反逆者は監視者と共に階層主との戦闘を継続する
…………はい、と言う訳で以前から告知していた通りに、隔日で定刻更新に切り替えました(おいっ!?)
まだエタる予定は無いので、変わらず読んで頂けるとありがたいですm(_ _)m
…………松明によって辛うじて照らされている薄暗がりの中、立ち込める土煙が壁と巨人の周辺を覆い隠してしまう。
耳が痛くなる程の静寂が支配する中、負傷から来る激痛から荒くなっているシェイドの呼吸と、急速に魔力を消費した事で荒げられているサタニシスの呼吸のみが、暗闇が支配する第九階層内部へと響き渡って行く。
通常であれば、既に撃破した、と判断しても良いであろう時間が何事も無く経過して行くが、二人は共に巨人がめり込んだと思われる壁へと視線を向ける事を止めようとはしていなかった。
「………………なぁ、殺ったと思うか……?」
ポツリ、とそんな言葉を口にするシェイド。
本来ならば、隣に並んでいなければ碌に聞き取る事も出来なかったであろう程度の声量でしか無い呟きであったのだが、周囲を支配する静寂によって彼女の耳にも届いていたらしく、向こうもポツリと呟く様にして返答を口にして行く。
「…………どう、だろう……。ちょっと、自信無い、かな……」
「…………自信無い、って事は無いだろうがよ。
誰が何処から見ても、さっきのは第八階位相当の一撃だったぞ?
対超大型、対砦用に扱われる大規模破壊術式と同規模の一撃を受けて、それでも無事で居られると俺としても困るんだが……?」
「…………そんな事言われても、ねぇ……。
元々、さっきの音の反響で探らなかったら存在自体気付いて無かったんだけど、こうして相対するとその理由が良く分かるのよ。コイツ、魔力を持って無いみたいなのよねぇ……」
「………………魔力を持って、無い……?
…………いや、確かに、俺としても、あんまりアイツからは魔力が感じられなくて戸惑ってるのが正直な処だけど、ソレってあり得るのか?
生きているのならば、そこに在るだけでも魔力を自ら生み出し、自然と帯びるモノじゃ無いのか……?」
「まぁ、普通なら、ね……?
でも、私にしても、君にしても、この至近距離に至っていても、アレの魔力を感じ取る事が出来ないでいるでしょう?
となると、私達の感知能力を上回る、それこそ規格外の隠蔽能力を持っているか、それか本当に魔力を持っていないのか、のどちらかだと思うのは、そんなにおかしな推測じゃ無いと思わない?」
「………………成る、程……確かに、一理在る、か……。
…………だが、その考察も後回しだ!気を引き締めろ!来るぞ!!」
「分かってるわよ!!」
━━━━ゴッ……!!!
半ば論争する様な形となっていた二人の会話だが、シェイドが上げた警告の声によって両者が弾ける様にして別れた事で中断される事となる。
丁度二人が飛び退いたその空間を、立ち込めていた土煙の中から飛び出して来た巨塊が、まるで空間を貫かんとする様な速度にて勢い良く伸ばされて行く。
ソレを目の当たりにした二人は、内心で
『『やっぱり生きてた!!』』
と焦りと自棄っぱちがない交ぜとなった様な叫びを挙げる事となってしまっていたが、その次の瞬間にはそれぞれシェイドは伸ばされているモノに対して前進し、サタニシスは伸ばされているモノからもソレからも遠ざかる様に後退し始める。
未だに動作を続ける目の前のソレに対し、接近しながら得物に膨大な魔力を注ぎ込んで行くシェイド。
本来着ける様に依頼した機能の延長線上に在るモノであり、それでいて本来の狙いからすれば『外れている』と言っても差し支えは無いであろうソレに頼るのは些か業腹であり、かつ本来願った機能を確りと試すよりも先に使う事になるだなんて!?と言う嘆きが彼の内部を満たして行くが、それでもこうして試す機会が訪れた事は僥倖ではあった、と諦める様な心持ちにて残りの距離を踏み込みきり、漸く延びきったソレへと肉薄して行く。
そこまで迫れば、自身の目の前に伸びるソレが少し前に自らへと振り下ろされていたのと同じモノである、と察したシェイドであったが、だからと言って何かを気にする素振りを見せずに自らの魔力を並々と吸い取り、その刀身を漆黒に染め上げた得物を大上段に振り上げると、全体重を掛けて真っ直ぐにソレに対して振り下ろす!
━━━━…………キンッ……!!
