というか、小物ムーヴを期待通りにかましてくれる。この手の自己愛のみの馬鹿って、働きもしない無能どころか、害悪でしかないという評価を敵味方関係なく抱かれるのよなー
[良い点] やっぱり、小物はこうでなくちゃ。 [一言] ここからシモニワが盛大なしっぺ返しを食らうことを期待します(笑)
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