反逆者は意外な再会を果たす
カオレンズベルクの冒険者ギルドに到着したシェイドとサタニシスは、さっさと到着したと言う連絡と、ソレに伴う手続きの類いを済ませるべく、入り口のドアへと手を掛ける。
…………が、それとほぼタイミングを同じくして、ドアの内側から『何か』が凄まじいまでの速度にて、ドアを押し開ける形で先んじて飛び出して来た。
咄嗟に反応し、二人揃って左右へと分散して回避する事に成功する。
当然、そうして飛来したモノが故意的に向けられたモノである可能性や、飛来したモノを目眩ましにして本命として魔術による狙撃や爆撃が向けられる可能性を考慮して、それまでは抑えていた魔力を解放し、意図的に全身に纏って身体能力を強化すると共に、魔力による鎧を展開して行く。
強大な魔力を持つ二人が放つ魔力圧が放たれ始めた事により、周囲に転がっていたゴミが転がり、唐突に吹き出した突風によって土煙が立ち始める。
僅かな時間の内にそれらを成し遂げて見せたシェイドとサタニシスの二人が、周囲へと警戒心を張り巡らせながら油断無く構えていると、ギルドの内部から彼らにとっては唐突に言葉が放たれる。
「…………全く、あれだけデカい口を叩いてくれたんだから、どれだけの強豪かと思えばその程度なのかい?
この程度じゃあ、武闘会に出たって優勝は当然として、本選への進出すら出来やしないと思うけどねえ。
その上で、一応は特級である吾に対して、高々上級に上がりたての若造が、なんであれだけデカい態度に出られたのか、不思議で仕方無いんだけどねぇ……?」
…………端から聞いただけでは、その声は若い女性のモノである様にも思えただろう。
高く、ハリが在り、その上で勝ち気な活発さに満ち溢れたその声の持ち主は、その声に相応しいだけの勝ち気な美人であるのだろう、と容易に想像が出来る程に、活力に満ち溢れた声をしていた。
ソコに、二人に対する敵意や悪意の類いは含まれておらず、ただ単に二人はギルド内部に居るのであろう女性が、目の前で転がって目を回している獣人族の男を吹き飛ばしたのと同じタイミングにて、偶々ドアを開けようとしていた、と言う事だったのだろう、と言う事を容易に察する事が出来ていた。
その為、二人は警戒心は解かないまでも、戦闘態勢は解除し、纏っていた魔力も霧散させて平常と同じ状態へと移行してからドアへと視線を向けて行く。
何故二人揃ってただただそんな事をしているのか、と言えば、それは内部からドアへと向けて気配が移動している事と、足音が近付きつつ在ったからだ。
このままギルドに入ろうとしても、狭い入り口にて鉢合わせになりかねないし、彼らとしてもあわや追突事故を貰う羽目になりかけた事もあり、多少の文句をぶつけると同時に、事の説明程度はして貰わないとならないな、と判断していたからだ。
…………しかし、ソレに加えてシェイドは、そうやって立ち止まってまで出てくるハズの『彼女』を待ち構えている理由が在った。
それは、何となくその声に聞き覚えが在ったからだ。
最近聞いた、と言う訳では無かったハズだ。
少なくとも、こうして旅に出てからは耳にした覚えは確実に無い。ソレだけは、間違い無い。
…………だが、そうだとしたら、一体何処でだろうか?
自慢では無いが、シェイドとしては記憶に残っている程に、親密な間柄になっていた相手は数える程しか存在していない。
その上で、そうして耳に残っているであろう声の持ち主達(幼馴染み二人、元妹)とは違うと断言出来るし、比較的耳に残っているであろう王女様とも違うのは間違い無いだろう。
ソレに、そもそもの話として、今挙げた面子がこんな場所に居るとも思えないし、居る理由も無かったハズだ。少なくとも、冒険者ギルドにわざわざ顔を出す、と言った事をする様な面子でもなかったと彼は記憶している。
かと言って、偶々耳にした声が記憶に残っていたのか?と問われると、確実に『否』と答える事になるだろう。
それ程に、先程の声は彼の耳に馴染む響きを持っていたと、彼には感じられたのだ。
多少の引っ掛かりを覚えつつ、どうにかして引き摺り出せないか、と記憶を漁っていると、とうとう声の主が入り口の付近に到着したらしく、気配と足音の移動が停止し、その姿を陽光の元に晒して行く。
すると、ソコに居たのは頭頂部から長く大きな耳を生やした兎人族の女性であり、長くスリットの入った身体にフィットするドレスの様な胴着の様な服装をした人物であると同時に、彼にとっては大変に見覚えの在る存在であったのだった……。
「………………おいおい、なんでこんな処にクソウサギの野郎が居やがるんだよ。
カートゥでのギルドマスターの職務だとかは、一体どうしやがったんだ?」
「……………………え?ご、ご主人様……?」
「「………………は……?」」
