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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
七章・反逆者は『獣人国』にて弟子を取る

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反逆者は不撓の少年との稽古を続ける

 


 全身からありとあらゆる汁を垂れ流しにしながらも、自らの意思の力にて掛けられていた威圧を押しきる形でマモルが動いて見せた事により、それまで掛けていた威圧をシェイドが解除する。


 すると、威圧を掛けられる事で半ばその場で固定される形となっていたマモルは、自らの身体を支える外的要因(実際には『そう思える程の重圧だった』と言うだけなのだが)が無くなった事により、その場にへたり込んでしまう。



 全身を冷や汗と脂汗にてしとどに濡らし、汗や涙や鼻水にて顔面を汚し、下着も辛うじて大便にて汚す事は回避出来ていたものの、それでも誤魔化し様の無い程には汚してしまっており、未だに本格的な『修行』が始まってもいないにも関わらず、マモルの姿は端から見れば『悲惨』と言う他に無い様な状態となってしまっていた。



 そんなマモルだったが、最初こそ唐突に威圧が止んだ事で半ば放心していたが、僅かな時間にてシェイドからの指摘を思い出して気を取り直して立ち上がり、構えて見せようとする。


 が、寸前まで殺気やら何やらを浴びせられていただけでなく、人生で初めて『本気で殺す』と言う意思が込められたソレを真っ正面から浴びてしまったが為に手足は震え、まともに立ち上がる事すらも時間を掛けて行う必要に駆られる事となってしまう。



 その上、そんな醜態を外見上は『自分よりも少し年上で美人なお姉さん達』である二人(サタニシスとラヴィニア)に目撃されただけでなく、様々な要因によってみっともない状態となってしまっている姿を見られてしまっている為に、思春期真っ只中の少年としては非常に羞恥心が煽られる状況となってしまい、思わず顔とズボンの汚れを手で隠そうとしてしまう。



 その結果、足を震わせながら中腰の姿勢のままで、顔と股間を手で隠そうとしている、と言う何とも情けない状態へと至ってしまい、更に顔を赤らめて羞恥に沈む、と言う悪循環に陥ってしまう事となっていた。



 そんなマモルへと対してシェイドは、『呆れ』でも『怒り』でも『見放し』でも無く、純粋に『称賛』の感情を乗せた言葉を彼へと向かって贈って行く。




「……まったく、大したモノだよ。

 さっきまで掛けていた威圧。アレは、俺にとっての最低限の出力でしか無かったのは否定しないが、下手な冒険者や下級の魔物だと、アレだけでショック死する可能性すら在る程度には強いモノだったんだがな。

 それを、幾ら酷い状態に陥る羽目になったとしても、肝心に呑み込まれてしまっていた状態から抜け出して見せる、だなんて事はそこらの連中では確実に無理な話なんだぞ?

 …………だから、自信を持て、と言うつもりは無いが、それでも『自分はコレならば出来る!』と言う基準を一つ作っておく事をオススメしよう。そうすれば、いざ戦い、とでもなった際にも、かなり楽になるからな」



「………………ほ、本当ですか!?」



「あぁ、勿論さ。

 この程度の事で付く自信は無駄で無意味、と言う訳でも無いが、寧ろソレによってもたらされる慢心の方が問題だからな。

 事実でなければ、こんな事言いやしないよ。だから、胸を張ると良い。君は今、一つ死線を克服したんだから」



「…………お、おぉ!?

 そう考えると、もしかして結構成長できたのかも!?なら、みっともない姿を見せる羽目になっただけの甲斐は在った、んですかね?」



「さぁ?そこら辺は、自分の感覚で頼むよ。

 ……さて、じゃあ()()()()()()ほら、早く構えたまえよ。

 約束通りに、俺からは仕掛けないから」



「………………え?いや、その……手合わせ、って、さっきのアレだったんじゃ無い、んです……?

 それと、俺、結構アレな状態なんで、着替える位は、しておきたいんです、けど……?」



「あぁ、ソレについては、両方共に『NO』だ。

 さっきのアレは、軽く殺気と魔力と威圧とを使った『気当たり』を仕掛けて見ただけだから、準備運動みたいなモノだな。あの程度じゃあ動じなくなるまでは毎回やる予定だから、さっさと慣れる事をオススメするよ」



「………………え?マジですか……?」



「マジマジ、大マジ。

 ついでに言えば、君にはこれから、いやと言う程この訓練所の土を味わって、泥塗れ以下の状況になる予定なんだから、風呂も着替えもその後だね。

 と言う訳だし、時間もそこまで多くは無いのだから、さっさと掛かって来たまえよ。もう既に、俺が無力な一般人、なんて訳じゃないのは理解しているだろう?

