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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
九章・『反逆者』は『監視者』との関係性を改める

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反逆者は監視者と共に余暇を過ごす・1

 


 互いに手と手を握り合い、待ち合わせ場所から駆け出した二人は、目的地である市場へと向かって進んで行く。



 元々、例の依頼が終わった後での買い出しを一緒に、と言う約束の元にこの外出は行われているので、取り敢えずは先ずソレを果たしてしまおう、との考えの元に行われた選択であったのだろう。


 が、そもそもの話として二人がこうして集まっているのは未だに『早朝』と呼んでも差し支えは無いであろう時間帯であり、かつ市場が開かれるのはそう言ったとても早い時間帯である。その為に、他に寄り道したり出来る店がそもそも開いていない、と言う悲しい事実が横たわっての行動でもあったりするのだが。



 ならば時間をずらして再び来れば良いのでは?と思われたかも知れないが、そうなってしまうと彼らの行動原理の第一義である『必要なモノの買い出し』の目当てとなっているモノの中で、比較的希少であったり目利きが必要となる様なモノが手に入らなくなってしまう可能性が在る(先に買われる、時間経過によって変質する等々)為に、それらを果たす為にはこうして朝早くから行動を起こす必要があった、と言う訳なのだ。



 とは言え、こう言った事は本当に初めてであり勝手が分かっていないシェイドと、彼がそんな状態である事を重々承知した上で、彼と一緒に『お出掛け(デート)』が出来るのならば例えソレが只のゴミ捨てであったとしても楽しくて嬉しくて仕方が無い、と言うサタニシスの組み合わせであった為に、特に文句も違和感も出る事無く一路会場へと向かって進んで行く。


 すると、待ち合わせ場所から然程の時間を掛ける事無く、人々の賑わいが盛んになっている目的の場所へと到達する事となった。



 そこは、彼らからしても初見の場所であり、元々土地勘の在ったりする場所でも無い。


 より正確に言えば、昨日の時点で『買い出しがしたいから』と言って受付嬢へと質問し、その回答として得た情報でのみ知っていた事柄であったので、実際に訪れたのはコレが初めての事でもある。



 故に、この市場へと訪れるのは二人ともに初めての事であったが、それでもやはり市場は市場であるらしく、これまで訪れた事の在るソレと等しく人々の活気に満ちた場所となっていた。



 流石に、元々エルフ族が多く住む為に『妖精国』とまで呼ばれるアルベリヒだけあり、雑踏を形成する人々の大半は耳が長くて容姿が整っているのが見て取れたし、売られているモノもその大半がエルフ族の生活様式に合わせた規格・種類のモノとなっている様子だった。


 しかし、そうであっても中には他の種族に向けられた商品を並べている店も在れば、どちらかと言うと菜食に近しいエルフ族には向かない様な軽食(串焼きや焼き魚等)を扱っている店も幾つか出されており、あまり『エルフ族専用!』と言わんばかりの雰囲気に支配されている、と言った感じにはなっていなかった事もあり、二人は遠慮無くその雑踏へと向けて足を踏み出して行く。



 アルカンシェル王国で開かれていたバザールの様な異国情緒に溢れた熱気や、少し前まで滞在していたビスタリアの暗く淀んだ欲望の渦巻く空気とは異なる、今を生きる人々の熱意と意思に彩られながらも何処か神聖さや静謐さを感じさせる雰囲気に包まれながら進む二人の耳へと、左右に開かれた店からの売り込みの声が叩いて行く。




「さぁさぁ、お客さん見ていってよ!今朝採れたばかりの新鮮さだ、お薦めだよ!」「らっしゃいらっしゃい!ソコのお客さん達、安くしておくから見ててっておくれよ!」「ウチが扱っている商品は、他じゃ滅多にお目に掛かれない逸品だよ!見ていかないと損するよ!」「ヒェッヒェッヒェッ!寄っといで~、この婆の作った特製の薬じゃよ~!『恋の妙薬』から『誘惑の香水』に、恋人同士の必須品『夜の絶倫薬』まで揃っとるよ~!ヒェッヒェッヒェッ!」「ちくわ大明神」「……おい、今のなんだ?」




 熱気や活気の性質が違えども、その誘い文句に大した違いは無いらしく、時に直接的に自身の商品を売り込み、時に『怪しさ』と言う武器を使って気を引こうと試みられている。



 少しでも多く、素早く自身の元へと誘おうとしている呼び声に耳を傾けつつも、ソレに従うべきかそうでは無いのか、その声が発せられているのが自分達が求めているモノが在るのかそうでないのかを判別し、売られているモノの品質を横目で鑑定し、売値を店主と相談しながら時には買い集め、時には諦めて立ち去りながら市場の人混みの中を泳ぐようにして二人で進んで行く。



 その手には、ソレまでに買われた品々の詰め込まれた紙袋が抱えられており、彼らが本当に商品を買いに訪れた者であり、その上で気前良く買い上げてくれるであろう上客である、と言う事を如実に示しており、二人に対して名指しする様にして声を掛けてくる店も増えて来ていた。


 ソレに対して、若干ながらもシェイドは煩わしそうにしているが、逆にサタニシスは持ち前の明るさと人当たりの良さを発揮し、時折手を振り返したり、訪れる事をせずに素通りした店に対して表情で『ごめんね?』と謝って見せたりする事から、彼女へと向けて店主達からの悪感情が向けられる事にはならず、寧ろそれまで以上に誘い掛ける声が向けられる事となっていた。



