反逆者は『隊商荒らし』に詰め寄られる
サタニシスと二人で『迷宮』を踏破する事に成功したシェイドは、数多の戦利品を抱えてホクホクな気分にて、疲れた身体を引き摺りつつも足取りは軽くウィアオドスの冒険者ギルドを訪れた。
…………しかし、彼らはソコで、内心『絶対に遭遇したく無い!』と思っていた場面と遭遇する羽目となり、彼のウキウキな様子を微笑ましく眺めていたサタニシス共々にテンションがダダ下がりとなってしまう。
「…………おい!これは、一体どう言う事なんだよ!?
なんで僕が、この世界の主人公である僕が、何でギルドで依頼を受ける事を停止されてるだけじゃなくて、指名手配紛いなことまでされなくちゃならないんだ!?
僕が一体何をしたって言うんだ!?こんなの、証拠も信憑性も何も無い下らない噂話を真に受けた、バカな職員の仕業なんだろう!?
良いから、さっさとそいつを僕の前に引きずり出して来いよ!!これは、『被害者』である僕からの命令だぞ!!早くしろよ!!!」
…………そう、そこには、これまでの自らが行った所業の数々を全て都合良く自己解釈し、その上で瑞からは絶対的な被害者である、と信じ込んで疑わない姿勢を貫いているいつぞやのガキ、通称『隊商荒らし』(サタニシス命名)の姿が在ったのだから。
予想外過ぎる再会(遭遇?)により、悪い意味で暫しの間呆気に取られる事となってしまうシェイドとサタニシス。
どうせ、何処ぞの支部にでも立ち寄って、その際に資格停止処分を受けている事が発覚するのに加えて指名手配されている事から拘束を受け、その後賞金首として人知れず処理される、みたいな事になると予想していたのだが、どうやら現実としてそこまで都合良く事が運んではくれなかった様子であった。
「…………その、貴方の冒険者資格が凍結されているのは、他の冒険者や依頼人の方から、貴方が魔物の扇動して擬似的なスタンピードを発生させておきながら、その処理をその冒険者の方に押し付けた、と言う訴えから来る処置でして。
当ギルドとしても、調査の結果としてその訴えに一定の信憑性を認めた為に、その様な処置に落ち着いた、と言う訳です。ご理解頂けましたか?」
「ご理解頂けましたか?じゃないんだよ!?
だから!なんで!僕が一方的に!こんな不当な扱いを受けなきゃならないんだ!って聞いているんだよ!?!?」
「…………すみませんが、私のお話を聞いていましたか?
今、貴方は『不当な扱い』と言いましたが、よもや当ギルドの調査部や、証言をして下さった顧客でもある商人の方々のお言葉も疑い、詐称されたモノである、と断言なさる訳ですか?」
「……ぐっ!?
だ、だけど!?なんでわざわざ僕の事を指名してまで、そんな措置をされなくちゃならないのさ!?
僕は、僕に出来る事をしていただけなんだぞ!?」
「……ですから、私の話を聞いていたのですか?貴方は。
言いましたよね?調査の結果として、各所から貴方が行って来た事の証言を得られた、と。
ソレはつまり、貴方がそうした証言を集められる程に、各方面に対して被害を与えていたと言う、何よりの証拠だと思わないのですか?」
「………………ぐ、ぐうっ……!?」
「それに、貴方は『不当な扱い』や『不当な処分』と連呼していますが、現状貴方は『資格剥奪』を受けた訳でも、『指名手配』されて賞金を掛けられている訳でも無く、ただただカードの使用を凍結されているだけでしかない『凍結処分』に在ると言うだけでしか無いのに、よくもそんな事を言えたモノですね?
今はまだ、罪状や事の規模が確定していないから、と言う理由にてその程度で済んでいますが、規模が確定した時に罪状の多可を決めるであろうギルドからの印象を、これ以上悪くしない方が良いと思いますが、如何でしょうか?」
「………………ひっ!?」
最初こそ、激昂する『隊商荒らし』の事を宥めようと、丁寧かつ静かな口調にて話していた受付嬢であったが、一方的に話を聞かずに捲し立てた来るだけであったヤツの態度に嫌気が差したのか、それとも単純にヤツの事が気に食わなかったのかは定かでは無いが、俗に言う処の『笑っていない笑顔』にて、ヤツの事を追い詰めて行く受付嬢。
端から聞いている限りでは、懇切丁寧に説明されているだけでしかないハズなのにも関わらず、彼女から発せられている謎の圧力と、凄みすら感じさせる笑顔によって自らの『スキル』を使用する事すらせず(出来ず?)に短く悲鳴を挙げながら尻餅を突く事となる『隊商荒らし』。
そんな彼へと、周囲から向けられるのは『心配』や『気の毒に』と言った感情では無く、馬鹿を見る様な嘲笑の視線と、自らの立場すら理解できていなかった愚か者に対して向けられる憐れみの視線のみであった。
流石に、ギルド内部の空気がその様なモノ一色に染まっていれば、呆然としていたヤツにも察する事が出来たらしく、顔を羞恥と激怒によって真っ赤に染めながらも、まるで自らの助けになる対象を探るかの様にして視線を左右にさ迷わせて行く。
ソレを目の当たりにしたシェイドとサタニシスは、ほぼ同時に『嫌な予感』が背筋を駆け降りた為に、揃ってその場から反転してギルドから退出し、この場をどうにかやり過ごそうと試みる。
…………が、彼らにしては珍しくその判断を下すのが遅すぎたらしく、踵を返して視線を逸らそうとした時には既にバッチリと目と目が合った状態となってしまっており、ヤツの側からも彼らの事を認識された状態となってしまう。
一瞬、ヤツの表情に『なんでこいつがここに?』だとか『どうやってここまで!?』だとか『何故このタイミングで……?』だとかの思考が入り乱れているのが手に取る様に見てとれるモノが浮かび上がるが、その次の瞬間にはとある結論に至ったらしく、まるで悪鬼もかくや、と言わんばかりの表情を浮かべながらシェイドへと向けて迫って行く。
「…………お、お前だな!?僕を嵌めて、こんな目に遭わせてくれたのは、おまえだろう!?
