反逆者は殲滅龍と痛み分ける
シェイドとミズガルドオルムの両者の攻撃が激突し、相互に干渉しあった魔力が『暴発』と言う形にて周囲へと炸裂する。
それにより、両者共に間近にて魔力の暴風を直に受ける事となってしまい、勢い良くその場から弾き飛ばされて地面へと轟音と共に揃って叩き付けられる事となってしまう。
『がぁぁぁあああっ!?』
「ぐっ!?」
流石に、至近距離にて魔力の炸裂が直撃した上で、それなりの高度から一気に地面へと叩き付けられる事となってしまった為に、少なくは無いダメージを負った様子の二人。
その証拠、と言うのは少々アレだが、両者共に滅多な事では漏らす事も無い苦鳴を漏らし、周囲へと響き渡らせていた。
ソレには、戦闘に参加していなかった(出来ていなかった)面子の方こそが驚愕し、動揺している風にすら見えてしまっていた。
とは言え、それもそのハズ、と言うモノ。
何せ、シェイドにしろミズガルドオルムにしろ、彼らを『見ている側』であるナタリア達やズィーマからしてみれば、自分達よりも遥かに上の実力を持つ存在である。
そして、その力を以てして、かつて自分達の目の前で幾多の困難を打倒し、踏破し、蹂躙して見せて来た存在なのだ。
当然、その際にも負傷をした場面を目にした事は在っただろうし、そうなれば少なくは無い量の流血が在った事は想像に難くはない。
…………だが、それも激闘の末相手を下しながら、と言う条件が付いての事だ。
今回の様に、相手を打倒できていない、と言うだけでなく、周囲へと響く程の苦鳴を抑える事すら出来なくなってしまう程の、深刻なダメージをその身に受ける事となってしまった、なんて事は、一度たりとも目にした事は無かったのだ。
その為に、この場に於いて精神的にも肉体的にも未だに未熟な域を出られていないナタリア達は当然の反応としても、既に百戦錬磨の手練れであり、本人も単独での潜入工作や暗殺等を日常的に行う猛者であるズィーマも、魔王軍最強の存在であったミズガルドオルムのそんな姿を目の当たりにしてしまい、思わず動揺を隠せなくなってしまっていた、と言う訳だ。
そうして、周囲の反応は置いておくとしても、結果だけを見るのであれば『痛み分け』と言えなくは無いであろう状況へとなっているシェイドとミズガルドオルムの両名であるが、どちらが『より大きなダメージを受けているのか』は火を見るよりも明らかなモノとなっていた。
とは言え、それも当然の事。
何せ、互いに自身の身体を魔力で覆い、意図的に頑強さを上げていたとしても、どちらの方がより大きく、強靭な肉体を所持していて、同規模の爆裂を至近距離から浴びた場合はどう言う末路を辿る事になるのか、を鑑みれば、自ずと答えは出てしまう事だろう。
しかし、そうであったとしても、流石はシェイド、と言うべきなのか、彼は足を震わせながらもその場に立ち上がる。
得物として手にしている『無銘』を杖とする事も無く、ほぼ意地と根性によってその場に立ち上がって見せる事に成功していたが、そうして弱味を見せる事が無かった代償として大量に吐血する事になってしまっていた。
足元を真っ赤に染め上げる大量の吐血に、元々足を震わせていたシェイドはそのまま倒れ込んでしまいそうになるが、立ち上がった時と同じく意地で倒れる事を良しとはせずに、無理矢理萎えそうになっている足を奮い立たせて無理矢理立ち続けて行く。
そんな彼へと、頭上から滝の様な鮮血と共に重厚な言葉が投げ掛けられた。
『…………やれやれ。
儂も相当な状態であるが、お主は儂以上に酷い状態であるのぉ。
よもや、生きている方が不思議な程であろう?であれば、何故まだ立つ?お主には、それ程の理由は在るまいよ?』
「………はっ、抜かせ……。
あんただって、平気そう、にしてるが……その実としては、かなり、キツい……んだ、ろ……?
何せ、あんたは……俺とは受けてるダメージの、種類も質も、違う……んだから、な……!」
『かかかっ!
まぁ、それは否定はせぬよ。流石に、な。
よもや、儂ともあろう者が、触れられもせずに心の臓を破壊されるとは思わなんだわ。
半ば無理矢理繋ぎ止めたとは言え、あの時は流石に意識が飛びかけたぞ?』
「…………ちっ!
あの、最初の交差の時に……そのまま落ちてくれていりゃ、俺も……こんな苦労、しなくても良かったのに、よぉ……。
もっとも、あの時に……同様に、俺の肋も、折って……くれやがったよな?」
『はて、何のことかのぉ?
儂はただ、軽く掠めただけに過ぎぬハズであるのじゃがのぅ?
