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木枯らしリョウマはぐれ旅  作者: 謙虚なサークル
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冒険者と相棒

「お待たせしましたリョウマさん、エリザちゃんの目撃情報、集まりました」


 受付嬢はリョウマの前に、一枚の紙を広げた。

 手書きの地図で、所々に印がつけられていた。


「すまねぇ。助かるぜ」


 そう言ってリョウマは、報酬金を受付嬢へと手渡す。

 先日、逃げるように飛び出したエリザを探すべく、リョウマはギルドに捜索依頼を出していたのだ。

 リョウマは地図に視線落とし、印をゆっくりとなぞっていく。


「門付近で一件、そして街道沿いを帰宅中の冒険者の目撃証言がありますね」

「どうやら外へ出ているようだな……チッ、面倒くせェ」

「街中にいればもっと目撃証言があるはずですしね」

「いよぅ! お二人さん!」


 うーんと唸る二人の間に、割って入ってきたのはドレントだった。


「どうしたんだい? そんな所で悩ましい声を出してよぅ」


 上機嫌な様子で、片手には酒瓶を握っていた。

 どうやら酔っ払っているようだった。


「槍使いか。実はな……」


 リョウマがぽつりぽつりと、語り始める。

 それにつれドレントの顔が厳しくなっていく。


「オイオイあのチビ、街の外に出てるのか? ……しかもこの目撃証言を辿って行くと……北の森へ向かっているじゃねぇか!」

「魔の森……!」


 受付嬢が静かに言った。

 ――――魔の森とは、大陸に点々と存在する広大な森である。

 その土地面積は一町から十町(約1~10平方キロメートル)と言われており、その名の通り強い瘴気のため人を寄せ付けない地である。

 代わりに魔物や魔族の多く住み、ここで暮らしている半魔も多い。

 ただ多く住んでいるというわけではなく、森一つの中には幾つもの村や街が存在し、国まで存在するという話もある。


 つまり、魔の森の中は魔族の「世界」。

 人の手は及ばぬ場所なのだ。

 そこへ入ったということは……三人は一様に深刻な面持ちになる。


「わかっていて行こうとしてるのか? 偶然じゃねぇのか?」

「生まれついての半魔であれば魔の森について知っていてもおかしくはありません。リョウマさんと行動を共にしていたなら、依頼で付近にも行っていたはずです」

「っかー! 拗ねた子供の隠れ家にゃあ、あまりに仰々しすぎるぜ」


 ドレントはぺしんと額を叩いた。

 リョウマはしばらく考え込んだ後、立ち上がり踵を返した。


「おいこらリョウマ、どうするつもりだ?」

「……帰って寝るさ」


 呼び止める声に、振り向かず答える。


「あン?」


 ドレントは語気を強めて返した。

 その声には疑問と、ほんの少しの怒りが混じっていた。

 リョウマは背を向けたまま、続ける。


「出て行ったのはあいつの意思だ。元々半魔は人間とは違う……魔の森(あっち)の方が居心地がいいと思ったんだろうよ」

「なん……だと……?」


 信じられないと言った顔だった。

 こめかみには血管が浮き上がり、槍を握る手には力が込められる。


「俺は好きにしろといったんだ。去る者は追わずが信条でね」

「……ッ!」


 それを聞いたドレントは槍を投げ捨て槍を投げ捨て、つかつかと歩み寄るとリョウマの肩を掴んだ。

 勢いよく振り向かせ、頭突きをする。

 衝撃で編み笠がぱさりと、地面に落ちた。

 呆けるリョウマにドレントが吠える。


「っざけてんのか! テメェ!」


 怒りに燃えるような目。

 初めて見るドレントの本気の顔だった。

 戸惑いつつも、リョウマはドレントから目をそらす。


「あいつが決めた事だと? 本人の自由だと? マジに言ってんのかコラァ!」

「……そうだろうがよ」


 吐き捨てるようなリョウマの言葉に、ドレントは更に怒りを露わにする。


「なるほどテメェの言う事は確かに正論だ。俺たち冒険者は何よりも自由を求める者、本人の意思は大事にされるべきだろうよ! だがなぁそれは分別のついた大人ならだ! あいつはまだガキだろうが! テメェが面倒見ていたなら! 最後まで責任を取るべきだろうがよ!」


 襟首を掴んだまま、ドレントは激しく言葉を並べ続ける。

 リョウマはそれをただ黙って聞くのみだ。


「俺の弟はよ、ちっちぇえ頃に両親と喧嘩して家出したんだ。丸一日しても帰ってこずに、一家総出で探し回ったよ。そして十日してようやく見つかった――――死体でな。近くの森に迷い込んだらしい。獣や魔物にズタボロにされ、ひどい有様だったらしいぜ。それを見た親父とお袋は、しばらくまともに食事が喉を通らなかったからな」


 その時の惨状を思い出したのか、ドレントの声は震えていた。

 リョウマの肩を掴む手も、である。


「俺は出ていく弟を止めようとしたが、ついてくるなと言われて……そのまま追いかけるのをやめちまった。あの時に無理にでも止めていりゃあと、今でも思うよ。なぁオイ、お前はそれでもいいのかよ。後悔しないのかよッ!」


 真っ直ぐに、ドレントはリョウマを見つめる。

 肩を掴む力は更に強くなっていた。


「槍使い……」


 リョウマはゆっくり頷くと、そのまま編み笠を拾い被り直した。


「わあったよ。追うさ。追うともさ。だがその理由はあいつがちびっこだからじゃねェ。背中を任せられる相棒だからだ」

「異国の……」


 目を丸くするドレントに、リョウマはぶっきらぼうに言う。


「すれ違った相棒は、追わなきゃな」


 リョウマは背を向けたまま、言った。

 照れ臭そうな声だった。

 それを聞いたドレントは、思わず苦笑する。


「んだよ、保護者ヅラをするつもりはねぇってか?」

「さて、どうなんだろうな」

「カッ! 素直じゃねェな!」


 カラカラと笑いながら、ドレントはリョウマの背中を叩いた。


「魔の森へ行く」


 決意に満ちた瞳でリョウマは言う。

 青縞外套をなびかせて、編み笠を持ち上げて、酒場の扉を開き、――――行く。

 が、西日はリョウマの頬を照らさず、長い影が隠していた。

 影の主はリョウマの横に並び立つドレントだった。


「魔の森は危険な場所だ。不意打ち笑う闇討ち騙し討ち、一人旅なんて命が幾つあっても足りないぜ。そこでだ異国の、背中を預ける相棒を探してるならここに丁度腕利きの冒険者がいるんだがな?」

「槍使い……?」

「おい、そうキョトンとするな。あぁもう、面倒くせぇな。付き合ってやるって言ってんだよ!」


 ボリボリと頭を掻きながら、ドレントはリョウマの肩に手を載せる。

 照れ臭そうに視線を外し、頬をコリと掻きながら。

 リョウマはそれを見て、次第に口元を苦々しく歪める。

 ――――とても不器用な笑顔だった。

 だが歩む速度は等しく、まっすぐ、雄然と。

 受付嬢はそんな二人を見送りながら、苦笑していた。


「無事、戻りますように」


 彼女の祈りは夕暮れの空に溶けていった。

本日、木枯らしリョウマ異国道中記発売日となります!

いっぱい加筆頑張ったので、ぜひ買っていただけると嬉しいです!

よろしくお願いいたします。

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