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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
八章・反逆者は『精霊国』にて己の現状を知る

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反逆者は『精霊国』へと足を踏み入れる

 



「…………さて、取り敢えずこれで出国の手続きは終わったが、本当に良かったのか?こっちから出て。

 このままだと、行き先は一つしか無いぞ?」



「良いも悪いも、元々の目的地はソッチでね。

 実を言えば、このビスタリアに来たのは、半分くらいは必要に駆られてだったが、もう半分は成り行きだからな」



「…………へぇ?

 だから、仕事も受けず、徒歩で抜けようとしている、って訳か?あんな、いけ好かない連中ばかりが住んでいる、あの国に?」



「……種族的に相性が良くないんだろうから、多少勘繰りたくもなるのは分かるけど、あんまりそう言う風には言って欲しくは無いかなぁ~」



「正直に言えば、仕事を受けていないのは、共通貨の方で貯えが在るから、って事も否定しないが、両方共に『偶々』だよ。

『偶々』、俺達が行きたい方向に対しての隊商が、都合の良い時期に出てなかったり、護衛系統の依頼が出て無かったりしたお陰で、こうして二人旅する事になってる、ってだけさ」



「…………ふぅん?

 ……まぁ、もうここから出るのだし、先にあれだけ貰っちまってるからな。

 ()()()の真偽も気になる処では在るが、その辺は聞かなかった事にしておいてやるよ」




 手続きを終えて戻ってきたウォルフェンが、シェイドとサタニシスの二人へと軽い調子で問い掛ける。


 何やら含みの在る質問ではあったが、一応は知らぬ間柄でも無かった為に、取り敢えず『指名手配されているかも知れないからソレを振り切るために』と言う事を隠した上で、本当の事を口にしてシェイドが返答として行く。



 …………しかし、その返答がお気に召さ無かったのか、それとも彼が故意的に黙っている事に気が付いていたからか、途端に何かしらを探る様な口調にて言葉を返される事となってしまう。



 が、ソレに対して二人は特に気にした素振りを見せる事も無く、平然とした様子にて傷付いた様に返答しつつ、気になっているのであろう部分の情報を、全てでは無いにしても嘘にはならない範囲にて回答して見せる。


 ソレにより、未だに納得には程遠く、かつまだ聞きたい事もあったらしいウォルフェンであったが、これ以上追求しても答えないだろうし、追求した場合どうなるか分からない、と判断してか、何やら意味深な呟きを溢しながら一応納得した素振りを二人へと示して行く。



 ついでに、とばかりに二人が提出していたギルドカードが返却され、無言のままにて手振りで『もう行って良いぞ』と示されてしまい、互いに肩を竦めるシェイドとサタニシス。


 だが、その方が二人に取っては都合が良いことも事実ではあった為に、結局は素直にその指示に従って関所を潜り抜けて進んで行く。



 ある程度まで進んで行くと、ソレまでの『道も何も無い草原』から、若干荒れ始めているものの地面は踏み固められているし、大雑把ながらも下草も払われてまるで『寂れた細道』と言わんばかりの状態の道(の残骸)が唐突にその姿を二人の前へと顕にして来た。



 大概の悪路は、その持ち前の健脚にて容易く踏破を可能とする二人であったが、ソレはソレとして歩き易い場所が在るのならそちらを優先するのは当然の事、とばかりにそちらへと向けて足を進める。



 そして、その細道へと足を踏み入れて暫く進み、周囲を夕日が赤く照らし出し始めた頃、二人の視界の真っ正面へと一つの構造物が映し出される事となった。




「…………ふぅ、漸く着いたな。

 これで、取り敢えずは一安心、って処かね?」



「まぁ、レオルクスからはもう大分離れてるし、隣のビスタリアとは種族的にも仲が悪いみたいだから追手の心配はしなくても大丈夫そうだけど、本当に良かったの?

 シェイド君の実力なら何処でだってどうにでも出来るハズなんだから、別に『ここ』にしなくても良かったんじゃない?」



「…………否定はしない。一応ね。

 でも、ここはここで、最高(ベスト)な選択では無いにしても、最優(ベター)な選択では在ると思っての行動なんだがね」



「その心は?」



「敢えて言うなら、立地と環境、かね?

 あの時、レオルクスからとっととトンズラするには、先ずビスタリアに逃げ込むのが最適だった。

 それに、ビスタリアであれば、レオルクスから要請が在ってもそこまで本気での捜索はしないだろう、って目論みも在ったからな」



「それは、勿論そうでしょうね。

 何せビスタリアって、今は大人しくしてはいるけど本質としては『侵略国家』だからねぇ。そんな危ない国が隣に在ったら、仲良くしたいとも出来るとも思えないのが現実、ってモノよねぇ~」



「後は、こっちに来る以外に実質的に選択肢が無かったから、とも言えるかね?

