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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
十一章・反逆者は『龍』と対峙する

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反逆者は殲滅龍との激闘を繰り広げる

 



「…………ちっ……!!」




 真っ直ぐに自身へと迫り来る巨大で鋭利な爪を目の当たりにしながら、シェイドは口惜しそうに舌打ちを溢す。


 その視線には苦々しいモノが多大に含まれており、今現在の状況が彼の思惑とは異なったモノとなり始めている、と言う事を如実に語っていた。



 では、何故そんな事態となっているのか?


 彼が思い描いていた展開とは、どの様なモノであったのか?



 それは、目の前で何故か先程よりも猛り、昂っている様子にて魔力を高めているミズガルドオルムが、一旦クールダウンする為にも攻撃の手を止めるだろう、と思っていたのだ。



 …………彼が、ミズガルドオルムの目の前にて実際に展開し、かつその有用性を示して見せた結界術は、ほぼ彼のみが扱える代物である。


 故に、その術式を解析する事は実質的には不可能に近しいモノであり、かつ今見たから、と言っても直ぐには模倣するのはこちらも不可能に近い、と言う状況に在る。



 そうであるのならば、使われた結界術がどの範囲まで対応しており、かつソレを突破するにはどうすれば良いのか、そもそも本当にこれから仕掛けようとしていた攻撃は止められてしまうのか?それとも、案外とあっさり通せてしまうのだろうか?



 そう言った疑問と疑念により思考が自縄自縛状態となり、攻撃の手が出なくなってしまったミズガルドオルムはそのまま攻められるよりは、と言う判断によって一旦攻勢を止めて距離を取って思考の冷却と共に様子を窺う、と予想していたのだ。


 そうなってしまえば、彼の展開可能な結界術の範囲や効果に対して確信が得られていない内に、動揺と混乱が収まっていない内にこちらから攻勢を仕掛けてイニシアティブを握り、場の流れを強制的に手繰り寄せてしまおう、と企んでいたのだが、結果的にはそうなってはくれなかった、と言う訳だ。



 現に、と言う訳では無いが、少し前までのミズガルドオルムの行動には、確かな『迷い』と『動揺』が窺い知れていた。


 であるが故に、その動揺と隙とを上手く突いてやれば、相手も生物である以上は如何様にも転がせるハズだったのだが…………




『ガァァァァァァアアアアアッ!!!!』




 …………のだが、その当のミズガルドオルムの方は僅かに覗かせていた動揺を一瞬にして呑み込んだだけで無く、反応からして彼の結界術の特性をある程度以上は理解した上で即座に『攻めきる』と言う選択肢を選んで見せたのだ。


 おまけに、躊躇って攻撃の手が緩む事こそが事態を悪化させる可能性が高い、と言う事を承知しているらしく、それまでよりもより一層激しい攻勢へと打って出る事を選択してくれていたのだ。



 …………それには、流石に『そうなる可能性』も頭の片隅には考えていたシェイドも、辟易とせざるを得なくなってしまう。



 何せ、全長が百m近い巨体が、一気呵成に攻めきってしまおうか!と言う気合いと気迫によって攻勢に出てくれてしまっているのだ。


 しかも、技術も糞も何も無い、ただ単に力押しで暴れまわっているだけ、と言うだけならば未だしも、自身の隙を潰して反撃させず、その上で確かな技術に裏打ちされた緻密な計算の上に在る攻撃を連続して繰り出してくれているのだ。



 今の処はどうにか攻撃が見えている為に凌げているし、時折反撃を挟む事すらも出来てはいるが、だからと言って何時までもその状態が続くとは、シェイドにはとてもでは無いが思えてはいなかった。


 現に、結界を展開しなくてはならない場面が徐々にではあるものの増え始めているし、攻撃自体も少しずつ見切れなくなり始めてしまっている様に彼には感じられていた。



 しかも、最初の方にて使われた『攻撃だけ空間転移させる』と言った術式や『竜』最大の攻撃手段である『吐息』に加え、人型には存在しない長大な尾と言った器官すらも碌に使われずに執拗に爪撃によってのみ攻撃を続けられている事もあり、嫌な予感、と言うモノが常に彼の背筋を刺激する様になってしまっていた。


 それもあって、シェイドの方としても、迂闊に攻勢に打って出る、と言う事が出来ずにいたのだ。



 …………この、彼にとっては嫌な情勢として膠着してしまった場をひっくり返す方法は、無い訳では無い。


 シェイドが常日頃から貯蓄し、蓋をして己の内側に仕舞い込んでしまっている魔力を解放してやれば、自ずとこの場を力業にて押しきって勝利しきる事は可能となるだろう。



 だが、彼はこの場に於いて、その選択肢を選ぶ事は()()()()()()()と言えるだろう。


 何を今更、さっさと使ってしまえ、と思われるかも知れないが、やはりソコには彼なりの事情が、それなりの理由と言うモノが存在している。別段、目の前の巨龍の事を侮っている、だなんて事は有り得ないが、それでも使()()()()()()()()()のだ。



 とは言え、ここで諦めてむざむざと殺されてしまう事も、また一応とは言え一度約束として交わした事柄を反故にする事も彼なりの『流儀』に反する為に、絶対にそうなってはやれない。


