反逆者と監視者は遂に階層主を打倒する
対階層主戦、完結!
━━━━…………ザッ……!!
まるで、乾いた砂が流れ出す様な音を立て、滑らかな断面を晒した巨人の足から血液と思わしき液体が流れ出して行く。
その身を鋼で形作っている為か、その血液と思わしき液体には不思議な光沢が見られ、何かしらの金属が何らかの手段を用いて液状になっている、と言われても納得出来そうな外見と臭いを放つモノとなっていた。
ソレを真っ正直から浴びる事態となってしまったシェイドであったが、案の定その一撃によって足を断ち斬られた巨人がバランスを崩して倒れ込んで行く事となった為に、好機と見て口に入ってしまったモノのみを唾液と共に吐き捨てると、髪から滴るモノを拭う事すらせずに得物を振るいながら魔術を放って行く。
当たるを幸いとして、縦横無尽に刃を走らせ、手当たり次第に鎧だろうが本体だろうが関係無く切り裂いて行くシェイド。
そんなシェイドに当たらない様に、後方から軌道と威力を調整させた魔法を放って行くサタニシスであったが、その表情は得られた成果に比例する様に苦々しいモノとなっていた。
「…………くそっ!?何なのよ、こいつ!?
なんで、私の攻撃が通用しないのよ!?」
悪態を吐きながらも、あまり効果が無いと分かっていながらも、それでも彼を援護する手を止める事無く次々と魔法陣を展開して弾幕を張り続けて行く。
そんな彼女の援護を背後から受けながら、一切防御の事を考えずにひたすらに刃を振るい、ダメ元で魔術も放って行くシェイドであったが、やはりそれでは芳しい効果を得られてはいなかった。
…………本来、この手の所謂『魔術の効かない相手』と言う存在に対しては、彼らの持つ闇属性の魔術こそがその本領を発揮する。
どの様な耐性を持っていようと、どの様な硬度を誇ろうとも、どの様な速度で翻弄しようとも、空間その物を支配下に置き、自らの意のままに操る事を可能とする闇属性の前では、全てが無力と化す事になる。
…………だが、既に闇属性に於ける空間干渉は、密かにサタニシスが弾幕を張った際に試みており、無効化されてしまう事が判明している。
同様に、彼が持つ固有魔術である『重力魔術』も、本気で放つ【圧壊黒点】や【爆砕黒波】等を行使すれば話は別かも知れないが、周囲の壁や天井に影響を与えない程度の出力に於ける重力波や、極小の黒点による爆砕波等では目立った成果を挙げる事が出来ず、精々が目眩まし程度にしか活躍する事が出来ていなかったのだ。
元より、魔力を持たないが故に魔力によって得られる効果に対して高い耐性を持っているのか、それとも物理的な耐久力で無理矢理耐えているのか、はたまた何かしらの仕掛けを持ってして魔力を無効化しているのかは、二人には分からない。
だが、この視界も悪く、広いとは言え空間も充分では無く、更に言えば壁や天井と言った『壊してはならないモノ』が存在する事によって、全力を振るって無理矢理どうにかする、と言う事が出来ない二人にはもどかしい事この上無く、また多大にストレスを感じる展開となっていた。
…………それ故に、と言う訳でも無いのだろうが、不意にシェイドが、まるで自らの苛立ちをぶつけるかの様に巨人が振り回した腕を回避して一端開いた距離を再度詰めると、自らが刃を振るって切り裂いた巨人の本体部分へと向けて魔術を放って見せる。
本人的には、特に考えが在っての行動では無かった。
ただ単に、幾ら鎧を破壊しても、手足を片方ずつ落としたとしても、依然として動きが鈍る訳でも力が弱まる訳でも無いその巨人に対して、何かしらの痛痒を与えてやりたい、との思いと苛立ちから、目の前で開かれていた傷口に魔術を叩き込んでみたのだ。
どの様な生き物であれ、どれだけ鍛えた者であれ、既に付けられた傷口に対する攻撃は、通常のソレよりも大きな苦痛を与えるモノ。
故に、例え効かないとしても、意味は無かったとしても、ある種の『イヤガラセ』として喰らわせてやる!と言う思いから行った事であったのだが、ソレは彼に対して思いもよらない効果と福音をもたらす事となったのだ。
…………そう、その一撃により、それまで幾ら魔術や魔法をその身に受けたとしても、着弾や爆裂の衝撃によって体勢を崩したりその場に縫い止められたりする程度でダメージを受けた様子を見せて来なかった巨人が、初めて苦鳴とも取れる『何か』を第九階層内部へと響き渡らせる事となったのだ。
『………………ナイブキカン、ソンショウ……!?
