反逆者は監視者と共に新たな朝を迎えるが……
互いに想いを伝え合い、シェイドとサタニシスの二人が関係性を発展させた後に何が起こったのか?
それは、言わずもがな、と言うヤツだろう。
少なくとも、それまで秘めていた想いを通じ合わせた若い男女(少なくとも外見と言動は)が、その情動のままに唇を重ね合わせる事となっただけでなく、既に時刻が夕刻を過ぎて闇夜に包まれていた、となれば、結果は一つのみ、と言うモノだろう。
…………現に、彼らが泊まっていた宿の部屋からその姿を現したのは翌日の朝を通り越した昼前となっていたし、本来二部屋取っていたハズであるにも関わらず、同じ部屋から出て来た、となれば結果は言わずもがな、と言う訳だ。
そんな訳で、昼前だと言うのに気怠げにしているシェイドとサタニシスは、宿に備えられている食事処にて向かい合う形にて席へと座り、朝食と昼食を兼ねた様な食事を取りつつ今後について話し合って行く。
「…………さて、こうして晴れて恋人同士、となった訳だが、これからどうする?
と言うか、どうしたら良いんだ?」
「どうしたら、ってまた曖昧な事を聞くわね?
もうちょっと具体的に搾ってくれないと、流石のお姉さんでも答えられないんだけど?」
「ん?具体的に?
俺とニースとが、キチンと一緒になるにはどうしたら良いのか、って事なんだが?」
「…………ぶほっ!?
……ちょ、ちょっと!?確かに『具体的に言え』って言ったのは私だけど、流石に直球過ぎる言い方じゃ無いかなシェイド君!?」
「いや、『言え』と言ったのはニースの方だろうに。
……それと、吹き出した時に鼻から出てるぞ。折角の美人さんが台無しだ。取ってやるから、動くでないよ」
彼の直接すぎる程に直接的な未来展望に対して、当の本人であるサタニシスは思わず含んでいたスープを吹き出してしまいそうになる。
ソレだけでなく、未だに関係性がそれまでの『相棒』から『恋人』へと変化したばかりである、と言う事も相まってか、その頬や耳が僅かとは言え赤く染まってしまっていた。
端から見ているだけでも、その姿は大変に可愛らしいモノであり、彼女の対面に座っている相手が視界に入っているにも関わらず彼女に声を掛けようか!と席を立とうとしていた連中に対してシェイドは、なったばかりなのに邪魔されてはたまったモノでは無い、との思いから、牽制の為にも軽く殺気(野性動物が失神する程度のモノ)を放ちながら、彼女の口回りを手にした布巾で拭ってやる。
すると、そうさせてしまっている恥ずかしさと、身も心も繋がった相手にそうして貰えている、と言う事に対する嬉しさから、はにかむ様な笑みをサタニシスがシェイドへと向けて浮かべて行く。
それにより、周囲の野郎共が更なる盛り上がりを見せるが、ソレが気にならない程にシェイドにもダメージが入ってしまっていた為に、恋人の可愛らしさの余りに辛うじて胸を押さえて吐血しかける程度(バッチリ致命傷)でどうにか堪えてから口を開く。
「…………それで、真面目に話を戻すが、結局の処として何かしなくちゃならない事とか在るのなら、早い内に言っておいてくれると助かるんだが?
まぁ、人生を共に、って事を考えているのが俺だけだった、って事なら別に構いやしないがね」
「ちょっ!?
流石にその物言いは無いんじゃないの!?
まるで私が、気軽に誰でも一夜を共する女、みたいに聞こえるんだけど!?
ヤる事ヤっておきながら、私のせいで一緒になりません、みたいなこと言うの止めて貰って良いですかね!?」
「だが、そうやって言い渋っているのは事実だろう?
俺としては、昨日渡した指輪で全部の気持ちを伝えたつもりだし、その後の事だってお前さんをその……あ、愛してるからこそ及んだ行為だったんだぞ?
なのに、それでもなおはぐらかされたりする様なら、流石に他に本命が居るのか、そもそも俺と一緒になるつもりが無いのか……と考えざるを得ないんだが?」
「…………ソレは、その……私の方にも、事情と言うモノが在りまして、ね……?
