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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
六章・反逆者はその名を『英雄』へと高める

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反逆者は戦利金を手にすると、監視者と共に工房を目指す

 


 夕暮れが迫りつつ在る中。


 ギルドの建物を後にしたシェイドとサタニシス。



 その表情は、向かっていた時のソレとも、建物内部で見せていたソレとも異なる、明るく満たされたモノとなっていた。



 …………つい先程まで、殺意や敵意を剥き出しにし、幾ら『迷宮』を踏破したばかりで疲労していたとしても大立回りする事に関係は欠片もねぇぞ!?と言わんばかりの刺々しい態度を取っていた上に、半ば因縁と化しつつある相手にまんまと逃げおおせられたとは思えない程に朗らかな様子であるのには、当然ながら理由が在る。



 では、ソレは一体何なのか?



 元々、実の処として彼はそこまで腹を立てていた、と言う訳でも無い。


 アレはあくまでも、あの場ではああしておかないと、例の『キミヒト・ハシラ』からも、ギルドの受付嬢からも、弱気で押しきれる相手である、と認識されてしまう事を防ぐ為に行っていただけの事だ。



 ハシラの方にも、受付嬢の方にも、実際の処として思う処が無かった訳では無いし、ハシラに関しても面倒臭い事になりそうなのでそろそろ確実に殺しておきたいのは事実だが、言ってしまえば()()()()()()()()()と言う事だ。


 無論、次に似た様な事態になった際には、前回や今回の様に逃がす事はせず、確実に最初から仕留めるつもりで動く事になるだろう事は、まず間違いないのだが。



 では、一体何故そこまで表情や空気が明るくなっているのか?


 それは、言わずもがなでは在るが、彼らにとって『良い事』が在ったからだ。それも、複数。



 まず、一つ目の『良い事』は、売却を依頼した素材や魔石、戦利品の類いが、思っていたよりも多くの金額にて売り払う事が出来た、と言う事。


 これは、先に受付嬢へと難癖を着けて引き出した条件に含まれる案件である為に、当然と言えば当然の事なのだが、それでも彼らが予想していた金額よりも五割近く高く買い取られる事となり、結果的に彼の蓄財か白金貨レベルで増加したのだから、多少テンションが上がる事となるのも当然と言えるだろう。



 次に、鑑定に出した推定『道具袋(アイテムバッグ)』だと思われていた小袋が予想通りに『道具袋(アイテムバッグ)』であっただけでなく、彼らが予想していたよりも性能が高いモノであった事。


 容量はそれまで使っていたモノよりも大きく、それこそそれまでの『物置部屋』レベルから『大型倉庫』レベルまで格段に上昇しただけでなく、それまでのモノと同じ様に状態保存の機能まで付いている事が判明したのだ。



 流石にその性能は半端なモノでは無かったらしく、ギルド側の職員も、例の受付嬢も動揺と興奮を抑えきれない様子で沸き上がっており、雰囲気や仕草の端々にて『どうにか買取り出来ないモノか?』『しかし買取り金額を支払いきれるのか?』と言った不安と期待が織り交ぜられた混沌が満ちていたが、彼がキッパリと




『手放すつもりは無い』




 と口にしてしまったが為に、敢えなく霧散する事となったのはここだけの話だ。



 ついでに言えば、ならば今使っているモノの売却を!と求められた際に、彼としてはソレだけの大容量のモノを持っているのだから複数持ちする意味も無いだろうし、特に思い入れの類いも無い(元を辿ればク親共の持ち物であった)為に手放しても良いかな……と思っていたのだが、そこでサタニシスが若干顔を赤らめながら




『…………その、もう要らないってシェイド君が言うのなら、お姉さんが欲しいかなぁ~、なんて……』




 と恥じらい混じりにそう告げて来た為に、速効で元在った中身を移し替えると、買取りの金額を交渉しようとする方々からの声(ギルド職員・訪れていた各種依頼人・偶々居合わせた冒険者達・等々)を丸っきり無視した状態にてサタニシスへと譲渡される事となり、今現在はご機嫌な様子の彼女の腰にぶら下げられる事となっていたりする。



 それらの成果を得た事により、元よりそこまで荒れてはいなかった彼の心持ちも大分上昇する事になったのだが、流石にそこまで一方的に暴れまわって掻き回しては良心が痛んだらしく、買取りによって発生した金貨以下の端数(白金貨として換算しきれなかった分)を、これから掛けられる事となるであろうハシラの懸賞金に上乗せして欲しい、とギルドへと提供する事にしたのだ。



 これには、彼とヤツとの因縁の一端を把握していたハズのギルドも驚愕する事に。


 何せ、寸前までアレだけ荒ぶって見せた相手が、唐突に手のひらを返した様にして少なくない金額(金貨(慎ましく生活すれば四人一家族が一月は持つ)で数十枚)を、ギルド側が全額負担して然るべき案件であるにも関わらずポンッ!と提供して見せたのだ。これで驚くな、と言う方がどうかしているだろう。



