反逆者は監視者と共に都市へと足を踏み入れる
連れ立っているサタニシスと共にシェイドは、比較的大きな都市である、と言えるだけの規模を誇る都市へと、何度か魔物に襲われる事にはなったものの何事も無く到着する事に成功する。
途中、全くもって人の住んでいる町や村を見なかった、と言う訳では無いが、それでもそれなりの期間目にしていなかった規模での人の営みを前にして、何やら圧力の様なモノを受け、若干ながら圧倒された様な心持ちになってしまう。
…………まさか、幾ら大きいとは言え、ただの建物相手にここまで気圧される事なんて有り得るのか?
圧倒されながらも、自らの内心に涌き出た疑問に素直に従ったシェイドが視線を横へとずらすと、ソコには案の定己と同じ様に圧倒された様子を見せるサタニシスの姿が。
…………しかし、その普段とは異なる様子に若干ながらも違和感を覚えた彼は、自らの内側に対して深く、小さく、細やか精度にて魔力探知の波を放って行く。
すると、自身の内部に、些細なモノであるとは言え外部からの魔力干渉が発生している、と言う事に気が付く事となる。
「…………フンッ!!」
パァンッ!!
「…………ッ!!」
何の効果を及ぼしているのか、そもそも効果自体が在るモノなのか、と言った疑問の類いを全てかなぐり捨てて、シェイドは半ば反射的に自らの内部から小規模な魔力放出を発生させる。
魔術としての特性を持たせる事も無く、魔力をそのままの状態にて外部へと放出させるだけの技術であり、当然の様に通常であれば威力・射程共に大した事では無い、子供騙しな程度のモノにしかならない。
…………が、自らの周囲に展開されている魔力を乱したり、既に自身へと干渉してきている魔力等に対して抵抗したりする事には、十分以上に役に立つ事も在る。
現に、彼が咄嗟に行った魔力放出により、彼がそれまで抱いていた圧倒される感覚は彼の中から消え去り、それと同時に隣にいたサタニシスもまるで夢から醒めた、と言わんばかりの様子にて首を振っていた。
「…………なぁ、これって何だと思うよ?」
「…………さぁ?
多分で良ければ、ごく軽度な精神干渉系統の魔術か、もしくは魔法に近しいナニカだとは思うけど、私に分かるのはその程度よ?
それに、あくまでも『予想』に過ぎないし」
「……『何か』までは分かっても、『何故か』までは予想出来ない、と?」
「そう言う事。
それに、『何処から』って言うのも、ちょっと分からないかも。
流石に、シェイド君と私が常時展開してる魔術防御を同時に、かつ私達に気付かれずに貫通させて干渉する、だなんて事が、早々簡単に出来るハズが無いし、視認すら出来ない位に遠くから仕掛ける、だなんて事も出来ないハズなんだけど……」
「とすると、定石なら希少な素材を山の様に注ぎ込みつつ何処かに大規模に陣でも刻んで、個人じゃ無く魔道具の類いとして効果を固定化させている様な感じにしてるんだろうが、そうすると本当に『大型化』する上に射程もそこまでじゃ無くなるハズなんだが……」
「…………エルフ族特有で、これまで秘匿していた技術の結晶、とか?」
「それなら、もっと重要な施設を守る為に、もっと出力を上げたヤツを限られた場所にだけ置くんじゃ無いか?
多分だけど、ここみたいに『有数の大都市』って程度のモノじゃなく、それこそ『首都・王都』とかのレベルの場所だけに、とか?」
「…………まぁ、そうよねぇ~。
ここまでの効果を発揮するんだから、流石に安価な素材で作り放題、とかにはならないハズよねぇ……」
自分達が感じた事に対して議論を交わしながら、一応は、と周囲に視線を走らせるシェイド。
彼の予想が正しければ、この近辺にそれらしき施設か、もしくは偽装された何かしらの装置の類いが存在しているハズなのだが、上手いこと隠されてしまっているのか怪しい小屋の類いは見受けられず、自然の他には精緻な細工の施された外壁のみしか見当たらなかった。
…………が、ならば可能性として残るのはコレ位なモノなのだが……とシェイドがそちらへと視線を向けて何処とは無く眺めていると、細工の中に定期的に僅かな光を放っている様に見える部分が在る事に気が付く。
ソレは、他の細工の中に紛れる様にして仕込まれているが、配置や光の強さから鑑みて恐らく『細工の一部』として組み込まれているモノでは無いのだろう、と思われた。
そして、よくよく目を凝らして見てみれば、その『光を放っている一部』はどうやら何かしらの図形を描いている様であり、強弱を付けながら明滅する様子はまるで生物の鼓動の様にも見て取れた。
…………流石に、この段に至れば、そちらの方面への造形があまり深くは無い彼としても、先程の疑問の答えがソコに在る、と言う考えに至り、同じく隣で首を傾げていた彼女の肩を叩いてから、自身の見付けたモノを指差して示してやる。
すると、最初こそ怪訝そうな表情を浮かべていたサタニシスも、次第に納得と呆れを同居させた様なモノへと表情を変化させて行く事となった。
「…………もしかしなくても、アレの効果?