……タイマリョクキコウ、ナイブニチョクセツ、マリョクコウゲキ、ハッセイ……!?ソウテイガイ、ソウテイガイ、ソウテイガイ……!!』
それまでの声とは異なる、緊急事態を知らせる悲鳴の様なその叫びに、一瞬だけ唖然となるシェイドとサタニシスであったが、その次の瞬間には口元に獰猛な半月の嗤みを浮かべると、再度無数の魔法陣を展開しながら言葉を交わす。
「……どういう事なのかは知らないが、どうやら表面を切り裂いてからなら魔術が通るみたいだ!
なら、分かってるよな!?」
「勿論でしょう!
これまで散々虚仮にしてくれたんだから、その借りを返してやらなくちゃね!!張り切って行くわよ!!」
「そうかい!
なら、精々俺を巻き込まない様に、気を付けて盛大にやってくれや!!」
「応ともさ!!」
これまで以上に、足を使って切り裂いては離脱し、切り裂いては離脱し、と言う行動を繰り返して行くシェイド。
時折、離脱する間際に切り裂いた部分に対して魔術を放り込んで行く事はあったが、基本的にはヒット&アウェイを繰り返す事で魔術が通用する場所を多く増やす事に集中していた。
それとは対極に、これまで援護程度にしか貢献出来ていなかったサタニシスが、彼が切り裂いて有効箇所とした傷口に向けて、正確に魔法を撃ち込んで内部から破壊して行く。
それまで溜め込んだ鬱憤を晴らしているからなのか、それとも今まで自らの攻撃に痛痒すらも感じておらず、ただただ鬱陶しそうにしていた相手が今では一撃一撃によって身体を震わせ、苦痛による不格好なダンスを披露している事に爽快感を得ているからかは不明だが、とても『良い顔』をしながら凄まじいまでの精密動作にて、寸分違わず有効箇所へと目掛けて魔術を放ち続けて行く。
そうして、相手側からの攻撃が有効打点ばかりになり、自らの身体が着々と破壊され続けている現状を危険視したからか、突然巨人が
『…………ソンショウ、カクダイ!ソンショウ、カクダイ!
キケン、キケン、キケン!
キケンド、カクダイ!サイダイチ、コウシン!キンキュウジタイ、ハッセイ!ヒジョウシュダンノ、コウシヲ、カイシシマス……!!』
との叫びを挙げると、背中や肩から何かを生やし始めて行く。
シェイドやサタニシスに対して、一応相対する形で膝を突いていた為に、彼らからは唐突に巨人の肩や背中の方からトゲや触手の様なモノが生えて来た様にも見て取れる。
それらは、巨人の見た目の通りに生物的な見た目をしておらず、どちらかと言うと何らかの道具の一部の様な外見をしている様にも見えていた。
嫌な予感はしていたが、それでもどんな行動を取られるのか分からなかった以上観察する方向に思考が傾いてしまっていた二人の目の前で、巨人から生えて来た触手の先端に淡い光が灯り、トゲの根元の辺りから炎の様な光が溢れ始めて行く。
理解不能で不可思議な光景ながらも、それらを目の当たりにした二人はまるで背骨に氷柱を突っ込まれた様な極大の悪寒に従い、自分達の前に二重に防御結界を急速展開する。
結界の展開が終了すると同時に、肩の辺りから生えて来たトゲの根元が炎を吹き出しながら飛翔を開始し、背中から生えて来た触手の先端から真っ赤な閃光が発射され、それぞれが二人の展開した結界へと目掛けて殺到して来る。
先に着弾した深紅の閃光は、外側に張られた結界を貫いて二枚目の結界へと直撃して火花を散らし、飛翔したトゲは貫かれた事で脆くなっていた結界を自身諸ともに破壊し、爆散して周囲へと炎をばら蒔いて行く。
…………物理的な攻撃は当然として、大規模魔術でも第八階位迄なら余裕で防ぎきれるだけの魔力が込められた結界が二重に展開されていても得られてしまった結果を前にして、自分達の直感が間違ってはいなかったのだ、と悟ると同時に、どうせあれっきりでは無いハズだ!?と判断するや否や、ギリギリ残っていた結界を解除して周囲の状況を確認するよりも先にシェイドが飛び出して行く。