 そんな二人は、片手で紙袋を抱えつつも、もう片方の手は互いに繋ぎあったままであり、一時も離れようとはしていない。


 一応、一緒に出掛けているのだから、とか、この人混みではぐれるのは不味いから、だとかの理由付けはされているが、本心で言えば『離れたく無い』と言う可愛らしい想いと『誰にも渡さない』と言う嫉妬心を二人が互いに抱いているが為に、無意識から来ている行動であった。



 元より、愛想も良く容姿も整っており、その上でスタイルも良くてソレを自覚しているサタニシスに対しては、比較的異性からのアプローチが多く掛けられていた。


 ソレは、例え横にシェイドがいたとしても、だからどうした?と言わんばかりの勢いにて行われていた事であり、現に今この場に於いても店を覗けば店員から粉を掛けられる、と言った事が多く発生する事となっていたのだ。



 では、互いに、と言うのはどう言う事なのか?と言えば答えは簡単。


 本人に自覚は無いが、シェイドは意外と『モテる』のだ。



 以前の力を封じられていた時ならばともかく、今は体格も良く身長も平均を上回っており、腕っ節にしてもその実力は言わずもがな。


 それでいて顔立ちは『目付きの鋭いワイルド系イケメン』と呼んでも差し支えは無い程度には整っており、おまけに高難易度の依頼を片手間に片付けてしまうので財力の方も申し分無く、本人にも余り物欲が在る方では無いので溜め込まれる一方、と言うのだから、彼の外見に見せられた者、財力にすり寄ろうとする者、実力に惚れてしまった者、と言う風に結構モテたりはするのだ。



 とは言え、片やその手の誘いのあしらい方は熟知している口であり尽くを回避していて一切乗らず、片や過去の経験から誘いを掛けられているとは終ぞ想像すらせずに過ごしている為に、両者心配する必要性は皆無なのだが、そうも言ってはいられないのが互いに想いを寄せている者同士、と言う事なのだろう。


 互いが互いしか見ていない、見えていないにも関わらず、言葉や関係として確かなモノとしていない以上は、他に行ってしまう、と言う可能性を排除しきる事が出来ていないが故に、嫉妬心と不安感が彼らの胸中に生まれる事となっているのだ。



 もっとも、そうやってモーションを掛けてくる相手も、それぞれが一人きりで居る時ならばまだしも、そうでない時はただ単にからかっているだけか、もしくは噂となっている二人の関係性をハッキリさせよう、と試みた『勇者(笑)』が突撃を仕掛けただけだったりもするので、実の処としては本気で二人とどうこうなろうとしている者はそこまで多くは無かったりするのだが。



 そんな事は露知らず、市場の中を雑踏の間を泳いで綿って行く二人であったが、流石にそろそろ片手で持ちきるには紙袋が重くなりすぎた為か、サタニシスの方から彼へと声を掛けて行く。




「ねぇ、シェイド君?

 そろそろコレ、しまっちゃわない?

 私達には、『道具袋(アイテムバッグ)』って言う便利な道具が在るんだから、何も手に持って無くても良いんじゃないかしら……?」



「…………まぁ、それでも構わないっちゃ構わないんだが、そうすると俺達が『道具袋(アイテムバッグ)』を持っている、って事を大々的に宣言する様な事になるし、これまでみたいに『あれだけ買っているのだから買うつもりは在るのだろう』って言う前提の元のサービスだとかも受けられなくなるからな。

 流石に、そうなった方が面倒だろう?」



「…………まぁ、そう言っちゃえばそうなんだけどさぁ~」



「…………ただ、確かにあまり持ちすぎても良くないと言えば、良くないしな。

 しかも、実際はともあれ、外見上は『非力な女性』にしか見えないお前さんに、これ以上持たせるのも悪かろうよ」



「むぅっ!?

 ちょっと!?お姉さんは、本当に非力で可憐な乙女さんなんだけどぉ!?」



「…………だから、ほら」



「…………あっ!」




 会話の最後で、特に断りを入れる事もせず、サタニシスの腕から紙袋を奪い取って見せるシェイド。


 元々自身が持っていた方の腕へと追加し、完全に抱え込む形へと変化してはいるものの、その外見の逞しさを裏切らない力強さにて、それらの荷物を平然と抱えて見せている。



 しかも、それらをサタニシスと繋いだ手を離す事無く行って見せた為に、彼と一時的とは言えかなり顔が近くなった事だとか、一瞬だけとは言え彼の意外と分厚い胸板に間近に迫ったり、だとかもした為に、彼女は顔を赤らめて頭頂から湯気を発する事となってしまう。



 そんな彼女の突然の反応に、一体何を……?と訝しむ視線を送る事となったシェイドであったが、次の瞬間には自分が何をしたのか、二人の位置関係等はどうなっていたのか、と言った事に思い当たってしまい、自身も耳を赤らめさせる事となる。


 そして、無言のままで周囲から向けられる生暖かい視線に耐えきれなくなったのか、甘ったるい空気だけをその場に残して足早に立ち去ると、残りの買い出しを済ませるべく市場を大急ぎで回ってしまうのであった……。




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