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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
八章・反逆者は『精霊国』にて己の現状を知る

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反逆者は『竜』の群れを壊滅させるが……

 


 無数に闇属性の弾丸を放つ魔法陣を制御しながら、サタニシスは苦々しげな表情を隠そうともせずに顕にして行く。




「…………確かに、あの辺りの個体が居るんだろう、とは思ってたけど、だからってまとめて出て来ないで貰えないかしら!?」




 内心を吐露する様に叫びながらも、自身が展開した魔法陣の操作は一瞬たりとも疎かにはしない、と言う器用さを見せ付けたサタニシスであったが、当の本人は然程ピンチだとは思っている訳でも無いらしく、『焦り』や『恐怖心』と言った感情は浮かんではいなかった。



 とは言え、それも当然の事。


 何せ、彼女は別段一人きり、と言う訳では無い。



 増援、と言う形にて『炎竜』の群れが追加で戦力を得た様に、彼女にも『仲間』にして『相棒』が、頼りになる相方が共に在るのだから。




「…………流石に、このままじゃちょっとキツそうだからな。

 そっちは任せて大丈夫か?」



「当然!

 でも、シェイド君こそ、気を抜かないでよ?

 向こうの連中、さっきの二頭より、多分強いからね?」



「上等。

 もう、様子見も必要は無いからな。

 手加減も手抜きも、もうしてやらないさ」




 それまで居たサタニシスの隣から進み出たシェイドが、新たに現れた群れの方へと腕を掲げる。


 それと同時に、彼らの存在に即応して見せた『炎竜』が放つ魔術(正確に言えば『編纂された『魔術』では無く魔族の使う『魔法』に近いがより原始的な魔力の活用法』である為に魔術でも魔法でも無い)や吐息と言った遠距離攻撃が、二人へと目掛けて殺到して行く。



 だが、彼が腕を掲げると同時に展開された、正確に言えば『より濃度を増した漏出魔力』が勝手に作用する事で得られている防御結界によって弾かれ、受け止められ無効化されて行くが、あくまでもそれらは副次的なモノであり、本来彼が行使しようとしていたモノとは無関係な結果である、と言えるだろう。


 が、だからと言って攻撃を止める、と言う選択肢が彼らに在るハズも無く、遠距離攻撃が効かないのならば、と言わんばかりにその巨体を生かして距離を詰め、物理的な攻撃を叩き込もうと半数近くが突撃を敢行せんと前へと進み出て来る。



 流石に、自身の数十倍では効かない体重差の在る存在による突進を受けるのは彼としても避けたい事であるらしく、その動作を見た瞬間にソレまで準備していた魔術式を展開し、未だに集団となっていた『炎竜』の群れに対して手振りと共に魔術を解放する!



 …………とは言え、ソレが成されたからと言っても、特別何かしらの派手な演出を帯びた現象が発生した、と言う訳では無い。


 寧ろ、彼の意味在り気なその動作により咄嗟に身構える事となった『炎竜』達が、即座には何も無かった、と言う事に拍子抜けした様な素振りを見せる事となった程度には、直ぐ様何か起きた、と言う訳では無かったのだ。



 その為、自分達の巣を襲撃してくれているだけでなく、無駄に自分達に対して脅かす様な事をしてくれた小癪なムシケラ()としてシェイドとサタニシスの二人を認定したその群れが、彼らへと向けて本格的に攻撃を加えようとしてその場から一歩目を踏み出そうとしたその時。


 彼らの膝に当たる関節が、その群れを構成していた十頭程の個体のほぼ全て同時に折れ、地面へと着けられる事となってしまう。



 まるで、込められていた力が抜けたのか、もしくは体重でも増加したのか?と問いたくなる程に、不自然な迄に自然な動作にてストンと膝関節を地面へと落とす『炎竜』達。


 四足歩行が基本である彼らをして、普段取っている姿勢と大差は無いのかも知れないが、唐突な事態に爬虫類にも似た鱗に覆われている顔面ながらも、ソコに『戸惑い』や『混乱』『困惑』と言った感情が浮かべられ、咄嗟に再び立ち上がろうと試みられて行く。



 …………が、何故かその『立ち上がって歩く』と言う最低限の下限をぶっちぎる程に簡単で、ついさっきまで出来ていたハズのソレを再現しようとする事が、彼らに取っては何よりも難しいモノとなっている様子であった。


 しかも、ソレだけでは無く、今はまだ小さく微かに聞き取れるか否か、と言った程度の音量でしか無いのだが、彼らの身体から、鱗や骨が軋みを上げ、肉が潰され血液が逆流し始めている、ある種破滅的な音が彼らの内部から発生し始める。



 唐突かつ致命的な予感をもたらす事態に、パニックを引き起こす『炎竜』の群れ。


 どうにかしてその事態を無効化するか、もしくはソレが引き起こされている場所から退避しようとして必死に足を振り回して地面をのたうち回るも、ソレに囚われながらも様々な方法にて脱出を試みる十頭全ての行動は、無為に終わってただただ自壊の恐怖に震えながら地面を揺らすのみとなり果ててしまう。



 そんな、見る者が見なくとも『恐怖体験』に分類されるであろう現象を引き起こしたのは、当然の様に腕を掲げて『何か』を成したのであろう張本人であるシェイド。


 未だに掲げたままとなっているその腕は、よくよく見てみれば薄く魔力の光を放つ魔法陣を幾つも貫いている形となっており、明らかに何かしらの魔術を行使している状態となっていた。



