反逆者は名工へと支払いを済ませる
…………何だか、この時間(十二時)に更新するよりも、一時間ずらして(十三時に)更新する方がPVの伸びが良いんですよねぇ……
次から定時更新の時間をずらそうかどうしようか、ちょっとお悩み中……なので、取り敢えず『このままが良い』『ずらしても別に不便は無い』等のご意見を感想に添えて頂けると有難いですm(_ _)m
「…………それで、どうだった?
ソイツは、存分に役割を果たせたのか?」
「……あぁ、勿論、勿論さ。
さっきも言ったが、コイツには危ない処を助けられる事になった。むしろ、コイツが無かったら、多分あの『迷宮』を踏破する事は叶わなかっただろう程に、俺達の役に立ってくれていたよ」
「…………そうか。
ソイツは、儂ら職人にとっちゃ最高の褒め言葉ってヤツだな」
そう言ってギルレインは、それまで握っていた酒瓶をそれまでのモノと同じ様に投げ棄てて叩き割ると、シェイドへと向かって手のひらを差し出して見せる。
若い頃には戦闘で、それ以降は鍛冶仕事にて散々に痛め付けられ、傷や火傷が重なる事で分厚く頑丈になって行った職人の手であり、彼の人生その物を体現した存在でもあるその手のひらは、只の働き者の薄汚れただけの手のひらであるハズのそれは、不思議と神聖さを帯びた神秘的なモノである様に、彼の目には写っていた。
無言のままに差し出された手のひらとその意図を察したシェイドは、彼と同じ様に半ばまで残っていた酒を一息に煽って見せると、掃除するゾンタークに対して申し訳無い気持ちになりながら瓶を投げ棄てて割り砕き、手を空けてから腰に差している得物を引き抜いて見せる。
部屋の内部の灯りを反射し、魔力を通していない為に銀の煌めきを宿したままとなっている刀身がギラリと光を周囲へと放って行く。
打たれたばかりの頃と変わらず、刀身に歪みが発生する事も無く、また刃零れの類いも未だに起きてはいない状態に在り、アレだけの激戦を潜り抜けて来たにも関わらず、まだ手入れの必要性が見えない程に新品同様の姿を晒していた。
そうして抜き放った得物を、差し出されたギルレインの手のひらへと渡すシェイド。
一種の儀式めいて見えるその光景に、半ば部外者と化しつつあったサタニシスも、思わず視線を奪われる事となり、息を呑んでその光景を見詰めて行く。
暫くの間、少し前にアンテライト鉱石に対して行っていた様に灯りに翳したり、指先でなぞってみたり、小さなハンマーで軽く叩いて感触や音を確かめたりして行くギルレイン。
冷徹に、しかし多大な熱量を秘めた瞳にて、一分の傷すらも見逃さない、と言う無言の意志が込められた視線を自らの作品へと注いで行く。
先程と同じく、一分が一時間にも感じられる程の超集中にて様々な角度から刀身を眺めていたギルレインであったが、満足そうな吐息を一つ吐くと、目に嵌めていたルーペを取り外しながら額に浮いていた汗を袖口で拭い去る。
「………………ふぅ。刀身に歪み無し。刃零れも、刃欠けも無し。散々魔物を叩き斬って見せた故だろう多少の傷と切れ味の劣化は見られるが、そこも本当に微々たるモノでしか無い、か……。
まったく、鍛冶師泣かせなヤツだわい。刀身自体は、着けておいた魔力で膜を張る機構が結果的に保護する役目を果たしておったから歪みや大きな刃零れが無い、と言うのは理解できるがな。だからと言って、例の巨人を叩き斬っておいてなお、刀身に碌な傷すら付けずに事をやり遂げて見せた等と言う証拠を見せられてしまっては、最早何も言う気にならんわ」
「…………まぁ、俺がそれなりの腕前だって事は否定しないが、それでもソイツがあってこその結果だぞ?
何て言ったって、下手なナマクラだと俺が魔力を流したそれだけで、勝手に燃え尽きて灰になりやがるからな」
「それは、オメェが一気に魔力を流し込み過ぎるからだ、ボケが。
只でさえ魔力の濃度が高いって言うのに、ソレを持ち前の魔力量に任せてバカスカ流し込むからそうなるんだよ!ちっとはオメェで手加減ってヤツを覚えたらどうだ?
コイツだって、ガワは無事でも内側の機構に仕込んでおいた魔術回路に、それなり以上に負担が掛かってるってのが分かってんだぞ?」
「まぁ、シェイド君も割りとバカスカ魔術使ってたからねぇ~?
同じくらい普通に斬ったりもしていたけど、やっぱり発動体としても使える、って部分を確かめてみたかったんじゃないの?」
「だとしても、加減てもんが在ろうがよ。
幾ら儂が作ったモノとは言え、一切の加減も何も無しに酷使してたら、そこまで長持ちなんざしやがらねぇぞ?」
「だからこそ、じゃないの?」
「………………あん……?」
サタニシスの言葉に対し、訝しむ様に言葉を返すギルレイン。
その表情は、言葉と同様に
『何抜かしてくれやがんだコイツは?』
と如実に語っており、下手な事を言えば鼻で笑い飛ばして怒鳴り付けてやろうか?と朽ちには出さずとも如実に語っていた。
そんな、頑固な職人その物の姿勢をとるギルレインに対してサタニシスは、軽く笑みを浮かべながら続きを口にする。
「え?だって、そうでしょう?
