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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
七章・反逆者は『獣人国』にて弟子を取る

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反逆者は不撓の少年の成長を見守り、後顧の愁いを潰しに動く

 



「………………まぁ、こうなるわな」



「まぁ、そりゃあそうよねぇ~」



 観客席にてフードを深く下ろしながら試合を観戦していた二人組が、まるで結果は最初から分かっていた、と言わんばかりの口調にて互いに呟きを溢して行く。



 彼らの視線のその先では、黒髪黒目の少年であり彼の弟子でも在るマモルが常に圧倒する形で勝利を収め、ソレを審判が事実として周囲に宣言していた。


 そして、観客席から彼と同じ様に黒髪黒目であり踊り子の様な、薄く透けた扇情的な衣装を身に纏っている少女が舞台へと飛び降り、彼の元へと駆け寄って飛び付く様な形にて抱き着いて行く。



 余りに予想外な行動だったのか、慌てて手にしていた武具を消して(本人の『スキル』なので収納は自在、なのだとか)から彼女を受け止めるマモルであったが、その勢いの強さを見誤っていたらしく、体勢を保つ事が出来ずに抱き締めたままで尻餅を突く事になってしまう。



 いきなりの行動に、痛む尻をさすりながらマモルが例のサキと思われる少女に対して抗議しようとするも、向こうからも強く抱き締められただけでなく、自らの胸元から感じられる熱と湿り気と嗚咽とによって思考停止する羽目になり、その場で固まってしまう。


 経験が無い事態に、思わず周囲を見回すも、誰も彼に対して救いの手を差し伸べる様な事はせず、稀に視線が交わる相手も生暖かな視線を返して来るのみであった…………と言った処だろう、とフードを被っている二人組の内の片方であるシェイドは当たりを着けて視線をそこから逸らして行く。



 自身の幼馴染みとはその様な関係性になる事は終ぞ無かった事であるし、したいとも思ってはいない(思った事が無い、とは言わないが)が、そんな自らには訪れなかった青春の光景を直視する事が憚られた、と言う理由が欠片も無い、と言う訳でも無い(…………無いったら無いのだ)がちゃんと本命の理由は別に在る。



 …………ソレは、彼の視線の先、つい先程までサキと呼ばれる少女が居る事を強制され、そして現在は空席となっている場所に隣に座り、舞台にて抱き合う二人をまるで射殺さんとばかりに睨み付けている、この茶番劇を仕組んでくれた張本人だ。



 その獅子の特徴を持つ獣人族であるネメアヌスは、普段であれば自身の持つ公的な立場に相応しいだけの振る舞いを、どの様な心境であったとしても貫く事が出来ていたのだろう。


 あのラヴィニアが、こんな茶番劇に付き合い、決して分が良い、とは言えない賭けに乗るしか無い、と言う状況を作り上げる事が出来ていた以上、やはりそう言った方面にも強いのだろうと予測が出来た。



 …………が、そんな相手であれ、自らが後見人を務め、その上で自身の手で鍛え、闘技場内部での印象操作までやっておきながら、あれだけ無様な光景を衆目の元へと晒しただけでなく、完膚なきまでに一方的に叩きのめされる事となってしまっていたのだ。



 今は、既に試合終了が宣言され、負傷を治療する為にアイツ(としか聞いていないからな(byシェイド))は医務室へと送られてしまっている。


 が、観客席にて試合を観戦していた者達にとって見れば、そんな事は関係無く、今現在この場に残されている、彼に対しての様々な『教育』を行ったハズの人物に対して、ヒソヒソとアレコレ好き勝手に噂話に花を咲かせ始めていた。




 ━━━おいおい、何なんだよこの結果!

 まるで、赤子と大人の勝負じゃないか!


 ━━━しかも、あれだけ前振りをしておいて、ここまで無様に負けられるとはね。

 恥、と言う概念が彼らには無いのかな?


 ━━━まぁ、でも仕方無いのかもしれないぞ?

 何せ、彼の教導だけでなく後見人まで買って出たネメアヌス殿は、ギルドマスターだ。さぞや、ご多忙だったのだろう?


 ━━━いやいや、私の耳にした話によれば、寧ろ彼の教育を完全なモノにする為に職務を一時的に停止させ、その上で自らの手で鍛えていた、とも言いますぞ?


 ━━━なんと!?

 では、ネメアヌス殿の後進育成の力はそんなモノ、と言う訳ですか!?


 ━━━であれば、今後の冒険者ギルドの活躍には、余り期待出来そうには無い様子ですなぁ……




 そんな囀りが、隠そうと言う意思すら感じられない程の声量にて、方々にて囁かせれているのだ。


 これまで見下していた相手からの嘲りの囁きは、さぞやヤツのプライドを刺激しただけでなく、立場を危うくされたと言う事実にも激怒し、その内に鬱憤を溜め込む事となっているだろう事は、シェイドには容易に読み取る事が出来ていた。



 …………その為、シェイドからして見れば、この後ヤツは、この手の輩にとっては当たり前な、仕掛けられる側に取っては傍迷惑極まりない行為に出るのであろう事も、容易に想像できていたのだ。




「…………さて、じゃあ、俺は行くとしようか。

 この後用事が在ってな。悪いが、お祝いの言葉は、お前さんから伝えて貰っても良いか?」



「…………ふぅん?

 その用事、お姉さん抜きで大丈夫?

 私も、手伝って上げようか?」



「いや、不要だ。

 ……だが、万が一、と言う事が無いとも限らないんでな。悪いが『お祭り』には参加せず、アイツらの側に居てやってくれないか?