 更に言えば、彼が腕を掲げているその直線上に在る先、丁度『炎竜』の群れの頭上に当たる場所にポツリと黒い球が浮かんでおり、あからさまな迄に意味在り気な魔力を周囲へと放っていたりもしている。




「…………ふむ。

 初めて使ったが、この『黒球重圧』は中々に便利だな。

 面制圧で絶大な効果を発揮するだけでなく、相手を生かすも殺すもこちら次第、って状況に容易く持ち込めるって言うのが良い。

 ……まぁ、相手がある程度頑丈で在ってくれないと、ちと面倒な事になりそうではあるけど」




 彼が行使した固有魔術である『重力魔術』の一つである『黒球重圧』は、実の処としてはそこまで強力無比なモノ、と言う訳では無い。


 効果としては、至極単純なモノであり、ソレは『指定された範囲の重力を加速的に増加させる』と言うモノでしか無い。



 言ってしまえば、掛けられた対象が気付かない程度の加重から始まり、気付いた時には自力で身体を支える事が出来なくなる程の重量へと無理矢理引き上げる、と言うだけのモノであり、効果の及ぶ範囲もある程度は任意で設定出来るとは言え、ソコから出られてしまっては効果が無くなる、と言う一見使い途が無さそうな術式の一つであった。


 しかし、実際に使ってみれば、下手な高階位の魔術を、それこそ第八階位の魔術を行使するのとほぼ同等であろう成果を叩き出して見せているのだから、やはりモノは使い様、と言うことなのだろう。



 現に、巨体相応を通り越し、その屈強な筋肉に魔力を流す事によって異常な迄の暴威を振るって見せる彼らの肉体は、自重がたったの数倍になっただけでギシギシと軋みを挙げ、徐々に、なれど確実に潰されて行く内臓の激痛により、血泡混じりの絶叫をあげながら挙げながら、まるで『死にたくない!』と命乞いをしているかの様にもがき回っていた。



 ソレを、無感動に無慈悲に眺め続けるシェイド。



 命乞いをしてきた相手が人間であればまだ一考にはした(助ける、とは言っていない)のだろうが、相手は幾ら高い知能を持っている、とは言え魔物。


 所詮は獣に過ぎないのだから、ソレを聞き入れて後の自らに対する脅威を増やしてやる必要性は欠片も無い。



 …………とは言え、別段相手をいたぶる事に快楽を見出だしている訳では無い(!?)故に、これ以上苦しめる必要性も無いだろう、と制御の為に注いでいた魔力の出力を上昇させ、それまでよりも発生している重力負荷をより大きなモノへと変化させる。



 それにより、それまで地面にて弱々しくのたうっていた『炎竜』の群れは、まるで熟れすぎた果実を踏み潰した様な、水っぽい柔らかさと硬質的な固さを同時に感じさせる、ある種の矛盾を孕んだ音を周囲へと響かせながら次々に沈黙して行く。


 その結果として、外見上原型は留めているものの、足が本来曲がってはならない方向へと歪に曲がっていたり、本来収まっていなければならなかったハズのモノが収まっておらず、色々な箇所から色々なモノが溢れ落ちてしまっていたりしながら、微かに身体を痙攣させるのみとなっていた。



 つい先程、手痛い攻撃を食らって(世間的には)重傷と呼ぶに相応しいだけの痛手を受けた相手よりも、更に格上と思わしき個体が群れで居たにも関わらず至極アッサリと倒して見せたシェイドであったが、自身が行使している『黒球重圧』を解除する事は無いままに、得物を抜き放って『炎竜』の群れへと近寄って行く。



 未だに魔術を解除していない関係上、一定のラインまで近付くと同時に彼もその影響下に置かれる形となってしまうが、当然の様に自らの放った攻性魔術に当たったからと言って特に何がある、と言う訳でも無く、ただ一人平素と変わらぬ足取りにて超重力の影響下に在る場所を歩いて行き、倒れ伏す『炎竜』の隣へと立つ。


 そして、魔力による探査や、実際に軽く攻撃して見ることにより、確りと絶命しているかどうかを確認してから『黒球重圧』を解除すると、順次得物で急所を貫いてから次々に『道具袋(アイテムバッグ)』へと収納して行く。



 ソレが終わった頃合いには、流石にサタニシスの方も終わっていたらしく、彼女が展開していた魔法陣を畳んだ時には既に、彼女の目の前には穴だらけとなった『炎竜』の死体の山が出来上がっていた。




「…………取り敢えず、群れの掃討はコレでお終いかね?

 とは言え、本命の個体が居なかったのは拍子抜けだが、ここまでの規模の群れが在った、って証拠を提出すれば、流石に依頼失敗にはならないだろうよ」



「…………?

 なに言ってるの?シェイド君」



「…………あん?」



「確かに、群れは壊滅させたし、これだけ掃討して見せれば依頼も成功になるだろうし、ギルドでも嘗めた真似をされなくはなるだろうけど、でもまだ()()()()()()()()()()()のに、もう帰るの?」



「…………は?

 目の前って言われても、もう何も無いだろう?

 精々、広場の中央に在る小山位しか…………」




 そう、自身へと視線を向けず、戦闘態勢を未だに解除しないままにて例の小山を見詰め続けているサタニシスに対して言葉を返したシェイドであったが、彼女から向けられた言葉に釣られる形にて視線を向けた小山の一部が唐突に開かれ、ソコに生物のモノである瞳が覗いている事に遅れて気が付いたのであった……。




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