『迷宮』を踏破した反逆者は監視者と共に帰還するが……
二人の同時攻撃(?)により、アッサリとその身を二つに分けられてしまった『迷宮核』。
浮遊していた為に、真っ二つにされると同時に床へと落下し甲高い音を奏でていたが、その衝撃で更に小さく砕け散る、と言った様な事にはならず、大きな塊のままで床へと転がって行く。
暫くの間、床に転がったままでそれまで放っていた様に赤い光を明滅させていたが、そんなにしない内にそれも収まり、ただの半球状の宝石の様な何か、へとその姿を変化させる。
それに伴い、一時的に床や壁が放っていた光が弱まる事となったが、それも本当に一時の事であり、元『迷宮核』であったモノが光を失うと、それまでよりも弱まってはいたが再度安定した光量へと落ち着いて行く事となった。
周囲の様子を確認し、もう危険は無い、と判断したシェイドが、流石にそろそろ帰還するか、と背後の階段へと向かおうとすると、何も無かったハズの床に、何やら魔法陣の様なモノが浮かび上がっているのに気が付く。
…………恐らくは、この手の状況に於けるお決まりであり、かつ『迷宮』踏破の物語に於いて語られる『転移魔法陣』と言うヤツなのだろうが、流石に急に現れたモノを信用出来る程に気楽でも無ければ、別段ソレで無ければ帰れない訳でも無い二人は互いに視線を交わらせると、どうしようか?と会話して行く。
「…………で、どうする?
アレ、多分転移魔法陣だとは思うけど、何処に飛ばされるかは分からないんで、俺的にはちょいと不安なんだよねぇ……」
「…………そう、だねぇ……。
私としても、シェイド君の意見に賛成かなぁ~?
流石に、核を壊しちゃったんだから、これ以上の罠は無いと思うけど、だからってこんなに怪しさ丸出しなモノに、何の警戒も無しに踏み込むのはちょっとお姉さんも躊躇っちゃうかなぁ~。
それに、私達ならアレ使わなくても、帰ろうと思えば帰れるんだし、別に使わなくても大丈夫じゃない?」
「…………まぁ、俺達互いに闇属性なんだし、言っちゃえば必要なんて無いんだよなぁ。
と言う訳で、アレは使わない、って方向で行くって事で。取り敢えず、どこら辺に跳ぶ?」
「そうねぇ~。
私達が直接転移出来る事は、シェイド君としてはあんまり世間に知られたくは無いのよね?多分だけど」
「まぁ、そうなるな。
だから、跳ぶとしたら、まず第一に人目の無い場所、ってのを上げたいな」
「とすると……『迷宮』その物から直接脱出する様な場所に跳ぶのは少し面倒だし、かと言っても下手な階層に跳ぶのも危険だし……どうしようか?」
「取り敢えず、人気の少なかった階層で良いんじゃないのか?
第一階層だとか、第四階層だとか、その辺は人気も少なかったと思うけど?」
「その候補の中なら、お姉さんとしては第四階層かなぁ?
第一は確かに人気は少なかったけど、でもあそこって結局玄関口である事に代わりは無いんだから、やっぱり人通り自体は在ると思うのよねぇ~。
と言う訳で、お姉さんとしては第四階層の方を推します!」
「じゃあ、第四にしておくか。
それで、跳ぶ場所だけど、階段に行き当たる少し前に遭遇した突き当たりの場所、って言って分かるか?」
「…………え~っと……あの、階段の三つ手前の分岐点を真っ直ぐ進んだ場所?
