反逆者は監視者と合流を果たす
予告通りに新章開始です
果たして、どうなる?
とある『稀人』の少年が己の胸に新たな誓いを刻んでいたのと同じ頃。
ビスタリアに於ける辺境の地、幾つか在る国境線の内の一つの近くにて、周囲よりも小高くなっている丘の上にて佇む人影が一つ存在していた。
その人影は、旅人にしては背に大きな荷物を担いでいる訳でも無く、また冒険者にしてもセオリーの通りに隊商等の護衛として動いている、と言う風にも見えないし、本格的に武装している様にも見えてはいなかった。
特に、何と分類して良いのか分からない程の軽装に、深くフードを下ろして顔を隠しているその様子は、端から見ていても不審者以外の何者でも無く、即座に通報されて然るべきであろう程の『怪しさ』が醸し出されていた。
…………とは言え、ただの不審者であれば、端から見ている限りでは特に武装している様には見えない程の軽装にて、幾ら『迷宮』や危険地帯指定を受けている場所が近くには無いとは言え、普通に魔物が出没する場所にこうして無防備な姿を晒せるだけの余裕が在る、とはとても言えないのだろうが。
そんな、怪しさだけは満点な人影が、特に移動する素振りを見せるでも無く、休憩するにしても水場があったり木陰になっていたりと、もっと条件の良い場所が近くに在るにも関わらず、その場から動くこと無く座り続ける事暫しの間。
座り込んだままで特に何をするでも無く、時折何処からか取り出した水袋から中身を飲んだり、何かしらの携帯食料を口にしたり、余程暇であったのか傍らの雑草に指を遊ばせたりしていた人影は、不意に何かを感じ取ったのかそれまで向いていた方向から別の方向へと、視線の向きを変えて行く。
…………暫しの間、周囲に変化は発生せず、ただただ時折吹き抜ける風が草原を波打たせるのみであった。
が、幾ばくかの時が経った頃、丁度人影が視線を向けている方向に変化が訪れる事となった。
ズバリ、何が起きたのか?
その答えは、至極単純。
向けられていた視線の先に、唐突に人影が現れたのだ。
遠くから、走る等の手段を用いて、少しずつ影が大きくなってきた訳でも、空を飛んで突然人影が降ってきた訳でも無い。
文字の通りに、何の脈絡も無くその空間へとインクのシミが滲み出て来るかの様に、唐突にその場にフードを目深に下ろした人影が出現したのだ。
見るものが見なくとも、下手をしなくとも怪奇現象に近しいモノを目の当たりにしながらも、元々その場に居た人影の方は、特に動揺を示す様な事はせずにその場で手を掲げて行く。
ソレに対して新たに出現した人影の方は、まるで何かしらがソコに在る、と言う事を確信している様な素振りにて周囲を見回していたのだが、先に居た人影の方が腕を掲げた為に、その動作によって存在を認識したらしく、視線をそちらへと固定してしまう。
そして、暫くの間『フードを目深に下ろした人影』と言う怪しさ満点の状態にて見詰め合っていた二人であったが、後から来た人影の方がその場から駆け出し、元々その場に居た人影の方へと凄まじい速度にて近寄って行く。
唐突なその行動に対し、元々居た人影の方も掲げていた腕を下ろし、座ったままでありながらも僅かに身構えて見せている様な雰囲気を醸し出す。
両者を隔てていた空間があっと言う間に食い潰され、互いに覗き込めば相手の顔が視認出来るであろう距離まで縮まり、端から見ていれば二人が衝突する寸前、と言う程の位置に至った時。
後から来た方の人影が、現れた時と同じ様にして唐突に、その場から姿を掻き消してしまったのだ。
まるで、灯火を吹き消した様にして一瞬で、目の前まで迫っていた存在が来てた事により、元々その場に居た人影も動揺を顕に周囲を見回す…………と言った様な事はせず、靭やかな動作にてその場に立ち上がり、尻の部分に残っていた草の残骸や土汚れを叩き落とすと、座っていた事で多少の強張りを訴えている身体を心地好さそうに伸ばして見せる。
大きく身体を伸ばして一息吐いていた人影の背後から、唐突に白魚の様な艶かしさと繊細な柔らかさを宿しているのが一目で見てとれる腕が突き出され、人影の首回りへとシュルリと回される。
そして、腕によって作られた輪は速やかに狭められ、人影の首元に絡み付く首輪へとその姿を変貌させると…………
「やっほ~!お姉さんだよ~!
