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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
七章・反逆者は『獣人国』にて弟子を取る

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不撓の少年は因縁の相手と刃を交える

 



「…………テメェ、少し見ねぇ間に、随意とふざけた事を抜かしてくれやがる様になったみたいだなぁ……?」




 唐突に刃を突き付け、その上で『さっさと始めよう』だなんて事を、よりにもよって俺に言い放たれた事が酷く榊の自尊心を傷付ける事となったらしく、飛びきりの怒気が込められた呟きがアイツの口から放たれた。



 それにより、それまでのモノに加えて、明確に『殺意』の様なモノが榊から放たれた始めただけでなく、幾度と無く俺の事を殴り付けて負傷させてくれていた拳を構えて見せた事も合わさって、僅かとは言えまたしても俺の身体が震え始めてしまう。



 …………だけど、やはり俺の中で榊と対峙した時に得られた違和感、『こいつってこんな程度だったっけ?』と言った感覚が、以前よりも大きくなって来ている事を確信した。



 そう、以前なら、少なくとも榊のヤツと初めて戦う意思を持って対峙したあの時なら、もう既に膝が震えて冷や汗が流れ落ち、どうにか棒立ちで得物を握り締めているのが精一杯、と言った風になってしまい、一方的に痛め付けられる事になってしまっていた。


 …………でも、今は違う。少なくとも、身体は動くし、棒立ちのままで突っ立っているしか出来ない、と言う訳でも無い。だから、一方的に殴られるしか無い、と言う事でも無いだろう。多分。



 だからと言って、アイツに対しての恐怖心が無くなった、と言う事でも無いのは確定している。


 何せ、こうして相対しているだけで身体が震えるのだから、そこも間違いでは無いハズなんだ。多分だけど。



 …………じゃあ、何でそんな風に思えるのか?何で、以前とは違って、気持ちの上では『戦える』状態になっているのか?



 その辺に付いては、俺も、俺自身の事だけど、未だに良く分かっていない。分かっていたら、こんな風に頭を悩ませていたりなんかしない。



 …………まぁ、辛うじて心当たりが在るとすれば、師匠であるシェイドさんとの修行位のモノだけど……まさか、ねぇ……?



 なんて事を内心で考えていると、何時の間にか俺と榊との間になっていたハズの審判と思われる人が手を掲げ、勢い良く振り下ろしながら試合の開始を宣言していた。


 恐らくは、自陣の人間として送り込まれた榊側の人間であったから、榊が怒りのままに開始の宣言を下す様に促して、それに逆らう事無く従った結果、と言う事なのだろう。



 なんて考察をしている間にも、拳を振りかぶりながら駆け出した榊は、俺との間に在った距離を急速に縮め始めて行く。


 元々体格も良く、その上で俺の様な相手を殴り付ける為に格闘技の類いも習っていた(親の権力()でゴリ押しして入門したけど、当然の様に早々に辞めさせられた(クビになった)らしいけど)との話も聞いた事が在る、と言う程度には戦いにも覚えが在る為か、その足取りは迷いが無く、仮にとは言え武器を携えている相手に対して遠間に戦うつもりは無いらしく、早々に距離を潰して懐に潜り込むつもりなのだろう。



 …………流石に、普段からして『クソザコ』と罵り、その上で一度は叩き潰している相手だからとは言え、最初から嘗めて掛かって付け入る隙を晒す程に間抜けで在ってはくれなかったらしく、考えていた中では最も安全かつ最速で勝負が着いたであろう作戦を廃棄せざるを得ない状況にされてしまう。



 まぁ、幾らなんでも、適当に挑発しながら舞台の上を逃げ回り、相手を疲弊させてから全力で斬りかかって一撃入れ、その後は『スキル』の効果が回るのを待つ、と言った作戦は最初から通用しなかったのだ、と見るべきだろう。



 …………それに、榊のヤツは最初に戦った時から、既に師匠と同じく魔力で身体を保護する為の技術を修得していたみたいだったから、流石に一発入れるだけでお終い、って訳には行かないだろう。


