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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
七章・反逆者は『獣人国』にて弟子を取る

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反逆者は不撓の少年から話を聞く

 


 自身とラヴィニアとの間を隔てる様にして放たれた言葉により、そちらへと意識と視線を向けるシェイド。


 ソコには、大方の予想通りに黒髪黒目を持ち合わせた、明らかに『稀人』だと一目にて理解出来る風貌を持ち合わせた少年が立っていた。



 男性にしては長く伸ばされた髪には艶が無く、自信や気迫が感じられない細面も相まって、気弱そうな雰囲気が醸し出されている。


 腕立て伏せをしていた為か、上半身には衣服を纏ってはおらず、以前のシェイドの様に完全に『骨と皮』、と言う程では無いにしても、脂肪も筋肉の類いも剰り着いておらず、吹けば飛ぶであろう程度の頼り無さも漂って来ていた。


 更に言えば、シェイドから放たれていた威圧の流れ弾(?)を受けたのか、その顔面は蒼白であり、足元や先程放たれた言葉が震えていた事からも、完全にびびってしまっているのだろう事が窺い知れた。



 おまけに、こうして相対して確信を抱くに至ったが、魔力の量もハッキリ言ってそこまで大したモノでは無いだろう。


 確かに、一般人と比べれば数倍に至る規模で抱えている様子では在るが、冒険者の様な戦闘職種に就いている者と比べると、精々が前衛型の倍程度であり、純粋な後衛魔術師よりは何割か上、と言う程度のモノでしか無い。



 基本的に、特に鍛えてはいなくとも特化した前衛に匹敵するだけの身体能力と、純粋な後衛である魔導師でも上位に位置するであろう程の魔力を持ち合わせているハズの稀人としては、異常な迄に『貧弱』と言えるであろう状態となっていた。



 本来ならば、その様な状態から仮に鍛えたとしても、何をさせたいのかは未だに明かされてはいないながらも、確実にその『目標』を達成する事は難しいだろうから、拘束される時間との兼ね合いも在ってその場で即座に説明とやらを断り、ラヴィニアからも彼からも背を向けるべきであったのだろう。


 …………が、何故か彼は




「………………良いだろう。

 聞くだけなら、聞いてやる。話してみろ」




 と、まるで目の前の彼の存在を認めたかの様な反応を示して見せたのだ。



 ソレには、サタニシスにとってもラヴィニアにとっても予想外であったらしく、驚愕から目を丸く見開きながら彼らの方へと無言のままに視線を向けるだけしか出来ずにいた。



 それらの反応を横目に見ながら、目の前の稀人の少年から視線を外そうとはせず、その目を見続けるシェイドへと対して彼は、周囲の反応と若干ながら自らに掛かって来ていた圧力が減じた事に戸惑いながらも、事情を説明するべく口を開いて行く。




「…………ありがとう、ございます。

 取り敢えず、先ずは自己紹介を。

 俺は、護。正堂 護。()()()()()()()()()()マモル・セイドウになります。

 …………それで、もう分かっているとは思いますが、俺は、()()は、貴方達が言う処の『稀人』に相当する、別の世界の出身者になります」



「…………まぁ、文字通り、見れば分かるさ。その程度はな。

 それで?その、吹けば飛びそうなヒョロヒョロな身体で、稀人としての恵まれているハズの身体能力すらも持たないお前が、どうして鍛えてまで戦いたがるんだ?そこの部分を、確りと説明しろ。良いな?」



「…………はい、分かりました。

 恥まみれな内容で、長くなりますが、それでも構いませんか?」



「……あぁ、構わんよ。

 ソレを、お前が話してまで、力を求めねばならないと言うのなら、最後まで聞き届けてやろう」



「…………ありがとう、ございます」




 …………それまで、身体を、声を震わせながらも、その不思議と力が込められていた視線を外さず揺るがさずにいたが、彼の言葉によりその瞳を潤ませながら深々と頭を下げて行く。


