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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
十章・偽りの勇者は魔王軍との決戦に挑む

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偽善者は『勇者』として魔族の軍勢と相対する

この章は『勇者パーティー(笑)』達サイドの視点で進んで行きます

 


 ━━━━暫し時は戻り、シェイドとサタニシスが結ばれた翌日の早朝こそが『現在』と呼ばれていた頃。



 特に名前も無い二つの国の境目に在る広大な草原にて、二つの軍勢が顔を突き合わせて睨み合いを続ける事となっていた。



 片方は、その殆どが只人族で構成された軍勢であり、その数は少なくとも数千の単位で構成されており、下手をすれば一万にも届こうか、と言う程の大軍勢となっていた。


 軍としての練度も高いらしく、未だに早朝と呼べる時間帯であるにも関わらず欠伸を溢す様子も見受けられず、揃いの装備を朝日にて煌めかせながら一糸乱れぬ様子にて隊列を組み、維持し続けていた。



 翻ってもう片方の軍勢の特徴を挙げるとすれば、構成している者達の外見は基本的にバラバラであり、とてもでは無いが単一の種族であるとは言えない上に、装備も不揃いで統一されているモノと言えば、外見の上で『必ず何処かは紫色をしている』事と『角か翼が生えている』と言う程度のモノであり、それらを除けば、相対している相手と比べると非常に少数である、と言えるだろう。


 何せ、陣として大きく展開はしているものの、その間隔は疎らである上に、軍規もハッキリと統一されてはいないらしく小競り合いも度々引き起こされている様子であり、多く見積もったとしても千には届かないであろう、と言う程度の、士気も練度も低い小軍勢である、と見受ける事が出来てしまっていた。



 …………そんな、戦闘が始まる前から勝負が見えている様な二つの軍勢であったが、意外な事に『脅え』や『戸惑い』『不安』と言った感情を見せ、精神的な揺らぎが大きいのは前者である大軍勢の方であった。




 それは、何故か?




 言ってしまえば、理由は幾つでも挙げる事は出来る。



 軍勢が、未だに『国土を犯された』と言う訳でも無いアルカンシェル王国の兵士達によるモノだから。


 日々訓練に勤しんでいた、とは言え実際に命のやり取りを、魔物相手では無く仮にも『人』と同じ様な姿形をしている存在相手にしなくてはならない忌避感。


 こちらの軍勢には、特級の戦力がそこまで多いとは言えないのに、相手の軍勢を構成する『魔族』はどれも一騎当千の力を持っている、と言う噂話。



 それら全てが理由である、とも言えるのだが、最たるモノとしてはやはりこれらがそうであろう。




『相手方は既に一国を堕としている程強大な軍勢であるのに、この戦力でソレを打ち砕けるのか?』



『今回の総大将は将軍では無く、以前に魔族と戦って負けた『勇者』が就いているのに、こちらは勝つことが出来るのか?』




 前者のソレは、相対している相手陣営たる魔族の軍勢が、圧倒的な少数であるハズなのにも関わらず、その士気が挫けていないと言う事は、この兵数差を覆せるだけの策が在るのか、それともそもそも気にする必要すら無い程に戦力に差が在るのか。


 そんな計算が出来てしまう程度には教育を受けられている者が多く所属している事もあり、軍の方々にてその様な憶測や予想が呟かれる事で、全体を不安が覆ってしまっている、と言う訳だ。



 そして、後者に関しては……正直に言えば先に出てきた『教育を~』云々を抜きにしたとしても、人々に対して不安を抱かせる程に先行していた『勇者』シモニワの悪評が原因である、と言えるだろう。


 最近については、比較的魔物討伐に関しても積極的に行動する様になっており、戦力的な面では特級戦力、とまでは行かないまでも、その手前程度には至っているだろう、と言う認識は持たれる様にはなっていた。



 …………だが、今回問題となっているのは、そうなる前のシモニワの評判、である。



 曰く、偉そうな態度を取るのみで、実際に戦う様な事はしない。


 曰く、自身の『勇者』としての実力を誇りはするが、ソレを目にした者はいない。


 曰く、自身の欠点を指摘される事を何より厭い、ソレを為した相手は決して許さない。


 曰く、気に入らない者からの指摘は、ソレが如何なるモノであったとしても、自身の耳に入れる事は決してしない。



 …………良く言えば、未だに若さに溢れる、とも取れるが、そうでなければ、ただ単に周囲に気を掛ける事をしない傍若無人な存在である、としか受け取る事が出来ない様な、そんな評判だ。



 その内の幾つかは、既に『勇者』として力を振るい、魔物を薙ぎ倒す事で払拭はしている。しきれている、とは言い難いが、取り敢えず否定する根拠としては、与える事が出来ていた。



 ……が、ソレ以外の部分。彼の人格を評価する様な部分の評判に関して言えば、特にそれまでのモノを覆せる様なモノは発せられておらず、寧ろそれまでのモノを肯定するか、もしくは助長させる様なモノが多く在った。



 ソレも手伝い、個人での戦闘技量ならばともかくとして、軍勢を率いての采配は完全に素人であるハズのシモニワに任せられている事と、評判がその通りのモノであるのならば、いざと言う時には将軍を頼りにする、と言う事が出来ないかも知れない、と言う不安が、彼らの士気を著しく低下させてしまっていたのだ。



 そんな彼らの不安を欠片も察知する事無く、彼らが敷いている陣の奥に聳える丘から互いの陣を眺め下ろしていた当の本人であるシモニワは、彼我の陣営の兵数の差を目の当たりにして、満足そうな笑みを高らかに響かせていた。




「ははははっ!

