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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
七章・反逆者は『獣人国』にて弟子を取る

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反逆者は不撓の少年の背中を押す

 


 シェイドがマモルの訓練を開始してから、一月と半分程が経過した。



 期日は既に、最初に告げられていた武闘会の開催日に迫っており、後数日、と言う処まで来ていた。



 そんな中、シェイドとマモルの姿は何時もの様に訓練所に在る…………と言う訳では無く、ソコからそれなりに離れているとある施設に存在していた。



 互いに得物を手にして構え、相対する二人。


 しかし、ソコには普段の手合わせとは異なる点が幾つか見受けられる事となっていた。



 先ず一つ、挙げられるとすれば、シェイドが手にしている武具だろう。


 何せ、これまでの手合わせにて使用していた数打ちの安物では無く、彼が自身の得物として認定している『無銘』を手にしており、既に刀身にも魔力を纏わせた状態となっていた。



 次に挙げるとすれば、マモルの状態だろう。


 何せ、それまでの手合わせの時とは異なり、彼自身が自らの意思にて『気迫』の様なモノを纏っており、(さなが)ら真剣勝負に挑む武人の様な雰囲気を纏っていたのだ。



 最後に挙げるとすれば、マモルと相対しているシェイドの状態だろうか?


 何故なら彼は、程度の強弱は在れども、これまでの手合わせでは決してする事の無かった『魔力による身体能力強化』を行い、その上で魔力を解放した状態に て佇んでいるのだから。



 そんな、場所も雰囲気もそれまでのモノとは大きく異なる状況にて向かい合う二人の事を、多少離れた場所から見詰める影が二つ。


 当然の様に、それらの正体はサタニシスとラヴィニアであったのだが、やはりその二人も表情には不安そうなモノを浮かべた状態となっていた。




「…………なぁ、本当にやらせて良いのか?

 流石に、ご主人様には万が一も無いとは思っているが、それでもマモルの方に何か在られては、吾としては大変困った事態になるんだが……?」



「そうは言っても、仕方無いでしょう?

 ある程度、シェイド君からの教えを吸収して身に付けたマモル君に対して自信を付けさせる為に、何かして欲しい事は在るか?って聞いたらシェイド君との試合を、って言われちゃったんだから」



「…………だが、だとしても時期が悪すぎるだろう!?

 もう、武闘会は明後日に控えているんだぞ!?もしここで怪我でもしてしまっては本番に響く事になるのは間違いないし、何より万が一が在られてはアイツとしても吾としても、大変困った事になるのは確定している訳で……!?」



「その辺も大丈夫でしょう?

 そもそも、シェイド君がそう言う手加減を見誤る心配はしなくても良さそうだし、そうなって一番困るのはマモル君なんだから、変な無茶もしないでしょ?

 それに、ほら。始まったみたいよ?」




 二人の会話を遮る形で中断させたのは、ソコに響き渡った甲高い金属音。


 ソレに釣られる形で視線を戻して見れば、案の定二人が得物によって切り結んでいる姿が目に飛び込んで来た。



 …………しかし、ソコでもそれまでの手合わせとは異なる点が一つ。


 それは、攻め手が『マモル』では無く『シェイド』である、と言う点だ。



 …………切り結んでいる場面しか見えていないハズなのに、何故そんな事が分かるのか?と問いたくもなるだろう。


 だが、ソレに関しては、両者の立ち位置と姿勢とを見れば、一目瞭然と言うモノなのだ。



 何せ、それまではシェイドがその場から大きくは動かず、マモルが一方的に攻め続ける形で手合わせを行っていた二人だったが、最初に確認した場所から動けていなかったのは『マモル』の方であり、例え片手だけでしか得物を振るってはいないとは言え、立ち合っていた場所から大きく踏み込んで先手を取っていたのは、間違いなく『シェイド』の方となっていたからだ。



