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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
七章・反逆者は『獣人国』にて弟子を取る

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不撓の少年は因縁の相手と決着を付ける

 



「…………お前、俺や師匠よりも弱いだろ?」




 そんな、誰に向けるつもりでも無かったものの、俺の胸中に生じた確信が言葉になってしまったモノが、つい口から溢れ出てしまう。



 当然、ソレは榊に向けられた感想であり、所感であった訳だけど、別段事実を突き付けてやろう!だとか、これまで散々嬲られた腹いせをしてやろう!だとかを思って口にした訳では無く、純粋にポロッと口から溢れ出てしまった呟きだった。



 誰かに聞かせるつもりも無かった。


 だから、事前の下馬評を覆す形で先制攻撃を回避し、その上で俺が先手を取って見せた事に興奮と驚愕とで沸いている闘技場の観客席には、まず届いてはいなかったと思われる。



 …………でも、そんな微かな声量であったとは言え、戦いの相手として対峙している関係性に在り、かつ寸前に自らへと一撃を入れてくれていた相手である俺へと向けて意識を集中していた、させられていた榊には十二分に聞き取れる程度の声量ではあったらしく




「………………あ゛ぁ……?」




 と、ドスの聞いた呟きを溢し返してくれていた。



 俺が呟きを溢す寸前まで浮かべていた、まるで『信じられないモノを見た』と言わんばかりの表情や、決して少なくは無い出血を強いてくれている傷口が発する痛み等に耐えている様子を一瞬で吹き飛ばし、額に青筋を立てながら短く呟きを溢す様は、昔から完全にキレた時の特徴だったので、未だに俺の奥底に残るトラウマが刺激されて俄に身体が固くなりそうになってしまう。


 …………でも、正直な話をすれば、実の処としては、もうそこまで目の前のコイツを、榊の事を『怖い』とは思えなくなっている俺がいるんだ。



 少し前までは、怖くて怖くて仕方の無かったハズの存在なのに、何故か今では



『面倒なヤツに絡まれて、更に面倒な事になりそうだから早めに対処しておきたい』



 と言う程度の感慨しか俺の胸中には存在していない。



 以前であれば、当てられるだけで竦み上がってしまっただろうヤツの怒気や殺意も、今では



『こんなモノだったっけ?』



 と言う程度のモノにしか感じなくなってしまっていたんだ、と言う事が確信出来てしまっていた。



 そんな最中、我慢と憤怒の限界を越えたらしい榊が、その両手の拳を握り締めて固めながら突っ込んで来た。


 肩口の傷口はそれなりに深く、少なくは無い量の出血と、腕が上がらない、と言う程では無いにしても動作には確実に支障が出るだろう程度には大きなモノとなっていたが、どうやら何かしらの『スキル』で対処しているらしく、腕は普通に動かされている。



 その上、また別の『スキル』でも発動させているのか、全身に薄く纏っていた魔力の様なオーラ的なモノを、まるで鎧でも着込んでいるかの様に分厚くしながら突撃をかましてくれていた。



 とは言え、流石に傷口が完治させられた、と言う事は無いらしく、未だに少量とは言え出血は続いているらしい。


 おまけに、普通に動くとは言え、あくまでも『動作には支障が無い』と言う程度であるらしく、きっちりそちら側の腕で繰り出される攻撃は、狙いも甘く威力や速度にも欠ける攻撃になっていた。



 そんな、全般的に先程の一撃よりも威力も速度も上がっているのだろう榊の攻撃を、その悉くを回避し、打ち払い、時に反撃を叩き込みながら俺は観察を続けて行く。


 師匠からは、相対した相手の事は良く観察しろ、思わぬ事をしてくるかも知れないのだから、余裕が在る時程慎重に立ち回れ、と教えられていたから、と言うのが大きな理由だって言えるだろう。



 …………まぁ、今の俺が、どのくらい強いのか?って事を計る為にしている、って言われたら、否定は出来ないんだけどね?




「…………クソッ!クソ、クソッ!!クソクソクソッ!!クソッ!?!?