 そうでないと、下手をしなくてもラヴィニアの野郎に変な事を吹き込まれて、ヤツの手下にされかねんからな」



「ハハッ!言えてる!

 じゃあ、そうしよっか。

 …………頑張ってね?」



「無論」




 言葉少なく、二人組を形成していた片割れであり、自身の相棒でも在るサタニシスと分かれるシェイド。


 その間際に、チラリと舞台へと向けられた彼の瞳には、何処か誇らしげなモノを目の当たりにした様な光が宿っていたのであった……。





 ******





 …………今回の武闘会が終了してから数時間の後。


 これまでの武闘会の歴史の中でも珍しい、『稀人』同士の試合の劇的な結末により、未だに引かぬ熱気に沸き立つカオレンズベルクの一角に在る、高級住宅街のとある屋敷では、周囲とは異なる雰囲気に包まれていた。



 他の場所を支配しているモノを『正の熱気』とするのであれば、ソコに満ちているのは暗く、汚く、穢れている、誰かを蹴落とそうとして盛り上がりを見せている、言わば『負の熱気』とでも呼ぶべきモノとなっていた。


 ここまで言えば、察して貰えているだろうが…………




「おいっ!早く支度を済ませろ!

 奴らが油断している間に、さっさと強襲を仕掛けるんだ!急げ!!」



「あのガキだけなら楽勝だが、相手にはあのラヴィニアも付いてやがるんだ!

 さっさと確保しねぇと、俺らの首を蹴り折られる事になりかねねぇぞ!!」



「今ならまだ、勝ったと思って気を緩めているハズだ!

 なら、今こそ襲撃を仕掛ける絶好の機会なんだ!これを逃せば、もう好機は無くなると思って行動しろ!!」




 既に日も落ちていると言うのに、未だに物騒な単語が飛び交い、人々が行き交いながら様々な準備を進めている。


 端から見れば、宴の準備に追われている、とも思えたかも知れないが、そうやって行き交う人々の目が欲望にてギラギラと光を放ち、それぞれが武装した状態で在る事見えていれば、また別の感想を抱く事になるのは間違いないだろう。



 そんな人々の様子を、ふんぞり返って眺める影が二つ。


 一つは獅子の特徴を備えた獣人族。もう一つは、頭頂のみが黒い金髪黒目な、全身に包帯を巻き付けた目付きの悪い只人族。



 …………既に言わずもがなかも知れないが、カオレンズベルクのギルドマスターであり、一連のゴタゴタの首謀者であり、かつこの騒がしい屋敷の持ち主でも在るネメアヌスと、少し前に『クソザコ』と侮っていたマモルにボコボコにされて敗北を喫した榊その人である。



 片や、自身のプライドを格下だと思っていた相手に身体ごとズタボロにされただけでなく、勝負に勝てば好きにしても良い、と言質を取っていた為に、順当に行けば手に入れる予定であった女を横からかっ拐われる形となってしまったので、今にも爆発しそうな程に怒り心頭で。


 もう片方も、自らの企みを不意にされただけでなく、周囲から大いに恥を掻かされる形となり、その上で自らの企みが原因とは言え『お預け』されていたご褒美をみすみす目の前で横取りされる形となっていた為に、滴る様な憎悪を浮かべた様子にて。



 それぞれ、自分こそが賞品(サキ)の事を手に入れ、思う存分に陵辱の限りを尽くして貪り通すのだ、と夢想しており、実際にその為に集められた私兵と装備とは、ソレを確実に現実のモノとする事が出来ていただろう、と言う事を、疑いの余地無く確実なモノだと直感させるだけの規模と質を兼ね備えたモノとなっていた。


 それは、例え元とは言え特級のラヴィニアが、試合に勝って今後の見通しが明るくなったから、と気を抜く事無く常時警戒し、その上で戦支度を万全に整えていたとしても、『後のお楽しみ』の為に生かして捕らえる事すら可能とする程に、万全なモノとなっていた。



 その為に、流石にサタニシスが付いていれば襲撃事態は防げただろうが、それでも首謀者並びに幾分かの取り逃がしが出たであろう、と言う程度にな大規模な仕掛けとなっていたのだが…………




「…………まぁ、幾ら規模がでかくても、ソレは広げられるのを許してしまうから、手が回らなくなって取り逃がす事になるんだ。

 だったら、事の起こりを察知して、先に広げられる前に押さえて、そのまま叩いてしまえば、ほら簡単に、ってね……」




 …………が、彼らはまだ知らない。




 彼らが、どんな相手の不興を買う様な事を仕出かしてしまったのかを。


 彼が仕掛けようとしていた事が、一体どんな相手のどの様な関係性に在る者なのかを。


 彼らが目標としている『稀人』が、一体誰に師事をしたのかを。




 彼らは、まだ、何も知らない。



 …………そして、ソレは同時に、彼らがソレを、もうすぐ身を以て知ることになるとは、未だに只二人を除いて、誰も知る事は無かったのであった……。





「…………取り敢えず、開幕は派手にやりますかね。

 先ずは、この大層な門でもぶち破って見せれば良いかね?」





次かその次辺りでこの章も終わる予定です


その次の章(かその次の章)は、ある意味『最も待ち望まれていた展開』が待っている予定ですので、御期待頂ければ幸いですm(_ _)m



あと、評価やブックマーク等にて応援して下さっている方々に感謝ですm(_ _)m

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[良い点] さーて、今回のザマァは何ですかな? 塵一つ残らないか、上下肢をへし折られた状態で大通りで全裸で磔か… 肉体的にも社会的にも殺しても良心が痛まないので期待できますな [一言] シェイド氏、素…
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