い、いいい、一緒になる、事については、お姉さんも否やは無いんですが、私の周りの人達がなんて言うか、かなぁ……」
「…………まぁ、ソレなりに込み入った面倒な事情が在るんだろう、程度には理解できたよ。
でも、過去にもこの程度までは進んだ相手も居たんだろう?初めて、って訳でも無かったみたいだし」
「それこそ、何とんでもない事言ってくれちゃってるんですかねこの人は!?
そんな段階にまで進んだ事なんて一度も無いし、確かに処女って訳でも無かったけど、久しくそう言う関係になる相手もいなかったから実質セカンドバージンだし、それ受け取れただけ有り難く思って貰えませんこと!?
それに、ソレ言っちゃうんだったらシェイド君の方こそどうなのよ!?どうみても、アレ未経験者の手管じゃ無かったとお姉さん思うんだけど!?」
「…………まぁ、割りと盛大に悦んで貰えたみたいだし、そうやって勘違いして貰えるって事は上手く行っていた、って事なんだろうけど、事実初めてなんだよなぁ。
寧ろ、そっちが敏感に過ぎるのでは?最後なんて、腰砕けになってただろ?」
「だから!そう言う事を公衆の面前で口にするんじゃねぇよ、このスットコドッコイが!?
一応は、男女の秘め事で乙女の秘密だぞ!?
それと、一応言っておくと本当に『致した』のが久しぶりだったのと、相手があんただったから身体が昂っていたからそうなったんだよ!文句在るか!?
それと、大変結構なお手前でしたよこんちくしょう!!!」
半ば自棄になりながらそう叫ぶと、顔面処か耳や首もとまで真っ赤っかになりながら、両手で顔を隠して目の前のテーブルへと倒れ込んでしまうサタニシス。
その生々しい言動に、二人の会話を盗み聞きしていた野郎共や店員だけでなく、興味本意で耳を側立てていた女性客まで顔を赤らめたり、前屈みになったりしてその場から動けなくなってしまう者が続出する事となる。
そんな中、目の前で繰り広げられている恋人の可愛らしい姿を目の当たりにする事が出来て内心ではホクホクモノなシェイドであったが、流石にこれ以上人目の多い場所で続ける話では無いだろうし、何よりこれから混み始めるであろう食堂の席を確保し続けるのは良くないだろう、との判断も同時にした為に、取り敢えずは、と彼女を促して席を立ち、部屋の方も引き払ってその宿を後にする。
流石に、羞恥心やら何やらから顔を赤らめたままであったサタニシスも、彼が誘導する理由は察している様子であったし、そうしなくてはならない理由にも心当たりが在るが故か、特に暴れたり嫌がったりする事も無く素直に手を引かれるがままに歩いて行く。
そんな彼女を連れて、一旦近くに在った路地裏へと移動したシェイドは、再びサタニシスに対して自身と彼女との将来に関わるであろう質問を続ける。
「それで、目下の処として、俺とお前さんとの関係を認めさせる事に対する最大の障害は何だ?何をすれば、お前さんを含めた全員が認めてくれる事になる?」
「…………まぁ、そこは、やっぱり力を示す事、かな?
私達が今暮らしている場所って、この辺りみたいに安全じゃ無いから、やっぱり何をするにしても力が無いと」
「そう言う環境下で生きて来たからこそ力を尊ぶ文化になったし、そうでない豊かで比較的安全な土地を求めて戦いを起こそうとしている、って訳か?」
「まぁ、そんな感じかしらね?
土地に関しては……まぁ、半分はそんな感じだけど、もう半分は意地、かな?
和平交渉を持ち掛けられたから赴いて見れば、その先で不意を突かれて封印される羽目になったんだよ?
流石に、無駄に血を流す事を良しとしていないわた……魔王陛下とは言え、そこまでやられちゃったらケジメを付ける為にも、これから交流を図る国々にしても、一つ大きく事を起こして、実力を知らしめておく必要は在るでしょう?」
「流石に、大きすぎる事、だとは思うがね。
…………しかし、そうなると一度でも敵対した相手には手加減・容赦無用、って感じか?だとしたら、殺してはいないとは言え、あいつを倒しちまった事は不味かったかな?
アレ、敵対行為、とか見なされて、俺の印象悪くなってなければ良いんだが……」
「…………?