 何で、何で当たらねぇんだよ!?こんなクソザコ相手にしてやがるって言うのに、何で!?」




 とは言え、俺のそんな事情は榊のヤツには関係無い上に、伝えるつもりも慮ってやらなくちゃならない理由も無いので、激昂したアイツはそれなりに整っている容姿(俺様系統のオラオラで金髪なイケメンヤンキーと考えて貰えれば多分当たってる)を醜く歪めながら、悪態を周囲へと吐き散らす事しか出来ずにいる。


 そんな榊のヤツに対して俺は、特に言葉を返す様な事もせず、至極冷静に繰り出された拳を受け流して体勢を崩してやり、出来た隙を狙って刃を振り下ろしてやる。



 当然、隙が出来たから、と適当に刃を振り下ろしてしまえば、榊のヤツが纏っているオーラ的な何かの鎧によって防がれる事となってしまう。


 本当に下手をすれば、振り下ろしたカンタレラが弾き返されて大変な目に遇う羽目になるかも知れないし、大きな隙を晒して攻撃を受ける羽目になってしまうかも知れない。



 が、その辺も抜かり無く師匠に鍛えて貰えていた為に、オーラが少なく装甲の薄い部分へと目掛けて刃を振り下す。


 …………多分、榊が使っている『スキル』の熟練度の様なモノが高ければ、全身のオーラを均等に分厚く纏い続ける事も出来たのだろうけど、未だに未熟なアイツにとってそれは難しい事であったらしく、目に魔力を込める事でオーラの濃淡がハッキリと見てとれてしまっていた。なので、そうしてオーラの薄い部分を見極めてから刃を振り下ろし、榊の身体へと新しい傷を刻んでやる。



 すると、想像の通りにオーラで受け止めるつもりであった為か、無防備かつ無抵抗に攻撃を受けてしまった為に、痛みに対しての心構えも無ければ、攻撃を受ける、と言う覚悟も無かった榊のヤツは、一撃入れられただけで大袈裟な迄に喚き散らし、不必要な迄に距離を取ろうとして必死な形相のままに後退して行く。



 そんな榊に対して俺は、余裕を持って踏み込み、後退して行く榊に瞬く間に追い付くと、再び纏っているオーラの少ない場所に向けて刃を繰り出し傷を増やしてやる。



 またしても、自身の予想に反する形で負傷を増やし、新たな痛みと出血を背負う羽目になる榊。


 そんな榊の表情には、それまで通りの『憤怒』と『殺意』が色濃く浮かべられてはいたけれど、そこに少なくない量の『驚愕』が刻まれているだけでなく、更に少量の『恐怖』が現れ始めている事に俺は気が付く事が出来た。




「…………クソッ!なんで、なんでだよ!?

 なんで、俺が殴る方じゃねぇんだよ!?こんなの、おかしいだろうがよ!?」



「…………何も、おかしくなんて無いよ。

 これは、至極当然な事で、敢然たる事実、ってヤツに過ぎないよ」



「…………あ゛ぁ!?

 テメェ、何調子に乗った事抜かしてくれやがる!?

 少しばかり優位に立っているからって、ふざけた事ばかり抜かしてくれてんじゃねぇぞ!?」



「何も、ふざけた事を言ってもいないし、調子に乗ってもいないよ。

 俺は、師匠に鍛えて貰えた。だから、強くなれた。

 お前は、何もしなかった。だから、強くならなかった。

 今の状況を分けているのは、ただソレだけの事だろう?」



「………て、テメェ!?

 だから、それがふざけた事だってさっきから言ってやってるんだろうがよ!?

 オラ!!二度とそんな下らねぇ事抜かせねぇ様に、コイツを喰らいやが…………ガァァァァァァアアアッ!?!?」




 俺がした指摘が図星を突いていたらしく、一方的に言葉を打ち捨てた榊が、激昂しながら殴り付けようとして来た。


 ご丁寧に、俺の側に晒している場所のオーラの量を増やして防御を固めてから、だ。



 そんな浅い猿知恵を働かせながら、口元には『これまでの様にはならない!』と言う自信を覗かせる笑みを浮かべつつ突っ込んで来てくれている榊に対して俺は、それまでよりも()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、真っ直ぐにアイツへと目掛けて振り下ろした。



 すると、アイツの予想外の出来事である、オーラの量を増やして防御を固めていたハズの場所に攻撃が通ってしまう、と言う事が起きてしまったのだ。



 完全に想定外であり、すっかり『オーラの量が多い=攻撃は効かない』と言う図式が確立されている、と勘違い(・・・)してしまっていた榊は、予期すらしていなかった袈裟懸けの斬撃を深々とその身体に受ける事になってしまい、それまでよりも強く発生した激痛によって情けなく悲鳴を上げる羽目になってしまう。



 地面を転がりながら、思わず自らの身体に新たに刻まれてしまった傷口へと視線を落とす榊。


 その視線の先には、それまでは発生していなかったハズの、俺の『スキル』であるカンタレラの侵食毒によってジワジワと、ゆっくりながらも確実にその規模を広げつつ在る傷口が飛び込んで来ていた。



