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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
九章・『反逆者』は『監視者』との関係性を改める

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反逆者は監視者と共に余暇を過ごす・4

 


 二人が店に入ってから数時間程が経過し、太陽の位置が頂点に差し掛かった頃。


 二人の姿は、店の出口にて確認する事が出来ていた。



 あれから、店員だと思っていた店長からの様々な説明を受けつつ、時に実際に手に取って確認し、時に着けてみて具合を確かめてみる、と言った様な事を繰り返し、最終的に買うものを定めていたのだ。



 シェイドの方は、比較的簡単に目標が定まった。


 何せ、それまで然程気に掛けていた方面の事柄では無い上に、元々必要として訪れた訳でも無いのに加え、男性的な思考の最たるものとしての『即断即決』を発動させた為に、目に付いたデザインのバックルを購入する事に決定したのだ。



 この程度の洒落っ気位は出しても良いか、との考えの元に選んだソレは、普通の金属に魔石の粉末(加工の際に出たモノ。意外と汎用性が高い)を混ぜる事で強度を高めてはいるものの、それでも戦装束の一つとして使うには強度的に問題が在るし、何より何の効果も付いていない為に『無駄』にしかならない。


 が、そうであったとしても、磨かれる事で艶を出し、輝いてはいなくとも鈍く光を放つ狼を元にしたデザインのソレは、彼の琴線に触れたが為に手に取られる事となったのだ。ソレが、例え『無駄』の極致であったとしても、決して『無意味』な事では無いと言えるだろう。



 そんな訳で、比較的アッサリと彼の方は終わったのだが、当然の様に本命であったサタニシスの方が難航していた。


 とは言え、別段『買うのならどれか?』と言う事で悩んでおり、商品を選びかねていた、と言う訳では無い。



 実際の処として、買うのならばコレだ!と言うモノは彼と然程差が出る前には選び出す事に成功していた。


 …………していたのだが、そうして選び出されたアクセサリーは()()()()、その上で彼女は()()()()()()()()()()?で悩み抜いていたのだ。



 美しい木目を生かしたバングルか、もしくは最初に目を付けたジェノサイドリンクスの仙骨を磨いたネックレスにするのか。


 その二つを天秤に乗せて悩んでいた彼女に対してシェイドは、当然の様に




『こう言っちゃなんだが、懐は必要以上に暖かいんだから、そうやって悩んでいるなら両方買ってしまえば良いんじゃないのか?

 なんなら、片方は俺からのプレゼントって事にして贈っても良いぞ?』




 と提案もした。



 幾ら普段からして身に着ける様な類いの代物では無い上に、旅から旅への生活をする身の上では余計な荷物は持てない、と言う考えから悩んでいるのであれば、今は重量や体積をある程度は無視してくれる『道具袋(アイテムバッグ)』を個人で所有している為に、それらとは殆ど無縁と言っても良い状態に在る。


 おまけに言えば、ここで何かしらのプレゼントをする、と言う事はシェイドにとっては想定外の出来事であったり、予想外の展開であったりする訳では無く、元々そうする為の機会を窺っていた為に正直『渡りに船』であったのだから、そう申し出るのは当然と言えただろう。



 その言葉に、瞬時に目を輝かせるサタニシスであったが、次の瞬間には反射的に頷きそうになっていた自身を押し留めると、彼に向けていた視線を元に戻しながらポツリと告げて来た。




『…………私だけ、特別に『仕事だから』って無理言ってこうして出て来ているんだから、流石にまだそんな事は出来ないよ。

 もっと、皆が我慢を強いられる事が無く、各々の責任の元に自由に過ごせる様になるまでは、そんな我が儘は、言っていられないよ。

 ……言っちゃ、ダメなんだ……』




 …………その言葉には、それまで彼女が見せた事の無い、重責を課せられている者特有の強張りと覇気が僅かとは言え覗いており、一瞬とは言え彼は目の前の女性が誰なのか、本当に自分の知っている存在であるのか、が分からなくなってしまった。


 が、その次の瞬間には普段の通りの様子を振り撒くサタニシスへと立ち戻っており、悩みに悩んだ末に結局買うものを決めたらしく、木目が鮮やかなバングルを手に取ると、彼が会計を申し出るよりも先に会計を済ませてしまう。



 そうして、普段と変わり無い姿を見せてきているサタニシスであったが、その背中に何処と無く哀愁とも取れない感情を感じ取ったシェイドは、密かに残されたネックレスと共に別の装飾品を手に取ると、彼女には見えない様にしながら店員へと会計を指示し、ソレをさっさと自前の『道具袋(アイテムバッグ)』へと放り込んでしまうのであった。





