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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
八章・反逆者は『精霊国』にて己の現状を知る

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反逆者は取り敢えずの方針を定める

 


 一度は大胆な思考に支配されつつあったシェイドも、サタニシスからの呼び掛けにより平静を取り戻す事に成功し、取り敢えずこうして呼び出された目的を果たしてしまう事にした。




「…………まずは、俺達が誰なのか、って事を横に置いておくとして、こうして呼び出したって事は事実確認が目的何だろう?

 なら、一応はもう果たせているんじゃ無いのか?」



「えぇ、そうですね。

 今回お呼び立てしたのも、その辺の話を聞かなくてはならなかったからですが、『流浪の英雄』シェイド様が相手であれば、最早話を聞くまでも無かった様子ですからね」



「………あら、じゃあなんでこうやってわざわざ奥に連れ込まれたのかしら?

 貴方がこんな事をしなければ、私達は悪目立ちしなくても済んだと思うのだけど?」



「そこは、規定ですので。

 ソレに、直接言葉を交わして人となりを確認し、その上で実績となりうる討伐記録を確認したが故にお二人を本物だと認識する事が出来たのですから、無意味では無かった、と思いますよ?」



「……まぁ、その辺については、もう良いよ。俺も、突っ込まない方針で行くから。

 で、取り敢えずこれでもう俺達は無罪放免で良いんだよな?」



「えぇ、そこは勿論。

 何せ、彼らから突っ掛かって行った事は確認が取れていましたし、シェイド様がその気になっていたら、あの連中はもうこの世に存在して居なかったハズですからね。

 それで、問題は無いかと」




 そんなにやり取りをアルバースとした後に、解放される二人。



 再びギルドのロビーに戻って来た二人であったが、そもそもの目的である『情報収集』が全くもって出来ていない、と言う事に今更ながらに思い当たる事となる。



 …………流石に、さっきの今で、アレだけ持ち上げてくれていた相手に対して『そもそもここは何処なのか?』と言った基本的過ぎる情報を聞きに行くのは憚られるし、他の職員に尋ねたとしても何かの拍子で話が伝わって不審に思われる可能性も高い。


 その為に、残念ながら最も簡単かつ確実な方法である『職員に尋ねる』と言った事を選択する事が出来なくなってしまった事に、思わず頭を抱えたくなるシェイドであったが、過ぎてしまった事は仕方在るまい、と即座に思考を切り換えて次善の策を探り始める。




「…………取り敢えず、どうする?

 先ずは、冒険者連中に聞き込みでもしてみるか?」



「でも、私達来て早々にやらかしてる訳だから、そう上手くは話してくれないんじゃ無いかしら?

 確実に、話させるだけで相当に奢らされる事になると思うけど?」



「とは言え、初手でガツンとやって置かないと、後々まで嘗めた態度取られかねないからな。

 アレはアレで、最適解だったとは思うがね」



「そこは、ね?

 お姉さんもそう思うけど、それはそれ、ってヤツじゃない?

 力量を示して黙らせる、喋らせる、ってなると、実力行使に出るのでなければ、大きな依頼でも達成して見せる、って事が一番手早いとは思うけど……」



「…………だとすると、下手な依頼じゃ足りないな。

 それこそ、難易度が高過ぎて長い間塩漬けになっていた、みたいなヤツじゃ無いとインパクトが足りないからな。

 とは言え、そんな依頼が都合良く残っている訳も……」



「………………ねぇ、アレとかそうじゃ無いかしら?」



「………………ん?」




 シェイドからの提案により、一足先に視線を依頼書が貼り出されている掲示板へと向かわせていたサタニシス。


 そんな彼女が、ソレらしいモノを見付けたらしく、掲示板の一角にその指先を向けながら声を挙げる。



 その声に反応したシェイドが、彼女が指差す先に視線を向けると、ソコには他の依頼書に埋もれる様にして貼り出されている古びた依頼書の姿が飛び込んで来た。



 …………周囲の依頼書が、未だに元々の白さを保っているのに比べ、その依頼書は貼り出されて長いのか日に焼けたかの様に、若干ながらも茶色い色合いを醸し出し始めていた。



 他とは異なるその佇まいに興味を引かれたシェイドが、無言のままにその依頼へと向けて手を伸ばす。



 その光景は、場所が場所であり、かつ周囲の状況が状況であった為に、ギルド内部から無駄に注目を集めることとなってしまっており、当然の様に『新入り』に対して嘲りやマウントの意味合いを込められた野次が周囲から襲来する事となる。




「おいおい!見ろよ、アイツ!

 新顔の癖に、あの依頼取ろうとしてやがるぜ!」



「おっ?本当だな!

 只の命知らずか、それとも自意識過剰なバカか、もしくはその両方か。どれだと思うよ?」



「そんなの、賭けるまでも無いでしょう?

 両方の一択で、しかもこの後仲間を見捨てて自分だけ逃げ帰って来る、に決まってるじゃない。バカらしい!」



「えぇ、結果を見るまでも無いですね。

 ですが、それでも賭けたい、と言うのでしたら、彼が依頼を達成して戻ってくる方に、金貨でもベットして貰えるのなら、乗っても良いですよ?

 勿論、私は手堅く『全滅する』に賭けさせて頂きますけど」



「なら、俺は『失敗するが両方とも生きて戻ってくる』に銀貨一枚だな!

 阿呆は阿保だが、多少は骨の在りそうな阿保だと見た!だから、撤退する位は出来るだろうよ!」



「であれば、賭けを成立させる為にも、大穴を狙って我が『手傷を負わせる事には成功する』に賭けてやろうか?