って事は、この外壁って、そう言う事になるのかしら?」
「…………あぁ、多分だが、この外壁その物が、巨大な魔道具の類いなんだろう。
効果は…………外部から来た存在に対して、この外壁には敵わない、とか言う心象を強制的に与える、とか?」
「…………だとすると、本来は魔物避け?」
「もしくは、対外戦を前提としていて、一定以上の実力か、もしくは魔力量の持ち主に対して心理的に『壁を破壊して内部へと攻め入る』って選択肢を取らせない様にしたかった、とか?」
「でも、それにしても大規模に仕掛けている割には、効果がちょっとイマイチ過ぎないかしら?
そんな事をする位なら、もう少しやり様が在ったと思うのだけど……」
「その辺も含めて、情報収集してみない事には、今はまだ何も言えない、か……。
なら、取り敢えず行くしか無いだろうよ。
幸い、あの効果を払ったから、と言っても衛兵が飛んで来る様子も無い訳だし、入って話を聞く程度ならどうにかなるだろうさ」
「…………まぁ、それもそうね」
悩んでいた割にはアッサリと意識を切り替えたシェイドとサタニシスは、二人で連れ立ってあけはなたれている正面門(と思われるモノ)へと向かって進む。
流石に、方面的にはあまり交流が進んではいない国の方向を向いているとは言え、そちら以外とはそれなり以上の取引や交流が盛んに行われているらしく、巨大な門とソコに続く街道とはひっきりなしに荷物を満載にした馬車や荷車が行き交っており、非常に活気と人気に満ち溢れたモノとなっていた。
ソコに自然な流れで合流した二人は、特に怪しまれる事も、衛兵の類いに呼び止められる事も無いままに門を潜る事に成功する。
が、ソレにより二人が考えていた予想の大概が外れた、と言う事になり、逆に二人は揃って首を傾げる事となってしまう。
「ここまで反応が無い、となると、下手をしなくてもあの効果は都市側が意図して行っていたモノでは無い、って事になる、か?」
「でも、そうだとしたら、何のためにアレ付けっぱなしになってるのかしら?
消費魔力だって、バカにはならないハズだけど……」
「存在を知らない、なんてハズは無いしな。
機能だけを切る事が出来ないのか、それとも動力の類いは外壁の管理とは別口になっているのか……どちらにせよ、取り敢えずマークされてないなら、ソレに越した事は無い、か」
「それもそうね。
じゃあ、取り敢えず何処に向かうのかしら?何時もの通りに、先ずはギルドで良かったわよね?」
「そうだな。
取り敢えず、移動の報告と登録。後は、良さげな依頼が在ったらこなして、途中で狩った魔物の素材で売れるヤツは売っちまうとするか」
「情報の方は?」
「そこら辺は、ギルドに着けば嫌でも耳に入るだろう?
ソレを待ってから他の方面での行動を始めたとしても、別に手遅れになる、って訳でも無いだろうから、気にしすぎ無くても良いんじゃないか?」
「じゃあ、そう言う感じで行きましょうか。
あっ、すみませんそこの貴方!冒険者ギルドってどっちに在るか分かりますか!?」
元来、面倒見が良く、愛想も良く、物怖じしない性格であったサタニシスが、適当に周囲の人間に声を掛けて冒険者ギルドの場所を聞き出して行く。
そのついでに、安くて質の良い宿屋だとか、価格帯別のオススメの食事処等も聞き出す事に成功し、ホクホクの表情にて帰還した彼女の事を言葉で労ったシェイドは、ソレによってもたらされた情報を頼りに二人で通りを進んで行くのであった……。