 ******





 …………そんな、事件とも呼べない出来事を挟んでいた為に予想外に時間が掛かり、既に時刻は昼頃となっていた。



 普段の旅路や依頼の途中であれば、適度な空腹は身体の動きを妨げずに思考をクリアにしてくれる為に、敢えて昼食は取らずにそのまま進む、と言う事も良くしていたのだが、今現在はそう言った事は考えなくても良い環境下に在るので、折角なのだし何処かに入ろうか、と二人で連れ立って通りを進んで行く。



 流石に、同じ商店区画とは言え、先程のアクセサリー店に入る時と出た今とでは人通りには激しく差が在り、市場の時と同様に、とまでは行かなくともソレに準ずる程の人混みが発生してしまっていた。


 その為に、それまでも組んでいた腕をより一層強く組み、それぞれで万が一にもはぐれてしまわない様に気を付けながら雑踏の中を進んで行く。



 すると、程無くして彼らの視界にナイフとフォークとを交差させた、この世界に於いて広く普遍的に知られている『食事処』のマークが入れられた看板が飛び込んで来る事となった。



 彼としては、特に行き先を設定して歩いていた訳でも無く、どちらかと言うと人の流れに乗りつつ時折彼女によって引かれる腕の方へ、と進んでいたつもりであった。


 その為に、突然目の前に姿を顕にしたソレには、思わずシェイドも驚きと興味とを隠せない様子にて僅かとは言え目を見開き、視線を向ける事で隣にいるサタニシスへと




『これ、知っていて誘導したのか?

 ここも、目当てだった場所の一つ、だとか?』




 との意思を込めると、彼女へと視線にて問いかけて行く。


 が、そうして視線を向けられた本人たるサタニシスと、突然現れたその看板と店には驚きの表情を浮かべており、端から見ている限りでは確実に誘導して、だなんて事をしていた様には見えていなかった。



 そう言った反応から、あぁ恐らくは知らなかったんだろうなぁ、と判断したシェイドは、隣に向けていた視線を店の方へと戻すと、その外観をじっくりと観察して行く。



 他の建物と同じ様に、基本はレンガ造りとなっており、前面がガラス張りとなっていない点を除いては、先のアクセサリー店と外観上は然したる差は無い様にも見て取れた。


 そうなれば、恐らく、では在るが内部構造の方も大きな差が生まれる余地が残っているとも思えない為に、そこまで奇抜な構造になっている、と言う訳でも無いのだろう。



 …………と、なれば、何かしらの要因や原因が存在することにより、彼らがここまで近付かないと気が付けなかった理由が在るハズなのだが……と周囲を見回したシェイドの視界に飛び込んで来たのは、店の入口と思わしき扉に掛けられていた、一つの飾り。



 一見、只の房飾りにも見えるソレは、この世界に於いて普遍的に行われている悪霊避け・悪魔避け(魔物とは別に存在している、かも?と言われる霊的なモノの事)のお守りの様であり、普通であれば特に彼が視線や興味を引かれる事は有り得ない、と断言出来る程度のモノでしか無い。


 実際の処としても、ただただ外見上としては一般的に普及している、普通のお守りにしか過ぎない。



 …………しかし、ならばそんなモノが自身の興味を引くハズが無い、と確信したシェイドは、自身の目へと魔力を集めると、改めてそのお守りを注視して行く。



 それにより、分かった事が一つだけ。




「…………成る程。

 突然現れた様に見えたのは、コイツが原因か」



「…………?

 コイツ、って事は……この、房飾りみたいなヤツの事?」



「あぁ、そうだ。

 詳しく視た訳じゃ無いから確たる事はまだ言えないが、だとしてもアレが魔道具だ、って事は一目で分かる。

 試しに、お前さんも目に魔力を集めて視てみれば良い。一目で分かるぞ」



「えぇ~?本当に~?

 …………って、本当だ。気付かなかった……!?」



「まぁ、十中八九効果は『隠蔽』だとか、『気配散らし』だとかだろうから気付かなくても仕方無いと言うか、ほぼ当然の事だから気にしない方が良いぞ?

 俺だって、何となく気になったから視てみた、ってだけなんだし、殆ど偶然みたいなモノだからな」



「へぇ~。

 ……でも、なんでまた、そんなモノぶら下げているのかしらね?

 だってここ、ご飯屋さんだよね?なら、お客さんが入ってくれた方が嬉しいハズなのに……」



「…………何かしらの訳在りか、もしくは一定以上の『何か』を客の側に求める厄介な店主が居るのか。

 それとも、知らずにやっているだけなのか、果たしてどれだろうな……?

 まぁ、入って見れば分かるだろう。何を考えてそんな事をしたのか、なんてさ」



「…………まぁ、それもそうね!

 私も、お腹空いちゃったし、取り敢えず入りましょうか!」




 僅かな時間のみ思考を巡らせている様子のサタニシスであったが、考えるよりも動いた方が早い、と言う事に思い至ったからか、それとも純粋に空腹であったらかは不明だが、彼の意見に賛同すると揃って扉へと手を掛け、中へと押し入って行くのであった。




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