 なんだ、なんだ!ここまで、戦力に圧倒的な差があるだなんて、思って無かったぞ!

 これなら、俺達が出てくる必要は無かったんじゃないのか?なぁ、皆もそう思うだろう?」




 状況が見えているのかそうでないのか、定かでは無い台詞を笑い声と共に吐き出して見せたシモニワは、それまで見下ろしていた二つの軍勢から視線を逸らすと、自身の言葉を投げ掛けていた対象達が居る背後へと振り返る。


 するとそこには、案の定『勇者パーティー』として世間的にも認知されているメンバー四人が、それぞれ戦装束に身を包んだ上代にて佇んでいた。



 しかし、ソコから彼へと向けて放たれる返答は、一つたりとて存在していなかった。


 寧ろ、折り畳み式の机へと広げられた地図を囲んで額を突き合わせ、様々な駒や地形の情報を書き込んで軍議を行っていた面々からは、完璧に鬱陶しいモノを見る様な視線を向けられる事となってしまっていたのだ。




「…………取り敢えず、そこで状況を呑み込めていないのにふざけた事を抜かしてくれている阿呆は放って置くとして、今の処の最大の懸念点はやはり敵戦力が把握できていない事、かしら?」



「…………やはり、そうなるかと愚考致します。

 殿下の仰る通りに、先のクロスロード戦役の直後から頻繁に諜報の為の人員を放っておりますが、基本的なモノ以外は持ち帰る事が出来ておりません。

 やはり、例の幹部級魔族があちらに居る、と見るべきかと……」



「……それって、やはりあの時に私達が戦う事になった、ズィーマと名乗ったあの魔族の事でしょうか?」



「えぇ、そうなります。

 数少ない、情報を持ち帰れた者の証言を纏めれば、外観と能力とは一致している様子ですので、そう考えた方が良いでしょうね。

 もっとも、そうではなく、アレと同等の能力を持つ者が魔族には複数存在している、と言った事になりますと、流石に我々に勝ち目は無い、と言わざるを得なくなってしまいますが」



「…………ワタシ達程度じゃあ、本気になられたら太刀打ち出来ないし、ソレが妥当そうね。

 あの時の口振りだと、どうやらアイツって直接戦闘じゃなくて暗殺が本分みたいだし、おまけに持っている属性も空間支配の闇属性なんだから、その気になられたらココも強襲される事になりそうね……」



「そうなった場合、こちらは『詰み』です。

 …………ソレが分かっていた為に、相手方にその手を取らせない程の大軍勢にて一気に押し潰すか、もしくはソレに対抗できるだけの闇属性の使い手が欲しかった訳ですが……」



「…………そ、その……やはり、そう言った使い手の方々や、ぼ……冒険者の方、は参加しては、頂けなかった、と言う事でしょうか……?」



「そちらも、残念ながら。

 そもそもの話として、我ら只人には闇属性が顕現するのは非常に稀な事です。

 なので、そう言った人員の殆どは重要施設の防備を任せられている事が多く、基本的には他に動員する事は出来ない、と。

 …………冒険者の方も、貴女の兄君を含めた高位の者を中心に依頼を出しては見たのですが……」



「…………やっぱり、シェイド君は引き受けてはくれませんでしたか……?」



「残念ながら、その通りです。

 …………自分は直接目の当たりにはしていませんが、噂に聞く分の半分でも出来るだけの腕前の持ち主でたれば、是非とも参戦して貰いたかった人材だっただけに、無念極まりますね」



「…………まぁ、彼が参戦しないであろう事は、元より妾達がこの国に居る以上は確定事項である、と言う事は分かりきっていたので、考えを切り替える事こそが肝心です。

 無い物ねだりをしている暇は、()()()()()妾達には存在していないのですから」




 そう言って手を叩き、軍議に参加していた将軍を含めた全員の気を引き締めるべく言葉を放つ、王太子でもあるレティアシェル王女。


 ソレを受け、表情を悲しげに歪めていたカタリナとイザベラに、何かしらに想いを馳せる様にその豊かな胸元を握り締めて行くナタリア。



 …………一方そうして話題に出された相手(シェイド)の事が気に食わなかったのか、それまで話題に挙げられなかったとしても歪める事の無かった表情を歪めると、半ば無理矢理にナタリアとレティアシェル王女の肩を抱く為に腕を伸ばしながら、誰が居なくとも自分がいれば万事解決する、と根拠の無い自信を披露しようとする。



 が、ソレと時を同じくして魔族側の軍勢から、開戦の合図、とも取れる先制の大規模魔術が展開され始める。



 ソレにより、シモニワの行動は全て空振りに終わると同時に、『勇者パーティー』のメンバー達は否応なしに戦闘へと巻き込まれて行く事になるのであった……。




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― 新着の感想 ―
[良い点] シモニワくん、無能っぷりと嫌われっぶりが加速度的にヤバいことになってますね。もうこの時点で稀人勇者って役に立たないと、大多数の人が理解しているのでは?
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