『隊商荒らし』は致命的な過ちを犯す
試験的に今回の投稿から時間をずらしてみる事にします
どうかお付き合い頂ければ幸いですm(_ _)m
シェイドが即断即応にて白金貨を積み上げ、要求した本人であるギルレインの度肝を抜いていたのと同じ頃合い。
既に世界を闇夜が包み込んでいる時刻となっているにも関わらず、彼らが滞在するレオルクス国の首都であるウィアオドスに置かれている冒険者ギルドの本支部は、普段とは異なる熱気と活気に満ち溢れていた。
普段であれば、最早真夜中と呼んでも差し支えの無い時刻であれば流石にギルドとしての職務を終え、併設されている酒場にのみ人気が残され、例外的にカウンターの奥で職員が残された事務作業に従事する、と言う状態になっているハズの頃合いであったのだが、この日に限ってはそうなっていなかった。
…………それは、何故か?
理由として挙げるとすれば、それは至極簡単で単純な事。
『大量かつ良質な『迷宮』産の素材が持ち込まれる事となったから』
である。
元来、このレオルクス内部に存在し、かつ生活圏内と適切な距離を保つ事が出来ている『迷宮』は多くは無いが存在していない訳では無く、必然的にそれらの『迷宮』から産出される諸々の資源は、最寄りの都市に在るギルドを通して流通の経路に乗せられる事となっており、必然的にそれらの都市の支部を財政的に潤す形となっている。
…………だが、それはあくまでも『間近に『迷宮』が在る』と分かってから作られた都市であれば、と言う話。
当然、安全面の心配と都市機能の保全を目的とした場合、未だに攻略されずに安全を確保出来ない、と言う観点からこのウィアオドスの近辺に『迷宮』は、判明している限りでは存在していない。
その為に、一応は首都と言う形で本支部として一際立派な建物を与えられていはするものの、このウィアオドス本支部は『迷宮』からもたらされる財貨のネットワークから外された、ある種の閑職染みた立ち位置となっていたのだ。
そんな場所に、これまで碌に攻略されて来なかった様な深い階層の魔石やら素材やらに加え、各階層にて手に入った魔道具の類いやら、階層主のモノと思われる一際立派な魔石まで大量に持ち込まれる事となったのだ。
否応なしに熱気がこもり、盛り上がらないハズが無い、と言うモノだろう。
更に言えば、それだけ多種多様なモノが一度に持ち込まれた上に、持ち込んだ本人曰く
『『迷宮』なら踏破して来た』
とまで言われてしまっては、現地の支部に確認を取ると同時に、事の次第を確認する為の部隊を送り込む事すら権限的には可能となってしまっていた為に、ここまでてんてこ舞いな状態での活気が生まれていた、と言う訳なのだ。
定置間でのみ情報のやり取りを可能とする魔道具によって得られた情報によれば、現地たるラビュリンテの支部にも、それらの物品を持ち込んだ『シェイド・オルテンベルク』と思わしき二人連れが、同じ様に報告を上げていた事も判明しており(但し現地では証拠を提示されても半信半疑な状態である様子だが)、未だに踏破されたかどうかの確認を取ってすらいない様子であった事も、ウィアオドス本支部が調査隊を捩じ込む事が出来た要因の一つであった、と言えるだろう。
それ故に、と言う訳でも無いのかも知れないが、現在ギルド内部は、取り敢えず巨額で買い取った諸々の品をどうにかして売り捌こうと頭を悩ませる者、『迷宮』の調査隊として派遣される事が決まり自らの装備を探している者、それらを恙無く完遂させる為に必死に書類を書き上げる者、それらを見てどうにかして一枚噛んでやろうと画策する商人、釣られる形で自分達も!と気炎を上げる冒険者、と言った具合に、正に正しい方向での活気に満ち溢れている状況となっていたのだ。
…………そんな、冒険者ギルドウィアオドス本支部の直ぐ側であり、内部の活気や景気付けのばか騒ぎやら会話迄もが聞き取れる程の距離に在る路地裏にて、とあるフードを深々と下げた人影が震えていた。
この世界では特徴的な黒髪をフードから覗かせているその人影は、別世界からの来訪者として『稀人』と呼称される存在であり、この近辺では唯一にして少し前にギルドを騒がしていた張本人の一人でもある『キミヒト・ハシラ』、通称として『隊商荒らし』と呼ばれている者であった。
最初こそ、シェイドの放つ殺意や魔力によって逃走を選ぶ事となってしまったが、少し時間が経てば
『アレは只の気のせいだった』
と言う謎の自信と確信を胸に抱き、こうしてギルドの付近にまで戻ってくる事になったのだ。
既に、ギルドの方から冒険者資格の凍結処分を言い渡されているハシラ。
しかし、自身の持つ『魅了』や『扇動』と言った、他人に対して自らの言葉に従うように仕向ける事が出来る『スキル』を使えばそれを簡単に解除し、それに加えてこれまでの不当な扱い(と本人は思っているが割りと扱い自体は正当)を撤回させよう、と考えてこうしてギルドの付近に忍んでいる、と言う訳なのだ。
…………もっとも、実際の処としては、既に追放処分を下されており、かつ『危険人物碌』に名前が登録されてしまっている上に、バッチリガッツリ賞金も懸けられてしまっている為に、どう足掻いてもそれらは『不可能』な事となっているのだが、ソレを知らぬは本人のみ、と言う事だったりもする。
一度は逃げ出す事になった道中を、自らの記憶を誤魔化して『自らを愛している女性を卑劣漢へと人質に取られる事となってしまった為に、仕方無く一時撤退する羽目になった』と思い込む事で再度意気揚々と、されども比較的路地に近い道を通る事で逆走してギルドの付近へと到着したハシラ。
その道中では、当然の様にハシラが賞金首となった事を知ったり聞き付けたりした冒険者達が何人か襲撃して来たりもしたが、その悉くを返り討ちにして殺害して路地裏に打ち捨てたり、時に『スキル』を駆使して洗脳したり(主に女性限定で)しながらやっとの思いで到着したのだが、そこで彼の耳に届いて来たのは、彼の事を欠片も気にした様子も見せない職員と冒険者達が発する熱気と、彼らが口々に讃える一人の存在に対する言葉であった。
「…………いや~、しかし、コレはシェイド様々だな!