 勿論、生きて帰ってくるか、は条件の内に含めずに、な」



「ど阿呆、そんなガバガバの条件でなんて、受けられる訳がねぇだろうがよ。

 せめて、どっちかの指定位はしやがれってんだ」



「なれば、仕方無し。

 取り敢えず、成立させる為にも、生き残る方に賭けざるを得ない、か。

 まぁ、銀貨二枚程度だがな!」



「おいおい!誰か、生き残る方にもっと賭けろよ!

 このままじゃ、例え大穴の『相討ち』になったとしても、払い戻しが雀の涙にしかなんねぇぞ!」



「なら、お前がその大穴に賭けろよ!

 それとも、アレか?大穴過ぎてもう誰も賭けなくなった、『完遂して生還する』の一点張りでもして、俺達の財布を膨らませてくれるって言いたいのか?なら、大歓迎だがな!」




 ギャハハハハハハハハハハハッ!!!!




 …………エルフ族は当然として、様々な種族が集っているギルドのロビーが、下品な罵声と笑声によって埋め尽くされる。


 見目の整っているエルフ族であろうと、他の種族であろうと関係無く、ジョッキを片手にエールを煽りながら嗤い続けるその様は、醜悪、の一言に尽きる光景となっており、思わずシェイドも表情を歪めて不快な様子を隠そうともせず、舌打ちと共に視線を外して行く。



 そして、周囲から嘲笑われている元凶であるらしい依頼書を掲示板から剥ぎ取ると、その内容に目を通して行く。




『種類:討伐

 対象:炎竜

 場所:ブルムンド近郊の森

 報酬:基本報酬白金貨十枚・加算報酬要検討

 備考:対象となっている炎竜は自発的に周囲の集落を強襲する気配は見られない

 が、何時自発的に集落に対して攻撃性を向けないとも限らない為に、討伐ないし排除されたい

 討伐を成し遂げた場合には、別途報酬が出される方針となっている』




「………………成る程、成る程。

 これは、確かに厄い案件みたいだな?

 報酬もそうだが、依頼の達成条件も曖昧だし、何より相手が悪すぎる。『竜』を倒せ、と言うのなら、最低でもこの十倍は出して当然だろうがよ……」




 思わず、と言った具合にて、苦々しく呟きを吐き出すシェイド。


 その表情は呟きと同様に苦味が強く出たモノとなっており、如何にも『厄介な案件を掴んでしまった』と言わんばかりのモノとなっていたが、ソレはこの世界の情勢を鑑みれば()()()()()()()()()()だろう。



 …………この世界に於いて、明確な『人類の脅威』として知られている存在が幾つか在る。


 魔物もその一つであり、『迷宮』もその一つである、と言えるだろう。



 適切に管理し、その上で有効な活用方法を見付け出せさえすれば、幾らでも利用できる存在である、とも言えるだろうが、大概の人類に対しては文字通り遭遇すれば『命懸け』で逃走を図る事になるし、『迷宮』にしても管理を誤れば内部から魔物が氾濫して国が滅ぶ事に繋がる為に、やはり明確に『人類の脅威』の一つとして認定されてもいる。



 そんな中、唯一、スタンピードや魔物の氾濫、と言った現象と言う訳でも無く、また『魔物』と言った大きな括りで見た生物の総称としてもモノでも無い、その種族、その存在その物に対してそうした、明確な『脅威』として認定されているモノが在る。





 ━━━━ソレこそが、『竜』である。





 他のそれらが『魔物』と言う大きな括りに於いて漸く認定される『人類の脅威』と言う認定を、その一種類にて冠する、暴虐の化身。



 人の背丈を遥かに上回り、比較する対象が建物となる程の巨体と、ソレを支えるに十分な筋力から繰り出される破壊力は凄まじく、人が携帯できる盾や防具の類いを軽く捻り潰し、下手な城塞ならば体当たり一発で粉砕して風穴を空ける事になる。


 その上、全身を頑強な鱗で覆っているだけでなく、巨躯を支える骨格は並みの金属よりも強度が在るが故に、生身とは思えない程に高い耐久性を発揮し、更に言えば身の内から膨大な量の魔力を常時発生させている為に、攻防共に隙が無い完璧な殺戮兵器、とも呼称される存在だ。



 かつて、その『竜』を纏める上位存在である『龍』が居た時代には、明確な殺意を以てして徒党を成しながら人里を焼き払っていたらしいが、現在ではその『龍』もかつての英雄によって討伐されて姿を消してしまっている為に、極稀に『迷宮』の奥地にて出現するか、もしくは『はぐれ』が人里近くに迷い込んで、と言った事態が殆んどである。



 そんな、本来ならば大枚を叩いてでも、特級冒険者のみで構成されたパーティーを呼び寄せ、迅速に事を片付けなくてはならないハズの依頼がここまで放置され続けている理由は、恐らく出現した場所と居座っている『竜』の気性によるモノが大きいのだろう。


 町の近郊とは言え森の中であり、かつ攻撃を加えられなければ反撃する事もしない、となれば、倒せれば万々歳ながらも下手に刺激して大事になって貰いたくは無い、と言った権力者の意図が透けて見える様でもある。



 そんな理由から、恐らくは積極的にギルドへと働き掛ける事も、まともに戦力を投じて叩く事もせず、一応は、との思惑からギルドに依頼として張り出し、時折事情を知らずに挑んだ者達が返り討ちに遇う様になり、結果的に討伐出来ぬままに塩漬け案件へと相成った、と言う訳のだろう。



 なんて事を周囲の反応や依頼書の書面から読み解く事に成功したシェイドは、特に躊躇う事も無くその依頼書を手にしたまま受付へと向けて足を進めて行くのであった……。




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