 あんまり油断していると、もう一回死ぬぞ?」



「…………ぅっ!?あぁぁっ!!」




 引っ込めていた殺気をまたしても覗かせるシェイド。


 ソレにより、先程の恐怖体験が瞬時に脳裏を過る事となったマモルは、激発した様に叫び声を挙げながら彼へと向けて突っ込んで行く。



 流石に、その自棄っぱちにも見える特攻には苦笑を浮かべる他に無かったシェイドであったが、取り敢えず師匠となった以上は不意を打たれる様な事だけは避けないとならない為に、油断はせずにマモルの一挙手一投足に注目して行く。



 現時点での体型やら、彼が彼自身について語っていた事やらからは考え難い程の速度にて真っ直ぐに突っ込んで来るマモル。


 確実に無手のままであり、その両の手には未だに何の得物も握られてはいなかったが、さて何をどうするつもりなのか?とシェイドが油断はせずに観察していると、唐突に彼の手の中に武具と思わしき刃が姿を現す事となる。



 いきなり過ぎるほどにいきなり現れたその刃は、その場にいた三人(シェイド、サタニシス、ラヴィニア)の目測では、一般的に市販されている長剣と同程度の刃渡りと全長を持っている様に見えていた。


 が、当然の様に、上半身は裸のままで、若干ながらも骨の浮かんだ素肌を晒しているマモルにそんなモノを隠しておける様なスペースが在るハズも無く、事前に『ある程度の情報』を握っていたらしいラヴィニアを除く二人は、僅かながらも驚愕によって目を見開く事となる。



 完全に観客として傍観者に徹しているサタニシスであれば大した問題は無いのだろうが、実際に相対し、その上で『殺すつもりで来い』等と煽って見せただけでなく、実際にその刃の前に身を晒しているシェイドにとっては『冗談キツい』では済まされない。


 何せ、それまでは『素手なのだから、魔術の類いを使われたとしてもこの程度か』と間合いを狭く取っていたのに、ソレを上回り『得物を手にした状態』にて襲い掛かろうとしてきているのだから、色々と対向を変えないとならなくなるからだ。



 とは言え、そこは無駄に幾つもの死線(主に『相手にとっての』だが)を潜り抜けて来たシェイド。


 即座に思考と対応選択肢を切り替えると、突っ込んで来た勢いのままに突き出された刃を弾くべく、手を添えて受け流そうとする。



 …………パッと見た限りでは、デザインも普遍的で刃渡りも量産品と変わらず、コレと言った特徴も見受けられない長剣に過ぎない。


 その為に、特に魔力で手を保護する事もせず、自らの身体の中心から刃を押し出して受け流すつもりでいたのだが…………





 ━━━━ジュッ!!!





「「………………はぁ?」」





 …………いたのだが、それは彼の掌から周囲へと発せられた、湿っぽくも何かが高熱によって焼かれた様な音と、ソレを耳にしたシェイドとサタニシスの二人がシンクロしながら溢した呟きによって中断されてしまう事となる。



 手元から伝わって来る熱と痛みと違和感に、予定では『技術で受け流す』つもりであったシェイドだが、思わず力ずくで刃を弾き飛ばし、自らも後退る事でマモルの刃圏から待避して行く。



 予想以上に強い力で弾かれてしまったからか、そもそも弾かれる事を予測していなかったからかは不明だが、彼からの追撃が放たれないのを良い事に、視線を外して自らの手の状況を確認し始める。



 …………ソコには、確実に刃によって付けられたモノでは無い、と言えるであろう、焼け爛れた傷口が存在していた。



 ジクジクと崩れ、今も血液やその他の体液を溢れさせている傷口は、まるで真っ赤になるまで熱した鉄棒でも押し付ければそうなるのでは?と言う状態となっているが、その周辺の皮膚も色が変わったり傷口と同じ様な状態となりつつあったりと、確実に『火傷』の類いでは無い様相を晒していた。



 ソレを軽く手を開閉したりしながら観察していたシェイドであったが、僅かとは言え時間が経った事により、その傷口の異常性を確信する事となる。



 …………そう、それは、彼の傷口が、()()()()()()()()()()()()()と言う点だ。



 一応、マモルが相対しても怯えずに打ち込める様に、と魔力を抑え込んではいた。


 その為、肉体的な強度としては一般人よりも少し硬い、と言う程度であり、それならば無防備に刃を受ければ負傷してもおかしくは無かった。



 …………だが、彼の内包魔力によって半ば強制的かつ自動的に強化されている自己回復能力は、彼が意図的に魔力を抑え込んだとしても、彼の内側に存在している魔力を源泉として勝手に発動する為に、この手の負傷は大抵放置していても勝手に治ってしまうのだ。



 しかし、彼の手のひらには未だに傷が刻まれたままとなっているだけでなく、今もその規模をジクジクとした痛みと熱と共に拡大しており、最初は手のひらの中央部分に一条刻まれていただけであったソレは、今では手のひらの殆んどを占めており、指の根元へと至らんとしている程であった。




「…………毒?いや、これは……呪いの類い、か?

 原因は…………その剣だな?」



「………………その、通りです。

『召喚・咒毒剣カンタレラ』。それが、俺に与えられた『スキル』の一つ。

 傷付けた相手に、癒える事無く広がり続ける毒と付与する(のろ)いが込められた、俺にしか扱えない刃を召喚する。そんな、『スキル』です」



「…………成る程、ねぇ。

 道理で、一向に回復が始まらない訳だ。

 とは言え、この程度でどうにかなる程、温い死線は潜って無いからな。気にせず、続けて掛かって来い。

 次は、魔力による防御もするから、そのつもりで来いよ?」



「…………はいっ!!」




 一通り状態を確認したシェイドが、手刀で侵食されつつあった手のひらを削ぎ落としながらマモルへとそう言い放つ。



 そんな彼の様子に、一瞬顔色を悪くしたマモルであったが、シェイドの様子から本当に効いてはいないのだろう、と判断すると、気合いを入れ直す様にして返答をしながら、再び彼へと目掛けて刃を振りかぶりながら迫って行くのであった……。



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