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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
八章・反逆者は『精霊国』にて己の現状を知る

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反逆者は監視者と共に竜退治へと赴く

 


 古びた依頼書を手に取ったシェイドは、周囲から巻き起こる嘲笑を気にも止めずに受付へと向かうと、空いていたブースの一つに入り込み、中に居た受付嬢へとカウンター越しに依頼書を提出する。




「…………一応、受注制限等は無かったと思うが、受ける事自体に問題は無いかどうか、確認を頼みたい」



「…………その、失礼を承知でお尋ね致しますが、本気でしょうか?

 相手はあの『竜』ですし、何より実力の方が伴わない無謀な挑戦を看過するのは、ギルドの職員としてちょっと……」



「…………なら、取り敢えず証拠になるかは分からないが、ギルドカードの討伐記録を見てくれると助かる。

 あと、同じ職員のエルフ族の彼……あぁ、確かアルバースとか言ったか?彼が保証してくれるハズだ」



「アルバースが、ですか?」



「あぁ、そうだ。

 少なくとも、俺の名前を出せば、頷いてくれるハズだ。まだ不安なら聞いてみてくれ」




 告げられた言葉により、訝しむ様に額にシワを寄せる受付嬢。


 しかし、それも当然の事、と言えるだろう。



 何せ、普段からして受け付け業務を行っているハズの自身が見覚えの無い相手が、この支部に勤めて長く、その上でギルド内部でも決して地位や信頼は低くない存在であるアルバースの名前を出しただけでなく、本人に確認を取った上で判断してくれ、等と言い出したのだ。


 言い換えれば、身形と実績はソコソコ在るらしいが全く顔を見た覚えの無い系列会社の社員が唐突に企画を持ち込み、その上で役職に就いている者の名前を出しながら『そいつに聞いて貰えばGoサインが出るから』と宣っている、と言った状況にも近しいモノがある。当然の様に、快く『はいそうですか』と通せるモノでは無いだろう。



 …………とは言え、とは言えだ。


 そんな心持ちであったとしても、相手がそう言っている以上は一応は確認しなくてはならない、と言う事になっている。



 これは、以前も外見や年齢のみを見て実績を判断せず、実力の在る冒険者を追い返した挙げ句、その直後に強大な魔物が発生して大変な事態になった、と言った件が在ったが為に規約として定められているし、何より個人の偏見によって勝手に判断してはならない、と言う勤め人として当然の心掛けでもある。


 それに、もしかして万が一、本当に知り合いであり、かつ本当に互いの間でそう言う話が出来上がっていない、とは当事者では無い彼女では、どうやっても判断できない事柄でもあったのだから。



 故に、その受付嬢は訝しむ視線を彼へと向けながらも、受け取ったカードと共に依頼書をその手に持ち、少し前にアルバースの手によって彼らが連れ込まれた奥の扉へと向かって行く。


 その姿を見送ったシェイドとサタニシスは、今度の獲物を相手にする場合、どの様な準備が必要となるのか?と言った話題で会話を始めて行く。




「取り敢えず、近郊の森、とは言っているが、具体的にどの辺りに居る、って類いの情報は無かったからな。

 ある程度の野営は覚悟しておくとして、食料品でも買い足しておくべきかね」



「確か、まだまだシェイド君の方には残ってたよね?

 それでも、買い足しておくのかしら?」



「まぁ、そりゃ、な。

 食うだけで良い、って言うなら別段構いやしないだろうが、流石にそろそろ別のモノも足しておきたいからな。

 お前さんだって、そろそろ別の味とか恋しくなってきた頃合いじゃ無いのか?正直、飽きてきただろう?」



「………………そこには、否定はしないけど……でも、もっと他に準備しておくモノとか、普通在るでしょう?」



「……そうは言うが、具体的にどれが必要、って事はまぁ分からんでも無いが、そんな類いの代物をそうホイホイ賄えると、本当に思ってるのか?

 具体的に言えば、今回は炎竜みたいだから火炎に対して耐性を持たせる護符だとかが在れば確実に楽にはなるだろうが、そんなモノが何処で売ってるよ?」



「…………まぁ、そう言っちゃえばその通りなんだけど……」



「その手の護符なんざ、人の手でも作れなくは無いんだろうが、それでもやっぱり効果的にはイマイチだからな。

 本格的なモノを欲するなら、やっぱり『迷宮』から得られたモノにせざるを得ないし、そこまでの効果のモノは売りには出ないんだから、考えるだけ無駄だろうがよ?」



「…………で、でも、ほら!

 例外的にそう言うのが作れちゃう人だとか、居るかも知れないじゃん!?

 あのドワーフ族の職人のお爺さん、ギルレインさんみたいな人だとかみたいな、ね!?」



「それこそ、本当に例外じゃねぇかよ。

 そんな規格外の腕前の職人になんてそうそう出会える訳も無いし、出会えたとしても直ぐに作って貰えるハズも無いだろうが」



「…………う、うぐっ……!?」



「それに、そんな凄腕の作品、依頼するにしても、市場に流れたヤツを買い求めるにしても、一体幾らになると思ってるんだ?

 流石にまだまだ蓄えは在るし、もう大口で使う予定は無いから『絶対に手が出ない』って事は無いにしても、そうホイホイ買い求められる様なブツじゃ無いのは確定してる事だろうに?」



「………………わ、分かったから……もう、十分承知しているから……この辺で、勘弁して貰えないかしら……?」



「…………まぁ、でも、適当に市場を覗いて見る、ってのも悪くは無いかもな。

 もっとも、それには場所から聞き出さないとならない訳だけど、な」



「…………っ!えぇ!

 そうしましょう、そうしましょう!