…………そして、姿を現した女性の方からも溢された呟きにより、三者間にてとてもでは無いが形容し難い複雑かつ冷たい空気が流れる事となったのであった……。
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唐突過ぎる程に唐突な出会いを果たした三人は、急遽場所を移す事にしていた。
何せ、一人は観衆の元に人一人を建物の外まで蹴り飛ばし、一人はソレを成した相手から突然『ご主人様』呼ばわりされており、最後の一人もそう呼ばれた彼の事を凄い目で見ている様を周囲から見られてしまっており、それなり以上に注目を集める事となってしまっていたからだ。
流石に、好奇心から向けられる無遠慮な視線に晒されながら会話を続ける、と言う様な事をしたいとは彼女の方も思っていなかったらしく、軽く周囲を睨み付けて人垣を散らした後に、足早にギルドの奥に在る応接室の一つに二人を誘導し現在に至る、と言う訳なのだ。
そんな訳も在り、三人が揃っている応接室の内部には、痛い程の沈黙が横たわっていた。
片や、何故彼がここに居るのか?を問う様にしながらも、当然の様に彼の隣に腰を下ろしている相手の事を観察する視線を向け。
片や、先の発言は一体なんだったのか?を問う様にしながらも、彼とは近しい距離感を保ったままで相手を牽制せんとするかの様に。
そんな二人の様子に辟易としながらも、取り敢えずは口火を切らねばなるまいよ、との思いから自ら率先してシェイドが沈黙を突き破って行く。
「…………処で、あんたはなんでここに居やがるんだ?
さっきも言ったが、あんたはカートゥのギルドマスターだったハズだ。それが、なんでまたこんな場所に居るんだ?
それと、さっきの『ご主人様』云々って一体……?」
そうやって口火を切ったシェイドに対して『クソウサギ』ことラヴィニアは、何故か嬉しそうな様子を若々しい相貌に昇らせながら、彼へと向けた回答を始める。
「あぁ、その事ならば、問題は無い。
吾は、ここには正式に招かれて来ているからな。正確に言えば『カオレンズベルク支部から招かれて』と言う訳では無いが、それでも招かれたのには代わり無い。
ちゃんと、代理を立てて仕事を投げてから来ているから、問題は無いさ」
「………………まぁ、俺には微塵も関係の無い事だから、そっちがそれで良いならもうそれで良いよ。
それと、さっきも聞いたが、あの時口走ってくれたヤバすぎる呼び方だが……」
「…………ねぇねぇ、シェイド君?
そろそろ、お姉さんにも分かる様に話を運んで貰っても良いかな?
あの人が誰で、君とどう言う関係なのか、ハッキリと、ね?」
随分と無責任な内容を嬉々として語るラヴィニアに対して、シェイドが呆れ半分に滲ませながら最も気にかかっていた部分を追求しようとすると、それとタイミングを同じくしてサタニシスが言葉を挟んで来た。
その表情は形こそ『笑顔』と呼ぶのに相応しいモノとなっていたが、瞳だけは笑ってはおらず、何やら良く分からないが凄まじいまでの威圧感を放っている様に彼には感じられていた。
その為……と言う訳でも無いが、元々するつもりであった説明をサタニシスへと向けてし始める。
「…………あ~、その、なんだ……取り敢えず、簡潔に言うと『俺の事を迫害する様に指示していたが、キレた俺に返り討ちにされてグシャグシャにされたギルドマスター』って感じ、かね?」
「…………はい?
…………ねえ、もしかしてお姉さんの事からかっていたりする?
その説明だと、シェイド君の逆襲でボコボコにされたけど、それで勝手に変な扉を開いちゃってシェイド君の事を『ご主人様認定』してる、みたいな風に聞こえてたんだとけど、もしかして私の理解力不足だったりする訳?
それとも、シェイド君が隠しておきたかった趣味だとか?なら、お姉さんとしては試しに付き合って上げる事も吝かでも無いんだけど?」
「……………………誠に遺憾ながら、最後の『俺の趣味』ってヤツ以外は大体合ってるんだよなぁ……」
「……………………え?マジで……?」
「…………………………誠に遺憾ながら、マジです……」
彼からの言葉を受け、信じられない様なモノを見た、と言わんばかりの表情にて、残像が残る程の速度にてラヴィニアの方へと振り返るサタニシス。
その視線の先には、顔を赤らめ瞳を潤ませ、力強さを感じさせる引き締まりを見せながらも、女性らしく丸く盛り上がりを見せている肢体をクネクネと悩ましげにくねらせながら
「…………あぁ、再会したばかりだと言うのに、ご主人様から向けられた蔑みを隠そうともしない視線と、冷たい態度……!
そして、今現在も続いている放置プレイ♥️あぁ、堪らぬ♪濡れてしまいそうだ♪」
との、かつての姿からは考えられない程の醜態を晒すラヴィニアの姿が在ったのであった……。
…………どうしてこうなった……?(完全に他人事な作者)