 …………それに、もし万が一そうなってしまった場合、彼は漸く結ばれた愛しい相手(サタニシス)を悲しませる事になってしまう。



 やっと手にした、己を愛し、愛されてくれる相手を喪う事になってしまう。



 …………そんな事、決して受け入れられるハズが無い。


 そんなモノ、絶対に受け入れて良いハズが無い。



 かつて、一度はこの手に在ったと思っていたモノ。


 されども、ソレは幻想であり、実際には一度も手に握った事は無かったモノ。



 ソレを手にしてしまった以上、ソレを喪う事になる可能性を、彼は決して許容しない。


 例えそれがどれだけ強大な相手を前にしているとしても、例えそれが自身の力を大きく制限されているとしても、結果には一切の関係無く、である。



 故に、一人覚悟を決めたシェイドは、それまで抑えていた魔力を解放し、ひたすらに高めて行く。


 それまで頑なに閉ざし、一瞬のみ解放する、と言う手段にて節約している貯蓄魔力では無く、常時彼の身体が生み出し、何事も成していなければ消費される事無く身体から溢れ出して行くしか無い、そんな分を解き放って見せたのだ。



 それにより、彼が放つ魔力圧が短時間にて数倍近くにまで膨れ上がる事となり、思わず相対しているミズガルドオルムも更なる驚愕から目を見開き、僅かに、とは言え彼を攻め立てていた攻撃の手が緩み、至極微かなモノでしか無いとは言え、繰り出される攻撃が遅れる事となってしまう。


 通常であれば、そんな『隙』とも言えない様な僅かな時間の遅延等に反応を返す事すらも出来ないのだろうが、半ば意図して行った事とは言え、そうして産み出された隙を見逃すシェイドでは無く、当然の様に反撃を仕掛けて行く。



 繰り出された爪を、半ば無理矢理魔力によって強化した身体能力によって弾き、強制的に攻撃を途絶えさせる。


 それに次いで、弾かれたミズガルドオルムの腕が戻されるよりも先に大きく踏み込み、こちらも魔力を込めて威力を増大させた刃を振りかぶり、勢いを着けてミズガルドオルムの胴体へと目掛けて振り下ろす!



 それらの動作を、僅か一秒にも満たない時間にて実行して見せたシェイドの戦闘能力は『異常』の一言であろうが、ソレに対して見事に反応して見せるミズガルドオルムも、やはり『異常』と呼ぶべきモノであったのだろう。


 とは言え、流石に完全に体勢を整えた上での迎撃、とは行かなかったらしく、どうにか弾かれなかった方の腕を攻撃の軌跡に割り込ませる、と言うのが精一杯であった様子。



 もっとも、強固な鱗に覆われた上に、頑強な骨格を分厚く柔軟な筋肉にて包まれた、まさに大木を思わせる程の太さすらも兼ね揃えた腕を差し込まれたのだ。


 更にその上から魔力による防備も加わっている為に、通常であれば、そこに如何なる攻撃を加えたとしても鱗の表面に傷を付けるのが精々であり、その下の肉を切り裂き、骨を断つ事は不可能である為に、防御手段としては『極上の一手』に近しいモノである、と言えただろう。



 しかし、そうして防ごうとしている攻撃の放ち手はシェイド。


 しかも、当代の『名工(マスタースミス)』と名高いギルレインが手掛け、独自の仕掛けによって極限まで魔力の伝導率を上昇させられている逸品による攻撃は、その鱗による防御を貫き、肉を絶ち、骨を切り裂いて行く。




『ガァァァァァァアアアアアッ!?!?』




 半ばは覚悟していた事とは言えど、よもやそこまでは行くまい、と思っていただけに流石のミズガルドオルムも予想外にもたらされた激痛に、苦痛に満ちた咆哮を周囲へと響き渡らせる事となってしまう。


 が、そうなっていたとしても最早知った事か!と言わんばかりの様子にて、より深く、より強く、より心臓()の近くへと手にした刃の切っ先を届かせんとして、シェイドは刃をミズガルドオルムの体内目掛けて進ませて行く。



 巨木の様なミズガルドオルムの前足を半ばまで絶ち斬る形にて刃を振り抜いたシェイドは、その勢いのままにその奥へと控える胴体部分へと目掛けて刃を進めようとする。



 以前戦った『竜』の様な四つ足の状態の個体とは異なり、ミズガルドオルムは後ろ足にて立ち上がっている姿勢であるが為に、胴体が高い位置に存在している。


 その為に、防御を潜り抜けたとしても、どうにかして『刃が届く』状況を作らなくてはならない、と言うのが現状であった為に、彼の思考に一拍の空白と、得物に通している魔力を斬撃として飛ばすモノへと切り替える為に、呼吸一つ分の動作の空白が出来てしまう。



 本来ならば、隙とも呼べない程に、極々僅かで微かな時間。


 たった、瞬き一つするのにも足らない様な時間にて、極一瞬のみ動作の止まった彼の腹部へと、唐突に襲来したミズガルドオルムの尾が突き立ち、その勢いのままに彼の身体を後方へと吹き飛ばして行く。




「がふっ!?」




 流石に、完全に意識の外側に置かれていたモノによる予想外の角度からの奇襲には対応しきれなかったらしく、その口許から再び鮮血と共に苦痛に満ちた呻き声を漏らしながら、勢い良く吹き飛ばされてしまうシェイド。


 が、そうして吹き飛ばされながらも、手にした『無銘』へと注いでいた魔力の質を、近距離にて斬り合いをする為のモノから飛ばして斬り付けるモノへの変換を終えていた為に、空中にて身体を捻って狙いを付けると、即座に飛ばしてミズガルドオルムの胴体部分へと目掛けて攻撃を行う。



 それにより、纏っていた魔力障壁を意図も容易く切り裂かれ、その下に在った鱗の鎧も紙切れの様に切り裂かれたミズガルドオルムは、その身体に斜めに走る形にて大きな裂傷を負う羽目になってしまったのであった……。




再び痛み分け


されど、結果は……?

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