 流石に、そんな事をしては強く説明を求められる事となり、知らぬ存ぜぬで押し通すのも無理があると判断した彼が




『いい加減ああして絡まれるのもうざったいし、人目が在る場所でぶち殺すのも憚られる。

 だから、誰でも良いから迅速に、かつ確実に排除して欲しいが為に提供する事にした』




 と口にした事で、ギルド内部に納得と安堵の空気が流れる事となった。



 実際問題、因縁の在る相手に対し、ギルドに申し込んで実費で賞金額を吊り上げる、と言う事は、珍しい事では在るが全く無いと言う訳でも無いのだ。そうして賞金額を吊り上げる事により、より高い実力を持つ対人・対賞金首に特化した冒険者(通称『賞金稼ぎ(バウンティーハンター)』)達の目に止まり、食指を動かす事に繋がり易い為に、結果的に早く因縁の相手を葬り去る事が出来る可能性が高まるからだ。


 とは言え、それはあくまでも『資金も実力も無い一般人』の話。潤沢に資金が在れば自身で刺客を雇えば良いし、実力が在れば自らの手で仕留めてしまえばそれで済む事なのだから。



 故に、ギルド内部にて彼が提供する意思を見せた直後に騒ぎが発生する事となったのだが、彼からの説明を受けた事により『そこまでして確実に消しておきたいのだな……』と言う認識で一致したらしく、直ぐ様鎮圧されるに至った、と言う訳なのだ。



 しかし、提供されるに至った経緯や過程はともかくとしても、こうして新たに賞金首として指名手配されたハシラの首に懸かる事になる賞金が跳ね上がったのは、揺るがざる事実である。


 しかも、元より懸けられる予定であった金額が倍近くに膨れ上がり、一度仕留めればそれで暫くは遊んで暮らせるだけの金が手に入るだけでなく、罪状を鑑みれば確実にギルドや各方面からの心証や評価は格段に良くなる事だろう。



 それこそ、大規模な商会からのお抱え冒険者や、高位の冒険者と言った『栄達』の道も夢では無いであろう程に、だ。



 おまけに、対象となるのはつい先程までギルドにおり、その後に這う這うの体で転がる様にして逃げ出した様な腰抜けかつ臆病者で、『スキル』と思わしきモノを使われた場合を除けば逃げ足だけが取り柄であるとも取れた為に、美味しすぎる獲物を前にして事の成り行きを見守っていた冒険者達は、血相を変えてギルドを飛び出して行く事になったのだ。



 そうして欲望で目をギラギラと光らせながら飛び出して行く冒険者達を目の当たりにしたシェイドが




『…………あぁ、アイツ終わったな』




 との呟きを溢し、ギルド内部が一斉に同意の首肯をして見せたのだ。



 そして、それらの騒ぎが終わってから既に数時間が経とうとしている今現在ですら、彼は上機嫌なままであり、そんな彼の隣を歩いているサタニシスも、腰からぶら下げた小袋によってニコニコとした笑顔を浮かべながら、彼同様に上機嫌な様子を見せながら移動をしていた。



 当然、そんな浮かれた様子を周囲に見せびらかしていれば、さぞや大金を稼いで見せたのだろう、と勘繰られてスリや強盗の類いが虎視眈々と彼らを『美味しい獲物』として狙いを付けたりもしたが、それらは全て華麗に回避されたり、襲ってきた処を返り討ちにされたりしている為に、現在裏路地の類いへと足を踏み入れた彼らの元には誰も襲って来ようとはしていなかった。



 そこまで来た途端に、それまでの浮かれ様が嘘であったかの様に表情を引き締め、雰囲気を鋭いものとして行くシェイド。


 同じく、顔を引き締めたサタニシスへと向けて、冷静な言葉で問い掛けて行く。




「………………なぁ、アイツ、これで終わると思うか?」



「……う~ん、どうだろう?

 ギルドに居た時には、私には気付いて無かったみたいだからアレだけど、以前接した時の粘着質な感じから、まだ何かしら企んでいるんじゃないかと思うんだよねぇ~。

 まぁ、何を?って聞かれると、お姉さんとしても困っちゃうんだけどね?」



「……まぁ、その点に関して言えば、俺としても同意見だ。

 アイツは、まだ何かしらやらかすだろう。ほぼ確実に、な。

 それが何かはまだ分からないし、ぶっちゃけ俺としてはこの道中で襲撃してくるとばかり思っていたんだが…………どうやら、その宛も外れたみたいだからな。今の処、俺としてはお手上げだよ」



「そうね。

 お姉さんとしても、いつまでも待ちの姿勢でいなきゃならないのは詰まらないけど、今はそうするしか無いのが嫌な処よねぇ~。

 まぁ、分からない事をいつまでも気にするよりも、早く工房に行きましょうか。さっさと、済ませる事を済ませちゃいましょう」



「…………まぁ、その通りなんだけど、やっぱりあのギルレインのじい様苦手だったりするのか?

 話してみれば、案外と悪い人じゃないぞ?」



「それでも、苦手なモノは苦手なの!」




 そんな会話を周囲に漏れ聞こえさせながら、二人は揃って路地の奥へとその姿を隠して行くのであった……。





はてさて、どうなるかなぁ……?

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― 新着の感想 ―
[良い点] サタニシス氏の脳内の光景では確実にご本人が道具袋を自分の頭より高く持って、どこかの高原で満面の笑みでクルクル回っているのですぞ。(クワッ!) [一言] この世界って魔王が復活したのですよな…
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