 ふふっ、シェイド君とお買い物デート~♪」



「…………いや、別段『デート』だなんて大層なモノじゃ……」




「た、大変お待たせ致しました!!」




 サタニシスが自らの発言によってテンションを上昇させ、目に見えてウキウキとし始めた為に敢えて水を差して落ち着かせようとしていた彼の言葉を遮る様にして、受付嬢の声が二人へと突き刺さる。



 慌てて駆けて来たらしく、その息は上がっており、直前まで整えられていたハズの髪や衣服に僅かながらとは言え乱れが発生する程であった。


 …………どうやら、話を聞け、と振ったアルバースから本当にある程度の説明を受けてきたらしく、それまでの自らの対応具合に顔色を悪くもしていた。



 が、別段シェイド本人としては、目に見える全てに噛み付かないと気が済まない、と思って生きている訳でも無いので、特別緊急性が高い案件であればまだしも、特に急いではいないような今回の件に付いては、この程度待たされた程度でキレ散らかすつもりは無いので完璧に杞憂であったのだが、それは言わぬが仏、と言うヤツかも知れない。



 そんな訳で、特に怒っている訳でも、苛ついている訳でも無いシェイドは、手振りで『大丈夫だ』と示して見せてから、視線にて続きを促して行く。


 すると、それを受けた受付嬢も、取り敢えずは大丈夫なのだろう、と端から見ていても分かる程度に安堵の表情を浮かべると、手にしていたカードと依頼書を彼へと返却しながら続きを口にして行く。




「申し訳ございませんでした。

 アルバースさんの方から、確認が取れました。

 お二人であれば、特にシェイド様であれば、この案件をお任せしても大丈夫だろう、と言う太鼓判も出されておりますので、受注して頂くことに問題はございません。

 受注して、頂けますか?」



「あぁ、元々そのつもりだったからな。問題ない。

 ……ただ、見ての通りに俺達はこの辺りは初めてで、色々と疎くてね。

 現地として指定されている場所は当然『何処なのか』も分からないし、そもそもこの街の名前すら知らないんでね。

 その辺、助けて貰えると助かるんだがね」



「あ、はい!承りました!

 …………では、こちらをご覧下さい」




 彼の言葉を受け、蜻蛉返りするかの様な勢いにてカウンターへと駆け戻った受付嬢は、その内側から一枚の地図を手に取ると、先程と同じ速度にて元の位置へと舞い戻り、彼らの前へと手にしていたモノを広げて見せる。


 それは、大きな街とその周辺が描かれた地図であり、同じく手にしていた別のモノは同じく地図である様子だったが、縮尺や記入されている線の形からこのアルベリヒの国家地図の類いである事が見てとれた。



 そうして広げられた地図の内、街の周辺を比較的詳細に書き込んで在る方の地図を受付嬢が指差すと、ソレの説明も兼ねて口を開いて行く。




「まず、ここがお二人も含めた私達が居る街であり、依頼書にも名前が載っていた都市『ブルムンド』となっております。

 そして、お二人に向かって頂くのは、このブルムンドから東に半日程行った処に在る近郊の森なのですが、目標の炎竜が居場所として定めているのは、その森の中央部分になります」



「…………この地図から察するに、ソレなりに大きな規模の森になっているみたいだが、何故今の今まで放置を?

 冒険者の仕事場としても、近隣の住人達の糧を得る場としても重宝しただろうし、何より魔物の間引き等も出来ていなかったんじゃ無いのか?」



「そこは、深度の問題でした。

 何故かは未だに不明ですが、ここで観測されている『竜』は一定の縄張りから出てこようとしないのです。

 その為に、不用意に近付いたり、縄張りを荒らしたりする事が無ければ接触せずに済むので、その外側で用事を済ませていた、と言う事だそうです」



「…………ふぅん?

 じゃあ、この『竜』がここに住み着いたのって、どのくらい前からなのか、とか分かったりするかな?」



「そう、ですね……。

 少なくとも、記録に依ればこの依頼はここ十年近くは貼り出されている、となっています。

 ですので、発見からそう大きくずれ込んでいなければ、大体十年程、と言った事になるかと……」



「…………あちゃ~……じゃあ、そろそろ()()()()()()()かなぁ……」



「…………あの……?」



「あ、いやいや、何でも無いよ。

 ただちょっと、百年竜クラスなのか、それとも普通のヤツなのかを知りたかった、ってだけだから」



「でしたら、恐らくは大丈夫かと。

 記録に残っている限りではそこまでの大きさでは無かった様子ですし、比較的最近の情報でも()()()()()()()()()()()()()()との事でしたので、やはり住み着いた時から比較的若い個体だった、と言う事かと……」



「…………了解した。

 取り敢えず、コイツはギルドとしては討伐して構わない個体、と言う事で良いんだよな?」



「勿論です。

 縄張り内部での勝手な魔物の個体数調整等には助けられてはおりますが、ソレ以外にてもたらされる不利益が大きく上回りますし、間引きも人を送ればソレで済む事でしか無いので、脅威として排除して頂いて構いません」



「…………なら、急ぎでは無いにしても、早い方が良いだろう。

 早速、行くとするか」



「えぇ~!?

 お買い物デートは!?」



「………………終わったら、だ」



「…………は~い……。

 ちぇっ……楽しみにしてたのになぁ~……」




 拗ねた様に唇を尖らせるサタニシスに対し、苦笑を浮かべながら今後の予定としての約束を入れるシェイド。


 既に知りたい事は知れているのだから、と受付嬢にこれから出発する事を告げた二人はそのまま席を立つと、連れ立った状態にてギルドの建物を後にするのであった……。





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