僕は、覚えているぞ!お前が、お前が余計な事をしてくれなければ、あの隊商だって僕の教えを受け入れて本当に人間としてのやり方に目覚め、やがてこの世界でも指折りの大商会にまで成長する事が出来たハズなのに!
ソレを、お前が自分勝手な正義感でメチャクチャにしてくれた上に、嫌がらせとして僕について在ること無いことギルドに吹聴してくれたんだな!?そうだろう!?幾ら僕の才覚に嫉妬したからと言って、こんな大事にして沢山の人達に迷惑を掛けるだなんて、男として恥ずかしくないのか!?」
「………………いや、確かにギルドに通報したのは俺だが、別に『不当な扱い』をしたとは思ってないが?寧ろ、お前のせいで依頼人諸ともに殺されかけたんだから当然の処置だろうがよ?
それに、俺の勝手な正義感、と言うがね。俺からの訴えを切っ掛けとしたとしても、ソレに対して賛同してくれた被害者が居たからこうなってる、って事くらい理解しようぜ?いい加減よ」
「………………なっ……!?なななっ……!?!?」
「…………それに、さぁ?
お前、ここでこうして俺と接していて良い訳?」
「………………は、はぁ……?」
「……おいおい、もしかして、忘れた訳じゃねぇだろうな?
俺達とお前、普通に『殺し合いする仲』だろうがよ?」
「………………っ!?」
「今は、こうして人目も在るし、まだ処罰の方向性が決まって無いみたいだからアレだけど、そんなに死にたいんだったら今すぐ殺してやろうか?
と言うよりも、それ以上近付かないで貰えないか?流石に、そろそろ殺さないでおいてやる方が厳しいんだがな?」
「…………ひ、ひいっ……!?」
迫りながら暴言を垂れ流してくれていた『隊商荒らし』に対してシェイドは、完全に呆れた表情を隠す事もせず、殺意を敵意を込めた言葉を投げつけると同時に、それまで抑えていた魔力を解放して見せる。
それにより、それまで発せられる事の無かった彼からの圧力を真っ正面から受けてしまった『隊商荒らし』は、またしても情けない悲鳴を挙げながらその場に腰を抜かして尻餅を突く事となってしまう。
漸く、自らが相対し、その上で詰め寄っていた相手がどんな存在であったのかを思い出したらしい『隊商荒らし』を横目に見ながら、彼は先程までヤツの対応をしていた受付嬢へと視線を向ける。
そこには、流石にそろそろ殺して良いかな?まだギルドは俺からの訴えを聞き届けるつもりは無いのだろう?との彼からの意志が込められており、ソレを受けた受付嬢は苦い顔を浮かべて行く。
流石に、彼からの訴えを直接取り合った際に、中途半端にしかその情報を受け取らずに危険度や厄介さを上層部へと上げておらず、事の大きさに比べて対応が御座なりになってしまっていた事には気付いていたらしく、彼へと向けて苦い顔をしながらも、今はまだ止めて下さい、と言わんばかりに首を横に振って行く。
そればかりでは無く、どうやらこの場に於いては『暴れる可能性の高い危険人物』として認定されているのは目の前の『隊商荒らし』では無くシェイドの方であるらしく、受付嬢は顔を強張らせているし、ギルドの奥から武装した警備員と思わしき連中が得物に手を掛けた状態で彼らの元へと近付きつつ在った。
…………その状況に、流石に決め付けが過ぎないか?と思うと同時に、どうせもうギルドに対しては過去に喧嘩を売った後なんだからもう一暴れしても構わないだろう、との考えが過り、そちらに対してもジワリと魔力と殺意とを解き放って行く。
まるで、巨大で強大な魔物を前にしているかの様な圧力を受け、並みの冒険者相手であれば束で掛かって来たとしても片手であしらえる程の実力を持つ警備員達が固唾を呑んでその場で固まり、咄嗟に得物を抜き掛ける者、判断を仰ぐ様に視線を切る者、同じ様に魔力を昂らせる者、と言った風に反応を別れさせて行く。
そんな両者の反応により、それまでは騒がしくヤツの言動を笑い半分に酒の当てとしていた他の冒険者達も、警備員達とシェイド達二人との間で高まる緊張感と、両勢力の間で魔力がぶつかり合う事によって発生した空間の軋み等を目の当たりにしてしまった事により、事の成り行きを食い入る様に見詰めて行く事となった。
…………その為、必然的にその場にいた者の注意はソチラへと向いており、偶然位置的に『その間』に入っていて両サイドから圧力を受ける形となっていた『小物』が、掛かる圧力に負けて悲鳴を挙げながら転がる様にしてその場から逃走してしまう。
「………………う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!?!?!?」
「………………あっ!?あの野郎!待ちやがれ!
せめて、その首置いて行きやがれ!?」
当然、彼の発した恫喝紛いの制止に従うハズも無く、恥も外聞もかなぐり捨てて、四つ足にも近い体勢のまま転がる様に逃げ出した『隊商荒らし』は、他の冒険者達が止める声に耳を傾ける事すらせずにギルドから逃走して行くのであった……。
…………残念ながら『逃走』ロールに成功されてしまった様子(突然のTRPG感)
さて、次は『二度在る事は三度在る』なのか、それとも『三度めの正直』となるのか、お楽しみに