 唐突かつ突然の事態に、思わず再度悲鳴を上げながら榊が傷口を擦り始める。


 …………恐らくは、突然過ぎる程に突然の出来事により脳が混乱し、傷口を綺麗にすれば効果は無くなる、とな思っての行動だったのかも知れないが、特に侵食して行く速度に変化が見られる事は無く、無情にも更なる出血を誘うだけとなってしまっていた。




「…………やっぱり、刃に魔力を込められれば、魔力で身体を覆われたとしても、カンタレラの咒毒を通す事が出来る、か……。

 まぁ、当然の理屈と言えば、当然の理屈か。魔力で防がれるのなら、魔力を以てして攻撃できれば、通せない道理はない、と……」




 既に師匠との手合わせの最中に於いて思い付きはしていたものの、結局一度も試す事は出来なかった技術が実現出来たことに満足し、一つ頷いていると、榊が傷口を抑えながらフラフラと立ち上がり、俺の事を睨み付けて来た。




「…………おいっ、テメェ!!

 今すぐ、今すぐにコイツを解除しやがれ!?さっさとやれよ!?俺様からの命令だぞ!?聞けねぇって言うつもりか!?」




 至極当然に考えれば、闘技場とは言え敵対して対峙している相手の事を癒す事なんて無いよな?と僅かに自問する羽目に成る程、支離滅裂な事を榊が口走る。


 が、ソレに対して僅かとは言え俺の意識が割かれてしまったからか、ソレを隙と見たアイツはそれまでよりも素早い速度にて駆け寄り、俺へと向けて拳を突き出して来た。



 ……何かしらの『スキル』を上乗せしたのか、それともこれまでも使っていた傷口を回復させていた『スキル』の効果を強め、一時的に痛みや傷の状態を無視できる様にしてあるのかは、俺には分からない。



 でも、大方俺の事を倒してしまえば、少なくとも一発殴り飛ばす事さえ出来れば、以前の様に自分の手下として良い様に使えるだろう、と言う目論見が在るのだろう事は、至近距離まで近付いて来ていたアイツの瞳を覗けば一目で理解出来てしまっていた。



 …………だから、俺は……




「オラッ、喰らいやが…………えっ?消え、た……?」



「どこ見てるんだ?この、間抜けめ!」




 …………だから、俺は。


 師匠から授けて頂いた、ほぼ瞬間移動にも近しい歩法である『朧月(おぼろつき)』(師匠曰く『半分ネタ技能だから名前なんて無いぞ?』との事だったので俺命名。カッコイイでしょ?)にてアイツの背後に回り込むと、今度は俺の声に反応し




「……ハッ!バカめ!

 場所さえ分かれば、お前なんて…………えっ?」



「…………『お前なんて』、なんだって?」




 振り返り様に殴り付けようとした榊に対し、予め大上段に振りかぶっていた刃を振り下ろすと、咄嗟に榊は腕を掲げ、ソコにオーラを集中させて攻撃を防御しようと試みた。


 そんなアイツに対して、これまた師匠から教えて貰った、まるで相手の防御をすり抜ける様な千変万化な攻撃である『陽炎』(同じく名無しだったので以下同文)を繰り出し、アイツの掲げた腕を回避する形にて、今度は胴体を振り上げる形で斜めに切り裂いて見せる!



 すると、流石にそこまでされてはアイツも粘る事が出来なかったのか、それとも身体をクロスする形にて大きな刀傷を負ったのが大きな負荷となったのかは定かでは無いけど、呆然とした顔をしながら




「…………ウソ、だろう……?

 俺が、俺様が、あの、クソザコごとき、に……?」




 との呟きを残してその場に崩れ落ち、ソレと同時に驚愕の表情を張り付けた審判によって俺の勝利が宣言される事となったのでした…………。




取り敢えず、マモル視点はここまで


次回からはシェイドメインに戻りますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 「蟻と蟋蟀」然り「兎と亀」然り、今の強さに甘んじて何の努力もせず、ただ調子に乗ってただけの奴が、血の滲む様な努力をした奴に勝てる訳が無い。所詮コイツは口先だけの雑魚だよ。
[良い点] ズルしてざまぁするより、努力してざまぁしたほうがかっこいい。 (ジェイド君は封印されてただけだからズルじゃない) [一言] 賭けの履行にごねて、後ろのやつごとふっとばされるような展開期待
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