あっ、俺の予備の武器どこに在るか知らないか?」
「……まぁ、最初はどうなるかと冷や冷やしたモンだが、冷静に考えてみればアイツも、アレだけのモノをこっちに持ち込んでおきながら因縁の相手をギルドに庇われる形になったんだから、ああ言う態度に出るのも分からんでも無いからな。
それより、俺の籠手知らんか?普段使いのヤツじゃなくて、ガチ装備のヤツ」
「そんなもん、ギルドの予備品預り用のロッカーじゃないのか?
それと、あんまり分かった様に言ってやるなよ?アイツがラビュリンテじゃなくてこっちに色々持ち込んでくれたお陰で、俺達がこうして強硬的に『調査隊』の名目で嘴を突っ込めるんだからな」
「そうそう。
聞こえてないハズだから、で口に出しても、誰が聞いてるか分からんのだからな?
これで聞かれていたから~なんて言われても、我らが庇い立てる事は出来んぞ?
ついでに、我の分の回復薬は何処だ?誰か持っておらんか?」
「「「…………いや、それこそ知らんわ。自分で補給所から貰って来いよ」」」
「…………うぅ、部下が辛辣で辛い……我、隊長ぞ……?これから派遣される調査隊の隊長ぞ……?もうちょっと、労った扱いしてくれても良いんじゃないの……?」
「…………いや、あんた労る位ならアイツに振るし」「実際に踏破してるんだから、安心さが段違いだよな!」「実力も折り紙つきだし、実績の保証にもなるんだから今から頼みに行ってみるか?ダメ元で」
「………………部下が辛辣に過ぎる……我辛い……」
…………そんな、ハシラが一方的に敵意を抱き、その上で自らが最愛の相手として定めた相手からの好意を一身に受けている対象であるシェイドの事を褒め称え、その上で『『迷宮』踏破』と言う魔物が蔓延るこの世界に於いて人の生活圏を確保し、その上で無尽蔵に資源と富を産み出せる様に『迷宮』を鎮めて見せたと言う、人々から『英雄』と呼ばれる存在に至るのに必須の経歴を奪われた事を知ってしまったのだ。
…………いずれ、自らの手で成し遂げ、その上でこの世界の『主人公』として現地民達からの喝采を一身に受け、『英雄』として称賛されながらヒロインと共に人の上に立ち、自らの先進的で先鋭的な知識と考えを愚かな民衆に伝えて崇められる、と言うこれからの予定が、たった一人の卑劣漢によって邪魔されてしまったと言う事を知ってしまったのだ。
故にハシラは、陰ながらに屈辱と怒りによって震え、彼に対して見当違いな殺意を募らせている、と言う訳なのだ。
…………しかし、彼は、ハシラはそれらを耳にしても、これまでの通りに自らの都合の良い解釈のみをする事になる。
そう、何かしらのズルをした卑劣漢が、どうにかして『迷宮』を攻略した、と嘘を吐いてギルドを騙し、周囲も騙し、その上で自分の名誉も貶める様に吹聴してくれたのが現在の窮状の原因である、と半ば思い込む様にして認識してしまったのだ。
それ故に…………
「………………クソッ!クソックソックソッ!!
もう、良い。あんな卑劣漢に騙され、主人公である僕の事を蔑ろにするこんな街も、ギルドも、救ってやる価値も無い!
あの卑劣漢諸とも、僕がこの手で復讐してやる!絶対に、絶対にだ!
…………そして、僕の復讐を目の当たりにして、掛けられていた洗脳が解けた彼女と幸せなキスをするんだぁ。そうして、結ばれた僕たちは互いに想いを通じ合わせて…………ふ、ぐふふふっ……!」
…………そう、それ故に、この場で最も安全かつ最もマシな終わり方の出来たであろう『形振り構わず遠くに逃げ出す』と言う選択肢を捨て去り、この場に於いて最も愚かしい選択肢である『シェイドと本格的に敵対する』と言う選択肢を選ぶ事に、選んでしまう事になるのであった……。
…………愚かなり……