 そんなマモルの姿に対して彼も、何かしらの思う処が在ったのか、それとも何かしらの『予感』が在ったからか、ラヴィニアは勿論としてもサタニシスですら見たことも無い様な事態には優しさを含んだ柔らかな視線を返していた。



 そうして、暫し二人の間に沈黙が降りる事となる。



 片や、語る側のマモルは、少しでも道筋を立てた分かりやすい話に出来る様にと、頭の中でストーリーを整理している為に。


 片や、聞く側であるシェイドは、彼が話し易く伝えたい事を伝えられる様に内容を纏められるまで急かす事もせず、威圧する様な事もせずに柔らかな視線にて彼の様子を見守っていたのだ。



 そこから更に幾らかの時間が過ぎ、太陽が中天を通りすぎて夕刻に掛かろうか、と言った頃合いになった時。


 それまで俯きながら思考を纏めていたマモルが顔を上げ、再び不思議なまでに力の込められた視線をシェイドへと向けて口を開いて行く。




「…………俺は、この世界に来た時には、一人ではありませんでした。一緒に、咲が、幼馴染みの花咲 桜が居たんです。

 学校、俺達の世界での学舎からの帰り道、昔から一緒に行動する事が多かった咲と一緒に帰っていた途中で、気付いたらこちら側に来てしまっていたのですが、当然の様にその時にも俺の隣には咲が居たんです。

 …………居て、しまったんです……」



「…………大切な、幼馴染みだったんだな。

 だが、今はここには居ない。違うか?」



「……えぇ、その通りです。

 幸いにも、こちらに来て比較的直ぐにラヴィニアさんに発見され、一時的にこのカオレンズベルクで俺達は保護される事になったのですが、それと同時に折り悪くここのギルドマスターも別の稀人を保護して連れてきてしまっていた為に、鉢合わせする羽目になったんです」



「……で、その時にその稀人なりギルドマスターなりがそのサキとか言う幼馴染みに対して目を付けて、難癖を仕掛けて来て結果的に拐われた、って感じかね?

 ついでに言えば、その幼馴染みを賭けた戦いでもお前さんは約束していて、ソレにどうにか勝つ為にああして鍛えていた、って事か?」



「………………まるで、見てきた様に当ててくれますね?

 まぁ、概ねその通りです。

 俺達と同じくこちらに迷い込んだ稀人が、かつて俺の事を向こうの学舎で虐めてくれていた相手でしてね。

 向こうでは、一定期間を置いて学習するレベルを上げる為に学舎を変えるのですが、その際にそいつとは別れる事が出来て、かつそれまで離れ離れになっていた咲とも再会する事が出来たのですが、今回を切欠にして彼女の存在がそいつにバレてしまったんです。

 …………当然の様に、そいつは咲の事を自分に寄越す様に俺に命令して来ました。そして、俺はソレを拒んで一度は戦いになり、一方的に叩きのめされて咲を拐われる事になったんです……」



「………………そ、その後に、そやつを保護していたこのカオレンズベルクの支部長が、近い内に開催される武闘会にて二人の決着を正式に決め、拐われたサキの身柄を明確にする、と一方的に通知してきた訳で、な?

 べ、別段、吾はわざと放置していた訳でも、見てみぬフリをしていた訳では無いからな!?