すると、案の定再び生やしたトゲの根元から炎を発生させ、触手の先端に燐光を灯し始めている巨人の姿が彼の視界に飛び込んで来るが、ソレに構う事無く愚直に一直線に突っ込むシェイド。
そんな彼に対して、今にもあの破壊力が再び振るわれようとしていたが、その寸前に彼の背後から飛来した援護攻撃が飛翔しようとしていたトゲへと着弾し、巨人の肩から背中に掛けて連鎖して大爆発を起こして行く。
「行って!!」
「任せろ!!」
彼女からの援護魔術を背後から感じながら、その場で大きく踏み込んで刃を振りかぶる。
位置的には推定の急所である首にまで届く事は無いだろうが、それでも渾身の魔力を込めた一撃であれば致命傷位は!との意気込みから柄を両手で握り込み、大きく腰を捻って刃を走らせる。
…………が、それまで爆炎に包まれていた巨人の頭部が、先の爆発によってその半分を失いながらも瞳の光を失う事無く白煙の中から、その脇に一本だけ残された燐光の灯され続けている触手と共に再びその姿を露にする。
先の攻撃速度からして、サタニシスからの魔法攻撃で防ぐ事は、恐らくは不可能。
同時に、既に攻撃態勢に入ってしまっているシェイドにも、そちらに魔術を行使するだけの余裕は残されてはおらず、また回避するだけの猶予も残されてはいなかった。
なれば、例え相討ちになったとしても!
そんな心意気のまま、燐光が増幅され今にも放たれそうになっている光景を目の当たりにしつつ、自らも踏み込む力を弱める事無く刃を振りかぶって行く。
…………そして、巨人の触手の先端から閃光が放たれるのと、シェイドが刃を振るおうとするのと同時に、幾つかの事態が発生して行く。
砕かれた鎧が降り積もり、瓦礫の様な様相を呈しながら広がっている地面。
必殺の一撃を放とうとして、より一層強く踏み出された踏み込み。
相討ちを前提としてしまっているが故に、目の前にのみ集中された意識。
直前に効果範囲ギリギリになっていた事により、重量を発する様になった腰の『道具袋』。
それらが綿密に絡み合い、この場この時のみを以てして成立する『偶然』により、本来彼程の技量を持ち合わせている者であれば、あり得るハズがない事が発生した。
…………そう、端的に言えば、彼が踏み出した足が瓦礫を踏み、ソレによって崩れた重心を腰に吊るしていた『道具袋』の重量が後押しする事で足を滑らせる、と言う事態へと発展し、その結果巨人が放った閃光を火傷を負いながらも紙一重にて直撃を回避する事に成功したのだ。
もし、コレが一点集中型では無く、拡散型であったのならば先の一撃で全てが決着していたのだろうが、集中型であったが為に掠める程度で済んだ為に、一瞬だけ熱と激痛により意識の空白が生まれながらも、生きているのならばソレで良い!とばかりに踏み込みを再開し、中途半端に振るっていた刃を今度こそ振り抜いて行く。
「残念だったな!
だが、こいつを喰らってあの世に行きやがれ!
【重斬壊刀】!!」
以前使用した際には、得物が耐えられずに自壊しながら放たれたのと同じ一撃を、以前のソレとは比較にならない程の規模の魔力を込めた状態にて、心なしか呆然としている様にも見える巨人へと解き放って行く。
『…………リカイ、フノウ……リカイ、フノウ、リカイフノウ!?
キケン、キケン、キケン、キケ……!?』
自らに迫る黒い斬撃に対して自らの腕を差し込んで防御しようとする巨人であったが、しかしそうして差し込んだ腕諸ともに胸の中央部分から両断される事となり、それまでの戦闘規模からすれば呆気なく地面へと崩れ落ちて沈黙する事となるのであった……。
ここまで長引かせるつもりは無かったのに、何故……?(  ̄- ̄)
もう何話か挟んで今章は終了する予定です