その程度で骨がへし折れる様であれば、余程鍛え方が足りぬのか、それか極端に貧弱である、と言う何よりの証拠であろうよ』
「…………ちっ!
憎たらしい、上に、わざとらしいセリフだな……!喰えない爺、だ……!」
『かかかっ!
そう言うお主こそ、そうやって痛がる『ふり』をするのはもう良いのだぞ?
如何なる手段を講じたのかは定かでは無いが、既に大方は治っておるのであろう?よもや、只の人間であるハズのお主が、儂ら『竜』並みの修復機能を持っておるのは、些か信じられぬ心持ちであるがな』
「…………なんだ、気付いてやがったか。
油断して手を抜いたり、わざわざ近付いて来る様だったらそのまま首の一つでも落としてやろうか、と狙ってたって言うのに、台無しじゃねぇか」
『おお、怖い恐い。
冗談の類いでは無く、実行するに躊躇いが無く、その上で実行不可能な事でも無い、と言うのが最も恐ろしいものよ』
ミズガルドオルムに指摘された途端に、それまで震わせていた足を使って確りと立ち、口元に残っていた吐血の跡を拭って見せるシェイド。
どうやら、本格的に指摘された為にこれ以上はぐらかすのも誤魔化すのも意味も価値も無い、と判断した様子であったが、そのあまりにも華麗かつ切り替えの早い転身に、それまで彼の無事を案ずる様な視線や声を挙げていたナタリアは当然として、本来敵であるハズのズィーマですらも目を丸くする事となってしまっていた。
それもそのハズ。
何せ、ほんの寸前まで彼は本当に死にかけている様にしか見えていなかったし、その外見に相応しく魔力も弱々しいモノとなっていた。
少なくとも、この場に居て彼の事を視界に納めていた者達からすれば、彼は大きく傷付き、非常に弱った状態となっていたハズなのだ。
処が、そのハズであったシェイドが、特に何かしらの魔術を行使した訳でも、何かしらのポーションの類いを使った訳でも無しに、途端に回復して復活している様子を見せて来たのだ。
であるのならば、ソレを目の当たりにした彼ら彼女らが驚愕から呆然とする事となるのは、そこまで不可思議な事でも無いだろう。
とは言え、やった本人からすれば、特別な事をした、と言う訳でも無い。
ただ単に、普段からして溢れ出そうになる魔力を溜め込み、不用意に外部へと漏れ出ない様に閉ざしている蓋を、本の僅かにだけ弛め、ソコから溢れた魔力を用いて自身の身体を賦活化させて負傷を治癒させた、と言うだけの話でしか無いのだから。
もっとも、ソレを成せるのはシェイド並みの圧倒的なまでの魔力量の持ち主であるか、もしくはミズガルドオルムも言っていた通りに『竜』の様な規格外の存在でしかそんな事を易々とやってのけるだなんて事は不可能であるのだが、そこを気にかけろ、と彼に言う方が『今更』と言うモノだろう。
それに、彼の行為の異常性を指摘するのであれば、寧ろソレを所見にて見事に見抜いてみせたミズガルドオルムの慧眼と見通しこそ慴れるべきモノである、と言えるハズだ。
何せ、一切のヒントすらも無く、わざわざ普段の様に分かり易く周囲へと魔力を放って見せていた訳では無く、体内にて隠す様にひっそりと蓋を弛め、身体を修復するにも目立つ外傷は後回しにして内部の損傷を優先して修復し、徹底して『隠す』方向にて舵を切っていたシェイドの企みを一目で看破してみせたのだ。
更に言えば、さらりと彼によって心臓を既に破壊されている事や、既にソレは修復し終えている、と言う事まで口にしているのだから、その観察眼こそが異常である、と言っても良いハズだ。
そんな両名は、互いに表面上は笑みを口元へと浮かべて半月へと歪めながらも、笑っていない瞳を相手へと差し向けて行く。
その視線は、相手の言っていた事が本当に事実であるのか、そうでないのか。
本当だとしたら、何処までが本当なのか?
先程の攻撃による消耗は、ダメージは何処まで残されているのか?
そう言った事柄を冷徹に見抜き、自身と相手のどちらがより優位に在るのか、どう言った差異が残されており、ソレを如何にも利用すれば相手を下す事が出来るようになるのか、を冷徹に計算していた。
彼らが互いに自身の外傷をわざとらしく残しているのは、恐らくはその辺りの計算と見立てを狂わせる為のモノなのだろうが、端から見ている限りでは『互いに滝の様に鮮血を流しながら笑みを浮かべている』と言う状態に在る為に、言ってしまえば非常に狂気を感じる見た目と成り果ててしまっている。
が、当の本人達はそんな事を気にする素振りすらも見せず、見た目は狂気を大量に孕んだ状態のままで再び激突を開始するのであった……。
治せるのに治さず、血塗れのままで再び殴り合う
う~ん、クレイジー(他人事)