もしかして、ズィーマ君の件について?だとしたら、あの程度じゃ問題にもならないから、心配しなくても大丈夫よ」
「…………いや、バッチリガッツリ半殺しにした訳なんですが?
しかも、何やら役職付き、みたいな事も言っていたし、あいつ魔王軍とかの幹部だったりするんじゃないのか?なのに、問題にならないって何故に?」
「まず、本人が問題にしてない、って事が大きいかな?復讐してやる~っ!って騒いでるならともかくとして、本人的には『手加減された上に見逃されたのだからどうこう言うのは見苦しい』って感じみたいだし、本人もそう言っていたしね。
それと、確かに彼は魔王陛下旗下の軍に所属する幹部の一人だけど、寧ろ例え裏方であったとしてもその幹部を単独で手加減した上で撃破してみせた、って事はかなり好評価だからね。魔族的には、だけど」
「………………なら、心配は要らない、のか……?
いや、それで良いのか魔族的価値観……?」
若干納得が行っていない様子ながらも、取り敢えず過去の行いが現在に対して仇を為す事は無いらしい、と知れた為に、安堵の吐息と共に胸を撫で下ろすシェイド。
あの時はああするのが最善であり、かつ魔族への伝と言う意味合いに於いては最善の手であったと思っての行動であった事もあり、ソレが却って現在に仇為す形で作用し、愛する女性との将来を脅かす事になる、だなんて事にはなってくれなかった、と言う事が判明し、思わず張っていた気を弛める事となる。
…………が、ソレがいけなかったのか、それともただ単に不運にも偶然タイミングが重なっただけなのかは定かでは無いが、低い唸り声の様な音と共に彼の足元へと唐突に魔法陣が展開される事となってしまう。
「「………なっ!?」」
唐突過ぎる程に唐突過ぎる突然の展開に、思わず揃って驚きの声を漏らしてしまうシェイドとサタニシス。
何処から掛けられているのか、何故仕掛けられているのか、と言った情報が一切無いままに対応を迫られた二人は、咄嗟にではあったものの魔法陣を破壊したり、解除したり、そこからの脱出を図って行く。
…………が、何故か不可視な壁に阻まれた様にして魔法陣を破壊する事もそこから脱出する事も出来ず、干渉する事も出来ない為に解除する事も不可能であった。
その為、焦燥に駆られながらも、何も有効な手立てを打つ事が出来ないままに、放つ魔力光を強めて行く魔法陣を見詰めることしか出来ずにいた。
…………そんな中、目の前で展開されているこの光景に、違和感と共に何となくでは在るものの『心当たり』をシェイドは感じてしまっていた。
もっとも、より正確に言うのであれば、目の前にて展開されている魔法陣へと魔力の経路が自分の『道具袋』へと繋がっているのが見えていたし、何よりも『こうなる原因』に多大に心当たりが彼には在ったのだ。
そして、最大の理由として、展開されている魔法陣を解読する限りでは、コレは一方通行かつ陣の内側に居る者を呼び寄せる、と言う空間転移系統の魔術であった事もあり、比較的平静を取り戻して見せながら、未だに彼をどうにかして解放しよう、と悪戦苦闘していたサタニシスへと声を掛けて行く。
「…………あ~、悪い。
思ってたより、果たさなくちゃならない『約束』と『因縁』が早く来たみたいだ。
だから、一回だけちょっと行ってくるよ」
「ちょっ!?そ、それ、本当なの!?
大丈夫?ちゃんと、安全なんでしょうね!?」
「さぁ、どうだろうな?
だが、取り敢えずこうやって無理矢理呼び出されるのは、これっきりのハズだから安心してくれ。
さっさと片付けて、直ぐに戻って来るから」
「ほ、本当に!?
本当に、すぐ終わるんでしょうね!?ここに、私の元に戻って来てくれるのよね!?」
「あぁ、約束だ。
必ず、またここに戻ってくる。
だから、ここで待っててくれ。頼んだぞ!」
そんな彼の言葉と時を同じくして、一際魔法陣が放つ光が強まって行く。
そして、咄嗟に目を腕で庇ってしまったサタニシスの視界が回復したその時には既に、その場所からシェイドの姿は煙を吹き消した様に掻き消えてしまっていたのだった……。
取り敢えずコレで本編は終了
次回に閑話
その次に人物紹介を挟んで第四部へと移行します
お楽しみに