 クロスロードまで戻るのならいざ知らず、レオルクスから移動できる先なんて、軍事国家のビスタリアか、ガイアナス神聖国くらいしか無かったんだから、ほぼ一択みたいなモノだろう?」



「………………まぁ、噂に聞く『主神・ガイアナス』を崇める一神教の信者である事が入国の条件だったり、過去には只人族以外の種族、特に魔族を徹底的に排除しようとしていた歴史の在る国には、流石にお姉さんもちょっと遠慮しておきたいかなぁ~……」



「だろう?

 なら、ビスタリアに入るしか無いし、ビスタリアを抜けた先で考えるなら、レオルクスとも、ビスタリアとも仲の悪いこの国しか無いだろうよ?」



「…………いや、ね?

 その程度、お姉さんも把握はしているよ?把握は。

 でも、承服出来ているか、って言われちゃうとねぇ~」




 なんて事を言い交わしながら歩いて行くと、丁度夕日が稜線へと掛かる頃合いとなっており、関所の扉も残念ながら閉ざされる事となってしまっていた。


 が、未だに内部には人の気配がしている上に、関所の大扉の下草が立っていたり、外に覗いている巨大な蝶番が錆びていたりする様子から、普段からしてこちらは閉ざされる形となっているのだろうと当たりを付けたシェイドとサタニシスは、通用門として備え付けられている扉の方を力強くノックし始める。




 ━━━━…………ガンッ!ガンガンガンッ!!




 一応、とは言え、表面を金属にてコーティングして強度を高めて在る扉を、素手である事も厭わずに、かつ人体で殴り付けているとは思えない程に硬質な音を内部へと響かせて行くシェイド。


 特に痛がっている素振りも見せず、平然とそんな事をやって見せるその姿に、サタニシスはドン引きする…………事は無く、ソレを自分にやらせずにやってくれるなんて男の子だよねぇ~、と矢鱈と大きな胸の内を人知れずにキュンキュンと高鳴らせていたりもした。



 そうして、扉を叩き続ける事僅かな間。


 慌てた様な様子にて、バタバタと扉の向こう側が俄に騒がしくなって行く。




「…………はい、はいはいはいっ!

 もう、叩かなくても良いから、少し待ってくれないか!?

 今開けるから、もう来てるから、取り敢えずノックするのはもう止めてくれ!煩くて敵わないじゃないか!!」




 急いで来たらしい気配が扉の向こう側へと現れると、未だに扉を叩き続けていたシェイドへと向かって、半ば怒鳴り付ける様にしてそんな言葉を掛けて来る。


 ソレに対して彼は、人が来て開けてくれるのならもう良いか、と素直に拳を引っ込めるが、先程まで叩き続けていた部分には既に、彼が拳を合わせれば丁度嵌まるであろう大きさの凹みが出来つつある状態となってしまっていた。



 …………若干の気まずさと共に視線を逸らしたシェイドであったが、その目の前にて、扉に下ろされていたのであろう錠がガチャガチャと騒がしい音を立てながら解除されると、内開きであったらしい扉が重々しくも軋んだ音を立てながら、内部へと引き込まれて行く。


 そして、開かれた扉の向こう側から職員と思わしき人影が姿を現したのだが…………




「はい、はいはいはいっ!

 全く、こんな時間にそんなに急いで、一体どうしたって言うんだい?

 特に、緊急事態になっている、だなんて話はこっちには来てないよ?

 只でさえ()()()()()()()()()()()()()のだから、少しは気を弛める事も覚えた方が良いんじゃないのかい?」




 …………のだが、ソコに現れた人物は、美麗で繊細な顔立ちをして長い耳を持っている、『エルフ族』であったのだ。



 整った相貌と、ソコに嵌まる宝石の様な美しさを宿した瞳を彼らへと向けているそのエルフ族の男性(服装と口調から推定)は、特に彼らへと『怒り』や『警戒』を滲ませた雰囲気を向ける事すらせず、欠伸すら漏らしながら彼らへと向けて関所の内部へと入る様にと手振りで促して見せる。




「…………悪いね。

 取り敢えず、通るだけは通っておきたかったんだよ。

 その様子じゃあ、もうこっち側だと関所は閉めちまってたのかい?」



「まぁ、そんな処だよ。

 もう少し遅ければ、下手をしなくても仕事は終わったから、と無視していただろうし、もしかすると()()()()()かも知れないから、次からは注意しておくれよ?

 はい、じゃあ身分証と、出国する時に貰った出国証明書出して」



「はいよ。

 これで、大丈夫かい?」



「…………うん、大丈夫そうだ。

 あっと、そうだ。こっちで『お迎え』するのは久し振りだったから、忘れる処だったよ。

 ━━━━ようこそ、『妖精国アルベリヒ』へ。我々エルフ族は、貴殿方を歓迎致します」




 そんな言葉を受けた二人は、改めて自分達が足を踏み入れた土地。


 長命種であるエルフ族が主導して治める常若の国、妖精国アルベリヒへと入ったのだ、と言う実感を得る事となったのであった……。




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