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木枯らしリョウマはぐれ旅  作者: 謙虚なサークル
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冒険者と魔族①

「はぁ、はぁ、ひぃ~」

「……大丈夫ですかアレスさん。顔色、悪いですけど」

「だ、大丈夫! 大丈夫ですとも! えぇ!」

「そ、そうですか……?」


 力強く押し切られ、エリザは差し出した手をひっこめる。

 勇者としてのプライドは何とか守られた……恐らく。


「いいから早く行くぞ。ここからは屋根を伝っていく」

「はい……って屋根をですか!?」

「下は死体共がうじゃうじゃいるだろう。連中、上までは上がってこれねぇだろうしな」


 リョウマが壁の下を見下ろすと、既に大量のゾンビやスケルトンが集まってきていた。

 この程度、アレスの敵ではないのだが……和を乱すのは望むところではない。

 というかリョウマらは既に、屋根を跳び渡り始めていた。

 アレスはため息を吐きながら、それに続く。


「おっ、ととっ! よっ!」


 少々よろめきながらも、アレスは二人について行く。

 足場の悪いところで飛んだり跳ねたりは戦闘での常、アレスとて別段苦手ということはない。

 しかし戦闘時は身体強化魔術を使っているが、現状は違う。

 無論、非戦闘中でも身体強化を使っても構わないのだが……リョウマもエリザもそう言った様子はなく、普通に屋根を跳び渡っている。

 勇者である自分が身体強化をせねば彼らについていけないなど、アレスとしては少し屈辱だ。

 故についていく。……エリザよりも少し、遅れ気味ではあったが。


「止まれ! 何か来る!」


 立ち止まるリョウマの前方に見える、黒い霧。

 霧の正体は無数の蟲だ。

 羽虫に飛蝗、甲虫が群を成し、こちらに向かってくる。


「ひっ!?む、虫……!?」


 虫の苦手なアレスは小さく悲鳴をあげる。

 否、仮に虫が好きな者であろうと、これだけの大群が敵意を持って襲ってくれば恐怖せざるを得ないだろう。

 本能のみで襲ってくる虫たちは死の恐怖も、なにもない。

 ただ、ただ獲物を喰らい尽くすこと以外、なにもないのだ。

 加えて、その数。

 恐らく街中から集められたであろう蟲の死骸は、数千数万であろうか。

 まともに喰らえば死は免れまい。

 だがリョウマは全く動じる様子なく、二人に布袋のようなものを投げ渡した。


「焦るな。こいつを付けていろ」

「これは……?」

「防毒覆面だ。いいから早くしろ」

「は、はい」


 アレスが戸惑っている間に、リョウマとエリザはすでにそれを着けていた。

 頭はすっぽりと袋に覆われ、目のところにはガラス葢が二つ付いている。

 口元は特に厳重に、仰々しく覆われていた。

 その奇妙な風貌に少し戸惑いながらも、アレスはそれを装着する。


『着けました!』

『隙間があるだろう。エリザ、縛ってやれ』

『アレスさん、こっちへ』


 付け紐をエリザが縛っている最中、リョウマが取り出したのは癇癪玉。

 それに火を付け――――足元に叩きつける。

 ぼふん、と白煙が舞い上がり、リョウマらの姿を覆い隠していく。

 そこへ突っ込む虫、虫、蟲。


 わんわんと、羽音が五月蠅いくらいに白煙の中、鳴り響く。

 が、それも時間と共に減っていくではないか。

 煙が晴れ、中から出てきたリョウマらは傷一つなく無事であった。

 足元にはぴくぴくと無数の蟲が蠢いている。


『こ、これは……?』

『呼吸器官と神経への毒薬だ。生ける屍でも動きを封じれば問題はない……とはいえ魔術によって蘇った蟲たちだ。トドメはしっかり、刺しておかねぇとな』


 リョウマは足元には火薬を撒き、取り出した火打ち石をカチカチと鳴らした。

 一瞬で蟲たちは燃え上がり、嫌な臭いが辺りに立ち込めていく。

 防毒覆面を外し、アレスとエリザにも外すよう促す。


「……ふぅ、先を急ぐぞ」

「は、はい!」




 ――――ところ変わって、キュベレイの屋敷。

 侵入者、リョウマたちを見つけたキュベレイは、その様子を遠く離れた水晶にて覗いていた。


 もとより「歓迎」するつもりではあったが、リョウマらの動きは少々想定の外であった。

 本来の予定では奴らが作戦会議をしている間に門の前へと戦力を集め、そこである程度消耗させ、どさくさに紛れて監視の目を付ける。

 あとはどこでなにをしようが、問題なしという予定だった。


 しかし壁の上へと登られ、気づけば随分と近くにまで来ていた。

 慌てて周囲の蟲を集め、ぶつけてみたがご覧の有様である。

 未だ、まともな戦闘すら起こせずにいるのだ。

 苛立ちを感じたキュベレイは、近くにいた死体を蹴り飛ばした。

 手足が、肉片がバラバラと飛んでいく。


「……おっと、いかんいかん。我が主に捧げる大事な供物が」


 キュベレイは散らばったそれを拾い上げると、銀皿の上に乗せていく。

 布切れで血泥を落とし、配下のスケルトンは持っていけと命じた。

 本来ならキュベレイが言葉を添えるのだが、生憎そんな時間はない。


「私は主への供物を狩らねばならぬでな……さて、仕方ない。どうやら只者ではない様子。女子供もいるし、捕らえられればさぞ我が主も喜ぼうが、捕まえなければどうしようもない……ならば、あれを使うとしましょう」


 キュベレイはそう呟くと、屋敷の庭を見やる。

 そこには巨大な怪物……竜の姿があった。

 鋭く大きな角と牙、分厚い翼、長い尾は間違いなく竜である。


 しかし、その様相は随分と違っていた。

 どす黒い表皮、身体の所々は爛れ落ち、目は白く濁っている。

 竜は、時折低いうなり声を上げながら、退屈そうに尾を振り回す。

 その度に周囲の石は砕け、木はへし折れる、死体は潰されるので、竜の周囲にはもはや何もなかった。


『ゥゥゥゥゥ……グォォオォォォォ!!』


 空に向け、吠える竜。

 機嫌が悪い証拠である。

 それを見てキュベレイは、にやりと笑った。


「ふふ、大飯食らいの木偶が、ようやく出番がきましたよ」

『ァ……ァァァァァ……!』


 ずずん、と、竜が身体を起こすと、近くにいたスケルトンがぐしゃりと潰れた。

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