今なら、あの『迷宮』でなら、どんな無茶な使い方をしたとしても、直してくれる職人さんが居るんだから、武器の限界を試す様な無茶が出来るんでしょう?
もしそうでなかったら、何処まで出来るのか、何処までの無茶なら大丈夫なのか、だなんて事は測れないじゃない?」
「………………」
あまりにもあっけらかんとしながらも、それでいてシェイドの事情にも慮り、かつ作り手の技量に対しても信頼を寄せている事を明白にしたそのセリフに、思わず言葉を失って呆然としてしまうギルレイン。
今まで割りとぞんざいな扱いをしていた、と言う自覚が在り、その上で自分に対してあまり良い感情を抱いてはいないだろう、と認識していた為に、その様な言葉が飛び出して来るとは思っていなかった為に、不意を打たれて呆気に取られる事となってしまった、と言う訳だ。
ソレを自覚しているのかいないのか、外見上は祖父と孫程に離れている(実際の処としては……)サタニシスが、目を丸くしているギルレインを不思議そうな目で見ているのが面白かったのか、僅かに笑みを浮かべながら纏う空気も若干柔らかいモノにしたシェイドが口を開く。
「まぁ、俺もそこは否定はしないよ。出来る時に、出来る範囲の事を把握しておきたかった、って事はあったからな。整備出来る相手が近くに居ないと、そんな事は出来ないだろう?
まだコイツの料金も支払って無い訳だし、金額の上乗せもするから、取り敢えずメンテナンスもお願いしても構わないか?」
「…………あぁ、そう言や支払いがまだだったな。
そのついでに、整備もしておけ、だと?随分と生意気抜かしてくれやがるじゃねぇかよ。若造が」
「なんだ?断るって事か?」
「抜かせ!受けてやる、っつってんだよ!
取り敢えず、全体的な整備と、何処に対して重点的に負荷が掛かっていたのか、の洗い出しで良いな?他になんか要望が在るんなら、先に言っておきやがれよ!」
「まぁ、それが妥当なんじゃないのか?
パッと見た限りだと、まだ研ぎ直しは必要無いだろうし、刀身の歪みもまだ無いんだから、後は全体的な掃除と、見えてない部分の疲労具合次第、って感じかね?
それで?コイツの料金と合わせて、お幾らだ?」
「あぁん?そうだな……」
客から促される形で、その場で腕を組んで考え始める請求者。
本来であれば真逆であったハズのその立ち位置に、若干処では無い程の違和感を覚える事となってしまうが、この場でソレを気にするのは比較的まともな感性を持ち合わせているゾンターク位のモノであった為に、基本的に誰からの突っ込みが入る事も無く(ゾンタークにとっては『何時もの事』であった為)、職人として自らの作品の価値を冷徹に計算し終えたギルレインが口を開く。
「…………まず、先にハッキリとさせておこう。
今回儂が手掛けたのは、オメェの腰にぶら下がってる得物と鞘の一組と、これから行うコイツの整備だ。
その内、鞘の方の支払いは、儂じしんが出した交換条件として『アンテライト鉱石の採取』をオメェらは既に達成しているから、そこについては帳消しだ。
更に言えば、オメェの得物、まだ銘を付けてねぇから仮に『無銘』と呼ぶが、この『無銘』の素材は全てオメェの持ち出しだ。その分、通常の鍛冶依頼よりゃ、必然的に値引きする事んなる」
「…………と、なると、相場よりも多少は安くなる、と?」
「まぁ、否定はしやしねぇよ。
取り敢えず、儂に依頼する以上は相場で白金貨八十枚から、って処だが、ソイツは素材代も込みで、の話だ。だから、オメェからの支払いは……白金貨五十枚で勘弁してやるよ」
「それは、メンテナンス費用も含めての数字か?」
「ソイツは抜いた金額に決まってんだろうが。
で、整備の方だが、今回だけなら銀貨程度で見てやっても良いんだが…………どうせ、他に持ち込んでも、コイツの状態を悪化させるだけしか出来ねぇだろうからな。定期的にウチに持ち込む、って条件で、最期まで世話見てやっても良いぜ?
まぁ、その代わりに頭金一括で白金貨十枚貰うが、それ以降は何回持ち込もうが、どんな状態だろうが、最悪素材さえ用立てして貰えりゃどうにかしてやるが、どうする?」
「え?良いのか?
じゃあ、それで!」
まるで悪戯好きな子供の様なニヤリとした笑みを浮かべて見せるギルレインに対してシェイドは、二つ返事で提示された金額を一括で道具袋から取り出して見せる。
その迷いの無い行動に、よもや本当にそんな大金を持ち歩いているとは思って無かったらしいゾンタークも、まさか即断するとは思って無かったらしいギルレインも目を丸くし、ただただ受けた衝撃によって表情を固まらせながら、鍛冶場の机に作られた煌めく山を見詰める事となるのであった……。
何だか動きが少ない気もするので、次回辺りからもう少し大きく動かすつもりです




