反逆者は監視者と共に余暇を過ごす・2
無事に目的のモノを買い揃える事に成功したシェイドとサタニシスは、場所を市場から公園のベンチへと移していた。
主な理由としては、やはり既に『買い物』を終わらせてしまっているから、と言う事も在るが、やはり周囲から向けられる生暖かい視線が嫌だったから、と言うのも大きなモノの一つであった事は間違いないだろう。
とは言え、それも自分達の無意識的な行動が原因であり、そこまで『不快』だと断言するに至る程のモノでも無かった事から、彼処から逃走する事を選んだのはやはり二人の羞恥心が故の行動であった、と言う事だろう。
そんなシェイドとサタニシスであったが、二人は寸前まで走っていた、とはとても思えない程に呼吸も落ち着いたモノとなっており、表情や空気も既に平素のソレへと立ち返っていた。
もう買い出しの必要性が在ったモノは買い終えてしまっていたし、何時までもソレなりの重量のモノを、気になる程の重さでは無いにしても抱え続けるのは面倒だ、と言う事で『道具袋』の中へとシェイドが仕舞い込んでしまうが、ソレをサタニシスは何故か寂しそうな視線にて眺めており、何処と無く悲しさすら漂わせている様子でもあった。
そんな彼女は、未だ彼と手を繋いだままでありながらベンチから立ち上がり、下に引かれていた彼のハンカチを拾い上げて自身のポーチに入れると、一見普段と変わらぬ様子にて彼へと目掛けて言葉を放って行く。
「…………さって、と。
終わり方はちょっとアレになっちゃったけど、取り敢えずは買いたかったモノは一通り買えたんだったよね?」
「…………まぁ、一応は?
減って来ていた食料品に燃料だとかの消耗品、その他に目に付いた良さそうな諸々だとかは、大体買えたな。
悪いな。俺の買い物に付き合って貰ったみたいで。お前さんの方も、何かしら買いたいモノだとか無かったのか?」
「…………ん~?
まぁ、大体は買えたし、そもそもあんまりお姉さんって物欲って呼ばれるモノは強くないからねぇ~。
たまにアクセサリーの類いだとかは欲しくなる時は在るけど、彼処の市場ってそう言うの無かったから、別に良いかなぁ?って。
ソレに、私はシェイド君と一緒にお出掛け出来たんだから、付き合わされた、だなんて思ってないよ?寧ろ、嬉しかったんだから、ね?」
「………………そう、か……そう、言って貰えるのなら、良かったよ」
多少言葉をつっかえさせながら、安堵の吐息と共に吐き出して行くシェイド。
一応は共用の消耗品の類いがメインとなっている買い出し行為とは言え、殆ど自分の買い物に一方的に付き合わせる形となった事に罪悪感にも近しい感情を抱いていたのだが、どうやら危惧していた形とはなっていなかったらしい、と言う事を確認する事が出来た為に、こうして安堵していると言う訳なのだ。
そんな彼へと、表面上は普段と変わり無い様子でサタニシスが再び口を開く。
「…………じゃあ、元々の目的だった買い出しは終わっちゃったんだし、どうする?
…………もう、解散、しちゃう……?」
「………………ん?もしかして、この後何かしらの予定でも入ってたか?」
「……へ?
いや、特に予定だなんて呼ぶようなモノは入って無いけど……」
「じゃあ、何か約束でも入れてたりしたのか?」
「いや、それも違うけど……?」
「………………じゃあ、この後もまだ一緒に出掛けないか?
俺の買い物に付き合って貰ったんだから、その……良かったら、お前さんの、ニースの買い物にも付き合う、と言うか……付き合わせて貰えると、俺としては有難いんだが……」
「……………………え、えぇ!?
い、良いの!?」
頬を赤らめつつ視線をそらしながらそう告げたシェイドに対し、驚愕と驚嘆とを隠せずに半ば叫ぶ様にして言葉を放ってしまうサタニシス。
しかし、それもある意味では『仕方の無い事』であり、同時に『当然の事』であるとも言えるのだ。
…………そもそもの話として、今回の『お出掛け』はシェイドとサタニシスの両者に於いて一つの勘違い、いや、寧ろ食い違いとでも呼ぶべきモノが発生していたのだ。
サタニシスは、彼の性格をある程度は把握している。
その為に、普段の行動からして『即断即決』を良しとし、その上で用事が終わったのであればさっさとその場を後にする、と言う行動を何度も見ていた為に、今回のコレも『市場での買い物が終わったら即座に解散する』モノだと思っていたのだ。
故に、待ち合わせの時に口にしていた『今日一日』と言う言葉も、出来るならば市場での買い出しを一日中続けていたい、と言う願いが込められた言葉でもあったのだ。
一方、シェイドの方としても、サタニシスの性格をある程度は把握出来ている、と思っていた。
その為に、普段であればここで解散!としてしまっても良かったのだが、アレだけ楽しみにしてくれている様子を見せられてはそうする気にはならないし、何よりそんな事を言い出しては彼女が悲しむ事は手に取る様に解っていたのだ。
それに、彼本人も何だかんだと言っても、彼女ともっと一緒に居たい、と無意識的に願う形となってしまっていたのだから。
故に、無意識的にとは言え『これでお終い』と考えていたサタニシスと、『まだ続きがある』と考えていたシェイドとの間に、この後についての意識のずれが生じていた、と言う訳なのだ。
だからこそ彼女は、こうして彼から『続き』についての提案を受けた段階で思わず聞き返すこととなったり、彼としては当然『この後』について多少は考えていた為に先の様なやり取りを挟む事となったりもしたのだが、ソコはちゃんと話し合っていなかった二人共が悪い、と言う事だろう。
「良いも何も、俺としては最初からそのつもりでは、在ったからな。
市場で良い感じに時間を潰せたから、そろそろ普通の商店も開く頃合いだろう?なら、今度はそっちに行ってみないか?