 元々こちらに呼び出された、武闘会関連の用向きで離れている隙にやられたと言うだけで、そこまでの落ち度では無いハズなのだが!?」



「…………まぁ、そこの間抜けの戯言は置いておくとして、大体の事情は把握できたと思う」



「……じ、じゃあ!」



「…………だが、返事をする前に、幾つか君に質問しなくちゃならない。

 かなり、君にとってはキツい内容になるかも知れないが、それでも聞くか?」



「…………ソレをする事で、貴方に鍛えて貰えるのなら」



「…………分かった」




 そこで一旦言葉を切ったシェイドは、仕切り直す様にして深く呼吸を一つ吐くと、それまでの普段のソレよりも柔らかであった眼光を鋭いモノへと変化させ、マモルへと向けながら言葉を放って行く。




「……先ずは、一つ。

 仮に、もし仮にこのまま俺が君の事を鍛える事にしたとしよう。

 しかし、俺にはまだ誰かを鍛えたり教えたり、と言った経験は欠片も無い。自分が強くなった時のやり方の流用も、特殊すぎて応用できない。

 だから、確実に君が勝てる様にしてやる、とは言えない。それでも、俺に鍛えられる事を、弟子入りする事を望むのか?」



「………………俺には、時間も金も伝手も在りません。

 なので、こうして師事させてくれようとしている人がいてくれると言う事は、唯一無二に見える程に少ないチャンスなんです。

 元々少ない可能性を増やす為であれば、俺は何でもする覚悟です」



「…………良いだろう。なら、次だ。

 では、仮に君が俺に鍛えられる事で、勝負に勝てたとしよう。仮定だがね。

 その上で問おう。その時には既に、例のサキとやらは君を虐げてくれていたヤツの慰み物になって、その身体を汚されているかも知れない。この国では合法な『その手の薬』で漬物にされて、心変わりしているかも知れない。状況と快楽に流されてしまっているかも知れない。

 そんな可能性が多大に在る、と言うよりもほぼそうなっているだろうが、そうであったとしても、これから訪れるであろう地獄すらも生温く思える修行を意地で修める事が出来ると、そう言いきれるだけの覚悟が在るか?」



「………………ソコに関しては、俺も正直迷いました。

 俺のやることが、咲に対して迷惑な事なんじゃ無いのか?咲の幸せに繋がらないんじゃないのか?そもそも、付き合ってすらいなかったのに、そこまでする必要なんてあるのか?って。

 でも、やっぱり俺は、咲には、彼女には幸せになって欲しいと、そう願っているんです。だから、取り敢えず咲の事を自由にする。

 そう、決めているんです」



「その結果、隣に君が居なかったとしても?」



「……だとしても、彼女の笑顔が曇るよりは」



「…………当の本人に、拒絶されたとしても?」



「…………だとしても、彼女の道行きが阻まれるよりは」



「………………良いだろう。

 シェイド・オルテンベルクだ。

 俺が、君を鍛えよう。何も保証は出来はしないが、全力でお前を強くしてやる。

 ソレだけは、約束しよう」



「…………はいっ!よろしくお願いします!師匠!!」




 彼からの問い掛けに、只の一度も視線を反らす事も、言葉を詰まらせる事もせず、答えきって見せたマモル。


 その姿に、自らを虐げていた存在に対して立ち向かおうとするその姿勢に、かつての自身を連想したのかは定かでは無いが、向けられていた依頼に対して『諾』と応えながらシェイドは彼へと向けて手を差し出して見せる。



 そして、自らに向けられた言葉により、一筋の光明を見出だす事に成功したマモルは、自らの胸中にて湧き起こってきた感情のままに返答をすると、差し出された手を力強く握り返して見せるのであった……。




無事弟子入り成功


次回から、修行パート突入

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?この子シェイドや勇者よりも主人公してない? シェイドが護くんの弟子入りを認めたのは彼に力を得る前の弱かった自分を重ねたからだろうな…願わくば彼には幸せになってほしいです。しかし何という…
[一言] おぉ、まじめな転移者きましたか 願わくば、力をつけても、過去二人の転移者みたいにならず、そのままでいて欲しいですね
[一言] おぉ…見た目の貧弱さは過去のシェイド君と似ているようですが、強い意志とか不屈さがあってその点では過去の師匠を超えてますねww まぁシェイド君の過去は壮絶すぎるので折れて当然ですけどね。 それ…
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