……それまで、周辺へと響いていた音からすれば、本当に些細な金属音が周囲へと響き渡る。
それは、このような魔物犇めく地下世界でも、血塗れな殺し合いの場にも全くもって似つかわしく無い様な、一種の『静謐さ』を聞くものに感じさせるモノであり、何処か神聖な雰囲気すら感じさせるモノとなっていた。
…………しかし、ソレが響き渡った直後に動きを見せていたのは、先程大上段から得物を振り下ろしたシェイドのみであり、ソレを振り下ろされた側である腕(推定)には特に何かが起きた様子は見る事が出来ておらず、端から見れば派手に空振ったか、もしくは振り下ろした刃が目標をすり抜けでもしたかの様にも映った事だろう。
故に、何かされたハズの巨人側も、仲間として彼の事を信頼しているハズのサタニシスですら『何も起きなかった』と錯覚したまま次の行動を起こそうと試みて行く。
が、巨人が引き続き伸ばしていた腕を引き戻そうとすると、とある一点から伸ばされた腕が何故か動く事は無く、その場を境目としてソコから先は取り残される事となってしまう。
その事実に、土煙の隙間から覗いていた、兜と思われるモノに覆われていながらも、紅く光を放っていた巨人瞳が驚愕によって大きく開かれる事となる。
『…………キタイ、ソンショウ……ケイイ、フメイ……キケンド、サイダイ……キケン、キケン!キケン!!』
自らの腕が断ち斬られた、と言う事実が信じられないのか、それともソレ以外の理由が在っての事なのかは不明だが、突如としてそんな呟きをかなりの大音量にて周囲へとばら蒔き始める鋼の巨人。
しかし、その片腕は既に彼の手によって不自然な迄の断面を晒しながら切り落とされてしまっており、立ち上がろうとした瞬間に重心を崩して地面に大きく膝を突く事となってしまう。
当然、そうして出来た隙を二人が見過ごすハズも無く、シェイドは手にした得物を振りかぶりながら大きく踏み込み、サタニシスも展開しようとしていた大火力・高出力のモノから、威力はソコソコでも手数が出るモノへと術式を切り替えて即時展開・発動させて行く。
鋼の肉体の上から、更に鋼で出来た鎧を着込んだ巨人の肉体へと、無数の魔術が降り注ぐ。
その一発一発が、人類が編纂し均等化し行使する事を可能とした魔術で言う処の第五階位(純後衛の魔導師で漸く普通に行使が可能になるレベル)から第六階位(純後衛の魔導師の中でも比較的上位の者で漸く扱えるレベル)に相当する破壊力を秘めており、下手をすればドラゴンの類いであったとしても挽き肉になるのは免れないであろう濃密な弾幕が、数えるのも億劫になる程の数量を以てして次々に巨人の身体へと着弾して行く。
その衝撃と破壊力により、その場に釘付けされて思った様に身動きを取る事が出来ず、一方的に纏っていた鎧を破壊されて行く巨人。
鋼の様に見えていたそれらは、破壊されて断面を晒す事で、鋼とはまた異なる煌めきを周囲へと放ち、ソレが別の金属で出来たモノである、と知らしめると同時に残骸として地面へと積もって行く事となる。
…………が、裏を返せばソレしか出来ていないと言う事でも在る。
着弾の衝撃と破壊力によって足留めは出来ているものの、ソレだけでしかない。纏っていた鎧を破壊出来ている様ではあったが、それはあくまでも鎧のみの事であり、その下に在る巨人本体に対しては、大きな損傷を与えられている、とはとても言えない様に見えていた。
現に、巨人はその輝く瞳を煩わしそうに歪めつつ、残された片腕を小蝿でも振り払おうとする様に振り回しながら、彼女の元へと進もうと身体の向きを変えてしまう。
…………そう、その時巨人の意識は、少なくとも『敵愾心』と言う意味合いに於いては、確実にサタニシスの方へと集中しており、もう一人の存在であり、『自らの身体を傷付けた』と言う実績が在るハズの存在からはモノの見事に外れてしまっている状態となっていた。
その為に、自らの背後から降り注ぐ魔術の雨を掻い潜り、一歩間違えば挽き肉にされかねない空間を一人気配を殺して駆け抜け、その結果降り積もり続ける鎧の残骸によって築かれた山を駆け昇るまで近付いて漸く察知される、と言うある種の偉業を成し遂げたシェイドが、再び得物を突き立てんとして漆黒に染まった刃を振りかざして突っ込んで行く。
流石に、そこまで近付かれてしまえば記憶にも甦って来るらしく、輝く瞳がサタニシスから動かされてシェイドの方へと固定される。
先の一撃でも暫しの間動きを封じる事が精一杯であり、現在も鎧を破壊する以上の事は出来ていない固定砲台よりも、自らに確たる損傷を与えて見せた近接ユニットの方が危険度が高い、と判断したらしく、サタニシスからの魔術弾幕に対しての防御を止めてまでシェイドに対して相対するべく体勢を入れ換えて行く。
が、それまで満足に身動ぎ出来ない程の濃度で張られていた弾幕を、幾ら本体に対しては損傷を与えられはしないとは言え無防備に受けて影響が出来ないハズが無く、当然の様に迎え撃とうとする動作の悉くを妨害され、その巨体をぎこちなく動かす事しか出来ずに度々動きを止められてしまう。
そうこうしている内に、自らの得物の間合いへと巨人を納める事に成功するシェイド。
その体格差故に、まともに振るったとしても精々が足首を切り着ける程度しか出来ない事になるが、それでも一向に構いはしない!と言わんばかりの形相にて、大きく強く踏み込みを掛けると全身の力を込めて得物を巨人の足へと目掛けて全力で振り抜く!
…………すると、彼が両手で握り、渾身の力を込めて振るった刃は、まるで金属で造られた大樹の様であった巨人の足首にスルリと潜り込み、そのまま何の抵抗も示す事をせずに反対側へと抜け出すと、その数瞬後には少し前の腕の焼き増しの様に、滑らかな断面を空気へと晒しながら巨人の足を断ち斬る事に成功するのであった。




