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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
七章・反逆者は『獣人国』にて弟子を取る

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反逆者は不撓の少年に指摘する

 


 シェイドとマモルが手合わせを開始してから数分が経過した後。


 彼の姿は、訓練所の地面へと、全身をしとどに汗で濡らした状態にて転がされた状態となっていた。



 手合わせを始める際に下された『どうせ泥だらけになるのだから』と言う宣言の通りに、元々お世辞にも綺麗とは言い難かった彼の衛生状態は極度に悪化し、さながら『酷使されきった雑巾』か、もしくは『瀕死の野良犬』と言った様相を呈する事となってしまっていた。



 時に繰り出した刃を打ち払われ、時に踏み込んだ足を払われ、時に攻撃を回避された後の隙を狙って拳骨を落とされる事十数回。


 最初にシェイドが言っていた通りに、彼の方からは一切手出しをせず、マモルが突っ込んでは撃退され、と言う事を繰り返した結果、体力と気力とを使い果たして地面に転がる事となっている、と言う訳なのだ。



 そんな、ほぼ自爆に近い形ながらも、既に精魂尽き果てて殆んど死に体となっているマモルへと、こちらは汗一つ掻く事無く、最初に受けた手のひら以外は結局無傷に抑える事に成功したシェイドが声を掛ける。




「…………おーい、取り敢えず生きてるか?

 生きてるなら、取り敢えず風呂に行って身を清めて来い。今回の手合わせは、ここまでにしておいてやるから」



「………………ほ、本当、です、か……?」



「あぁ、勿論さ。

 だから、早いところ風呂に行ってこい。その後で、飯でも食いながら今後の指導の予定の打ち合わせでもするから、寝たり死んだりしないでちゃんと来るんだぞ?」



「…………で、でも、俺……今は、何か食える自信が、無いんですが……?」



「寧ろ、こうして手合わせした直後にこそ、無理矢理にでも幾らかは食っておいた方が、強くなりたいのなら良いんだぞ?

 ソレをしてなかったから、そうやってヒョロヒョロなままなんじゃないのか?」



「…………っ!!

 い、行ってきます……!」




 文字通り、動かない身体を引き摺りながら、訓練所へと併設されている入浴施設の方へとマモルが移動して行く。


 流石に、文化的にもクロスロードの様な『浴槽に湯を溜めて入浴する』と言った行為は望むべくも無いが、それでもシャワーを使って身体を洗い流す程度の事は問題無く行える様になっている。



 種族的な文化として、他の種族からは比較的野蛮だと思われており、身体を動かすことを好む気質も持ち合わせている獣人族は、下手な自称文化人よりも綺麗好きだ。


 身体能力だけでなく、五感も相応に鋭敏である彼らは、肌感覚への差異が発生するから、と言う理由から耳や尻尾の手入れに余念は無いし、匂いを感じにくくなるから、という事であまり汗臭い状態でいる事を好まない。



 故に、他の国では訓練の類いをしたとしても、汚れを落とす事もせずに酒場へと直行する冒険者が多い(寧ろ殆んどがそうな為に『冒険者=薄汚い』と言う認識が蔓延っていたりする)中、このビスタリアでは大概の施設に簡易的な入浴施設が併設されているだけでなく、その利用率もかなり高いモノとなっているのだ。



 そんな理由も在る為に、偶々同じタイミングにて訓練を切り上げて汗を流そうとする他の利用者と共に、風呂場が設えられている方へと向かって進んで行くマモル。


 その無様な迄の惨状を目の当たりにした冒険者達が、時折彼へと向けて明らかに嘲りを含んでいるであろう笑みを向けていたりもしたが、彼がその手の事柄に対して既に見切りを付けてしまっていたが為に、思った様な嗤える反応が返ってくる事も無く、逆に仲間から『相手にされてねぇみたいだな!』と笑われる始末となっていたりもしたが、それはまた別のお話、と言うヤツである。



 そうして彼の姿が建物内部へと消えていった事を確認したシェイドは、ラヴィニアへと向けて口を開く。




「……と言う訳だから、取り敢えず誰からも邪魔されない様に出来る店か、もしくはそう言う場所の用意を。急ぎで」



「…………いや、そんな事いきなり言われても……。

 客の事を口外しない店なんて基本高級店になるから、流石に地元とは言え吾の名前ではちょっと……」



「…………何だ。

 意外と使えないな、お前」



「流石にソレは心外なのだけど!?

 吾の名前を使えば、確かに店の一つや二つは確保出来るかも知れないが、そうなれば確実にヤツに情報が伝わる事になるんだけど!?

 それは別に構わない訳?」



「在るのなら、さっさとヤれよ。

 そうしねぇと、勝てるモノも勝てなくなるぞ?それとも、お前実は負けた方が利益が出そうだから……とか考えてたりしねぇだろうな?」



「あ、有り得そう!

 さっきの話とか聞いてた限りだと、この人ってごく自然に相手の事を駒として見たり、自分の思う様に動かそうとしたりしてるみたいだしね~」



「…………そ、そそそそそそっ、そんな事、在るハズが無いでしょうに!?