 以前会った時の感じだと、多分アイツもネメアヌスに弟子入りしている(少なくとも何かしらの教えは受けている雰囲気だった)様子だったから、幾ら頭に血が昇っていたとしても、ソレを忘れて突っ込んでくる、とはならなかっただろうしね。



 何て事を考えながら、改めて得物である『咒毒剣カンタレラ』を構え直して榊の接近を待ち構える。


 さっきも言った通りに、このカンタレラなら、一撃入れらればソレで決着…………とはならないながらも、やっぱり戦いを優位に進める事が出来る様になる、ハズだ。



 でも、それでも弱点はやっぱり多い。



 まず、何に付けても相手にちゃんと当てないといけない事。


 負傷させる程度にはキチンと攻撃を当てないと、効果である(のろ)いを帯びた毒が相手の体内に入ってくれないので、ソレが出来なければ『ただ単に壊れにくい頑丈な長剣』と言う程度の代物へと格落ちする羽目になってしまう。



 次に、相手に魔力で防御する技術が在ったりされると、効果の効率が著しく低下する事になる。


 師匠との手合わせを繰り返す間で分かった事なのだけど、コイツの能力はどうやら魔力由来のモノであったらしい。


 だから、魔力を込めればその分強化も出来るのだけど、体表に魔力を纏ったりされると下手をすれば効果自体を弾かれてしまう事も在ったし、負傷させる事が出来たとしても、その周辺へと魔力を集中させる事で進行を遅らせる事も出来る、と言う事が判明しているんだ。



 魔力で身体能力を強化したり、体表を覆う事で防御力を上昇させたり、と言う事は、師匠曰く




『そこまで特別な事でも無い。

 むしろ、一定以上の階級や実力を持つ前衛担当の冒険者なんかに取っては、必須級の技術だからな。

 …………まぁ、効果の程は本人の実力次第、ではあるがな』




 との事だ。



 おまけに、榊の保護者として着いているネメアヌスは元とは言え最上級の特級冒険者で、バリバリの前衛系統の冒険者だったとも聞いている。



 だから、俺が既に師匠に習って身に付ける事に成功している以上、やはり榊のヤツもソレを習っているか、もしくは修得が済んでいる、と考えるのが自然だろう。



 おまけに、榊のヤツが持っている『スキル』の中には、何やらオーラ的な何かを身に纏うモノが在るし、ソレを使いながら肉弾戦を挑む、と言った立ち回りを好んで仕掛けて来ていた。


 少なくとも、前に戦った時はそうやって仕掛けて来ていたから、俺の事を『クソザコ』と呼んで蔑んでくれている榊の事だから、同じ様な手で攻めてくる、と考えてもそこまで大きく外してはいないハズだ。



 なので俺は、榊のヤツが一定の距離(俺自身の間合いよりも一歩から二歩程踏み込まれた辺り)まで接近してくるまで、敢えて反応を見せる事無く構えをとったままで佇んで見せた。


 すると、榊のヤツは、少し前まで感じていた『怯え』や、俺が見せた動きによる『驚愕』を無かったモノと考え始め、その上で先程の俺の宣戦布告を『只の強がり』だと判断したらしく、口元を歪に吊り上げて嘲笑の表情を浮かべながら、わざと動かずに待ち構えていた俺へと向けて大袈裟に振り上げた拳を振り下ろそうとしてくる。



 恐らくは、全く以て動きが見えていない(と思い込んでいるだけだが)俺の恐怖を煽りたいが為に、わざわざ初手で威力が大きい代わりに動きが察知され易いが、端から見ていても派手で分りやすい大振りな攻撃を選んだのだろう。


 でも、流石にソレを食らってやらなくちゃならない理由は無い。



 それに、何よりもう俺が痛い目に遇いたくは無いし、何より受けなくても良い攻撃を受けてしまっては、咲を助け出す事も出来なくなってしまうのだから。



 なので俺は、ギリギリの処まで榊を引き寄せると、その場から飛び退きながら構えていたカンタレラを、目の前に迫りつつあった榊へと目掛けて振り下ろす!



