反逆者は殲滅龍と激突する
『…………ほぅ?何故、分かった?』
自らの奇襲を防がれつつ、その上で反撃の刃までもを飛ばされたミズガルドオルムは、目前へと迫りつつあった魔力の刃を掲げていた自らの爪にて受け止めると、僅かな時間拮抗させながらも打ち払う事に成功してしまう。
その間にシェイドへと向けられた言葉には、何故か喜悦の色合いが滲み出ている様に感じられた。
「あん?そんなモノ、決まってるだろう?
あんたが最初から最後まで、俺に対して殺気を向け続けていた事と、そいつらから意識を外していなかったからだよ。当然だろうがよ?」
質問に対して質問で返されたシェイドは、些か口調が乱暴なモノになりながらも、ソレに対して返答しつつ直近まで自らの背後にて庇う形で佇んでいた、今も結界の残る場所を指差して見せる。
「あんたが俺に隠そうともせず殺気を向け続けていたって事は、要するに『何時でも仕掛けられるから防いで見せろ』って挑発だろう?
それに、気配と手応えで分かってたからな?あんたら、特にズィーマの方が結界をどうにかしてあいつら皆殺しにしちまおうとしていた、だなんて事は」
「…………よもや、気取られていたとは、な……」
彼の指摘を受けた事もあってか、滲み出す様にして結界の側からズィーマが姿を現して来る。
その両手には得物が握られており、かつ彼が姿を現した近辺の結界から『攻撃を受けている』との反応をシェイドが受け取っていた事からも、彼がこの場に於ける最優先事項かつ最も実現可能な公算の高かった行動である『守護対象の抹殺』に出ていたのだろう、と言う事を容易に察する事が出来る状態となっていた。
ミズガルドオルムは気が抜けたであろうタイミングを見計らっての奇襲を行い、ズィーマは彼がこれ以上ここに留まる理由を消すために暗殺を慣行しようとしていた。
言葉として状況を纏めてしまえばその程度であるが、ソコには確固たる敵対の意思が込められていることが容易に判定する事が出来てしまっていたのだった。
「…………まぁ、向こうの連中もどうせあんたらが仕向けた仕込みの一部なんだろうし、聞かなくても状況を見れば『どんなつもりだったのか』だなんて一目瞭然だが、取り敢えず聞いておくとしようか。
なんで、そんな事してくれやがるんだ?お陰で、無駄になってくれたら良いな、と思って張ってた闇属性魔力マシマシで空間干渉の類いを受け付けない様にしておいた結界が、モノの見事に役立っちまったじゃねぇか」
「…………成る程、道理で問答無用で解体する事も、内部へと空間転移する事も叶わなかったと言う訳か……」
「そう言う事だ。残念だったな。
それと、そっちのじいさんは、無駄に長い首傾げて無いで、早い処答えて貰っても良いか?」
『…………まぁ、答えるのは構わぬよ。何せ、儂にとってはそうするのが至極当然の事であったと言うだけの話であるが故な。命のやり取りの可能性が隣り合わせとなる戦いに於いて、卑怯も反則も何も無かろうよ?』
「あ?当然だろう?
相手に勝って生き残る。その為に全力を尽くし、打てる手は全て打ち、使える手は全て使う。ソレの何が悪いんだ?
寧ろ、そうなった際に卑怯だの卑劣だの何だのと宣ってくれやがる阿呆の方こそが、戦場を舐め腐ってくれやがっている、って事だろうよ」
『ほぅ!?お主、中々見処がありそうではないかのぅ!
そも、戦場はどの様なお題目にて飾り立てようと、結局の処は只の命のやり取り、殺し合いこそが本質よ。ソコに、卑怯も汚いも何も無い。在るのは、ただただ純粋な生存闘争のみよ。
最近の者は、魔族であってもその辺を理解しておらぬ者が多くての。お主、中々見込みが在りそうでは無いか!
…………処で、お主先程は何故儂の攻撃に気付けた?小手調べとは言え、早々感付かれる様な手緩い事はしておらぬつもりなのだがな?』
「そんなもの、決まってるだろう?
答えは一つ、最初から警戒していたから、だよ」
『なんと!?最初から、とな!?
そうやって気取られる様な素振りは、一応は見せていなかったハズなのだがのぅ?』
「そりゃ、素振りは、な。素振りだけは。
だが、その代わりに殺気は駄々漏れだったぞ?あれじゃあ、如何にも『何処かで仕掛けるつもりです!』って宣言している様なモノだろうがよ?
最初は、戦う相手として見られているからか?とも思っていたが、その割には俺が魔族側の軍勢に対しての対処に動いた際にもそれが薄れる事は無かったからな。だから、何かしら仕掛けてくるだろう、と当たりを付けていたんだよ。
なら、警戒しない理由は無いし、警戒していたのなら反応できて当然だし、反撃できても不思議は無い。だろう?」
『かかかっ!ソレは然り、それこそが然りよな!