何か在るかと思って覗いてみたけど、結局罠しか無くってガッカリした、あそこ?」
「そう、そこ。
取り敢えず、その辺りなら余程の事が無ければ人も居ないだろうから、取り敢えずソコに跳ぶとしようや。
その後は、地道に走るなり歩くなり何なりとすれば良いだろう?どうせ、道は分かってる訳だしな」
「了解~!」
魔術や魔法によって自分達が転移する場所の打ち合わせをして行くシェイドとサタニシス。
この二人の手に掛かれば、割りと簡単に人一人を転移させる事くらいはどうにでもなるのだが、如何せんソレを出来るのが二人おり、更に言えば互いに一度に跳ばせるのは大体一人(頑張ればもっと人数も増やせるが必要が無ければ大体一人分程度が限度)程度となる為に、予め転移する場所の打ち合わせをしておかないとはぐれてしまう可能性が出てしまうのだ。
既にほぼ安全な鉱山と化しているとは言え、それでもはぐれてしまった場合、互いが互いを探す形で捜索してしまうと余計に時間を食ったり、と言う事にもなりかねないので、こうして予め打ち合わせをしている、と言う訳なのだ。
そんな事情から打ち合わせをしていた二人だが、通り一辺の事は互いに伝え終えたらしく、それぞれの足元に部屋の片隅で展開されているモノと良く似た魔法陣を展開して行く。
そして、二人の足元の魔法陣が強い光を放ちながら発動すると、ソコには誰も残されてはいなかったのであった……。
******
シェイドとサタニシスが人知れず『迷宮核』の破壊に成功し、新たに安全な鉱山の作製に成功してから約数時間。
日も殆んど落ち、周囲を夕闇が支配し始める中で彼らは、ウィアオドスの近辺へと移動する事に成功していた。
結局、例の『迷宮』に於いて、狙い通りの場所へと転位する事に成功していたし、直ぐ様合流する事にも、人目に付かずに行動する事にも成功し、二人揃って『迷宮』を後にする事となる。
その後、ラビュリントスの冒険者ギルドにて戦果の報告をするのと同時に、『迷宮核』の買取り査定と証拠品としての提出を行う事となったのだ。
…………が、ラビュリントスの冒険者ギルドにて対応したギルド職員や、高位の冒険者達が口にする言葉や態度から全面的に信用されている訳では無く、寧ろ疑われていたりだとか、あんな強そうにも見えない連中が自分達よりも手柄を立てているのが気にくわない、と言う不満が炸裂しているのがアリアリと感じられる環境になってしまっていた。
その為に、最低限のモノ(『迷宮核』並びに第八階層の階層主が落とした魔石)だけをその場で提示&証拠品として提出しながら換金すると、比較的扱いがマシで知り合いもいるウィアオドスの方へと戻って来ていた、と言う訳だったのだ。
…………流石に、幾らソレが出来てしまうと言った処で、出来るのならばやらなければならない、と言う訳でも無かったし、一刻も早く離れた方が得策だ、と判断した為に、本来であれば現地で『迷宮』内部で得られた『発掘品』の類いを鑑定して貰ったり、使えなさそうならば換金するなり分配するなり、と言った事を済ませる前にその手の物事の本場であるラビュリントスを発ってしまった、と言う訳でもあったする。
とは言え、ここは工匠国。
幾ら本場の鑑定士では無いにしても、常日頃から触っている『金属』についての目利き位は出来るだろうし、商人や知識人が自ずと集まる場所でもあった為に、未鑑定なモノであったとしても大体の性能を測る事くらいは容易いだろう、との考えも在っての行動であり、それほど無謀で無鉄砲な行動であった、とも言えない状況であったりもする。
そんな訳で、行き道と同じ様に数時間掛けてレオルクスの首都であるウィアオドスへと戻って来たシェイドとサタニシス。
取り敢えず、ギルレインには謝礼と得物の支払いがまだ残っている。先にそちらに顔を出すべきなのだろうし、支払いに充てるだけの現金も持ち合わせてはいる。
…………が、既に手にしている戦利品の性能が気になってしまっており、そちらの鑑定を先に済ませてしまいたい、と言う希望がシェイドから出てしまっていた為に、工房へと寄るよりも先に冒険者ギルドに寄って戦利品の鑑定を済ませてからにする事に決定し、行動に移して行く。
鑑定結果を楽しみにし、普段の擦れた様子から一転して瞳をキラキラと輝かせるシェイドと、その様子を横から眺めて生暖かい視線を送りつつニヨニヨと口許を崩すサタニシス。
端から見れば、少し年上の恋人が、微笑ましそうに相手を眺めている、と見えていたのだろうが、驚く事にこの二人、まだ付き合っていない処か只の監視対象と監視者でしか無い。今はまだ、と付く事になるが。
そんな二人は、連れだってギルドの扉を押し開いて行く。
シェイドは、使えそうなモノが在る事を期待度して、サタニシスは、彼の力を正確に測るだけでなく、彼が嬉しそうな反応を素直に示している事が嬉しくて、二人揃って楽しそうに入り口を潜ったのだが、ソレは次の瞬間には遥か彼方へと吹き飛ばされ、瞬時に嫌悪の感情に支配される事となってしまうのであった……。
「…………おい!これは、一体どう言う事なんだよ!?
なんで僕が、この世界の主人公である僕が、何でギルドで依頼を受ける事を停止されてるだけじゃなくて、指名手配紛いなことまでされなくちゃならないんだ!?
僕が一体何をしたって言うんだ!?こんなの、証拠も信憑性も何も無い下らない噂話を真に受けた、バカな職員の仕業なんだろう!?
良いから、さっさとそいつを僕の前に引きずり出して来いよ!!これは、『被害者』である僕からの命令だぞ!!早くしろよ!!!」
………………そう、彼らの視線のその先に在ったのは、他ならぬ彼らが告発し、準指名手配級の措置が取られていたハズの『隊商荒らし』が、窓口担当となっていたギルド職員に対して威嵩高な態度にて迫り、方々を何様かの立場に在るかの様な振る舞いにて追及している姿であったのだった…………。
…………お前、ここで再登場するのかよ……(困惑)←(おいっ!?)
次回に閑話を挟んで次の章に移る予定です