 …………とは言え、流石にこれで勝負に蹴りが付く、と言う展開になるとは、俺も思ってやってはいない。


 まだ斬りかかってもいないから断言は出来ないが、どうせ漫然にとは言え魔力による防備はなされているのだろうし、何より相手はあの榊だ。



 …………俺の正直な所感としては、幾ら師匠に鍛えて貰えたとは言え、流石にあれだけ圧倒された相手に、こんな回避しながら放った重心も乗ってはいない様な一撃がまともに通るハズが無いだろう、と予測していた。



 だから、俺の目の前を榊の上から振り下ろす形で繰り出された拳が通り過ぎると同時に、俺の放った攻撃が榊の肩口に吸い込まれて行くその光景を目の当たりにした際には




「…………え?」




 と言う間の抜けた呟きが口から溢れ落ちる事になってしまった程だった。



 一瞬、もしかしてカウンター系統の『スキル』でも所持していて、ソレを発動させる為の条件を満たしたいが為にわざと攻撃を受けようとしているかの?とも思った為に、急遽攻撃を取り止めて防御に意識を集中させるべきでは無いのか?と言った考えが脳裏を過った。


 …………でも、俺としては、師匠からは



『攻撃は最大の防御。攻撃される前に敵を撃滅してしまえば、結局は無傷で立っていられる事になる』



 と教えられていたので、やはり攻撃の手を緩める事は不味いだろうし、カウンターを取られるかも知れない、と言う事だけは頭の片隅に置いておく事で注意を持ち続けておけば良い、との判断を下し、やはり攻撃を敢行する事を優先させた。



 とは言え、僅かな時間であったとしても逡巡を抱いてしまった事が仇となったのか、振り下ろした刃の剣筋が僅かとは言えぶれてしまい、威力としては最低限のモノとなってしまっている、と言う事が手に取る様に判断出来る一撃へと成り果ててしまった。



 そんな、師匠との手合わせの最中に繰り出そうモノなら、地獄の様な数の素振りからやり直させられるであろうお粗末な一撃であったので、当然の様に防がれるか弾かれるか、もしくはカウンターに利用されるのか……!と思っていたのだが、何故か驚く程にアッサリと攻撃が榊の肩口に決まり、手元に肉と装備品とを切り裂く手応えが確かに伝わって来た。




「「なっ……!?」」




 全く同じ言葉を、真逆の意味合いにて口に昇らせる俺と榊。



 両者共に、通用するとは思っていなかった攻撃が通用してしまった事への驚愕、と言う意味合いである事は間違いないだろうが、その感情のベクトルとしては、やはり真逆のモノである、と言えるハズだ。



 そんな、師匠相手であれば鼻で嗤われながらあしらわれたであろう攻撃が、素直に決まってしまった事への戸惑いを察知されてしまったのか、榊による離脱を許す事となってしまった。


 だけど、流石に咒いによる毒は入ってはいない様子ではあったけど、その肩口に刻まれた傷口は決して小さなモノでは無く、驚愕に目を見開きながら俺の事を凝視している榊に対して、初めて小さくは無い負傷を与える事が出来ていた。



 …………そして、ソレは俺の内心に深く刻まれていたトラウマの一角を一時的に弱めると同時に、俺に対して『とある確信』を抱かせるには十分過ぎるモノとなっていたのだった……。






「…………そっか……まぁ、そうだよな……。

 一つ、確信したよ。お前、俺や師匠よりも弱いだろ?」




マモル視点は次で終わりの予定

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― 新着の感想 ―
[一言] 「一つ、確信したよ。お前、俺や師匠よりも弱いだろ?」でしょうね。全話と言い今話と言いただ単にイキって虚勢を張ってるだけの雑魚にしか見えませんでしたから、そう言う奴は大抵自分より弱い奴にしか威…
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