昔の、彼の忌み名の紀元となりおった輩めは、その辺りは弁えておる様子ではあったが、あやつめには戦いに矜持は無く、ただただ殺す為に戦い、奪う為に嬲っておるような外道であった。
その点、お主は躊躇いが無い。迷いが無い。しかして定めし『終わり』が在る。故に揺らがない。故に、強者たりうる!』
「…………はっ!そうやって褒められるのは有難い限りだが、だったら少しは攻撃の手を休めてから言って欲しかったモノなんだがな!」
幾度目かも分からない程に重ねられた、ミズガルドオルムの攻撃を弾き返しながらシェイドも言葉を返して行く。
会話の最中であったにも関わらず、本当に『唐突』と言う他に無い程に急に開かれる事となった両者の間の戦端は、シェイドが会話を打ちきった今に至るまで変わらぬ形で続けられていた。
互いが互いに、例えどんな手段に出られたとしても、ソレはあくまでも『使える手段を使っただけ』に過ぎない、と言う認識である為に、端から見ている限りでは実に熾烈かつ、卑劣極まりない戦いが繰り広げられて行く事となっている。
お互い距離を離したままでの魔術・魔法戦を展開しているものの、時にシェイドがミズガルドオルムの眼前にて目眩ましの魔術を炸裂させて目潰しを仕掛けつつ本命の攻撃を足元へと放ったかと思えば、ソレに対してミズガルドオルムも魔力を込めた咆哮を全方位に放って無理矢理魔術を無効化しつつ、上手い具合に翼で死角を作った上で闇属性の魔法による空間接続を行い、シェイドの背中へと目掛けて爪による攻撃を慣行する。
当然の様に魔力の動きと不自然な体勢からその攻撃を察知していたシェイドが、放たれた攻撃を防ぐ事はせず、逆に前へと駆け出す事で移動と回避を同時に行って見せれば、今度はミズガルドオルムの方が小粒な魔法の連射によってシェイドの足止めと目眩ましを同時に行いつつ、その場で回転して強固な鱗に覆われた尻尾にて周囲ごと彼の事を薙ぎ払おうと試みる。
が、それも察知したシェイドが短距離とは言え空間転移を即座に行いその場から脱出し、直後にがら空きとなっていたミズガルドオルムの背後に姿を現すと手にしていた『無銘』を魔力を流した状態にて振り下ろす!
しかし、ミズガルドオルムの方もシェイドの動きを察知していたらしく、彼が行った様に短距離転移を行う事で攻撃を回避し、更に彼の背後へと跳ぶ事で無防備な彼の背中へと目掛けて振りかぶった爪へと魔力を込めて振り抜き返す。
流石に、そこまでは今の段階では対応しきる事が彼にも出来なかったらしく、珍しく驚いた様な表情を浮かべながら急いで空中にて振り返ると、手にしている刃にて振り下ろされようとしていた爪の一撃を、【重力魔術】と闇属性魔術の合わせ技によって空中に確固たる足場を作り出して位置を固定し、高めた身体能力によって受け止めた。
と同時に、一瞬だけ離した左手をミズガルドオルムへと掲げる様に差し出すと、即座に何かしらを握り潰す様な動作を取って見せる。
すると、一瞬だけミズガルドオルムの表情が苦し気に歪み、シェイドへと目掛けて攻撃している方とは逆の手にて胸を押さえる動作をするも、その次の瞬間にはそれまでよりも力を漲らせた表情へと一変させながら、受け止められていた爪を彼が立てた刃によって削られつつも無理矢理振り抜くと、その巨大な顎を大きく開いて長く鋭い牙を剥き出しにし、口の端から鮮血を溢しつつも、翼によって加速しながら彼を噛み砕こうと一気に距離を詰めて迫る!
それに対してシェイドも、無理矢理に振り抜かれた爪撃によって常時展開していた結界を切り裂かれ、鎧越しとは言え受けた打撃によって口の端から流れ出た血を拭い取りながらも、その口元に獰猛な笑みを浮かべつつも、自らを喰らわんと迫って来ているミズガルドオルムへと向けて、自身の背後に巨大な魔法陣を展開し急速に魔力を充填しその照準を合わせて行く。
片や、自らの巨大な身体、と言う何よりも魔力が込められた大質量高硬度な砲弾による攻撃と、自身が最も自信を持っている顎と牙による絶死の連撃を、防御を捨て、命を捨てて確実に相手へと叩き込まんとして。
片や、そうして向けられている勢いを殺し、その上で半ば特攻染みている攻撃を慣行しようと試みている巨体を押し留めるべく、ソレに見合っただけの、本来ならば個人で行使して良い代物では無い大規模術式を展開し、何やら知っているらしい『老人』を止めた上で勝利する為に。
互いが互いに持つ必殺に近い威力を持つ攻撃を、互いに一歩も引くこと無く、確実を期して同時に相手へと叩き込んで行くのであった……。
本編に全く関係の無い私事ですが、この時期になって漸く『4』に手を出しました
個人的にファンな会社が新作を出す事が決まったので、その予習目的で過去作からやっているのですが……まさか初遭遇するボス(倒す事は必須では無い)を撃破するのに一日掛かるとは思って無かったぜぃ……
でも、難易度調整バグってるクソゲー、では無く、超ムズいけどちゃんとクリア出来る高難易度ゲー、なので超面白いですけど(^^)(ヤーナムは、良いぞぉ~?皆も、狩人になってバンバン輸血しようぜぇ~?)