さっきも言った通りに、これまで俺の買い物に一方的に付き合わせていたんだから、今度は俺が付き合うよ」
「…………え、でも……良い、の?
シェイド君、こう言う時って、大体何時もさっさとやる事終わらせたら、そのまま宿だとかに帰っちゃってたから、てっきりそう言うの嫌いなんだとばかり思ってたんだけど……?」
「それは、普段の買い物で、たった一人しか居なければ、の話だろう?
元々、この外出はお前さんの要望が在ってこそのモノなんだから、自分本意な事なんて出来るハズが無いだろう?
…………それに、それに、だ。寧ろ俺の方の買い出しを、時間の関係上仕方無かったとは言え先に済ませてしまった事の方が、個人的には申し訳無かったと言うか何と言うか……」
「…………え?じゃ、じゃあ……まだ、私シェイド君と一緒にお買い物デートしても、良いって事?
今度は、お姉さん優先で良い、って事なの……?」
「…………まぁ、そんな感じです。はい」
「…………~~~~ッ!!!」
彼の放った、ぎこちないながらも想いの籠った返答に、思わず言葉を失くしてしまうサタニシス。
しかし、ソレは絶望や呆れと言った感情に起因するモノでは無く、寧ろその正反対の感情の発露によるモノである、と言う事は、彼女の赤らめられた顔だとか、表情に滲み出ている歓喜だとかから容易に想像する事が出来ただろう。
そんな衝動のままに、それまで繋ぎっぱなしとなっていた手を振り払う様に解くと、まるで大好きな親を見付けた子供か、もしくは良く懐いている飼い主へと突撃を仕掛ける飼い犬(に良く似た生物)の様な勢いにて座ったままであった彼の胸元へと飛び込むと、分厚くガッシリとした頼り甲斐を伝えてくれるソレに対して額をグリグリと擦り付けて行く。
突然行われた彼女の奇行に、飛び込まれた事によってベンチの背凭れに背中を打ち付けて息を詰まらせていたシェイドが唐突なこの事態にどう言う反応を示せば良いものか?とアタフタとしていたのだが、一通り彼に抱き着きながら彼の逞しい胸板を堪能したサタニシスが顔を上げた事により、その心配は無用なモノであった、と言う事が瞬時に判明する事となる。
「~~~~ッ!!!
ねぇ!?この後も、まだ私とデート続けてくれる、って事で良いのよね?嘘や冗談の類いじゃなくて!?」
「…………いや、俺だって嘘は吐くし冗談も飛ばす事も在るが、流石にそんな悪質な事しやせんよ?
それに、ここに至って『嘘でした~!』とか言ったらソレこそ真性のクズでしょうに」
「じゃあ、本当に、本当の本当の本当に、この後もお買い物デートしてくれるの!?私と一緒に!?」
「まぁ、お前さんが嫌じゃなければ、な?」
「…………なら、早く!早く行こう!
私、気になるアクセサリー屋さんとか在ったの!だから、そっちに行ってみたいの。良いでしょう!?
他にも、気になってるお店とか幾つか在るから、ソコも行っても良いんだよね!?ね!?」
「ちょっ!?
わ、分かった分かった、分かったって!
別に一軒だけ、だなんてせせこましい事言うつもりは無いから、取り敢えず落ち着け!腕を引っ張るな!色々と当たってるから!?」
「当ててるのよ当然でしょ!」
抱き着きから解放したシェイドの腕を再び取ると、今度は『手を繋ぐ』のでは無く自らの豊満な胸元へと抱え込む様にして抱き込むと、急かすようにして引っ張り始めるサタニシス。
それに対してシェイドが、顔を更に赤らめながら抗議するものの、その指摘には自らの耳も赤く染めながらも意に介する事無く受け流されてしまい、結局最初と同じく彼女に引っ張られる形で進む事になるのであった……。
随分とグイグイ攻めてますねぇ……(  ̄- ̄)