 当然の様に、ソレは予期していた事ではあったものの、彼が望んで譲った先の行動では無かったらしく、マモルの表情には苦々しいモノが浮かべられていた。


 もっとも、ソレの原因が、攻めきれる可能性として先手を取っておきたかった、と言う望みから来ていたのか、それとも一応とは言え魔力による身体能力強化を使われているが、端から見ていても完全に手抜きな形だと分かる程に適当に片手で振るわれた上に、全くもって体重等を活用して押し込まれている訳でも無いのに辛うじて拮抗させるのがやっと、と言う現状に対して苦々しいモノを感じているからなのかは不明だが、取り敢えず彼が劣勢に在る、と言う事だけは間違いない事だろう。



 マモル自身も、それを理解しているからか、そんな現状を打破すべく、身体能力強化へと回していた魔力の出力を一時的に引き上げて片手でも拮抗状態を維持出来る様に仕向けると、空ける事が可能となった左手をシェイドの目の前へと突き出して見せる。


 そして、そうやって突き出して彼へと差し向けた手のひらの中央にて、急速に魔力が高められて即座に『火属性の攻性魔術』として発現し、シェイドへと向けて解き放たれた!



 至近距離から放たれた火炎と言う形の無い攻撃に対し、流石のシェイドも回避する事は出来なかったのか、そのまま無防備に攻撃を受ける事となってしまう。


 それに伴い、彼の顔面付近は一時的とは言え火炎に包まれ、視覚や聴覚と言った感覚器官がその機能を停止する事となり、著しくシェイドに取っては不利な状況へと追い込まれる形となる。



 当然、苦し紛れとは言え、ソレを狙って行ったマモルが、そうして生まれた隙を見逃すハズも無く、シェイドへと向けて攻め立てる様にして手にしている刃を振るって行く。


 以前とは異なり、確実に術理としての剣術を学んだ事が窺える剣筋にて、縦横無尽に振るわれる刃が未だに顔面を炎によって包まれてしまっているシェイドへと襲い掛かる。



 ソレに対してシェイドも、視覚も聴覚も封じられてしまっているとは思えない程に的確な動作にて、手にした『無銘』を片手で振るい、自らへと向けて振り下ろされて来る無数の刃を振り払い、受け止め、弾き返して行く。



 周囲へと連続して響き渡る金属音は、最早一つに連なっているかの様な速度にて放たれており、聞く者によっては『一つの音』としてしか捉える事が出来ないであろう程に密度の濃いモノとなっていた。


 それだけ、両者の間にて交わされる斬撃の応酬が激しい、と言う事を如実に物語っており、マモルがシェイドに師事したのは僅かな時間であったものの、その才能が大きく華開こうとしているのだ、と言う事を何よりも雄弁に現していた。



 …………が、幾らマモルが高い戦闘能力適性を持つ『稀人』であるとは言え、未だにその力を引き出す為の訓練を開始してから一月と半分程しか経ってはいない。


 流石に、たった一人で魔王軍の幹部を軽くあしらい、迷宮を完全踏破し、スタンピードをほぼ壊滅させるだけの力を持つシェイドに対して振るうにはその力は些か軽すぎたらしく、無数に切り結ばれて行く剣線は、最初こそ彼の方が押している様にも見えてはいたが、徐々にマモルの側が押し込まれる形へと変化して行く事となってしまう。



 その事に対して、自らの力量も把握した上で苦い表情を浮かべるマモル。


 しかし、最初から力量に圧倒的な迄の差が在る事は自覚した上で臨んでいる試合であったが為に、特に途中で諦めたり気を抜いたりする事無く、目の前の師から授けられた一手を、彼へと目掛けてその完成度を誇る様に披露して見せようと、大きく大袈裟な動作にて振りかぶって見せる。