 そもそも、吾としてもマモルには負けて貰うと不味い訳だから、こうしてご主人様にわざわざお願いした訳なんですからね!?」



「…………なら、さっさと準備しておけ。

 少なくとも、あいつが出てきたら、直ぐに行ける様にはしておけ。

 でないと…………分かってるよな?」



「…………は、はひぃ……!?」




 僅かばかりの殺気を覗かせたそのシェイドの一言により、ラヴィニアは涙目になりながら半ば強制的に了承させられる事となるのであった……。





 ******





 入浴を終え、着替えも済ませたマモル(ちゃんと上半身にも服を着ていた)が合流した事により、ラヴィニアの先導にて店舗へと移動するシェイド達。



 最初こそ、何処に連れて行けば……と頭を悩ませていたラヴィニアであったが、シェイドから向けられた急かす様な視線を受けた為に、もうここで良いや!と言わんばかりの勢いにて一軒の料理店へと突撃して行った。


 そして、店の人間が信用出来る事と、比較的我が儘が利く、と言う事から定められた『大熊の昼寝亭』と言う店名の掛けられた入り口を潜り、店員に何かしらを言いつけてから奥へと入って行ってしまう。



 一瞬だけ、このまま行っても大丈夫かね?と視線を交わらせるシェイドとサタニシスであったが、何かしらの罠だったら後でシバき倒せば良いか、と判断して奥へと着いて行く。



 そして、結果として辿り着いた個室にて設えられていたテーブルへと着席し、次いで注文を取りに来た店員へと幾つかの料理を注文してからマモルへと向けてシェイドが口を開いて行く。




「…………さて。さっきは『飯を食いながら』とは言ったが、まだ料理が来るまで時間が在るだろうからな。

 幾つか、今後の指導についてのアレコレを情報共有しておこうかと思う。

 良いよな?」



「………………あの、そう言うのって、俺の勝手なイメージですけど、師匠の方が独占?しておくモノなんじゃ……?」



「まぁ、長期的な指導をする、って場合には、ソレもアリだとは思うぞ?

 そうしておいた方が、指導を受ける側がダレなくて済むし、勝手に進捗具合を判断されて反抗されたりもしなくて済むしな。もっとも、そうなったらそうなったで、今度は上達具合だとかが測り難い事になるから、弟子側のやる気を出してやる工夫が必要になるがな」



「……はぁ。

 なら、そっちの方が良かったんじゃ……?」



「今回は、そこまで長くはやらないからな。

 良くも悪くも、時間切れは決まっているんだ。なら、その間に精一杯鍛えてやるのが思い遣り、ってヤツだろう?」



「…………っ!

 ……ありがとう、ございます……!」



「まぁ、その辺は今は置いておくとして、早急にやらなくちゃならないのは、やっぱり『身体造り』だな。

 魔力操作も、剣術も、体術もその他も全部足りないが、君は基礎にして肝心要となる身体が出来ていないのが一番キツい。先ずは、ソコからだ」



「はいっ!

 …………でも、師匠もそうですけど、どうやってその見た目でアレだけの怪力を発揮しているんですか?

 俺の渾身の振り下ろしを片手で受け止めただけじゃ無く、その上で弾き飛ばしたりまでしてましたけど……?」



「あん?

 そんなの、基礎筋力を魔力で増加させてるだけだぞ?割りと基本的な技術だから、覚えようと思えば誰でもイケるから、コレに関しては後で教えてやるよ。

 とは言え、あくまでもソレは『基本的な筋力×魔力による倍率』だから、土台になる筋力の方をある程度以上に鍛えておく必要が在るがな」



「そうそう。

 横から見てるだけの私だったけど、それでも君に絶対的に足りないモノは『筋力』だって事は分かるよ?

『スキル』だとかも前衛寄りなのに、身体能力が追い付いていないんだもの。純後衛の魔術師とかの方が、まだ動けてたと思うよ?」



「…………ぐっ……!?

 ……む、昔から、筋肉が付きにくい体質だったので……」



「まぁ、だとしても、鍛えて損は無いだろうよ。

 基本的に、日々の糧の為に働いているか、もしくは得物振り回していれば事足りるハズだが、君は期限の兼ね合いからもそう言う訳にも行かないからな。

 だから、取り敢えず暫くの間は俺との手合わせを続けて筋肉を鍛えると同時に剣術の類いを身に付けて貰う。折角、当てれば優位に立てるモノを持っているのに扱いきれないんじゃ勿体無いからな」



「はいっ!

 …………ん?と言う事は、明日からも今日みたいな事が続くって事か……?ずっと……?」



「じゃあ、料理も来た事だし、早速食うとするか。

 君に関しては、コレも必要な訓練だと思って掛かる様に。良いね?」




 そう言ってシェイドは、明日以降の地獄を想像してしまったが為に、顔を青ざめさせる事となってしまっているマモルの皿へと、人の顔程の大きさも在る肉の塊を、無造作にも見える手つきにて盛り付けて渡して行くのであった……。






 ………………なお、マモルによる




『こんな量は無理!?』




 と言う抗議に対しては、シェイドによる




『だが、その肉を食う事その物が、幼馴染みを無事に救い出せる可能性を高め、君が無様に敗北する姿を晒す事になる可能性を下げる事に繋がるのは理解しているよな?

 なら、君がしなくてはならない事は、何だ?』




 との言葉により、多少自棄糞になりながらも両手に食器を携えて戦いを挑む事になったのだが、ソレはまた別のお話、と言うヤツである。




因みに、主人公からは


『吐いたらソレを再び食わせるからちゃんと腹に納めておけよ?』


との釘指しがされたとかされなかったとか……

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