久し振りだね、シェイド君♪」
…………変貌させると、人影の耳元へと吐息を吹き掛けながら、甘く蕩けた美声にてそう告げる。
発せられた言葉に込められた『親愛』や『熱情』の類いは極親しい者に向けられるであろうモノであり、かつこうして抱き締めながらその背中に、遠目にはローブを纏っている事で隠蔽されていたが、その実中々の大きさを誇る自らの双丘を遠慮無く押し付けている事から、謎の技術によって高度な奇襲を仕掛けて見せた存在が女性であり、かつ抱き着いている相手に対して並々ならぬ好意を抱いているのであろう事が、容易に見て取る事が出来た。
そうして、滴りそうな程に好意の込められた、男性に取っては『嬉し恥ずかし戸惑いし』なこと間違いない抱擁を背後から受けた『シェイド』と呼ばれたその人影は、飛び付かれた時こそ多少その身を揺るがせる事となったものの、ソレ以外は特に大きな動きを見せる事無く、自身の肩口から突き出された、フードの奥から覗く紫色の瞳と髪を持つ美貌に対して
「…………あぁ、久し振りだな、サタニシス。
悪いな。後始末ばかり任せちまって」
と、こちらも、確実に一定以上の親愛やソレ以上の感情を込めているのであろう声色にて、至近距離から覗く彼女の顔へと目掛けて囁き返す。
すると、その状況が思っていたのより恥ずかしかったのか、それとも自身と相手との距離(ほぼ0距離)を思い出したからか、腕と同じく透き通る様な白く柔らかな頬を赤く染めて僅かに身体を離しながらも、抱き着いている状態は維持しながら再度言葉を紡いで行く。
「…………ん、んんっ……もう、そんな事言わないの!
私は、自分でやりたいと思ったから君に協力して上げたんだから、もっと胸を張って『良くやった!』とでも言ってくれれば良いのよ!」
「まぁ、それはそうかも知れないが……別にやらんでも良かった事まで押し付けていた自覚程度は在るんでな……」
「それこそ、今更でしょう?
私だって、あの子達の事は可愛かったからお世話して上げていたんだし、ソコに関してはシェイド君も一緒じゃないの?
それに、期間が延びたのだってそう。もうそれなりの期間やってたんだから、ソレが一月半から二月に延びた処で、大して変わりはしないでしょう?違う?」
「…………そう、だな。
悪いな。俺の我が儘に付き合わせた事も、遣わなくて良い気を遣わせたのも……」
「もうっ!
だから、さっきから言っているでしょう!?
私だって、好きでやっていたのだし、楽しくてやっていたんだから、気にしなくて良いの!
それに、お姉さんとしては、こう言う時は『悪い』って謝られるよりも『ありがとう』って言われる方が良いし、誉めて貰えてるみたいで嬉しいんだけどなぁ~?なぁ~~??」
「…………そう、か……そう、だよな……まぁ、当たり前の事、か。
悪…………いや、ありがとうな、サタニシス。助かったよ」
「ふっふ~ん♪
そうでしょう、そうでしょう!この、有能な美人お姉さんにお任せあれ、ってね!
あと、そろそろお姉さんの事は『サタニシス』じゃなくて、愛称の『ニース』とかで呼んでくれても良いのよ?それか、ニシスお姉さん、でも可!
さぁ、試しに呼んでみようか!ほら、ほらほらほら!!」
「…………流石に、ソレはちょっと……ねぇ?
仮にも、俺とニースは被監視対象と監視者なんだから、そこまで接近し過ぎるのも良くないんじゃ無いの?
それと、やっぱり近しい間柄だったとしても、その…………恥ずかしいと言いますか……ねぇ?」
「そんなモノ、定期的に報告は送っているんだから良いんだよぉ!
そ・れ・に、別に監視者だからって、監視対象と仲良くなっちゃダメ、ってルールは無いでしょう?
いざと言う時に対応できるだけの手段を模索する事と、そもそもその『いざと言う時』を起こさせないのがお姉さんのお仕事なんだから♪
だから、もっとお姉さんと仲良くなってくれても良いのよ?
…………って言うか、さっき私の事『ニース』って……っ!!」
「…………さぁ、そろそろ行こうか!
一応、国境近くの場所とは言え、そこまで余裕が在る訳でも無いしな!
忘れてるかも知れないけど、俺達って指名手配されている可能性が高いんだから、さっさと移動しちゃわないとね!」
「あっ!こらっ!?
ちょっと、待ちなさい!?
もう一回、もう一回呼んでよ!ねぇ!?」
「…………はっはっはっ、知らんなぁ……!」
半ば一方的に会話を打ち切り、遠くに微かに見えている関所へと目掛けて歩き始めるシェイド。
唐突に、まるで逃げる様にして進み始めた彼の背中を、一瞬だけ呆然と眺めていたサタニシスであったが、彼が一度だけ溢した言葉を再度吐かせようと、その顔に喜色を満面に浮かべた状態にて頬を赤らめつつ、瞳を輝かせながら彼の事を追い掛けて行く。
当然の様に、シェイドもソレに追い付かれまいと足を早めて行く。
が、その時、唐突に吹いた強い風によって彼のフードが外れ、彼の素顔が顕となったのたが、確かにその耳は赤く染め上げられていたのであった……。
…………青春(?)してんなぁ……(  ̄- ̄)
なお、章タイトルを見ても一部の方々による放火要請等は受け付けておりませんので悪しからず
因みに作者もあの妖精郷は焼いた方が良い、と思う口です