 マモルの放つ雰囲気が変化した事を敏感に察知するシェイド。


 だが、故意的に受けたとは言え、マモルの魔術によって視覚や聴覚を使い物にならなくされてしまっているシェイドからして見れば、感覚的に雰囲気が変わった、と言う事を察する事は出来たものの、だからと言って具体的に『こうしようとしている』『恐らくはアレを仕掛けるつもりだ!』と言った諸々の事柄を判断する事が出来ず、やむを得ず気配からして『上段からの振り下ろし』だと察知した為に、ソレを受け止める為に得物を構えて待ち受ける。



 当然、そうして振り下ろさんとしていた刃の軌跡に差し込まれて構えられていた為に、端から見ていた二人も、待ち構えていたシェイドもソコにぶつかるモノだと思っていた。()()()()()()()



 が、しかし、結果としては振り下ろされようとしていたマモルの刃は、構えていたシェイドの刃にぶつかって防がれる事にはならず、寧ろ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、今度は振り下ろしから一変して下段からの切り上げへと変化して見せる。



 それにより、遠目にて観戦していたサタニシスとラヴィニアの二人から驚愕の言葉が飛び出すと同時に、振り下ろしだとばかり思っていた為に構えを解く迄に時間が掛かり、その結果として防御する為に得物を動かすだけの余裕が無くなってしまっているシェイドの無防備な脇腹へと目掛けて、マモルの刃がその身を切り裂かんとして獰猛に迫り行く!



 …………だが、そうして振るわれたマモルの刃は、シェイドが振り下ろした肘と跳ね上げた膝とに挟み込まれ、当初の目的の通りに彼の身体を切り裂く事が叶わずにその場に固定されてしまう。



 押しても引いても全くその場から動かす事が出来ず、まるで空間に固定されてしまったかの様に静止させられてしまっている刃を握り続けていたマモルだったが、シェイドの顔面に纏わり付いていた炎が完全に消え失せ、その下から全くの無傷な状態のままで見開かれた彼の両目が姿を現した事により、その場で両手を掲げて降参の異を表明する。




「…………分かりきっていた事とは言え、やっぱり師匠には勝てませんでしたか……。

 本番迄に、せめて一本位は取って見せたかったのですが、残念です……」




 更に下がって一礼し、手合わせの終了を示して見せてから、悔しそうにそう告げるマモルに対してシェイドは、寧ろ嬉しそうに微笑みつつ彼と肩を組みながら、ソレは違う、と告げて行く。




「おいおい、そうじゃないだろう?

 お前さん、今のは中々に良い組み立てだった。それに、最後の最後とは言え、俺に両手両足を使わせる事に成功してただろう?

 自慢じゃないが、今の俺の実力からすれば、ソコにいるラヴィニア(バカチン)程度なら、本気を出せば片手で捻り潰す事も不可能じゃ無いんだ。

 そんな俺に、手加減していたとは言え両手を使わせる事が出来たんだぞ?なら、大概のヤツには負けやしないさ!

 …………それとも、アレか?こう言って欲しいのか?

 お前が戦うクソヤロウは、俺よりも強いのか?」



「…………はっ!まさか、そんなハズが無いでしょう?

 手加減してくれている師匠の方が、あんなヤツよりも何十倍も強いですよ!」



「なら、自信を持ちな。

 君は、既に勝たなくてはならない相手には勝っている!君の実力なら、間違いない!

 だから、戦う前から負ける事を考えるな!良いな!?」



「……はいっ!!」




 気合いを吐く様にして返答したマモルの背中を、強く強く平手打ちにするシェイド。



 それにより、受けた痛みと衝撃によって悶絶しながら咳き込むマモルであったが、その表情は不思議と晴れやかなモノとなっており、自信に満ちた笑みすら浮かべられているのであった……。




修行修了


次回から武闘会に突入


視点も変わる……かも?

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初の頃はあんなにビビってたシェイドに軽口を返せるまでに成長するとは…まぁマモル君にすれば「死を身近に感じられた」シェイドとの地獄の様な修行に比べれば、武闘会なんて生温い物かもね。さぁ修行終…
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